データ記録媒体としてのコンパクト・カセットテープ雑感

我々の世代は「カセットテープ」といえば普通コンパクトカセット・テープを思い浮かべる。それまでいわゆるオープンリール型のテープレコーダーの取扱を飛躍的に容易にしたコンパクトカセットは1962年にオランダのフィリップス社からリリースされたもので、特許を無償公開したため急速に普及したが、音楽分野だけでなく実は1970年代後半から個人用コンピュータの記録媒体としても使われたのである。


先般知人とFaceTimeで仕事の話をしていた後に雑談となったが、彼の子供たちはすでにカセットテープという存在を知らない世代だという。ましてやそのカセットテープがパソコン黎明期においてデータの記録媒体として活躍していたことなど知る由もないし、第1その知人本人もコンピュータの記録媒体は3.5インチフロッピーディスクから始まったというのだから時代の流れは早い…。

本稿では音楽用ではなくコンピュータ向けの話に限ってこのカセットテープ利用の昔話をしたいと思う。
1977年暮れにワンボード・マイコンを手に入れた私は翌年の春先だったか、待ちに待った4K BASICの発売に驚喜した事を今でも覚えているが、そのBAICインタプリタのプログラム供給はなんとソノシートであった(笑)。
ソノシートというもの自体、何のことか分からない人たちも多いかと思うので念のために記せば、レコード盤と同様なものをより安価に供給しようとしたものでレコードの代用品だった。ただし安かっただけでなく薄くて柔軟性もあったので雑誌のポケットに収納して付録などにも多々用いられた。

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※写真中央が愛用していたモノラルのカセットテープレコーダー。外部記憶装置として十分な働きをしていた(1978年撮影)


私事にて恐縮だが、私の子供時代の一時期に母が近所の知人からこのソノシート数枚を印刷物に挟み込む内職を請け負っていたことがあった。内職はそれこそさまざまなものがあったが、手伝わされた幾多の内緒の内、私はこのソノシートの内職が一番好きだった。
なにしろ請け負ったロットは必ず数枚ずつソノシートが余分に梱包されており、余ったものはそれぞれ1枚ずつは貰ってよいことになっていたからだ。
そのソノシートを収納する薄い冊子は例えば「ヨーロッパ映画音楽特集」といったタイトルに合わせた詳しい解説が載っていたから、私はその冊子を読み、母に買って貰ったモノラルレコードプレーヤーでソノシートを聴き、映画音楽と映画のあらすじ、そして映画スターの名前と顔を覚えたのだった…。

ともかくBASICインタプリタの供給がそのソノシートというのも時代とは言えいかにもユーザーの使い勝手を考えない企画だったと思うが、問題はソノシートは傷が付きやすく消耗が激しかったことだ。したがって注意事項として「手にしたらなるべく早く、録音レベルを低・中・高の3段階でカセットテープに録音すること」といった意味のことが明記されていた。要は日常のプログラムのロードにソノシートが使えるわけではなく、あくまでカセットテープにコピーして常用しろというものだった。

そのカセットテープは当時、電気店や大型文具店などで売ってはいたものの私はわざわざ秋葉原に電車賃を使って買いに行った。それは安いからという以前に音楽用のカセットテープは使いづらかったからだ。
このカセットテープにも録音可能時間により30分とか60分あるいは90分、120分といった種類があったが、近所の店では一般的に売れる60分のものしか在庫がなったし、大体パソコン用のプログラムは長くて数分、短ければ十数秒というものがほとんどだったから60分のテープにプログラムをひとつだけ記録するには無駄が多かったのである。

こうした説明をすると「だったら60分の長さがあるのだから、数分のプログラムを順に沢山記録すればコストパフォーマンスが良いのではないか」という人がいる…。無論そうした方は実際にこの種の環境でパソコンを使ったことのない人に違いない(笑)。
確かに物理的にそれは可能だ。Aというプログラムを記録した後にブランク部分を数秒作り、その後でBというプログラムを記録することはできたが、アナログのカセットテープはランダムアクセスができない…。したがってBという、あるいはDというプログラムをパソコンにロードするにはテープを手動で早送りしなければならない。そしてほぼ正確にCとかDのプログラムが記録されている先頭にたどり着くにはあらかじめテープカウンタを使い「Cは 055 、Dは 101 から」といったことを管理する必要があるわけだ。

結局それでは実用的でないので、ひとつのプログラムは例え短い物でも一本のカセットテープに記録する…。それも巻き戻しが面倒だからとA面のみ使うことになる。そうした使い方に60分テープは不要だしコストもかかる。
同じような需要が当時は多かったのだろうが、秋葉原のコンピュータショップや一部の電気店では10分とか3分といった極端に短いカセットテープが売られていたのだった。
音楽をよりよい音で聞くという目的にはいささか粗悪品だったかも知れないがパソコンのプログラムを記録するには十分だったしカセットテープを再生するカセットテープレコーダーもステレオのものよりモノラルの安物の方が都合がよかったのだ。

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※今般Apple 1やApple II のカセットテープで供給されたソフトを再現しようと手に入れたモノラル仕様のカセットテープレコーダー(パナソニック製)。当時もこのような製品を使っていた


1970年代後半から1980年代前半のパソコンあるいはマイコン環境はフロッピーディスクもなく無論ハードディスクも使えない機種がほとんどだったから、このコンパクトカセットが標準機器だった。したがって例えば米国コモドール社製の一体型パソコン PET 2001 などにはカセットテープデッキが内蔵されていたのである。

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※筆者が使っていたPET 2001。キーボード左にカセットレコーダーがビルトインされていた(1979年撮影)


勿論国産のパソコンでも外部記憶機器装置としてカセットテープは全盛期を迎えていた。
1982年7月に登場したEPSONのハンドヘルドコンピュータ「HC-20」ではオプションながら外部記憶機器装置としてマイクロカセットテープが搭載できた。

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※世界最初のハンドヘルドコンピュータとして登場したHC-20はオプションながら外部記憶機器装置としてマイクロカセットテープを採用していた。とても良いマシンだった(1982年撮影)


そして1982年11月に登場のシャープの「パソコンテレビ」X1ではプログラムで頭出しができるなど高度な制御と2700bpsの高速なデータ転送がが可能なデータレコーダーが搭載されコンパクトカセットが使われた。

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※ビデオにパソコンのテキストなどをスーパーインポーズするために筆者が使っていたX1も高性能なカセットレコーダーが標準装備されていた(1982年撮影)


いまから思えば、転送スピードは大変遅くそしてエラーも起こりやすかったが「そういうものだ」と思っていたフシもあり苦にはならなかったし再生すると「ピ〜ヒョロヒョロ…」というその音を聞いて熟練ユーザーは正常にロードされているか…といった事やどの辺まで読込が進んでいるか等を知ることもできたのである。



※音声記録による当時のソフトウェアプログラムがどのようなものかを "お聞き" いただきたい【音量にご注意!


そのコンパクトカセットだが、今更ながら確認してみると1970年後期までのものと近年の製品では違うことを再認識した。
実はApple 1 のレプリカを組立たことに機縁し、当時のApple社から供給されたカセットテープによるソフトウェアを何種類か再現しようと考えたがこれが意外と大変だった…。勿論当時に出回っていた量というか、その数はApple 1 の本体を考えればお分かりのとおり極端に少なく、そのオリジナルなど入手は難しい。しかしINTEGER BASICなどいくつかのソフトウェア自体は入手できているので、ビジュアルに拘りたい私としては(笑)、当時のカセットテープそのままに再現したいと思ったわけだが、まずカセットテープ自体のデザインが違うことに気がついた。

私らが盛んに使っていたカセットテープはアイボリーやホワイトといったプラスチックの筐体で、そのラベル面の両上端の角が取れた形状になっていた。しかし近年のカセットテープのボディ(ハーフ)はほとんどが透明だったり、ラベル面の形状が違うものがほとんどなのだ。思いついて100円ショップで探してみたがそれらしい製品はあったものの、やはりラベル面の形状が違うので不採用に(笑)。
無論実用としては問題ないわけだが、これを「はい、これが当時使われていたカセットテープに収録されたBASICです」といったところで説得力というかリアリティがないと思うし、当時を知っている方にとっては嘘になる…。

ということで私の拘りは(大げさだが)1970年代に盛んに使われたハーフのカセットを手に入れることから始まった。それも60分とか45分といったテープ長ではなく、これまた実物の多くがそうであったように片面5分で両面10分のいわゆるC-10などと記されたテープでノーマルポジションの入手に拘った。

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※Apple 1 向けとしてApple Computer社からカセットテープでリリースされていた“APPLE I INTEGER BASIC LANGUAGE” を始めとするソフトウェアを復刻


次はラベル作成だ…。こうしたものの手作りはお手の物だし、実に楽しい(笑)。古い資料やネットで情報を確認しつつ実物と同じように作ってみた。そして取り急ぎ “APPLE I INTEGER BASIC LANGUAGE (整数BASIC)” をはじめMONITOR/DISASSEMBLER そして APPLE-TREK といったゲームプログラムをカセットテープレコーダーに記録(録音)した…。

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※ “APPLE I INTEGER BASIC LANGUAGE (整数BASIC)” のカセットソフトウェア復刻版完成


使う使わないは別の話として、今後も可能な限りApple 1のソフトウェアも探索して整理の上で残しておこうと考えている。



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員