Appleらしさの権化? Macintosh Portableを分解してみる…

過日、Macintosh 30 Years Meeting Tokyoというイベントから戻ってきたMac Portableを仕舞い込む前に分解してみることにした…。しかし "Macintosh" と名がつく製品は多々あれど、これほど人によって評価が分かれるプロダクトも珍しいのではないだろうか...。というわけで実物をご覧になった方も少ないと思うのでご一緒に見ていただこう...。


このMacintosh Portableについては過去に「18年前の魅力的な代物「Macintosh Portable」再考(1/2)」「18年前の魅力的な代物「Macintosh Portable」再考(2/2)」と題して紹介をしているので興味のある方はご一読いただければ幸いである。

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※Macintosh Portableと専用キャリーバッグ


さてこのマシンはMacintosh IIci やSystem 6.0.4と一緒の1989年9月に発表された。セールスポイントは申し上げるまでもなくApple初のバッテリーで駆動するポータブルマシンということだった。単に持ち運びのし易さだけならApple IIcがあったものの、こちらは本体がコンパクトであっても馬鹿でかいACアダプタも含めてバッテリーによる使用はできなかった。

そもそも当時のMacintoshは現在では想像できないほど高価であり高級品だったが、このMacintosh Portableは見るからに高級品めいた印象を与えていた。その価格はハードディスク搭載タイプで116万8千円もしたしAppleのCMを見ても明らかにそのターゲットユーザーは「デスクトップのMacintoshを持つビジネスエグゼクティブ」だった。そして付属の黒い専用バッグはホワイトの筐体と強烈な対照をアピールしその魅力を増していた。

ただし重さが7.2Kgもあるし設置面積もMacintosh Plusより大きいことなどを考えれば気軽にポータブルだと言えないし、その点は発売当初から一番の批判となっていた。しかしAppleの反論としては、例えポータブルマシンだと言っても他社製品とは違い一切使い勝手を悪くするような妥協はしない結果だと主張…。
確かにその時代、バッテリー駆動のノートパソコンやラップトップマシンは小型化の代償としてどうしても犠牲となる仕様が多かった。キーボードが小さい、画面の解像度が低い、バッテリーが持たない、メモリやハードディスク容量が少ない、拡張性のなさなどでサブマシンという位置づけが精々だった。

それらと比較してMacintosh Portableは確かにそのキーボードのピッチも当時のデスクトップMacintoshのそれと遜色ないしバッテリーも重い代償になってはいるものの自動車用の酸化鉛電池の採用で12時間の連続使用が可能だった。またハードディスクも内蔵できるしポータブル故にマウスは付属していないもののトラックボールが採用された。多分パソコンとしてトラックボールを採用した製品はこのMacintosh Portableが最初ではなかったか...。

そのトラックボールはキーボードの右側に装備されているが、左利きのユーザーが望めばキーボードの左側にセットし直すこともできたしオプションでトラックボールの代わりにテンキーも用意された。

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※Macintosh Portableは、デスクトップのMacintoshを持つビジネスエグゼクティブ向けと考えられた


ディスプレイも大問題だった。Macintoshと同様640×480ピクセルは譲れないとし、モノクロながらアクティブマトリックス液晶でなければカーソルを早く動かすと見失うことがあるからとその採用を決めたが、高価だったことも含めてまだまだ技術的に歩留まりが悪い製品でドット欠けは当たり前の時代だった。

そもそもポータブルのMacintoshを実現することはスティーブ・ジョブズの夢であった。彼はデスクトップのMacintoshはあくまで暫定的なものに過ぎないとまで明言していたくらいだった。
ジョブズの命でフロッグデザインは何百時間も費やしてポータブルマシンのデザインを模索していた。そしてスティーブ・ジョブズは1985年4月に発明されたばかりの平面ディスプレイを採用しバッテリー駆動のマシンを1986年に生産開始する案を役員会に図ったが却下された。

技術的な問題はもとよりだが、この頃はスティーブ・ジョブズとジョン・スカリーの確執が表面化した時期でありそうしたことも影響したものと思われる。
ただしスティーブ・ジョブズがAppleを飛び出た後、そのコンセプトを復活させたのがジャン=ルイ・ガッセーだった。これまた完全主義者の彼の主導でMacintosh Portableの設計はより妥協のない、大型重量化していった。

さて、あらためてMacintosh Portableを見ると本体の周りには一見一本のネジも見えない見事な設計(唯一ハンドルを上げると左右にネジが見える)となっている。したがってこれを分解するのは相応の仕組みを理解していないと筐体を壊してしまうことになる。

ともかく分解に関して注視していただきたいことは以下にご紹介するようにハードディスクやフロッピーディスク、そしてバッテリーを外し、フロントのキーボードとトラックボードを外して液晶面に繋がっているシャシーを底面ケースから取り外す。そしてロジックボードを外す…というすべての行程でネジやビスといったものは一本も関係しない事実をである。

すべてがそれぞれのパーツにある爪や突起を実に巧みに組み合わせて各ユニットが組み立てられていることがよく分かり、こんなところにもAppleの拘りが感じられて今更ながら唸ってしまった。

【1】キーボードカバーを外す
   分解の順序は間違えると途中でやり直しをせざるを得なくなることもあるが、あまり難しく考えずにまずは実戦してみたい。まずはキーボードとトラックボール周りのカバーを外すことにしよう。なお前記した通りこのMacintosh Portableをロジックボードを取り出すまで分解してみたがネジやビスといった類は一本もなかったのはさすがにAppleである。その代わりに分解するにしてもどこから手を付けたら良いかが分かりにくい。

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※ここではまずキーボードとトラックボール周りのカバーを外すことに...


キーボードカバーの左右手前には液晶面を蓋に見立て、ロックするための爪が入る穴が空いている。そこにドライバーといった道具を入れて持ち上げれば簡単に外れるかと思ったが意外にきつい…。実際にはキーボード手前側の裏面に小さなゴム足が3つあるが、その向かって右を取り外し、その中央の穴に細い棒状の道具を差し込んでゆっくりとカバーの端を持ち上げながら隙間を作り開けていくのが安全なようだ。

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※裏面に小さなゴム足のひとつを外し(上・中)、その小さな穴に細い棒状のツールを入れてパネルを押し上げ、隙間を丁寧にこじ開ける(下)


カバーを取り外すと左にキーボードユニット、右にトラックボールユニットがあるわけだが、まずはそれぞれロジックボードからつながっているコネクタを外す。

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※キーボードカバーが外れた


そして向こう側の爪を外せば簡単にユニットごと外れるようになっている。なおご承知の方も多いと思うがMacintosh Portableは左利きユーザーのためにトラックボールを左側に入れ替えることができるのも売りのひとつだったが、いまご覧になっている方法でそれが可能になるわけだ…。

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※キーボードとトラックボールユニットに接続されているコネクタを外し(上)、両ユニットを取り出す(下)


その手順も実に簡単だ。トラックボールとキーボードユニットの境にあるプラスチック製の仕切りを取り外し、左側にある同等な部位に差し込み、左にトラックボールユニット、右にキーボードユニットを設置して先に外したコネクタを差し込めばよい理屈だ。なおコネクタの仕様は共通なので間違うことはない。

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※プラスチック製の仕切りを左側の定位置に移してトラックボールとキーボードを入れ替えることができる


【2】コネクタ類をロジックボードより取り外す
   キーボードユニットを外せば狭いながらも背面側にあるハードディスクやフロッピーディスクを繋いでいるコネクタ類がロジックボードから取り外せるようになる。またスピーカーのケーブルなども取り外しておく。

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※マザーボードからのハードディスクやフロッピードライブなどへのコネクタをすべて外しておく


【3】背面カバー
   続いて背面のカバーを開ける。この一帯にはバッテリーをはじめハードディスクとフロッピードライブといった重いパーツが集中している。ここでもネジなどはひとつもなく絶妙な形で組み合わさっている凹凸をまるで箱根細工のからくり箱を扱うかのようにしてハードディスクとその下にあるフロッピードライブ、そして反対側のバッテリーを取り出していく。

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※カバーを開け、バッテリーユニット、ハードディスク、そして下にあるフロッピードライブを取り出す


なお所有しているMacintosh Portableはハードディスクとバッテリーの間に位置している拡張スロットに増設メモリカードが刺さっているのでこれも抜いておく。

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※増設メモリカード


【4】上部の液晶ならびにシャシー全体を底ケースより外す
   いよいよ佳境に入ってきた(笑)。ここでは液晶部がつながったままロジックボードを含むシャシー全体を底ケースより取り外すことになるが、仕組みが分かっていないとなかなか外しづらいし思いつきで金属製の道具を使うと壊したり傷をつけたりするので注意が必要だ。基本的には両手の指だけで外れるが、これまた無理すると指を傷つける可能性もあるのでゆっくりとやってみよう…。

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※シャシー全体を底ケースから分離する


まずはシールド部位を留めている部位を十分に確認する。前面だけでなく左右に1箇所ずつある爪を外しながら持ち上げることになる。なお取り外したシャシー下にはロジックボードがあるので乱暴に扱わないことが大切だ。

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※底ケースから取り外したシャシー全体。下部にはロジックボードがある


【5】シャシーからロジックボードを外す
   ロジックボードは1枚に集約されているので難しい事はないが、これまたシャシー側の爪を外せば簡単に取り出せる。動作しているマシンであればこの季節は特に静電気に注意した扱いをすべきだろう。

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※Macintosh Portableのロジックボード


このロジックボードを見渡せばMacintosh Portableの設計の全容がわかる。ちなみに当該ボード端には1991年のプリントがあるところを見ると本マシンは後期型のようだ。

【6】底ケース内のサイン群の確認
   初期の一体型Macintosh、すなわちMacintosh 128Kや512K、そしてMacintosh Plusには内部ケースに開発に関わった人たちのサインが刻印されていることはよく知られている。しかしこのMacintosh Portableにも同じようにサインが金型に刻み込まれている事をご存じだろうか…。

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※底ケース内面には約60名ほどの開発者のサインが刻印されている


その事実は知ってはいたが、初期型の開発に関わったスティーブ・ジョブズは勿論、ビル・アトキンソンやアンディ・ハーツフェルドなどなどといったお馴染みの人たちとは違い、ほとんど表に出て来ない人たちのサインでもあるのでこれまできちんと確認したことはなかった。

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※開発者たちのサインの一部を拡大してみた


今回はじめてしっかりとそれらのサインと対峙したが、60名ほどのサインが好き勝手な場所に置かれている。どういう理屈か不明だが、密集している箇所と広く空間が空いている箇所があり統一感はない。またはっきり読めるサインもあるが刻印が薄かったり小さかったりで判別しにくいものもある。また開発者たちの手書きのサインとは別に活字体でプロダクト・デザイン・チームの名がしっかりと入っているのも印象的だ。

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※プロダクト・デザイン・チームの名前も列記されている


本来ならこれらのサインを初期型のそれ同様にきちんと把握しておきたいところだが、前記したように人物像が浮かんでこない未知の人たちがほとんどなので興味が湧かない(笑)。詳しい考察はまた別の機会に譲りたいと思う。
なおサイン全体を拡大して見るには こちら を参照いただきたい。

■エピローグ
Macintosh Portableを今回のレベルまで分解したのは初めてだったが、なかなか楽しかった。本製品がリリースされた時すでにスティーブ・ジョブズはAppleにいなかったしジョブズが開発の指揮を取ったならまったく別の製品になっていたに違いない。

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※分解した各パーツを元通りに組み立てた後、確認の為に起動してみた


ともあれとかく機器の分解は組み立て時に苦労するケースが多いものだが、このMacintosh Portableは至極簡単だったし正確に組み立てられているかの検証のために起動してみたが無事に起動できた事をご報告しておきたい。



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員