世界初のパーソナルコンピュータと称されるApple II スタンダードお披露目

先般は30年ぶりに再会したApple II plusをテーマに「今更のApple II plus幻想」をお届けしたが、今回はApple II シリーズの真打ち、正真正銘パーソナルコンピュータの元祖と称されるApple II スタンダードが今般当研究所に届いたので早速ご紹介しよう。


なんといってもApple II スタンダード( 以下 Apple II Std )は私にとって特別の存在であり、長らく手に入れたいと考えていたもののこれまで機会を得なかったが、これまたVintage Computer社から手に入れたマシンである。
ところで現在LisaやMacintosh 128KといったオールドMacを所有しているのも決してコレクションするつもりではなくソフトウェア開発を生業にしてきた関係もあり、古いソフトウェアの検証ならびにGUIといった研究が目的であった。そしてApple製品のコレクターなら他に凄い方達がいるし、そもそもがコレクションしようという気持ちはさらさら持っていない。またそれらを置くスペースもなければ予算もない(笑)。
しかし1機種だけ、機会があれば手元に置きたい機種があった。それが世界最初のパーソナルコンピュータと称されるApple II である。無論これらのマシンは今更実用と考えているわけではなくそのビジュアル…姿が欲しいのだ。そしてここでいうところのApple II とはApple II plusでもApple II J-plus、あるいはApple IIeでもなくあくまでAppleが1977年に発表したApple II Stdのことだ。

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※当研究所の仲間になったApple II スタンダード【クリックで拡大


僭越ながら私のようにAppleのハード&ソフトは勿論、Appleという会社の成り立ちや歴史的役割などを調べている者にとってApple II StdはApple I に次いで特別の存在である。そして資料的な意味において例えばMacintosh 128KとMacintosh 512KあるいはMacintosh Plusは区別されなければならないのと同様にApple II StdとApple II plusあるいはそれ以降のApple IIeやApple IIcといった機種は別製品として区別されるのは当然だ。
勿論 Apple II plusもIIeあるいはIIcやIIGSを “Apple II” と呼ぶのは間違いではない。それらはApple IIシリーズとしては一括りにされてしかるべきだが「世界初のパーソナルコンピュータ」とか「最初のApple II」といった冠が付く場合、それはApple II Stdでなければならず、Apple II plus以降の製品がその代用となる筈もないのである。

例えば写真やカメラを愛する人々が、同じM型ライカだとしてもM3とM4を同一視するだろうか…。ライカM3は最初にして最高のM型ライカだし、ライカM4はM型ライカの完成品と称されるカメラで、似てはいるものの機能もいささか違うし別製品だ。したがってライカM3の解説にM4のビジュアルを載せるといったことはないはずだし、もしあったとすれば明らかに間違いと指摘され訂正を余儀なくされるに違いない。
しかしAppleの歴史や業績を論じるメディアの中にはそうした点に無関心なのか、あるいは不誠実、不勉強なのかは不明だが、Apple II StdとApple II plusの違いを意識しない記事が目立つのだ…。まあ一般の方達からすればどうでも良い事に違いないが…(笑)。

さて一般的にApple II Stdと呼ばれる最初期のApple II は後にApple II plusがリリースされ、それと区別するために付けられた名称である。なにしろ1977年4月に開催された第1回WCCFに出展したApple社のブースに5台だけ(4台という説もある)並べられ、お披露目となった世界初のパーソナルコンピュータこそがApple II Stdだったのである。

問題はApple II StdとApple II plusの区別だが、実はこれを説明するのは容易でない。両者共に本体ケースのデザインはフロントから見て同じだから一見違いが分かりにくい。
ともあれApple II plusの特長としてはApple II Stdの内蔵ROM BASICである6K整数BASICが10K実数BASICに変更され、さらにモニターROMをオートスタートROMに…といった改良がなされている。さらにマザーボードはもとよりシリアルナンバーや基板上のチップの有る無しなどで判別する場合もあるが、ここではあくまで一番分かりやすいフロントから見た外観上の問題を論じることにする。

予備知識がない方でもApple II StdとApple II plusを見分けるには通常次の2点を確認すればよい。
ひとつは蓋に貼られている6色ロゴのプレート…エンブレムだ。ここに緑色で “plus” とあれば文字通りApple II plusであり、Apple II Stdは単に “Apple II” とあるだけだ。ちなみに後に日本市場へ投入されたApple II J-plus は赤い文字で “J-plus” となっている。

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※Apple II Stdのエンブレム(上)とApple II plusのエンブレム(下)


2つ目はパワーランプと呼ばれているもので、キーボード左下にあり通常白いキートップに “POWER” と刻印されている部分だ。ただしこれはスイッチではなくあくまで電源のON・OFFを示すパワーインジケーターであり押すことはできない。

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※Apple II Stdの典型的なノーマルキーボード(スカルプチャーでない)


Apple II plusのそれは平たくキートップの高さが筐体とほぼ同じ高さである。しかし本来のApple II Stdはよく言われるように四角いチョコレートの上にホワイトチョコが重なったように見え、形状も先になるほど細くなりそれが筐体から突き出ている。ちょうど他のキートップと同じように…。

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※Apple II Stdのパワーランプキー(上)とApple II plusのパワーランプキー(下)


この違いはApple II を一目見て、それがApple II Stdなのか、あるいはApple II plusなのかを知る一番の手がかりである。無論実際問題としてことは単純ではなく、例えば本体(マザーボード)はApple II Stdだがキーボードを取り替えた…などなど様々な状況はあり得るが、あくまで一般的に外観で判断するにはこの2点が大切だ。

この2点に注視すれば書籍や映画などでApple II が取り上げられた場合、そこに採用されている写真や映像がApple II StdなのかApple II plusなのかを判断することができる。逆にいうなら中身はplusでも外観上この2点が揃っていれば見かけはApple II Stdに見えるわけだ...。
そして問題は「これが世界最初のパーソナルコンピュータです」と言いつつもそこに載っている写真がApple II plusでは “嘘” になるということだ。しかしこの種の間違い…というか無関心、不誠実、不勉強による結果は多くのメディアが犯していることで資料的な意味を持つ記事や映像では特に注意をしなければならない点だ。

想像するに、撮影するに足りるApple II Stdの写真や実機が手に入りにくい、あるいは間に合わないから似たようなApple II plusで代用しようか…ということなのかも知れない。確かにApple II plusなら現在でもネットオークション等で比較的安価に手に入る可能性があるもののApple II Stdの入手はなかなか難しくなっている。とはいえもしそうであるならその旨をきちんとキャプションなりに明記すべきだろう。

ただしこのパワーランプキーによる判断は…繰り返すが実機としてはキーボード修理もあり得るしさらに勘ぐればApple II Stdのリリースは1977年、そしてApple II plusは1979年にリリースされたわけだが、Apple II Stdは1980年までAppleの製品リストに残ったという。したがって極短い期間Apple II StdとApple II plusは平行して製造販売された時期がありその短期間にはplusで採用されたキーボードを組み込んだ純正のApple II Stdが存在した可能性もあるかも知れない。さらに未確認ながら最初期の製品にはパワーランプキーが無いものまであるという話を聞いたこともあるので微妙に違うバリエーションが存在するのかも知れない。

こうした判断はApple II StdとApple II plusの判別方法として、これまで多くの解説書やメディアで論じられてきた。例えば柴田文彦編著「Apple II 1976ー1986」(毎日コミュニケーションズ刊)も "パワーランプキー" の項で「II plusになると、パワーランプキーの形状が変わる…」としてその違いを写真入りで解説している。事実そうした見解は間違いではないが現実はややこしく込み入っていて、事は単純ではなく断言できないのである…。

そんなことを考えながら手元の古い資料をいくつか確認していたところ衝撃的な写真を見つけた!
それは1980年に配布された "Apple Personal Computer Systems" とタイトルが付いた細長いカタログに載っているApple II の姿である。

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※カタログ "Apple Personal Computer Systems" 表紙とその中に載っているApple IIだがパワーランプキーはStdなのにエンブレムには不鮮明ながらplusの文字がある


無論このカタログは本家のApple Computer社が作ったものだが、表紙はともかく中のページに載っているApple II の姿をよく見るとパワーランプキーはまさしくApple II Stdのそれだがルーペでエンブレムを細かく見るとそれはApple II plusのものなのだ(笑)。ただし本来グリーンで "plus" とあるべきものが印刷の問題なのかあるいはプロトタイプなのか、アイボリー的な色彩に見える点が不思議だ…。
ともかくApple自身がこんな感じなのだから何が本当で何が間違いなのかは一概に判断できないというのが正確なところで、前記した違いはあくまで一般的なというより限定的な判断方法としか言いようがないことになる。

こうした視点で例えば、アシュトン・カッチャー主演の映画「STEVE JOBS」の予告編を見ると、そこに「世界に革命を起こす」とジョブズが明言するシーンに使われたApple II はアップルロゴのあるエンブレムこそ plus の文字は見えないもののキーボードを見るとその限りでは plus 型のパワーランプキーのようだ。

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※アシュトン・カッチャー主演の映画「STEVE JOBS」に登場するApple II Stdであるべき映像はパワーランプキーを見る限りplusのように思える


だからといって前記したような事情もあるからそのマシンがApple II Stdではないとは断言できないものの、ここは一般的に良く知られている…シーンが最初期のApple II のはずでもあり、文字通りあるべきスタンダードなマシンを使って欲しかったと思うのだが...。
ましてや雑誌や書籍などでApple II Stdであるべきところ、堂々とApple II plusの筐体を載せるなど言語道断だが、好例?をひとつ挙げてみよう…。

それはトランスワールドジャパン刊、ゴードン・ヴェルク著「DIGITAL RETRO」という大型本には1970年代から1990年代後半に至るパーソナルコンピュータが美しい写真と共に紹介されている。その中には当然Apple LisaやApple IIのページがあるが、発売日として1977年1月そしてウエストコースト・コンピュータ・フェア(WCCF)などに触れつつApple IIを解説しているものの、載っている写真はエンブレム自体が明らかにApple II plusだ。

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※トランスワールドジャパン刊、ゴードン・ヴェルク著「DIGITAL RETRO」表紙


ともあれApple II plusは勿論、今後Apple II Stdに関係する原稿やプレゼンを行う際に、他者の映像を借りる必要がなくなっただけでも私にとっては精神衛生上大きなメリットなのである。そして何よりもその筐体にはスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの夢と情熱の残り香が漂っている気がして側に置いておくだけでパワーを貰える気がするのである。


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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員