裾分一弘著「レオナルドに会う日」に見るコレクターの性(さが)

前から読みたいと思っていた裾分一弘先生の著書「レオナルドに会う日」をAmazonから手に入れた。学習院大学の裾分一弘名誉教授は世界的に知られているレオナルド・ダ・ヴィンチ研究の第一人者であり、その生涯をかけてレオナルドの手稿ファクシミリ版などを収集していることでも知られている。 


裾分一弘氏は大正13年の生まれというから私の父より6歳ほどお若い。一介のレオナルド・ダ・ヴィンチフリークである私は裾分先生にお目にかかったことはないが、ご承知のように先生はレオナルド研究の大家であり、世界的にも著名な方なのでお名前は以前からよく知っていた。またレオナルド関連の日本語による著書や資料に目を通せば必ずといって"裾分一弘"のお名前があるといっても過言ではない...。 
また現在「マドリッド手稿」などの良質な和訳が読めるのも先生をはじめとする先達の研究者たちのおかげである。 
というわけで私はレオナルド・ダ・ヴィンチを追っかけている内に裾分先生のオーラーに勝手ではあるが感化されてきたような気がする。無論先生はアカデミックにレオナルドを研究されているわけだが、世界的にも先生を含めて2例しかないというレオナルドの手稿(ファクシミリ版)をすべて収集されたその原動力などを常々知りたいと思っていた。 

「レオナルドに会う日」は平成8年に中央公論美術出版から発刊されたもので、ご本人の辯のとおり、自らの還暦の記念として、また母と兄に捧げる形で出版された紀行・随想集である。お堅い話でなく、ご自身のフィレンツェやマドリッド、アンボワーズ紀行やファクシミリ版収集のきっかけ、苦労話などが綴られているが、読み進む内に自然にレオナルドが好きになってくる...といった感じの一冊である。 
正直、お身内の話にはこみあげてくるものがあるが、一番興味深いのはやはり「レオナルドのファクシミリ版〜本に追いかけられて呼吸もたえだえの話〜」である。 

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※裾分一弘著「レオナルドに会う日」中央公論美術出版社刊の表紙
 

本書によれば裾分先生がレオナルドのファクシミリ版を収集し始めたのは大学院学生のころだったという。 
その頃に1872年刊の「アトランティコ手稿」のリコルディ版を古書目録に発見し、恐る恐る注文したところ、いきなり届いてしまう。その恐る恐るというのは300部限定稀覯本が手に入ってしまい、さてその支払いはどうするか...といった意味だったそうだ(笑)。そしてそのときから収集クセは「不治の病になった」と書かれている。 
親戚や友人たちから「ファクシミリ版と家族とどちらが大切か」という質問に迫られることもあったという。 

無論、裾分先生は単なるコレクターではないが、その「珍しいものを探す喜び」「しかし高価」「家族への後ろめたさ」といった心情は我々にもよく分かる。 
初代Macintoshを奥さんに内緒で購入し、さてどのような言い訳をしようかと考えていたところ奥さんから「小さなモノクロテレビねぇ」と言われ、その後しばらくはパソコンだと言えなくなった話などなど、私たちの回りにも同種の話題には事欠かない。とはいえレオナルドの全てのファクシミリ版を入手するということは単に金銭の問題だけで解決するものではないことは明らかだ。 
これまたご自身の筆によるものだが「...切望は意地になり、意地は執念となり、家族の言葉ではマニアの段階はとっくに超えていて、まさに狂気の沙汰であるという」。嗚呼...耳が痛い(笑)。 

レベルは違うものの1990年初頭だったか、5,000ドルもする日本にはまだ入ってこないMacintosh用の NuBusカード類をサンフランシスコのExpoで見つけて頭に血が上り、金繰りの心配をしながらも買わずにいられなかったことが多々思い出される(笑)。 
ある雑誌に「日本一Appleに金をつぎ込んだ男」として紹介されたこともあったが、そのころの情熱があったからこその今があると思って諦めている。幸い女房はそのころ、一枚の基盤が5,000ドルもするとか、一見大型カラーテレビとしか見えないSuperMAC社19インチカラーモニターが実は80万円以上もするなどということは知らなかった...。知らなかったからこそ血の雨も降らなくて済んだが、金銭的な工面以上に女房への言い訳を考える自分が常にそこにいたことを思い出す。 

つきなみではあるが本書は学者というより、裾分先生の暖かな目を通して語られた紀行・随想録といったものだが、読む内に自然にレオナルドの魅力がしみ出てくる...そんな一冊であった。その表紙はレオナルドの素描「聖アンナと聖母子」(ロンドン国立美術館蔵)より聖母の顔部分をデザインしたものであり眺める度に心が温かくなる。 

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 「レオナルドに会う日」 

 発行日:1996年11月10日 
 著者 :裾分一弘 
 発行所:中央公論美術出版 
 雑誌コード:62550-52 
 ISBNコード:ISBN4-8055-0319-X 
 定価:3,150円(税込) 
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シャーロック・ホームズの冒険[完全版]全巻DVD-BOX入手

日本シャーロック・ホームズクラブ会員の末席を汚すシャーロキアンの私にとって亡くなったジェレミー・ブレットがグラナダTV制作のドラマで演じた一連の物語はなによりの宝だ。この9月はジェレミー・ブレットが亡くなった月でもある。 


文字通り何回も何回も繰り返して読む本はシャーロック・ホームズの物語以上のものはない。我々シャーロキアンは作者コナン・ドイルが残した4つの長編と56の短編を正典と呼び、ホームズと相棒のワトソンの冒険談と友情に新たな発見を繰り返す...。 
特にグラナダTV制作のドラマでジェレミー・ブレットが演じて見せた決定的なホームズ像は最高のホームズドラマのひとつであることは間違いなく、端正に描かれたビクトリア時代の香りと共に他では得られない貴重なものを垣間見せてくれる。 

さてこれら一連の映像はこれまでVHSのビデオで持っていたが繰り返し見る場合の使い勝手と画質の良さを見込んで今回リニューアル発売されたDVD版を購入した次第。このパッケージはTVドラマ「シャーロックホームズの冒険」製作20周年を迎えてリニューアル発売されたもので英国オリジナル版、NHK日本語吹替え版の2種類を完全収録し、英国オリジナル版には日本語吹替えを追加収録、英語字幕を追加したものだ。 
DVDが24枚とエレメンタリーと題するブックレットが付いており、 DVDの一枚には特典ディスクの「シャーロックホームズの楽しみ方」が収録されている。 

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※シャーロックホームズの冒険DVD


それからこのDVDでは日本語吹き替えではなくジェレミー・ブレットの生の台詞を堪能したい。彼独特のアクセントはその時々の尋常ならざるホームズの精神状態を端的に表しているしワトソン役のデビッド・バークの声も表情から受ける印象より端正だ。クイーンイングリッシュが分かる云々ではなく、そもそもストーリーは完璧に近く頭に入っているし、彼らの台詞も勿論ほとんど覚えているのだから字幕もいらない...(笑)。 

しかしこれらの物語を見れば見るほど1995年9月12日、心臓発作で亡くなったジェレミー・ブレットのことを思うと残念でならない。こうして映像として記録された41話という数は少なくはないものの正典の数からいえばまだ7割程度でしかない。健在であったらまだまだ彼のホームズ姿が、それも発表当時のストランド誌掲載時に採用されたシドニー・バジェット描くところの挿絵から抜け出たようなリアルなホームズが多々楽しめたはずだからである。ただし亡くなる直前の映像では心臓の薬の副作用で見るからに顔がむくんでおり、痛々しいが...。 
ともかくDVDのおかげで、会いたいときにはいつでもビクトリア時代ロンドンのベーカー街にあるホームズとワトソンの部屋に立ち寄れるという感覚が嬉しい。

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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員