S-100バスのメモリボードとムーアの法則幻想

手元に S-100バス規格の歴史的なボードが3種類ある。すべて株式会社技術少年出版のマイコン博物館準備室からお借りしたものだが、今日はそのうちS-100バス用8KB RAMボードを取り上げ、ムーアの法則と合わせ、今日までいかに半導体テクノロジーの進歩が驚異的に続いてきたかを少々お馬鹿な比較例をあげてご紹介してみたい。


まず "S-100バス" という言葉だが、そもそもは1975年1月に「ポピュラー・エレクトロニクス (Popular Electronics) 」誌に載りホビイスト達を熱狂させた個人用コンピュータの元祖「Altair 8800」が拡張バスを18本装備していたことに由来する。

8kbramboard.jpg

※S-100バス用8KB RAMボード【クリックで拡大】


「Altair 8800」は社長のエド・ロバーツ率いるMITS社が開発したもので、彼自身はその拡張用バスを "アルテアバス" と称しMITS社の著作物であると主張した。しかしライバル企業やホビイストたちは事実上の標準規格になりつつあったその拡張バスを、スタンダードの "S" と信号線の数が100本だった点を取って"S-100バス" と称したのである。その後、IEEEでAltairのバスはS-100バスという学会の標準規格として確立されることになる。

altair8800body.jpg

※1975年に登場したAltair8800


さて、手元にある3種類のS-100バス規格のボードは インテル8080 CPUが乗っているCPUボードでIMSAI社製のもの、そしてS-100バス用4KB RAMボードおよびS-100バス用8KB RAMボードである。
ちなみに今回の主役であるS-100バス用8KB RAMボードは1Kbit RAMが64個実装されたもので1970年代後半の価格で20万円相当だったという。

例えば時代による貨幣価値を比較するのはかなりアバウトな面もあるが、大卒会社員の初任給などで比較するのがよいかも知れない。例えば1975年の物価を調べて見ると大卒男子の初任給は9万円強、対して近年は残念ながら10年間ほどあまり上がっていないようだが、2004年あたりで約20万円強ほどだという。だとすれば約2倍ということになる。無論モノにより価値観は大きくことなるし様々な比較方法があるだろうが、ここはざっくりと今の貨幣価値に換算すると安く見積もっても倍の約40万円ほどと考えて話を先に進めよう…。

ところでコンピュータに興味のある方なら「ムーアの法則」を知っているに違いない。これはシリコン集積回路の集積密度が2年でほぼ2倍になるという経験則から1965年、米インテル社のゴードン・ムーアが自らの論文上に集積密度は18~24カ月で倍増し、チップは処理能力が倍になってもさらに小型化が進むと主張したことに由来する。ただしムーア自身は “法則” と表現したわけではない。
ともかくこの法則によれば、半導体の性能は指数関数的に向上していく理屈だ。実際には、集積密度の向上ペースは近年いささか鈍化しているものの「集積密度」を「性能向上」と合わせて考えてみれば、この法則は現在でも成立しているとされ、これからも半導体の性能向上を予測する際の指標として用いられるようだ。

難しい事はともかく、Altair 8800やIMSAI 8080が普及し出した1970年後半にしてもメモリの価格は現在では想像できないほど高価だった。先に示したS-100バス用8KB RAMボードが当時20万円ほどしたと記したが、念のために申し上げればメモリ容量は8GBでもなく8MBでもない、ただの8KBである...。

ではもし1975年前後においてこのメモリ容量を8KBではなく、8GB実装を…と考えたらどういうことになるのだろうか(笑)。
無論非現実的な問いではあるが、あえてそうした事を考えると集積回路全般は勿論、メモリ開発においてもこれまでの進歩・進化がどれほどもの凄いことであったかがより実感できると思ったわけだ…。

繰り返すが8KBのS-100バスボードが現在価値で40万円と仮定し、このボードを使って8GBのメモリ空間を実現すると仮定しよう。実装密度を現在のように高密度化するわけにもいかないからボードの枚数を必要な分だけ増やすことにする…。
しかしこの考えはとてつもなくおかしい。なぜなら単純計算で8KBのS-100バスボードが100万枚必要となり、そのトータル価格は驚くことに4千億円になる(基板コストや組立コスト等も含まれてはいるが難しい事は考えない…笑)。
さらに余計なことだが8KBのS-100バスボード1枚の重量が337 gだからして100万枚の重さは…337トンになる理屈だ(笑)。

勿論現在、CPUの性能も飛躍的に向上し、ありがたいことにムーアの法則に則った形でシリコン集積回路の集積密度が増し、量産できたおかげでメモリ容量も最小サイズで大きくなり、コスト的にも大きな恩恵を受けていることはご存じのとおりだ。
念のため、私自身Macの増設メモリを多々購入したことのある秋葉館で新型Mac Pro用の8GB RAM ( iRam製 DDR3 ECC SDRAM 1866MHz 8GB [240-1866-8192-IR] )の価格を確認したら 17,800円だった(笑)。それも小さなボード1枚に実装されているのだから驚きである。http://www.akibakan.com
ともあれ同じメモリ容量で40年前は4千億円、現在は17,800円であることを考えれば否応なくテクノロジーがいかに驚異的な進歩を遂げたかが分かるし思わず頭を下げたくなる。



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員