タイプライター界の eMate300、CORONA #4 Portable 紹介

キーボードの歴史、そしてそのキー配列と成り立ちなどを調べているとタイプライターの考察は不可欠なものとなる。個人的には1977年貿易会社に就職した際に英文タイプを習得し、手動タイプライターを日々使うはめになったからタイプライターに関しては熟知しているつもりだが、いま私の周りにいる人たちの多くはタイプライターを触ったことがないという...。「あなたは、手動タイプライター打てますか?」


ということでパソコンのキーボードの源流でもあるタイプライター、それも手動タイプライターとはどのような機器なのかを簡単にご紹介してみたい。なおタイトルの「タイプライター界の eMate300」とは勿論私の勝手な言いぐさである(笑)。

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※典型的な手動タイプライターCORONA #4 Portable(上)。Newton eMate300と列んで...(下)


タイプライターそのものの歴史はまた別の機会にご紹介したいと考えているが、今回の主役のポータブル手動タイプライターは当研究所収蔵品としては新参者だが「CORONA #4 Portable」と呼ばれている製品で1924年に前機種「CORONA #3」に変わってリリースされ大ヒットしたタイプライターなのだ。なお「CORONA #3」も世界中で大ヒットした名機で愛用者は多く、あのヘミングウェイのお気に入りのタイプライターだったという。

特長としては持ち運びができる専用ケースがあることでも分かるが、ポータブルな機種であることは勿論、ご覧のように本体のカラーが事務機の定番である黒ではなく鮮やかなグリーンに塗られていること...。実はこのCORONA #4 Portableはこのグリーン(spruce green)の他にlavender, light maroon, channel blue, mountain ash scarlet, creamと全6色のカラーバリエーションでも人気を博し、企業だけでなく一般家庭用としても好まれる機種となった。

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※専用のケースが付属している


1924年といえば大正13年。寿屋(現=サントリー)が京都の山崎で日本初のウィスキー工場を竣工し国産ウィスキー製造を開始した年であり、東京市営乗合自動車が巣鴨-東京駅、中渋谷-東京駅間の2系統の営業を開始した年だ。そういえば「子供の科学」の創刊もこの年だという。
ちなみにこの年に誕生した著名人を幾人かあげると、ジョージ・ブッシュ、ジミー・カーター、高峰秀子、吉本隆明、吉行淳之介、越路吹雪、相田みつを、力道山らがいる。

さてCORONA #4 Portableが人気だったのはカラーバリエーションだけではない。大きな改良点としてはそれまで...例えばCORONA #3 は3段シフト28キーのタイプライターだったが、CORONA #4は数字キーを個別に加えて4段のキー配列(QWERTY)となったことだ。これは現在のキーボードの基本にもなっている。

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※CORONA #4 Portableのキー全容【クリックで拡大】


ところでCORONA #4 Portableのフロントボディに "CORONA" とはっきり記されているが、これはもともとモデル名だったものが社名にもなったそもそもの由来である。
このシリーズが販売された時期の会社名は「コロナ・タイプライター・カンパニー」だったが、ご多分に漏れずメーカーは複雑な経緯をたどっている。

現在も会社「SMITH CORONA CORPORATION」は存続しているが、タイプライター事業からは全面的に撤退し、タイプライター用インクリボンと熱転写の技術をもってして、熱転写用ラベル生産事業に転換している。
そもそもスミス・コロナ社の由来は1886年まで遡れるらしいが、幾たびか社名を変え1914年に発売したコロナモデル(Corona)の成功を機会にさらにコロナ・タイプライター・カンパニー(Corona Typewriter Company)へと改称する。

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※向かって左側から見たCORONA #4 Portable


そしてオフィス用タイプライターのメーカー、L・C・スミス・アンド・ブラザーズ・タイプライター・カンパニーと1926年に合併し、ここにスミス・コロナ社が誕生した。
ちなみに本機のサイズは本体の横幅が約25センチ、奥行きが約27センチとこの時代の製品としてはコンパクトである。ただし写真では分かりにくいがグリーンに塗られた本体はプラスチックではなくフレームは鑄物製で金属部品の塊みたいなものだからして重量は4キロ少しと見た目よりずっと重い。

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※CORONA #4 Portableを裏側から見たところ。金属のメカとスプリングの塊だ


幸い手元にある「CORONA #4 Portable」はビンテージ物としては大変綺麗だが実用にはならない。ただし手動タイプライターがどのようなものなのかその機構を知るには十分なものだ。

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※タイプバー先端の活字の様子(一部)


また本機のシリアルナンバーを確認すると "G6A04357" だったので製造年を調べてみた。どうやら先頭の "G" はグリーンバージョンを意味するらしく、製造年は1930年らしい。ともあれ「CORONA #4 Portable」は1924年から製造が始まり1940年で製造終了となったようだから製造開始後6年目の製造ということで古い物であることは間違いない。

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※シリアルナンバーは "G6A04357" だった...


これまた教材のつもりで手に入れておいたものだが、手動タイプライターはワープロ専用機やパソコンが登場するまで電動タイプライターと共に世界中の政府機関、団体、企業、学校そして家庭でなくてはならない重要な道具だったのである。

SMITH CORONA CORPORATION




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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員