アップルの古い名刺は面白いぞ!

実は当研究所、この度引っ越すことになった。ために日々大量の資料や書籍類などの梱包作業に明け暮れているが、古い資料が出てくる度に目が釘付けとなって作業が止まる(笑)。ところでそうした古い資料のひとつに厚いバインダー2冊一杯に収納された名刺がある…。


すでにそれらの名刺は名刺の主が会社を辞めたり、会社が無くなったり、部署や住所が変わったりしているわけでほぼ100% 役には立たない代物だ。しかし1989年の起業時以来、時系列で集まったこれらの膨大な名刺は約14年間のビジネスの一端を思い起こすスイッチであり、私の歩いて来た軌跡でもあるからしてなかなか捨てられないでいる。

無論ほとんどの方の名刺の名を見てもまったく思い出せないが、中には鮮明にそのお顔や姿、どこでどのようにお会いしてどんな仕事を一緒にしたか、ご一緒した食事のメニュー等々がビデオを再生するかのように思い出せる人もいる…。

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※1989年に会社を起業してからの数年間の名刺は2冊のバインダーに収めてある


ともかくこの2冊の名刺バインダーに納まっている約500枚ほどの名刺の中で特に多いのがアップルコンピュータ株式会社の名刺だ。しかし、いま思うと出来たての超マイクロ企業がよくもこれだけ日本を代表する大企業と出会えたものだと自分でも感心するほどの名刺も多々存在する。

ちょっと各ページをめくりながら企業名、それも大手だけを羅列しても…NEC、カシオ計算機、NHK、キヤノン、キヤノン販売、キヤノテック、サンリオ、コクヨ、シャープ、西武百貨店、ソニー、大日本印刷、大成建設、東京電気、ナムコ、日本ビクター、ニッポン放送、日本IBM、博報堂、パイオニア、日立造船、富士写真フイルム、ブリヂストン、富士電機、フジタ工業、松下電器産業、丸紅、理経、内田洋行、NTT、沖電気工業、オムロン、大塚商会、富士ゼロックス、鹿島建設、学研、クボタ、セイコーエプソン、リコー、セガ・エンタープライズ、TBS、フジテレビ、TDK、凸版印刷、東芝、ミノルタ、三菱重工、三菱電機、ヤマハ、横河ヒューレットパッカードなどなどだ。その他、メディア関連、同業者関連、金融関係あるいは個人の名刺が入り交じっている。そんな中でもアップルコンピュータジャパンの名刺はひときわ枚数が多いのである。

無論私はアップル、すなわち当時はMacintoshのソフトウェアを専門に開発することを目的にして起業したのだからアップルとの情報交換が多いのは当然としても、このアップルジャパンという会社は折に触れてご紹介してきたとおり、昔からどこか変な会社でつかみ所がなかった…。

いまだから申し上げるが、アップルのとある部署の担当者の名刺には「バカ者!」と殴り書きしたものまである(笑)。無論それは呼び出されたにもかかわらず理不尽な扱いを受けた帰り道に今後は彼と付き合わないようにという自壊を込めて私自身がメモしたものだが、いまだにその方の名前がネット等で眼に入ると胸くそが悪くなるし、彼の関連するプロダクトは使う気がしない…(爆)。

とはいってもアップルジャパンは米国Apple Computer社の100%子会社であり、そのオフィスも六本木やら千駄ヶ谷といった、いわばそれらしい立派なビルに入っていたし、我々のような超マイクロ企業からすれば雲の上の存在...会社に思えたが、実はなかなか泥臭く(笑)理不尽で役立たず…といった面もあり、頼りにしてよいものか、ほとほと迷った時期もあった。
今回久しぶりに棚の奥から出てきたそれらの名刺を眺めていたら面白いと言っては語弊があるものの、当時のアップルらしいというか…おかしな名刺が目についたのでご紹介してみようと考えた次第である。

さてバインダーは社名を基準に五十音別に収納してあるが、最初に納まっているのは武内重親氏…当時アップルコンピュータジャパン(株)の代表取締役社長だった方の名刺である。その同じページにはお世話になった懐かしい数人の方の名刺があるが、米国本社から来た方と名刺交換したものの中には今から思えばなかなか興味津々というかお宝というべきか…面白い名刺があるのだ。

例えば当時アップルのロゴは6色だったが、一部には単色のロゴが使われたのはスティーブ・ジョブズが復帰してからだというまことしやかな話も聞くものの、この当時から裏面には墨あるいはグレー1色のロゴが使われていたのが確認できる。

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※2枚の名刺の表(上)と裏(下)を比較してみた。これは同じ人物の名刺だが特に裏面(下)の上をご覧いただきたい。和文としての社名も役職も今では考えられないほどメチャクチャである(笑)


まずは3枚列んでホルダーに納まっている名刺が目に付いたが、1990年前後にいただいたもののようだ。それぞれ3人の方は米国本社の人間で、機会があり日本へ出張となった人たちのように思える。したがって6色のカラーロゴの名刺の裏面に急遽日本市場で使うためにと日本語表記を印刷した名刺を用意したということに違いない。
まあよくある話だが、その三者三様の名刺は当時のApple、あるいはアップルという会社がどのような企業だったのかの片鱗を感じさせてくれるおかしなものなのである。

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※これは裏面だけ縦書きの名刺になっている。しかし米国住所の仮名書きに日本の郵便マークがあるのも面白い


まず気がついたのは3枚とも同時期の名刺として日本語表記にまったく統一感がないということだ。2枚は横書きだが1枚は縦書き名刺となっているだけでなくフォントも明朝体の印刷とゴチック体の印刷がある。
2つ目には英語表記を和文にした場合の訳が現在の視点から見るとメチャクチャである。

例えば “”worldwide” を「ワールドワード」、”Evangelist” を「エバンジリスト」、”Developer”を「デベロパー」と記されているのはまだ良い方で、なんとAppleの社名和文表記が「アプル コンピューター、インク」となっているものまであるという始末(笑)。自動翻訳以下の話だ…。

まあご承知のように “Apple” をネイティブで発音するなら「アポー」と聞こえるほど我々が耳に馴染んでいる「アップル」とはほど遠いから、音からして「アプル」という表記を笑うことはできない。そして「コンピューター」と語尾が伸びるのはまだしも「、インク」という表記はいかがなものであろうか(笑)。

最高に面白いのは “Worldwide Market Access Evangelist” というタイトルを「全世界市場接近エヴァンジリスト」と訳した名刺だ…。どこか、格好いい響だ(爆)。
これらは彼ら彼女らが対外的に使うであろう名刺表記に本社および日本支社においてもチェック機能がなかったことを示すものだと考えて良いだろう。なにか各人が思いつくままに印刷したような気がしてならない。

それから、今ではこうした名刺の使用は許されないだろうが、一時期私の会社の製品がPerformaにバンドルされた折のこと、すなわちアップルジャパンのオフィスが千駄ヶ谷の時代だ…。そのとき面談した担当者から渡された名刺がユニークだった。

それは明らかにアップルの名刺では無かったが Apple Japan, Inc. の表記もあった。
そもそも担当者はマーケティング・コンサルタントが本職だったのがアップルジャパンに就職することになったらしい。名刺には前職の住所等のデータと共に “℅ Apple Japan, Inc.” のコンシューマ事業部という印刷がされているのである。

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※右下に℅ Apple Japan, Inc.と印刷されている


この名刺、繰り返すがアップルの担当者として渡されたものだが、当然これはアップルジャパンの正規な名刺ではない。しかしApple Japan, Inc. ともプリントされており、千駄ヶ谷の住所および電話番号も記されている…。
注目すべきは “℅” という見慣れない記述が社名の頭に付いていることか…。これは「care of」あるいは「in care of」の略だそうで、日本語でいうところの「~様方」「〜気付」といった意味合いの表記だという。

だとすれば本人がそうしたニュアンスを臭わしていたものの、名刺交換した時点ではアップルに完全に移籍したわけではなく前職とアップルジャパンのコンシューマー事業部の双方に関わっていたものと思われる。無論そうした人事が何を意味するのか…私などには知る由もなかったが、当時のアップルジャパンはそうした外部のノウハウを積極的に必要としていたのかも知れない。

アップルジャパンといえば、広くて綺麗なオフィスを構え、素晴らしい人材を揃えてユーザー目線はもとより、デベロッパーやディストリビュータたちとのビジネスに素晴らしい力を発揮していると思いがちだが、特に1990年代前半はいま振り返ってもあまり良い思い出がない(笑)。

担当者たちは皆、一生懸命に与えられた仕事をこなしていたが、米国Appleはいざ知らず、アップルジャパンは統一感も希薄でノウハウも戦略もどこか中途半端だった気がする。
今回ご紹介した名刺は当時のアップルジャパンの統一感の無さと混乱の姿が克明に現れているのではないだろうか。



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員