Apple、"取っ手" の物語

ポストPC時代といわれるこの時代から見て、旧来のパーソナルコンピュータといえば “大きい” そして “重い” という印象は拭えない。後にいわゆる携帯可能な製品やノート型が登場するものの多くは机上スペースをかなり占有するものばかりだった。だからということなのか、移動も考慮すれば必然的に持ちやすい工夫も重要だった…。


ということで今回はApple製品と “取っ手” の関係についての雑談である。
さて、Appleの歴史をすべて振り返るつもりはないが、Apple II は樹脂ケースに納められていたこともあり、かつ比較的軽量だったから、こちらの机からあちらの机に…といったことは容易だった。事実専用のキャリングケースに誇らしげに収納し、自宅と勤務先を往復していたApple IIも結構知っている。ただし別途モニター(TV)の用意が必要だったが…。

しかしApple III やLisaは重く大型だったから移動に適してはいなかった。しかし1984年に登場したMacintosh開発をリードしてきたスティーブ・ジョブズの夢は携帯できるマシンの開発だったという。とはいえ当時の技術ではディスプレイひとつを取ってみても現在の液晶ディスプレイのようなものを実現できるはずもなかった。

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※初代Macintoshのハンドル部位


そのMacintosh 128Kにはジョブズの意向もあり “取っ手” がデザインされていた。正面から見れば取っ手の有無はわからないという巧妙なデザインだったが、事実この取っ手はユーザーに “とって” とても実用的な工夫だった(笑)。何しろ本体の重量は約7.5 kgもあったから取っ手のおかげで移動の際にも落とす危険性が減少したことは確かだ。事実アップルはMacの製品コンセプトに移動が楽だという点もアピールしていた。

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※Macの最初期カタログ表紙にもバッグから片手で取り出すシーンが...


「Macは知的自転車」とはスティーブ・ジョブズの言葉だが、それを説得力ある言葉にするにはMacを1箇所に固定して使うパソコンではなく、必要な時に必要な場所へ手軽に移動できるパソコンというイメージが欲しかったに違いない。だからアップルの公告にはMac専用バッグに片手で出し入れするシーンが目立ったし、最初期カタログの表紙もまたバックから片手でMacを取り出す一瞬が表現されていた。さらに女性がキャリングケースに入れたMacを自転車のカゴに乗せて走るシーンがプロモーションビデオやらに多用された。

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※Macのプロモーション・ビデオには女性がMac一式を専用キャリングケースに入れて自転車で運ぶシーンがある


とはいえ実際にキャリングケースに入れたところで移動は楽ではなかった。室内での移動程度ならともかく、例えば自宅と職場といった距離を肩に担いで歩くには無理があった。自動車に積んでなら何ということもないだろうが、キャリングケースに本体はもとよりキーボードとマウス、そしてマニュアルなどを収納して肩に担ぐと一瞬でまともな距離を歩くには相当な覚悟と体力を必要とすることを自覚せざるを得なかった…。

そういえば1984年のMac発表会ではスティーブ・ジョブズ自身がキャリングケースからMacを取りだしてプレゼンするというパフォーマンスをやった。初代Macは決してポータビリティに優れたマシンではなかったが、スティーブ・ジョブズはポータビリティを強調したかったに違いない。

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※Macの発表会におけるスティーブ・ジョブズ(1984年)


この初代Macを皮切りにMacintosh 512K、Plus、SEにも同じような取っ手が採用されていた。無論512K、Plus、SEのバックケースは初代Macの金型を踏襲したものだったが…。さらに初代Macintoshと同時に発表のApple IIcにはやはりハンドルが付いていた…。

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※Apple Iicのハンド


スティーブ・ジョブズは1985年の9月にアップルを去ったが、1996年末に復帰し1998年に発表された iMacにはやはり取っ手が付いていた。ジョブズにとっては初代Macの再来の意味もあったようだが、iMacも実に重かった(笑)。

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※初代iMacのハンドル部位


勿論パソコンに取っ手を...というのはアップルの発明ではない。商業的に成功した最初の持ち運び可能な「オールインワン」コンピュータである「オズボーン」は1981年4月3日にリリースされている。また1990年初頭にはMac PlusやSEの純正ROMを用いた互換機「アウトバウンド」もハンドルがあった。
とはいえ重要なのはハンドルを付けることは容易でも、デザインや機能面からきちんと考慮されているかが問題であろう...。

ところでスティーブ・ジョブズが不在時代のアップルでも取っ手の付いた製品はいくつか存在する。それは当時のジョン・スカリー CEOが提唱したナレッジ・ナビゲーター(Knowlegs Navigator)という近未来を見据えたコンセプトモデルは勿論だが、1989年9月に実際にリリースされたMacintosh Portableは取っ手が液晶面を開けるロックを外す役割を与えられていた。後は1990年のMacintosh Classic、翌年1991年のMacintosh Classic II、1993年のMacintosh Color Classicそして1997年のeMate 300 だ。

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※Macintosh Portableのハンドル部位(上)。Macintosh Color Classicのハンドル部位(中)とeMate 300のハンドル部位(下)


ただしその他のデスクトップ型としてカラー機能が付加されたマシンはスティーブ・ジョブズが追放された影響もあるのだろうか、拡張性を増して大型化してくる。
1987年に登場した最初のカラーマシンとなったMacintosh II は当時ワークステーション並の能力を持つパソコンと言われたが、横に長い箱形であり、NuBus拡張スロットが6個用意されていたしすでにデスクトップ専用マシンとして移動を考慮したものではなくなっていた。

スティーブ・ジョブズがAppleに復帰してからは iMac以降も取っ手はデザインの重要な一環になっている。例えば1998年のPowerMacintosh G3(Blue & White)に始まりG4までの樹脂製筐体とアルミニウム筐体のPowerMacintosh G5シリーズ、そして後継機種Mac Proには上部の前後に取っ手があったが、本体を接地面から浮かして空気の流れを作るためか下部にも同一デザインが施され、それは足台の役割を果たしていた。ためにこれらの取っ手は純粋にデザインの一部になって本来無骨とも思われかねない「取っ手」の存在を目立たなくしていた。

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※PowerMacintosh G3


後は2001年発表のシェル型 iBookも印象的なデザインだが取っ手もデザイン上大切な役割を果たしていた。


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※シェル型 iBookのハンドル


スティーブ・ジョブズにとって彼が作るマシンには「冷却ファンがないこと」そして「ハンドル付き」がひとつの条件だったと考えられる。無論CPUが高速化しマシンの能力が上がるにつれて放熱ファンは無視出来なくなったが…。とはいえMacBookや iPadといった製品にはハンドルは採用されていない。それらはサイズ的には勿論、重量的にも問題なくハンドル無しで手にすることができると判断されたに違いない。

そういえば、A4判といった大型スクリーンを持ったiPadが登場するのではないかという噂も絶えない。もしそれが実現するとなれば大型化はその取扱がしにくくなってはユーザーの支持は得られないと思う。その対策のひとつとして何らかのハンドルが付くのではないかと考えているが、さてどうなりますやら…。



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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員