Apple Watch を2週間使い込んだ印象

Apple Watchを朝起きてから寝るまで腕につけて2週間たった…。これまでになかった製品だけに正直戸惑うこともあったが、基本的なオペレーションのほとんどは身についたしその長所短所も見えてきたので細かな機能面には踏み込まないが、現時点での素直な感想・印象を記してみたい。


私は「自分の財布から出した金で買ったものしか本当の価値は分からない」と思っている口だし、1977年にワンボードマイコンを手にしてから特にその思いを強くしている。なぜならコンピュータやIT市場の製品は進化も激しく新しいテクノロジーを駆使していることでもあり、そもそもが何の役に立つかも分からないパソコンといったものを他者の評価で納得できる場合などほとんどなかったという自身の実体験からだ。

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※すでに手放せなくなったApple Watch SPORT。背景はゲーテが考案した色彩環 (北畠耀著「色彩学貴重書図説」より)


Appleフリークの一人として例えばメディアやジャーナリストがApple Watchをボロクソに言えば腹が立つが(笑)、無条件に誉めちぎっているのもいかがなものかと思う。あくまでそれらは個人的な好みの問題だろうし、もっと勘ぐればビジネス上のリップサービスに思えてくる。
ともあれApple Watchは安いものではなし自分にとって必要かどうかは十分に考える必要があるだろうし、逆にまずは持ってみることで初めてわかることも多々あるからして物の評価は難しい…。

■Apple Watch、腕時計としてのファッション性について
さて、まずはApple Watchのあくまで…形としてのデザインについてだが…。世の中にはあまたの腕時計メーカーが長い歴史の中で最高の製品を…最高のデザインを…最高の精度を実現しようと日々努力してきた。Apple Watchのデザインを、Appleの製品だから、ジョナサン・アイブたちの仕事だからと無条件に褒め称える人たちもいるが、はっきり言わせていただくならApple Watchのデザインは腕時計として決して最高、最良のものではない。

確かにウェアラブルデバイスとしての製品作りの精度や拘り、ソフトウェアの作り込みなどはさすがにAppleだと頷かせるものがあるし、例えばベルトの仕様などに関しては従来の時計メーカーが見習うべき点も多い。だが、スクエア型で強化ガラスに覆われているそのデザインはまるでホンダのアシモの頭部みたいで平凡なものだ(笑)。まあ情報端末で全面ディスプレイの仕様となれば必然的にこのような形になって当然だ。

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※ホンダのロボット「アシモ」。参考資料である(笑)


そして、これがApple Watchをして情報端末、ウェアブルデバイスだとするなら何の問題もないが、18Kまで使いファッション世界に打って出るプロダクトだとAppleが考えている点に矛盾があるように思える。いや、勘ぐれば…AppleはApple Watchのケース素材をアルミとステンレスのケースだけではファッションアイテムとしては心許ないと考え、18K仕様のケースをも用意したのではないかと思える…。
ただし、例えば18Kの筐体を持つ iPhone 6が登場したら、それもファッションアイテムの仲間入りができるのだろうか(笑)。私にはそうは思えない。

Apple Watchはその名の通り “腕時計にもなる” が、腕時計としてはまだまだ駆け出しだしその特殊性も含めてファッション性のメッセージは弱い。したがって腕時計としてファッションアイテムの仲間入りを果たし、ましてやもしバーゼルフェアなどに乗り込む意図がAppleにあるならまだまだ努力が必要だ。

ちなみに腕時計の魅力はなにか…と問われればブランドを含めた個性ではないか。すでに時刻を刻む精度は100円ショップで売っている腕時計でもクリアしているわけで、腕時計への拘りは…腕時計好きが好む逸品とは…ブランドの魅力と共にそのメーカーと機種を好む自身に思いを馳せることができる個性、嗜好性に違いない。

そうした意味においてあらためてApple Watchを見れば、ブランド力はともあれケースの大小、そして材質やベルトの種類でしかバリエーションはなく、腕時計…ファッションというか、嗜好品の素となる個性に乏しい。勿論Appleがファッション市場への足がかりなど眼中にないというなら話しは別だが ”VOGUE” などファッション雑誌に大々的な公告をうっている点に、繰り返すがギクシャクとしたものを感じてならない…。

文字盤のフェイスにしてもAppleは組み合わせが数百万通りだと公言しているが、バッテリー消費を抑えるためとはいえApple Watchの文字盤の基本は黒い背景だ。一部カスタマイズできるとはいえこの一点を見てもユーザーの選択は限られている。それにコンプリケーション表示の都合もあるのだろうが、ケースがスクエアなのに角形の文字盤がないのも寂しい。

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※セイコーとシチズンの典型的な角形腕時計


制約はあるとしても時刻表示の針などの実体はなくディスプレイ表示なのだからもっと腕時計好きを唸らせる遊び心豊かでギミックに溢れたフェイスを多々提供してほしい。
ということで、確かにウェアラブルデバイスとしての魅力は大きいが、本来ファッション性が高い点が売りとなるはずの腕時計としてはデザイン面で主張するものが少ない…。

今のところ、時計の文字盤を優先するわけにはいかない数々の理由があり、そのデザインにも現行ではやむを得ないあれこれが存在する…。それをどうのこうの言うわけではないが、それらを度外視して腕時計としてのデザインの妙を主張するのは些か僭越過ぎはしないか。ましてやAppleはサードパーティーからの時間表示を主とするアプリ申請は却下することを決めたようだが、現在の文字盤程度をして最良の時計と称するとすれば…烏滸がましいと思う。

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※個人的には白い文字盤が好みだがApple Watchは現在の所スクエア全面を白く設定することはできない。仕方なく円内のみカスタマイズで白にして使っている


ただし誤解がないように言い添えるが、私はApple Watchを酷評しようとする者ではない。プロダクトとしては大変面白いと思うし最初の製品としてはも作り込みもAppleらしく素敵に仕上がっていると思う。とはいえ別途「Apple Watchに関する3つのキモい点!」にも書いたとおり、あるいは他のアーティクルでも述べているようにいたずらにファッション業界に色目を使う点が気に入らないのだ(笑)。

勿論、ファッションを目の敵にするわけではない...。またAppleのプロダクトにファッションセンスが宿ることに異論があるわけでもない。ただし「テクノロジーとリベラルアーツの交差点にいる」とスティーブ・ジョブズが明言したAppleという特異な企業が中途半端にファッションという分野・業界に頭を突っ込むというその姿勢に大きな違和感を感じるだけだ。デザインの良さとファッション性の高さとは別物なのだ。

■Apple WatchはiPhoneの存在を深く考えさせる
と悪たれはこれぐらいにして先に進む…。
まず確実に言えることだがApple Watchを使うようになってから iPhoneを手にすることが非常に少なくなった。このiPhoneとApple Watchの関係はこうしたデジタル機器の存在意義も含めてあらためて多くのことに気づかせてくれる…。
確かにiPhoneはすでに我々のライフライン同然なデバイスとなっている。財布は置き忘れても慌てないがiPhoneを忘れると1日どう過ごせば良いかがわからないという声も多い。

勿論Apple WatchはiPhoneを介してその役割を果たすわけでiPhoneを忘れたとするならそれこそ腕時計を含めて限られた機能しか働かない。それにしてもApple Watchを着けているとそもそも自分はiPhoneになにを託しているかについてあらためて考えさせられる。要は日々メール、SNSそして通知類と多くの情報を受け取っているがその大半…いやほとんどは一日を過ごすために必要不可欠のものではないことに気づかせてくれる。

当然インストールしたアプリを使い、天気予報や電車の乗り換え情報、地図の経路案内あるいはiPhoneとペアリングさせたBluetoothイヤフォンで音楽を聴く際のリモコン等々を左手首のApple Watvhひとつでコントロールし目的を果たしている。さらにSiriを呼び出し「2時間後にアラームをセットして」といった指示も可能であり、馴れと思い切りも必要ながらiPhoneに頼らずApple Watchだけで可能なのは便利である以上に心地よい。

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※雨雲の動きを知らせてくれる「AMEMIL」


あらためて振り返ってみると、なんだか流れてくる多くの情報を正面から受け止めることこそ仕事の上でもプライベートでも重要だと習慣づけられてきた感もあるが、本当に必要な情報はほんの僅かだということがApple Watchを着けているとわかってくるのではないだろうか。

いわばiPhoneは能動的なデバイスでありApple Watchは受動的なデバイスといえるかも知れない。もしかすると我々は情報が欲しくて、あるいは誰かと繋がりたいからとiPhoneを手にするのではなく、iPhoneそのものを手にするその事こそが好きなのであり、精神安定に寄与しているのかも知れない。
だからこそ歩いている時、電車に乗っているとき、コーヒーショップで一休み時に…と少しでも、時間を惜しむようにiPhoneを手にしてその画面を直視してきたことに気づく…。

したがってiPhoneが、iPhoneを手にしてあれこれと使い込み、頬ずりするほど好きな方にApple Watchは勧められない(笑)。いや冗談ではなく本気である。
Apple Watchはある意味、私たちの情報へのアプローチ、情報からのアプローチを変えうるデバイスだといえる。言い方を変えればiPhoneで可能なことを良い意味で篩いにかけたのがApple Watchの役割なのだ。
当然Apple Watchを手にしたらやるべき設定として、iPhoneに来ている通知の整理をすべきだ。自分にとって知りたい通知以外を止めるようにしておくことをお勧めする。

だからApple Watchを活用することはiPhoneへのアクセスを減らすことになる。それが良いことなのかあるいは余計な事なのかは当事者の思いに委ねるしかないが、一日は誰しも24時間でしかない…。その限られた時間をより有効にあるいは余裕を持って過ごすことを目指すならApple Watchは大変面白い存在だ。

たまたま、時間の確認以外は意識せずにいるが、通知やメールがあるとサウンドと共に心地よい刺激が手首に伝わり、何らかの情報が入ったことがわかる。その概要は即分かるし返信が必要なら音声認識などで対応も可能だ。当然返信の内容が複雑だったり長くなりそうな場合はiPhoneから発信するが多くはApple Watchの小さなディスプレイを見るだけで完結する。

さらに電話の着信もその場で会話が許せるならApple Watchで受信し通話ができるのはまさしく夢のようだ…。確かに長電話は実用的ではないがiPhoneを取り出さなくても通話ができるのは子供時分からのSF的な夢でもあったから何とも嬉しい。

Apple Watchを身につけているとiPhone以上に “Apple Watchと繋がっている” という事を意識させられる。無論良い意味でだ…。時間を確認しようと腕を上げると「待ってました!」とばかりディスプレイが0Nになって時計が表示される。これは心地よい…。
ただしこれまた完全ではない。それは私たちの姿勢によっては腕を上げても表示がONにならないことがある。寝ていたり寝そべったりしている時に腕を上げてもApple Watchは認識してくれない。無論ディスプレイをタップすれば済むことだが…。

またApple WatchのディスプレイはパソコンやiPhoneと同じく液晶ディスプレイだ。したがってそれは炎天下の日射しの下では大変見難い。無論日陰に入れば問題なしだが、時計を見るのにこうした気遣いをしなければならないのはApple Watchならではのことだ(笑)。

余談ながら、SBクリエイティブ刊「WATCH STARTBOOK」というムックはいの一番の出版を目指したということもあるだろうが、内容は準備不足と確認不足の点も見受けられる。例えばQ&Aには「直射日光が当たると見づらい?」という問いに対して有機EL及びRetinaディスプレイなので屋外は得意だとある。これは問いに答えていない点もいかがなものかと思うが、実演してみればすぐ分かるとおり...繰り返すものの直射日光の下では大いに見難い(笑)。

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※日射しを受けた場所では当然のこと、ディスプレイは大変見難い


そういえば高級腕時計の多くにはサファイアガラスなどに無反射コーティング処理がなされている場合が多い。これは室内においても照明などが風防に反射して文字盤が見難くなるのを防ぐためだ。コーティングにも弱点があるからApple Watchの場合、技術的な問題があるのかも知れないが、可能ならApple WatchのサファイアクリスタルやIon-Xガラスにその無反射コーティング処理を是非実現して欲しいと思う。見やすさだけでなく高級感にも影響するものと思う。

以上ファッションアイテムとしては違和感があるし使い込むほどに気になる点も出てくるし「こうありたい」という事も多い。しかしプロダクトとしてのApple Watchは申し上げるまでもなくこれが最初の製品だ。iPodもiPhoneも初代と数世代後の製品を比較すると大きく違う。Apple Watchもいたらない点は正しく認識しつつも本当の意味でApple Watchのポテンシャルが表面に出てくるのはこれからに違いない。


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員