歴代のApple本社住所をストリートビューで追う

大昔の話で恐縮だが1988年の1月、私は初めて本場のMac情報を得たいとサンフランシスコで開催されたMacworld Expoに行った。先日その際にApple本社を訪問した写真が数枚出てきて驚喜したものの仔細は不思議なくらいまったく覚えていないのだ…。そのお話しをする前に、1度整理しておきたかったApple社の活躍と躍進の場所となったいわゆる住所の遍歴を確認してみた。


確認といってもまさか現地に飛ぶわけでもない。ここは手元にある限られた資料とGoogleマップならびにストリートビューの助けを借りてAppleがどのような場所で世界を変える仕事をしてきたのかを見てみようと考えた。まあ現地の事情に詳しい方からは笑われようが、ストリートビューを使ったお遊びでもある。
さてAppleはご承知のようにスティーブ・ジョブズが育った自宅のベッドルームおよびガレージで創業した。この Los Altos にあるジョブズが青年期を過ごした建物はごく最近、歴史的建造物として保護管理されることになったという。

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※スティーブ・ジョブズが青年期を過ごした自宅は歴史的建造物として保護管理されることになった【クリックで拡大】


ともかくその後、Apple Computer, Inc. は急速に成長拡大する中でその活動の中心をクパチーノ(Cupertino)に移したわけだが、早々よく分からない点が浮上した…。
Appleが1976年に創業した際にはApple Computer Companyと称しまだ法人として登記していなかった。その時代にApple I を150台ほど販売したわけだが、Apple I はジョブズの自宅で組み立てたとされている。

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※Apple I のオペレーションマニュアル(レプリカ)。ただしウォズニアックのサインは直筆(上)および当時の紹介広告ページ(下)


しかし今回あらためてApple I のオペレーション・マニュアルを確認してみるとそこに記されている住所は "Los Altos" ではなく "770 Welch Road , Suite 154 Palo Alto, California 94304" となっているのである。しかし別途当時の紹介広告にも同じ住所表記があるので間違いではないはずだ。

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※Apple 1 オペレーション・マニュアルに記載されている住所付近だが、実際は私書箱として借りた住所表記のようだ


Googleマップで確認してみるとそこはスタンフォード・メディカルセンターに近い場所だが、なぜパロアルトの住所が使われているのかが分からない…。もしかしたら郵便物を受け取るだけの私書箱的なアドレスなのかも知れないと考えたが確信が持てないのであれこれ調べていたらスティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)に当時の事が書いてあった…。
その第二部「ハードウェア・ハッカーたち」第12章によれば「…そのときまだ法人化されていなかったアップル社の公式な住所は、郵便専用の別な住所になっていたが…」とあるのでまさしく当該住所は私書箱であり、彼らはジョブズの自宅でApple I を組立、販売していたのである。

次の資料は第1回WCCF (ウエストコースト・コンピュータフェア)のコンファレンスガイドに記されている出展各社のリストにある住所だ。マイク・マークラらの資金援助を受けてAppleは法人としてスタートしたわけだが同年1977年4月に開催された第1回WCCFに出展しApple IIをお披露目した。

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※第1回WCCFコンファレンスガイド表紙


ただしその印刷が悪くて一部不明確ではあるが "20863 Stevens Creek Blvd Cupertino CA 95014" と読める。調べた限りではジョブズたちがガレージからクパチーノに移ったのは1977年3月のことらしい。だからこそ同年4月に開催された第1回WCCFの出展リスト住所には "20863 Stevens Creek Blvd Cupertino CA 95014" となっているわけだがジョブズたちはそのB3号室を賃貸した。
早速付近をGoogleストリートビューで眺めてみると昔とは状況が違っているかも知れないものの「STEVENS CREEK OFFICE CENTER」と読める住所標識が目に付いた。その名称から推察するにまずはこうした規模の小さな新興企業が借りやすい一郭に拠点を求めたに違いない。

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※第1回WCCFコンファレンスガイドの出展企業リストに載っている場所【クリックで拡大】


さて1978年1月28日には "10260 Bandiey Drive Cupertino Callfornia 95014" に移転するが、手元にある1980年発行のApple IIならびにApple III のカタログには本社住所として当該住所が記されている。
Apple II の急速な売上げに比例してより広いオフィスが必要だったのだろう。しかし1982年に印刷されたと思われるApple III のカタログには早くも住所が変わり "20525 Mariani Avenue Cupertino, California 95014" になっているからこの移転は80年〜82年の間に行われことになる。

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※左が1980年発行のカタログおよび右が1982年発行のカタログの住所記載部分【クリックで拡大】


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※1980年のカタログ記載の住所付近【クリックで拡大】


なお私が1988年に初めてAppleを訪れたときにはまだ "20525 Mariani Avenue Cupertino" の住所が本社とされていた時代だが、本社住所とされる場所のみがアップルのオフィスではなく、この時代から近隣一帯にデビジョン毎のオフィスがいくつか設けられていたに違いない。

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※1980年代後半から1990年代初頭まで本社があった付近の映像。ストリートビューの映像にはアップルロゴが記された住所標識がある【クリックで拡大】


勿論その後、1990年代前半に現在の場所、すなわち "One Infinite Loop, Cupertino, California 95014" に移転している。

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※現在のApple, Inc.本社エントランス【クリックで拡大】


ということで、これまで登場した本社とすべき拠点をあらためてリストアップしてみると次のようになる。

△ 2066 Crist Drive Los Altos, CA 94024
△ 770 Welch Road , Suite 154 Palo Alto, California 94304
△ 20863 Stevens Creek Blvd Cupertino CA 95014
△ 10260 Bandiey Drive Cupertino Callfornia 95014
△ 20525 Mariani Avenue Cupertino, California 95014
△ One Infinite Loop, Cupertino, California 95014

そういえばこれまでAppleの歴史や2人のスティーブの活躍が多々語られてきたが、そのバックグランドになったオフィスやその場所ということに関してはほとんど語られていないのもおかしな話だと思う。
唯一創業の地として前記スティーブ・ジョブズの自宅のガレージが話題になるが、生身の人間が日々活動するに際してその場所はどこでもよい筈はない。
いま少しAppleの歴史を語るとき、なぜ彼らがその場所を選んだのか、ジョブズたちはその場所をどう思っていたかについて調べたいと強く思った。


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員