久しぶりのMacPaintに思う30年の歳月

最近はビル・アトキンソンの名を見聞きする機会はほとんどなくなった…。彼は現在写真家として活躍し、時にiPhoneアプリなども発表してきたが、昔からのMacユーザーにとって彼はやはりプログラマでなければならない…。だからというわけではないが、ふと思いついて久しぶりにMacPaintを起動してみた。


ビル・アトキンソンといえば申し上げるまでもなく、HyperCardや最初のMacにバンドルされていたMacPaintの開発者であり、Macintoshシステムの中核をなしているQuickDrawなどを開発した天才プログラマである。ただし昨今は写真家として活動しているようで、以前自身の写真集発売を機に来日し記念講演を行った際には出席した経緯がある。
そんなビル・アトキンソンの名を雑誌の記事やウェブ上で見聞きすることが少なくなったが、我々黎明期からのMacユーザーにとってビル・アトキンソンはいまだに光輝く偉人でもある。

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※ビル・アトキンソン(2004年に筆者が撮影)


だからという訳ではないがMacPaintを久しぶりに体験してみた。幸いなことは私の手元にはきちんと動作するアプリケーションディスクと初版のマニュアル(共に英語版)があるが、アプリケーションを走らせたのは漢字Talk7.1をインストールしてあるMacintosh Classic IIである。ちなみにマニュアルとフロッピーディスケットにはアトキンソン直筆サインがあるが、前記した記念講演時にサインしてもらったものだ。

MacPaint30_01.jpg

※久しぶりにMacintosh Classic IIでMacPaint起動した写真(下)


いつも思うことだがモノクロであることは勿論、シンプルな...本当にシンプルなMacPaintを操作するとグラフィックソフトやMacintoshそのものの原点をあらためて感じることができ、喜びを覚える。無論いまさら、このMacPaintで何かを描こうとか作業をしようとは思わないが、いまPhotoshopをバリバリ使い込んでいる方々の前にMacPaintを置いたら、どんなモノを描くのだろうかとフト思ったりもする(笑)。
それは描写ウィンドウがひとつしかオープンできないとか、画面はスクロール機能がないので位置をずらしたい場合にはハンドツールで動かすか Show Page 機能で縮小イメージを表示させ、そこでウィンドウ位置を変えるしか方法がない…などという使い勝手の問題についてどう感じるか…ではない。

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※MacPaintのShow Page機能で全体を表示し、ウィンドウ表示領域を変更する


このモノクロで小さなウィンドウ、そしてツールパレットに用意されている数個のツールたちでどれだけの作品を生み出せるのかを見てみたいような気がするのだ...。
そういえば、最近はPhotoshopを使って「ドット潰しをしなくなったなあ」と思い至った(^_^)。その72dpiのビットマップ表示でそれなりに綺麗に見せるにはまさしく一点ごとの修正が必要なことが多々あったし、Macintoshがカラーになった256色モード時代でも相変わらずこのドット単位の修正をよくやったものだ。

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※表示を拡大してドット修正をよくやったものだ


日常はさすがにMacPaintを使うことはないが、こうして久しぶりに利用を思い立ったとしても操作性に迷うようなことはない。それはシンプルだからとしても長い間夢中になって毎日使い込んだ日々の感覚を忘れていないからだ。まるで十数年ぶりに乗る自転車みたいなものか…。また良く言われるようにMacintosh本体のオペレーションはもとより、MacPaintの基本操作はそのまま今日のPhotoshopなどにも継承されているからでもある。
近年のPhotoshop等のグラフィックツールバーを見ても、MacPaintと同じアイコンはいまだにいくつか存在する。lassoおよびselectionツール、scrollのハンドツール、消しゴムなどなど基本はほぼそのままのデザインが多い…。

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※例えばPhotoshop CSのツールパレットにもMacPaint当時からのデザインツールが存在する


ただし現在のオペレーションに慣れすぎた感覚からは意外に思える部分もある。例えばショートカットなどがそうである。
まずMacPaintがコマンド+Qで終わらせることができないだけでなく、コマンドキーによるショートカットの多くはフォントのスタイル変更などに割り当てられているという違いが目立つ。機能が少なかった往時だからこそできた贅沢な?使い方だ(笑)。

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※MacPaintのコマンドキー割り当ての多くはフォントスタイル変更などに使われていた


またヘルプの替わりとして「Goodies」のプルダウンメニューには「Introduction」「Shot Cuts」というメニューがあり、MacPaintのウィンドウ上で基本的な機能紹介が表示されるようになっている。

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※MacPaintのGoodiesメニューからIntroductionを使った例。簡単なツールの解説が表示される



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※MacPaintのGoodiesメニューからShort Cutsを使った例。ショートカットやツールのダブルクリック機能の解説が表示される


ところでアプリケーションも面白いが、そのマニュアルも今となってはユニークそのものだ。Macintosh最初のグラフィックソフトのマニュアルだというのに、たったの32ページしかないその薄さも感動ものだが(笑)、それ以上に面白いのはこのマニュアルの中身はMacintoshおよびMacPaintにより版下が作られたものだからである。

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※MacPaintのオリジナルディスクと初版マニュアル。共にビル・アトキンソン本人による直筆サイン入り


念のために記せば、まだAppleのLaserWriterは存在せず、プリンタといえばドットインパクト型のImageWriterしかなかった時代である。無論DTPソフトなどは存在しない。だから図版はもとよりだが英文のフォントは皆ビットマップそのものであり、本来は美しい仕上がりとは無縁なのだろうが、おかしなもので今となっては逆に新鮮に見える。

決して懐古趣味で申し上げる訳ではないが、MacPaintを操作したことのない方は何らかの機会があったら是非一度自身で体験していただきたいと思う。MacPaintが登場してから (Macintoshが登場してから)早くも30年が過ぎた。カラー化はともかくこの30年に匹敵する進化・進歩に値するものが最新のPhotoshopを代表するソフトウェアにどれほどあるのか...試して考えていただきたいとも思う。

30年といえば、申し上げるまでもなく長い年月だ。しかし考えようによっては我々はいまだにMacPaintの範疇から、あるいはビル・アトキンソンの掌から脱出できていないのかも知れない。
まあ難しいことはともかく、MacPaintに触れると子供の頃に遊んだ路地や小道といった、何の変哲もない物事を思い出すのと同じような懐かしい思いを感じることができる。これだけは古いユーザーの特権に違いない(笑)。






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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員