社名変更はAppleの経営戦略の大幅な変更を意味するか?!

Macworld Conference & Expo/San Francisco 2007の基調講演を振り返ると、そのハイライトはApple TVでもiPhoneでもない。創業以来のApple Computer, Inc.という社名を、Apple, Inc.に変えたことが一番のハイライトではないだろうか。


我々の間ではApple Computer社がその社名を変更するであろうことはすでに織り込み済みである。ただそのタイミングが "いつ" になるかが問題だった。
いや...これは後出しのもっともらしい話しではない...。例えば2004年3月に東京国際フォーラムでインタビューした際に名刺交換したAppleのVice PresidentであるRon Okamoto氏や当時Core Media Groupのシニアディレクタ、Frank Casanova II氏などの名刺にはすでに"Apple"としか印刷されていない。Apple Computer, Inc.ではないのである。
勿論この事はお二人だけのことではなく、現在アップルコンピュータ(株)の代表取締役である山元賢治氏の名刺も、その英語表記面は"Apple"としか印刷されていない...。

page4_blog_entry358_1.jpg

※2004年3月にいただいた、AppleのVice Presidentであるロン・オカモト氏の名刺。その企業名は単に"Apple"とあるだけだ


これは本来おかしな事である。口頭での呼び名の場合には、多々固有名詞を省略して呼ぶことは多い。例えば「日本アイ・ビー・エム株式会社」という正式名称で呼び合うのは堅苦しいし面倒だからと「アイ・ビー・エム」と呼ぶことはよくあることだ。しかし、だからといって対外的にオフィシャルなアイテムでもある名刺の表記にそうした略称を記すことはまずあり得ない。
グローバル企業のAppleの名刺だから、そうした表記には何らかの意図があり、公認の表記であることは間違いないだろう。

またご承知のように、すでにiPodのビジネスが大変好調であり、Appleはもはやパソコンメーカーではない...といった話しも以前からささやかれていた。したがって、いつ社名の変更があってもすでに織り込み済み...といった感もあり、驚くことはなかった。しかし、やはり長年親しんできたこともあり、また革新的なパーソナルコンピュータ・メーカーとして創業し、成功を収めたAppleから"Computer"の名が無くなるのは寂しい。
これからもMacintoshの開発を止めることはないだろうし、今回のExpoでMacintosh関連の発表がなかったのは、単にiPhoneへ話題を集中させる意図だったのだろう。
それより驚いたのはiPhoneに搭載されたOS名称がMac OS Xではなく"OS X"と表記あるいはアナウンスされたことだ。
これまた当然のことながら「MacのOSではなく携帯電話のOSだから」単純にOS Xと命名したのかも知れないが、ことはそれだけで終わらないという感じがする。

これまで携帯電話などのデバイスに採用されてきたOSは独自のものだったり、TRONあるいはWindows系が採用されたりしてきた。そしてMac OS Xが携帯電話に搭載されるのは勿論iPhoneが初めてである。
4GBのある意味で小さなフラッシュメモリのiPhoneにMac OS Xが易々とビルトインできるとは思われないかも知れないが、当サイトの最近の記事で紹介した4GBのフラッシュメモリ「FirePen」にMac OS Xをインストールした際、最小限に必要なものだけを選択した上でのインストールを行うと、インストール後の空き容量はまだ1.53GBも残っていた。
したがってこの空きメモリにアプリケーションとユーザー側のワークエリアを確保することはできないことではない。そして当然、iPhoneに搭載されるOS XはiPhone用にチューニングされているのだろうから、さらに効率の良いOSになっているはずだ。

このiPhoneとOS Xの関係、そしてApple Computer社からComputerの冠が取れたということは何を意味するのだろうか。
単純に考えればAppleは今後、家電製品などへの参入がやりやすくなるだろうし、事実これまでにない様々な製品にコミットする可能性もある。ある意味でAppleは今回、総合デジタル家電メーカーとなることを宣言したことになる。
またMac OS XではなくOS Xとした事由として「Macである必要はない」のだから、もしかするとAppleはこれまでのOS戦略を大幅に変更し、例えば他社パソコン製造メーカーへのOSライセンス供給を始める可能性もあるし、すでにそうした観測もあるようだ。
だとすればAppleにとって、2007年は社名の変更以上に大きな変化と、これまでにない成功をもたらす年になるのかも知れない。
前宣伝の"The first 30 years were just the beginning. Welcome to 2007" は確かに大風呂敷ではなかった!

最後に、個人的にはこのExpoでスティーブ・ジョブズの引退や後継者の発表がなくてホッとした。つくづくAppleという企業は良くも悪くもジョブズの会社なのだということを感じた今回の基調講演でもあった。


関連記事
広告
ブログ内検索
Macの達人 無料公開
[小説]未来を垣間見た男 - スティーブ・ジョブズ公開
オリジナル時代小説「木挽町お鶴御用控」無料公開
オリジナル時代小説「首巻き春貞」一巻から外伝まで全完無料公開
ラテ飼育格闘日記
最新記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

mactechlab

Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員