ロシア版シャーロック・ホームズ「アグラの財宝」と「20世紀が始まる」のDVDを入手

ロシア版シャーロック・ホームズにはまっている…。それらは冷戦時代にソ連で制作され同国国営テレビで放映された、イーゴリ・マスレンニコフ監督による一連の作品であり、その出来は本場イギリスでも正統派ホームズ作品として高い評価を得、2006年にはホームズ役のワシーリー・リヴァーノフが英国女王より大英帝国名誉勲章を受けたほどだ…。


ところでロシア版シャーロック・ホームズの連作は以下の通り全部で5本作られている。

・「シャーロック・ホームズとワトソン博士」134分、1979年
・「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険」193分、1980年
・「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:バスカヴィル家の犬」147分、1981年
・「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:アグラの財宝」146分、1983年
・「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:20世紀が始まる」150分、1986年

ただし日本では現時点第1作から第3作までの3本が日本語字幕対応版としてDVDソフト化されているものの、今のところ4作目と5作目は発売されていない。なおロシア版「シャーロック・ホームズとワトソン博士」「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険」そして「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:バスカヴィル家の犬」については過去に取り上げたことがあった。それぞれリンクを貼ったのでご参照願いたい。

ともかくシャーロッキアンの端くれとしては第1作から第3作までの出来からして是非にも4作目と5作目も見たいと思うのが人情だ。
なにしろ4作目の「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:アグラの財宝」は正典(原著)でいう「四つの署名」と「ボヘミアの醜聞」を組み合わせた作品であり、5作目の「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:20世紀が始まる」は「最後の挨拶」をベースとしながら「技師の親指」と「第二の血痕」そして「ブルース・パーティントン設計書」をミックスしたストーリーである。なおそれぞれは第1部と第2部の2部構成となっている。

RussiaHolmes_01.jpg

※国内未発売の「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:アグラの財宝」(右)と「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:20世紀が始まる」(左)のロシア版DVDパッケージ


国内販売されていないその2作品はeBayで探して手に入れたが、当然のことながら日本語字幕がなく英語の字幕を追いながらDVDを見ることになった。無論ロシア語はまったく分からないし英語の字幕も目で追っていると私の語学力ではなかなか追いつかず非常に疲れるが、そもそも正典のエピソードを熟知していることもあってひとつのシーンでどのような会話がなされているか分かるのが我ながら面白い。

ということで少々ネタバレとなるが、そもそもがよく知られたストーリーだからして、今回はそのロシア版「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:アグラの財宝」と「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:20世紀が始まる」の素敵な見所をご紹介してみたい。

さて前作同様、ヨーロッパやアメリカで幾多のホームズ物が作られてきたが、ロシア版シャーロック・ホームズは繰り返すもののストーリー展開は巧妙に変えてはいるがストーリーの基本は正典にかなり忠実に作られていることが優越といえるし、正典の気品を失っていない点は好感が持てる。また脚本が優れているのだろうが目の付け所が非常に面白い。
そしてそもそもがテレビ放映用として企画されたとはいえそのクオリティも含めて劇場用の作品として実際に公開されたこともあるほど昨今のせっかちで予算もかけない作品群とは違っている…。これらが英国でのロケもなくすべてレニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)で撮影されたというのだから驚きだ。

「アグラの財宝」での見所はまず事件解決後にワトソンの妻となるメアリ・モースタン嬢がこれまでの映像作品に登場するどの女性よりもワトソンが守ってやりたくなるような可愛い人だったことか…(笑)。特に正典にある「彼女の顔は目鼻立ちがととのっているのでも、顔色が美しいわけでもなかったが、人好きのする可愛らしい表情をしており、大きな青い瞳は気高く、優しさにあふれていた」とある通りのピッタリのキャスティングには思わずニヤリとする…。
またモースタン嬢が家庭教師として住み込んでいるフォレスター夫人とその環境も映像化されていること、さらにハッピーエンドとしてワトソンとモースタン嬢のキスシーンがあるのも嬉しい。

RussiaHolmes_02.jpg

※ロシア版「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:アグラの財宝」DVDパッケージ背面


「アグラの財宝」の第2部はホームズの回想シーンで「ボヘミアの醜聞」が語られる。ホームズにとって特別の女性といわれるアイリーン・アドラーの姿もなかなか原典の描写を彷彿とさせる…これまた納得のいくキャスティングだ。
この回想シーンは第1部との直接的な繋がりがあるとは思えず少々不自然な展開ではあるが、まあアイリーン・アドラーが拝めるのだから良しとしようか...。
そういえばベーカー街遊撃隊の面々を見ることができたのも楽しい。ちなみにこのベーカー街遊撃隊を構成するストリートチルドレン達を見本として江戸川乱歩が明智小五郎シリーズに登場させたのが少年探偵団…ということはご承知の通り...。

また正典とあえて違う点もある。例えば正典では「四つの署名」はスコットランドヤードのアルセーニ・ジョーンズが事件を担当するが、本作品では常連のレストレード警部になっている。またタールの臭いを追う犬の名だが正典はトビーのはずがトリーというブルドッグに、ジョナサン・スモールがテムズ川を逃げる際に借りたボートの名が正典ではオーロラ号のはずだが本編ではディアナ号と変えられている。

特にボートの名の変更理由だが、西周成著「ロシア版ホームズ完全読解」によれば、”オーロラ” とは製作時点のソ連時代、ロシア革命の象徴のひとつだった巡洋艦と同名ではまずい...という判断だったとのこと。お国柄と時代背景の妙がこんなところにも反映されているわけだ。

さてその4作目「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:20世紀が始まる」は「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:アグラの財宝」以上に面白かった。

RussiaHolmes_03.jpg

※ロシア版「シャーロック・ホームズとワトソン博士の冒険:20世紀が始まる」DVDパッケージの背面


これまでグラナダ版でも映像化されていない「技師の親指」やホームズが探偵の職をやめて蜜蜂の養殖をしているという「最後の挨拶」と「第二の血痕」および「ブルース・パーティントン設計書」をミックスし、ストーリーを再構成して世界大戦間際の緊張感を出している。
「技師の親指」は正典にもあるとおり、ワトソンが結婚直後のある日、血だらけの患者が診療室に連れてこられるところから始まる。入り口で対応したのが前作で登場したメアリ・モースタン、結婚後だからメアリ・ワトソンその人である...。

また「第二の血痕」のストーリーも面白いし英国ベリンジャー首相を演じたのはソ連時代の「ハムレット」の名優イノケンティ・スモクトゥノフスキーだが貫禄や威厳は勿論大変いい味を出している。
ホームズといえば似合わないあごひげを生やしアメリカ人のアルタモントと名乗りドイツのスパイ、フォン・ボルグの信頼を得ていたしボルグ家の家政婦マーサ夫人が実はホームズが送り込んだハドソン夫人だったりとシャーロッキアンを喜ばせる仕掛けも多々ある。さらにシャーロックの兄、マイクロフトが仕事をしているシーンも愉快だ。そして双発飛行機やバイクそして電話機なども登場し20世紀を暗示させるに十分だ。

ともかくベースとなるストーリーはシャーロッキアンならずともよく知られているわけでストーリー展開や推理の妙で観る者を驚かそうといったものではなく、ホームズとワトソンの深い友情を軸にお馴染みの登場人物たちが個性豊かに魅了させてくれるのは嬉しい。
とはいっても是非近いうちに日本語字幕版をリリースしていただきたいと願っている。



関連記事
メイン広告
ネットショップ先行販売
ブログ内検索
New web site
[小説]未来を垣間見たカリスマ  スティーブ・ジョブズ
ジョブズ学入門
WATCH 講座
大塚国際美術館ひとり旅
ラテ飼育格闘日記
最新記事
お勧めの新旧記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

appletechlab

Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員