石田伸也著「ちあきなおみに会いたい。」徳間文庫刊再読と彼女の歌声に酔う

2年ほど前に出版された石田伸也著「ちあきなおみに会いたい。」(徳間文庫)を引っ張り出して再読した。先日Twitterで彼女が歌う「夜へ急ぐ人」という曲についてのツィートが目に止まり、忘れていた思いを新たにしたからだ。そして久しぶりに彼女の歌をあらためて聞いてみた。現役当時は特にファンだったわけでもないが、その強烈な個性に近年惹かれるようになり数枚のCDを愛聴している。


歌手であり女優でもあった ちあきなおみ は東京都板橋区の出身だという。また女性の年齢をとやかく申し上げるのは野暮ではあるが、彼女は私よりひとつ年上だ。
実は私も11歳から所帯を持つまで板橋区に住んでいた…。だからというわけではないが、どこか親近感を感じて注目していた。とはいえ特別にファンというわけでもなくコンサートに出向いたこともない。しかし近年いくつかの歌を聴いたことをきっかけにその強烈な存在にあらためて注目しはじめた…。

ちあきなおみ は「四つのお願い」「喝采」といった曲で一世を風靡した異色の歌姫だった。個人的には美空ひばりよりその歌声は好きだった。なんと説明したらよいか…艶があり大人の色気を感じさせるキーの低い声がとてもよい…。

とはいえ失礼ながらアイドルではないし、私にとっては「少々化粧の濃い、色っぽくて歌の巧い歌手」といった印象に過ぎなかった。しかし彼女は1992年に夫だった俳優の郷鍈治の死去以来、引退声明を出したわけでもないのにいっさいの芸能活動から身をひいたまま現在に至っている。ちあきなおみ はすでに伝説となりつつある…。

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※石田伸也著「ちあきなおみに会いたい。」徳間文庫刊


徳間文庫「ちあきなおみに会いたい。」は、その ちあきなおみ が表舞台を去って20年、レコード大賞を受賞した「喝采」の発表から40年となる一昨年の2012年、今なお復活が希求される伝説の歌姫はどんな生き様を経てきたのか、今どこでどうしているのか…。船村徹、中村泰士、吉田旺、美川憲一、こまどり姉妹、友川かずき、杉本眞人らの証言から、その人間像に肉迫するドキュメント本なのだ。

ところでその ちあきなおみ が歌う歌で近年好きなのが「夜へ急ぐ人」という曲である。1977年9月にリリースされた彼女のシングルだがフォークシンガー、シンガーソングライターの友川かずきが提供した曲だ。この曲が ちあきなおみ を単なる歌が巧い歌手としか認識していなかった私に強烈なインパクトを与え、あらためて振り向かせた歌だった…。

「夜へ急ぐ人」がリリースされた1977年の「第28回NHK紅白歌合戦」に ちあきなおみ も出場し本曲が歌われたその姿をテレビで見たとき、まだ若かった(彼女も若かった)私は正直怖じ気を振るった…。
合法ではないだろうが、その時の映像はいまでもYouTubeで見ることが出来るので興味のある方は是非検索して見ていただきたい。

彼女が歌う「夜へ急ぐ人」にまったく予備知識がなかった私は紹介された彼女が舞台に登場しイントロが流れ出したとき、「乗りの良い曲だな」と思ったが、次第に怖くなってきた。
これってNHKで、それも大晦日の紅白歌合戦の茶の間に流してよい歌(映像)なのか…と余計なことも頭をよぎった。 まるで ちあきなおみ が壊れてぶち切れたみたいに思えた。
魂を抱え込むようなアクションの後「…おいで おいで…」と髪を振り乱し、あの三白眼で見つめ、これまたまっすぐにこちらに向けた手で誘うような姿はテレビに吸い込まれそうで正視できなかった。

さらに曲間に台詞が入り、その後に続く間奏部(アルバム版ではスキャット)は悲鳴とうめき声…あえぎにも聞こえて熱唱といった穏やかな物言いでは表現できない…その姿はまさしく鬼気迫るものだった。事実歌い終わったとき、白組司会者の山川静夫アナウンサーが「なんとも気持ち悪い歌ですね…」といったことは語りぐさになっている。

いや、そもそもこの曲のテーマは「女の狂乱」だそうだから、ちあきなおみ は文字通り最高のパフォーマンスを見せてくれたことになる。前記した「ちあきなおみに会いたい。」によれば、近年彼女の再評価は「歌を物語として演じる」部分にこそあるという。さもありなんと思う…。そしてどこか美輪明宏が歌う「よいとまけの歌」を初めて聞いたときの衝撃を思い出した。

冷静になったとき、私の ちあきなおみ に対するイメージがよい意味で変わったことに気づいた。
それまでは少々厚化粧で歌の巧い女性歌手といった認識しかなかったものが、本当の歌手の凄さを見せつけられた思いがした。

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※筆者所有、ちあきなおみのCDパッケージ


その後この「夜へ急ぐ人」をカバーする他の歌手(友川かずきも含む)を聴いてもすべて物足りなく、あらためて ちあきなおみ ならではの歌声とパフォーマンスにプロフェッショナルの意気を感じたのだった。

わずか数分の歌で人を感動させるだけでなく、聴き手にストーリーを想像させ、不安と畏怖の次元に迷い込ませることができる歌い手などそうそういるものではない…。
5歳から米軍キャンプを回っていたことも功を奏したのだろうしその魅力ある声は天性のものなのだろうが、演歌からジャズ、シャンソンに至るまで幅広いジャンルを歌い、聞く者を感動させる歌手は数少ない。

「夜へ急ぐ人」は、勿論作詞作曲した友川かずきの個性が見事に開花した曲なのだが、それはまた ちあきなおみ の深層をあぶり出したようで iTunes に入れてある同曲を聴く度に最初にテレビで見たときの衝撃を思い出す。

私にとって ちあきなおみ といえばもう一曲特別な歌がある。それが「黄昏のビギン」だ。
この曲はもともと作詞は永六輔、作曲が中村八大の名コンビニより制作され、水原弘のシングルとして発表されたものだ。多くの歌手が後にカバーしたが、私見ながら ちあきなおみ の歌が1番だと思うし、彼女の真骨頂の一曲でもある。

その証拠といっては何だが、2011年暮れにビートたけしと木村拓哉の共演によるトヨタ自動車のコマーシャル「ReBORN DRIVE FOR TOHOKU」でたおやかに流れた曲は ちあきなおみ が歌うその「黄昏のビギン」だった。
それだけでなく彼女の歌う「黄昏のビギン」は1991年に京成電鉄の「スカイライナー」、1999年~2003年には4期連続でネスカフェの「プレジデント」のCMでも使用され話題となった。



※いつ消されるかわからないが、YouTubeで見つけた「黄昏のビギン」を歌う "ちあきなおみ" の映像を参考としてご紹介しておく


引退するまでもなく一般的に芸能人はテレビに出ないとすぐに忘れられるという。しかし1992年の9月以降一度も公の場に出ていないにもかかわらず、 ちあきなおみ は2000年に6枚組のCDが発売され高セールスを記録する。そして本人不在のまま再ブームが起こった…。

NHKで放映された「歌伝説 ちあきなおみの世界」は大きな反響に6回も再放送を繰り返したし、テレビ東京「たけしの誰でもピカソ」で2度も特集を組んだ。そして前記したコマーシャルや映画でも ちあきなおみ の曲が使われている。そういえばTVの歌真似といった番組で彼女の熱演を多々見たことを思い出したが、「美空ひばり大会」では歌唱力を認めない歌手には真似を許さなかったひばりだったが、その美空ひばりが認めた唯一の歌手はやはりというか ちあきなおみ だった。その美空ひばりは ちあき の真似を評し「憎らしいほど」と賛美を送ったという。

ではなぜ、彼女は多くの音楽関係者はもとより、沢山のファンが再びその歌声を聴きたいと願っているのに世間から隔絶するかのように閉じこもっているのだろうか。
石田伸也は著書「ちあきなおみに会いたい。」の中でなるほどと思うようなあれこれを記しているが、好きな歌を好きなように…自分の思うままに歌えないのが芸能界という所なのであり、5歳から人前で歌ってきた天性の歌姫は決して歌が嫌いになったのではなく、そこに渦巻く人々への不信感から人前に出たくないのかも知れない。

さらに本書の中でCMを一緒に撮って話題となった美川憲一はいう。「ちあきちゃんが歌手になったのは、極端な人見知りを直すためにお母さんが歌を習わせたって…」と。
ちあきなおみ は幼少のころから母を喜ばせるために、そして結婚後は最愛の夫が喜んでくれるからと歌った。しかしその夫もいなくなった。ちあきなおみ という女性は芸能界に不向きな歌姫だったのかも知れない…。

さて…普段はクラシックを好み、古楽器のリュート演奏を楽しんでいる私だが、時々無性に美空ひばりや ちあきなおみ の歌が聴きたくなるときがある。
今夜はやはり彼女の「黄昏のビギン」を聴きながら寝支度をしようか…。





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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員