ヴィヴィアン・マイヤーに見るローライフレックス 2眼レフカメラ考

ヴィヴィアン・マイヤー(Vivian Maier 1926-2009)が撮った15万枚ともいう膨大な写真のうち、我々が見ることができるのはまだまだ僅かだ。しかしそれらのうち特に印象深いのはローライフレックスで撮った正方形の写真たちだ。後にはバルナックライカも使っているが、現在発売されている写真集のほとんどはローライフレックスによるものだ。


最初にヴィヴィアン・マイヤーの写真を見た強い印象がいまだに後を引いている。それら6×6のスクエアフォーマットによる写真は普段横長の写真になれている眼には新鮮だった。また中判カメラならではのクリアな映像にも惹きつけられる。その写真の魅力は彼女の感性による観察眼と構図、そしてシャッターチャンスによるものだがやはりローライフレックスならではの特性も見て取れる。

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※ヴィヴィアン・マイヤーが使っていた同型のローライフレックス Automat MXの正面


特に彼女の自撮り写真を見ると僅かではあるもののローライフレックスの扱い方が見て取れるように思うのでここではローライフレックスというカメラとヴィヴィアン・マイヤーの関係性について夢想してみた…。
まずマイヤーが使っていたローライフレックスは数台あったようだが、写真集のほとんどは1951年発売の Rolleiflex Automat MX という機種だったように見える。

この二眼レフカメラは現在のカメラのようにオート撮影ができるわけではないから絞りとシャッタースピードを適宜合わす必要があったし無論ピントもオートフォーカスではないから手動で合わさなければならない。さらにフィルムは1本で12枚しか撮れないから1回シャッターを押すにもコスト面も含めそれなりの覚悟というか明確な意志が必要だったし、数時間街を歩けばフィルムの入れ替えを何度も行わなければならなかっただろう。そしてそれも現在の感覚ではかなり面倒な作業となる。

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※フィルム装填は底にあるロックを外し裏蓋を開ける


まあデジタルカメラと比較すればとても手のかかるカメラなわけだ。そしてヴィヴィアン・マイヤーはローライフレックス MXを革ケースに収め、首から下げていたはずだが大柄だったというヴィヴィアン・マイヤーにしても時に肩が凝ったのではなかったか…。なにしろサイズは突起物を除き本体は約幅 76 × 高さ140 × 奥行 95mmほどだしフォーカシングフードを開ければ高さは約200mmほどになるものの手に余ることはない。ただし重さは本体のみで970gほどでありこれに本革のケースが付けば確実に1kgは越えるからだ。

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※フォーカシングフードを開けたローライフレックス


そもそも当時女性が街中をカメラを提げて撮り歩くということ自体珍しいことだったし大柄な彼女の歩き方自体大股で軍人のような歩き方だったというから目立った存在だったに違いない。それも普通に考えればスラムのような裏町を高価なカメラを提げて歩き回ることは危険だったように思うが、彼女はかなりの変わり者だったというしそのエキセントリックな振る舞いが人を寄せ付けなかったのかも知れない。

さて、ではローライフレックス MXとはどんなカメラだったのか…。この超有名な二眼レフカメラは現在でも多くの方々に愛用されている。したがってにわか仕立ての知識を振りかざしてもすぐにメッキが剥がれるから知ったかぶりは避けたいが、実は私の手元にもヴィヴィアン・マイヤーが愛用したであろう同型のローライフレックス Automat MXがあるので実機を見ながら分かる範囲で話しを進めてみたい。

ヴィヴィアン・マイヤーのセルフポートレート写真を見ると、彼女は首から下げたカメラを胸の所まで持ち上げつつ両掌および中指/薬指などで支え、さら右手人指し指は当然ながらシャッター位置に置いている。また左掌あたりは常にフォーカシングルノブを回転できるようにスタンバイしている感じか…。

写真集「Vivian Maier: Self-Portraits 」の例えば最初に載っている1954年7月24日の日付があるセルフポートレートの1枚は彼女がどのようにローライフレックスを保持していたかが明瞭にわかる。とはいってもこの二眼レフカメラはそうそう変わった持ち方ができるものではないが、試しに両手ともこの写真に模した位置に私の指を置いてみるとヴィヴィアン・マイヤーの手のサイズは私とほとんど同じであるように思える。

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※ヴィヴィアン・マイヤーの写真集「Vivian Maier: Self-Portraits 」


彼女は女性としては大柄だったといわれているからローライフレックスの扱いも容易だったに違いないが、写真を見る限り、両手は十分にカメラを支えているもののカメラを胸の高さまで引き上げたからか各指に少々緊張感がみられる。またこの写真を見る限り首から下げているストラップにフィルターケースのようなものが2つ付いていることもわかった。接写レンズ用のローライナーや文字通りのフィルターを携帯していたのだろうか…。

そのヴィヴィアン・マイヤーが風景や静物はともかく、街中や雑踏を歩いている人たちを撮る場合には被写体を認識してからピントを合わせるのでは相手を警戒させてしまうしシャッターチャンスを逃しやすい。あらかじめ一定の距離にピントを合わせておき、その距離に近づいたら歩みを止めてシャッターを切る...といった撮影だったのではないかと想像してみた…。無論ピントの微調整はあり得るが露出とシャッタースピードにしても環境が大きく変わらない限りはほとんど動かさなかったようにも思える。そして私にはヴィヴィアン・マイヤーのローライフレックスというカメラを知り尽くした距離感覚にこそ優れた感性を感じざるのだが…。

ただしローライフレックスをかまえてみるとわかるが、2眼レフのファインダーは上下は正像でも左右は逆像となる。だから風景やらポートレートを撮る場合には問題ないが、左右に大きく動く被写体は追うのが厄介なため苦手な被写体となる。これはカメラの後ろから覗くことが出来るスポーツファインダーに変えても同じだ(こちらは上下も逆さまになる)。したがって写真集には奥行きのある写真は多いが、激しい左右の動きを追うような写真は見当たらない。

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※ファインダーには左右逆の象が写る


またローライフレックス MXのシャッター音は小さく、雑踏の中では目立たなかったことも都合が良かったに違いない。

とはいえ一回シャッターを切る度にフィルム巻き上げクランクを回してフィルムを送り、今度はクランクを逆に半回しして次のシャッターをチャージするといった手順は手慣れた者にとってはリズムを生み大変心地よいものだったかも知れないがやはり歩きながらファインダーを覗きつつクランクを回し、当然周囲を注視しながら大股で歩き回るヴィヴィアン・マイヤーの姿を想像すると目立つだけでなく確かに異様だったに違いない。

そのヴィヴィアン・マイヤーに刺激され、長い間放置していたローライフレックス MXを使ってみようという気になった。上手に言葉で説明ができないものの、それだけ私にとってヴィヴィアン・マイヤーの写真との出会いは強烈な体験だったのである。



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員