「どうなる?! パソコン業界」に見る20年前のアップル社動向と考察 〜 予測は当たらない?!

本書は1994年4月25日に翔泳社から和訳出版された書籍である。著者のJone. C. Dvorakは今年63歳になるが、当時のラジオ番組「ソフトウェア/ハードトーク」に毎週出演し新聞やPC Magagin、InfoWorld誌などでコラムを執筆していた人気ジャーナリスト。その彼が副題の「ドゥヴォラックの大予言」とあるように業界の興味あるいくつかのポイントにつき近未来の動向の考察を試みた一冊なのだ。


古い時代の本など、何の役にも立たないと思われるかも知れない。しかしここではスティーブ・ジョブズが復帰する前のアップルの様子を知る上でも本書はなかなか面白い1冊なので今回あらためてご紹介してみたい...。

さて著者は冒頭で「業界の動きを観察し、そこから得られる情報を論理的に推理していけば、予測が成り立つ」として、「(今後の...)情報産業の世界では意志決定を誤ると、読者あるいは読者が属する企業、組織に経済的な損失をもたらすことがある」という本書の存在意義を記している。 

すなわち本書は出版当時のコンピュータ業界の内側を披露し、この業界がどのような方向へ進もうとしているのかをさまざまな角度から検討して、楽しみながら必要な情報が得られることを目的としているようだ。 

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※翔泳社刊「どうなる?! パソコン業界〜ドゥヴォラックの大予言」表紙


幸いなことに(?)、いま私たちは本書が発行された時から早くも20年の歳月が経過した時代に存在する。したがってドゥヴォラックが予測考察した結果あるいは経過の多くについて確認することができるわけだ(笑)。 
本書はパーソナルコンピュータそのものをはじめ、マイクロソフトやアップルについてそれぞれ各一章を費やしているが、ここでは勿論アップルの章を見てみよう。 

まず本書が発刊された1994年はAppleにとって、どのような時期だったのかをおさらいしてみる。 
その前年の1993年に、それまでのスカリーに替わりスピンドラーがCEOに就任している。そして1994年3月には最初のRISC CPUを搭載したPowerMacintosh6100/60および7100/66, 8100/800を発表した。その最新OSはSystem 7.5だった。 
またデジタルカメラのQuickTake 100の発表、Newton MessagePad 100,110の発売、Mac OSのライセンス供与を発表したのもこの1994年だった。 

アップルはいわば、様々な...出来うる限りの製品と方策を繰り出して、経営不振の状態を脱する努力を進めていた時期だったが、翌年1995年にマイクロソフトから発表予定のいわゆるWindows 95の足音がひたひたと聞こえていた時代でもあったからことは深刻だった。 勿論その2年後にスティーブ・ジョブズがアップルに復帰するなど誰も考えてはいなかった...。
ドゥヴォラックはまず良い意味でMacintoshがPCより優れており、その違いは大きいが、その違いの認識不足から、Macintoshの世界は自らを売り込むノウハウを見失っていると指摘する。 

この根本的な命題は常々指摘されてきたことだが、その原因が、Apple社内のジェネレーションギャップによるものであり、ある種の無秩序によって一層悪化していると筆者は書いている。いわゆる創立当時からのビジョンから遠のいてしまったことをApple衰退の要因と考えているわけだ。 

こうした問題だけでなくドゥヴォラックは企業理念の変化が悪い方向に表面化した例としてリック・ジョーンズというAppleに対するメディアを一手に引き受けて、マスコミとのパイプ役に貢献していたスタッフをAppleが重要な仕事とは認識せずに解雇してしまったという具体例も挙げている。
 
ドゥヴォラックは「リックを知るメディア関係者全員が、彼の解雇にショックを受けた」とし、このことがAppleという企業が自らを見失っている典型的な事柄であると強調する。続けて「アップルはリックのような人材さえ、どんなにこの企業に大切な存在かを認識できなかったのだ。しかもリックは高給取りではなかった。私には悪い予感がする」とこの項を結んでいる。 

PowerPCの重要性にもドゥヴォラックは記述し、「RISCチップは90年代後半の主流となる存在であり、アップルをコンピュータ革命の象徴的なリーダーとして再生させる力を持っている」とする。 
確かにRISCへの移行はいま考えればまずまずスムーズにできたといえるだろうが、Appleが再生できた直接の要因はRISCプロセッサによるものではなく、スティーブ・ジョブズの復帰と彼の主導でリリースされたiMacによるものだったことは周知の通りである。 

またドゥヴォラックはNewtonに没頭するAppleの姿勢を危惧しているが、これまた結果としてスティーブ・ジョブズがその開発中止を決断した。 
ドゥヴォラックは続けて言う。「現在使用されている重要な新技術には、一夜にしてセンセーションを巻き起こしたものなどない」とし、失敗に終わった日本の第五世代コンピュータプロジェクトをNewtonの失敗に関連づけて説明し、共に関係者のプライドのみで推し進められた気がすると解説している。この辺の「温故知新」的な一連の発言はそのまま当ブログのコンセプトに通じるものであり、考え方の基本には全面的に賛成だ。 

前記したリック・ジョーンズ氏解雇の問題ではないが、企業が力を付けるのは何も製品そのものの売り上げだけではなく、人材登用やその選任などが大きく関与することは我々もAppleの歴史から学ぶことができるだろうし、事実現在のアップルでジョブズに認められたジョナサン・アイブが目立った活躍をしていることは周知の事実だ。 

ドゥヴォラックは持論の「順応の連鎖反応」と関連づけてAppleの不甲斐なさを追求する。 
面白い例として著者はMacintoshの元祖であるLisaとMacintosh IIfxを比較している。それはLisaは高価格が原因でその販売戦略を失敗したとされているが、Macintosh IIfxも高価なのに何故に同じ批判をかわすことができたのか...という疑問だ。 

ドゥヴォラックはその原因として、Appleがフェラーリ的なプレステージ感覚を育てることに失敗していると指摘する。詳しくは本書を手にしていただきたいが、確かに筆者の言わんとすることは分かるものの、私にはLisaの失敗とMacintosh IIfx成功の違いはその原因が言うまでもなくApple自身にあるとしても、ドゥヴォラックの指摘だけが原因とは思えない。一言でいえば、その差は "時代" の違いであり、私は特にLisaの失敗の原因として、Appleはその時代...すなわち往時の市場と顧客の心をまったく読めなかったからだと考えている。 

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※1986年当時InfoWorld誌に「Inside Track」というコラムを連載していた時期のジョン・C・ドゥヴォラック氏(InfoWorld誌より)


さらにドゥヴォラックは「アップルは合併で没落する」「アップルはニュートン以上に製品ラインを拡大する」という項目を設けて持論を展開している。繰り返すが1994年の当時に、後になってスティーブ・ジョブズがAppleに復活することなど予測の範疇にはなかった(笑)。
赤字続きでアップルはいつどこかの企業に買収されるかも知れない、あるいは倒産の憂き目を見るかも知れないと考えられていた時代だったが、結果としてそのどちらの危惧をもジョブズが解決したことは言うまでもない。 

アップルを考察する最後は「教育とアップルIIの関係」と題して、「科学技術やビジネス、軍関係、産業界でコンピュータを活用した成功談はたくさんあるが、教育分野にはほとんどない」と嘆いている。ドゥヴォラックは学校にはMacintoshを導入すべきとしているが、同氏によればあるAppleの広報担当は「Macintoshを教育マシンと呼ぶのはタブーだった」という話を紹介している。この辺の感覚は最近までApple自身に蔓延していたように私も感じてきたし教育市場へのアプローチは決して上手ではなかった。 

さてAppleの章のみ、その概要をなぞってみたが、この「どうなる?! パソコン業界〜ドゥヴォラックの大予言」の原著名は「An Insider's Look at the Computer Industry」であり本来「大予言」的な意味はない。 
当時、例のノストラダムスの大予言といった書籍の売れ行きにあやかったものなのだろうが、実際の内容は予言というより考察と警鐘といった内容だ。
 
正直、予言といった記述に期待して本書を手にした読者は大いに消化不良を起こすかもしれないが、それは無論ドゥヴォラックの責任ではない。そしてその意見は本音を感じるものであり、賛否はともかく全体的に彼の論評には好感が持てるし局所的な認識はさすがにプロフェッショナルだ。 とはいえこの種の論評が如何に未来予測において役に立たないかという好例にもなると考え、今般古い書籍ではあるがご紹介した次第である...(笑)。

何しろ現実のアップルはこれまで幾多の企業成功物語の枠内というか常道といったものを遙かに超えた躍進を続けている。事実アップルの時価総額が先般7,000億ドルを超えたというニュースがあった。これはマイクロソフトの約2倍であり米企業初だという。いかにアップルの成長率が常識を越えたものであるかが窺え、これだけ登り詰めたとするなら後は下降するしかないと口さがない人たちは論じてもいるが、ご承知のように幸い今のところこれといった綻びは見えない。

アップルの未来がどうなるのか...それは正直分からないものの、識者とかエコノミストといったこれまでの物差しでしか判断できない人たちの言動に振り回され、一喜一憂することがいかに意味のないことなのかを今のアップルは教えてくれる...。

なお本書には他に「デスクトップ型パーソナルコンピュータ業界の動向」、「プラットフォームシフト」、「マイクロソフトの使命」、「マイクロソフトはマッキントッシュを打ち負かすことができるか」、「ハードウェアビジネスの今後」、「行き詰まりの技術と成長する技術」など魅力ある章がある古い本だが、今更あえて探すほどの1冊ではないものの、もし目にした時にはお手にとってみていただきたいと思う。 
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「どうなる?! パソコン業界〜ドゥヴォラックの大予言」 
 1994年4月25日 初版第1刷発行 

 著者:Jone. C. Dvorak 
 訳者:松田 浩 

 発行:株式会社翔泳社 
 書籍コード:ISBN4-88135-091-9 C3055 
 定価:本体1,800円 
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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員