元MS日本法人社長の古川享氏著「僕が伝えたかったこと、古川享のパソコン秘史」読了

珍しくKindleで本を読んだ…。それは元マイクロソフト日本法人社長の古川享氏著「僕が伝えたかったこと、古川享のパソコン秘史」である。内容は1970年代後半の古川さんがアスキー入社前後のパソコン黎明期から、1986年マイクロソフトの日本法人であるマイクロソフト株式会社社長に就任するまでの時代が描かれている。


マイクロコンピュータ、パーソナルコンピュータの業界に少しでも身を置いた人なら古川享さんを知らない方はいないだろう。その活躍ぶりは自然に伝わってきたし例えば冨田倫生著「パソコン創世記」などでも承知していた。また近年はYouTubeなどで彼の講演も見ることが出来るし常に時代の、そして話題の先頭を走ってきた人だ。

2014年8月、古川さんは脳梗塞を発症し左半身不随となるも懸命のリハビリの甲斐あって現在も実業家、慶応義塾大学教授として活躍されている。その古川さんご自身が1970年代後半、アスキー入社前後のパソコン黎明期から、1986年マイクロソフトの日本法人であるマイクロソフト株式会社社長に就任するまでの時代を語られるというのだから面白くないはずはない。

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※Kindle版、「僕が伝えたかったこと、古川享のパソコン秘史」


しかし立ち位置は違うものの同じ時代を走ってきた一人として本書を読了した感想だが、面白かったことは間違いないもののいささかでも当時のあれこれを知っていないと単に文字面を追うだけになってしまいがちとなる...。

なぜなら本書には時代に関わった会社名や人の名前はもとよりコンピュータの名前や商品名、型番といったものがワンサカ登場しそれらがストーリーにリアリティを増すわけだが、それらの全部とはいかないまでも、例えばNEC PC-9801が、MS-DOSが、CANDYというグラフィックソフトが、そしてミニコンのPDP-11がどのような "もの" であるかを知っていないと当時の古川さんたちがやっていた事の重要性や凄さといったものが分からず、面白さは30%程度減ってしまうかも知れない...。

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※私が1985年頃に使っていたNEC PC-9801F2


ただし本書は本文が終わった後に多くのページを割いて用語解説が用意されていることも好感が持てる。したがって人名はともかく特に面白いエピソードに関わった製品名などがあった場合には少々面倒でも用語解説を確認すべきだ。文字面で全てを知ることができるとは思わないが、用語解説がとてもよくできているので活用しない手はないだろう。

また古川さんが「僕が伝えたかったこと…」の伝えたい相手とは私のようなオヤジではないはずだ。これから新しい世界を作り出すことができる気概を持つ若い方々に対してだと思うので是非本書の文字面を読み飛ばすのではなく「何がどうなったのか」「誰が何をしたのか」「その影響は?」といったことに思いを馳せてお読みいただくときっと血肉になると思う。

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※日本語 MS-DOSの起動画面例。私が使用していたNEC PC-100バージョン


と偉そうな物言いをしてはいるが、私自身古川さんと面と向かってお話しをするチャンスには恵まれなかった。後年、西和彦さんにはアップルジャパンのブリーフィングルームでアップルの担当者に紹介されて名刺交換したことがあったが、古川さんとは残念ながら面識はない。ただしマイクロソフトに対してネガティブな印象を持ち続けてきたアップルフリークであった私だが、古川さんだけはどこか他の方たちとは違った好印象で見ていたし、懐が広くて自由人といった印象を持っていた。

それはマイクロソフトのトップでもあったのにMacユーザーだと公言してはばからない方だし事実アップルのイベントにも幾たびか参加され舞台に登壇したという記憶もある。
しかしいま考えても不思議だが、私にとってのアスキーおよびそこで活躍される方たちはどこか対岸の存在といった感じでほとんど交わりの接点がなかった。

その理由だがひとつは年齢的なズレがあったかも知れない。例えば株式会社アスキー出版が設立された1977年5月、古川さんはまだ誕生日前だったから22歳、西和彦さんは21歳だったはずだ。対して私は29歳を目前とし、その年の11月には結婚した...。
三十路近い私にとって21歳とか22歳の若者が成功している姿は羨ましくもあったし、こちらはコンピュータの素人でありワンボードマイコン(L-Kit8)を手に入れたもののやっとアスキー誌などに載るBASICのダンプリストの意味がわかりかけていた時期だから接点もなく、ただただ眩しく別世界の出来事に映っていた。

ただしアスキーといえば月刊アスキー誌は創刊からの読者だったし数回投稿もした。あるいはアスキーネットというパソコン通信がテスト運用を始めた時から参加した…。しかしI/Oやマイコン、RAMといった他のマイコン・パソコン雑誌とは違ったオーラーがあり、私などには近寄りがたい印象を受けていた。

そういえば1度だけ演算星組の井上弘文社長に同行して青山のアスキー本社に行ったが、目的やその時の状況などはまったく忘れているほどだからあまり興味はなかったのだろう(笑)。ただし、いまご縁があってアスキー誌やログイン誌の編集長を歴任し、現在(株)技術少年出版の代表でもある吉崎武さんと知り合いになり、大きな刺激を受けている。

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※NEC PC=9801とエプソンの音響カプラでアスキーネットにログインした画面(1985年7月)


アスキーはもとより古川さんや西さんを本当の意味で意識したのは自分が起業してからだった。アスキーの西和彦さんは「おやじ殺し」といったあだ名がついた時代があった。これは年齢が大きく違うコンピュータ業界のお歴々を籠絡する名人といわれていたからだ。それは確かなことだろうが、古川さんに影響を受けた人たちも多かったはずだし彼の立ち振る舞いからは常に清いものが感じられた。

古川さんはTED Sapporoの講演で杖をつきながら登壇した。脳梗塞の後遺症で左腕側はまだ麻痺が残っているようだったが、途中で若い時期の写真を紹介しながら「年取るってや〜よね、ほんとに...」と苦笑する。しかし白髪頭になりぎこちない歩き方の古川さんはそのまま...今のままで素敵だ!



※TED Sapporoで講演する古川享氏

本書「僕が伝えたかったこと、古川享のパソコン秘史」を読んであらためて思ったことだが、こういう方が元気で長生きしてくれないと世の中は勿論、業界はほんとにつまらなくなるだろうということ…。そして是非是非本書の続きを読みたいと切に願っている!



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員