[小説]未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第1部 ー 第1話 出会い

還暦も遠の昔に過ぎた男、加賀谷友彦は久しぶりに出向いた Apple銀座 のエントランスで1976年にタイムスリップし、スティーブ・ジョブズの若かりし頃に出会う。厄介なのは加賀谷が持っていたiPhone 6s Plusをスティーブが見てしまったことだ。この事実が過去と未来に悪影響を及ぼすのだろうか。そんな危惧をよそに初対面の加賀谷をスティーブは自宅のガレージに引き入れた...。
ー 優れたビジョナリーといわれたスティーブ・ジョブズ。その若かりし時代の秘密に迫る!ー

※本編はフィクションです※


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■第1部 ー 第1話 出会い

iPhoneを持ってApple銀座へ向かった。2016年12月6日のことだった。
何年ぶりだろうか、ここに来たのは...。
先月依頼された仕事を終えて僅かばかりの金が入ったことでもあり、自分への褒美に新しいiMacでも買い、そして女房にiPhoneケースでもクリスマスプレゼントしようかと久しぶりに銀座に足向けたのだった。

私の名は加賀谷友彦、ガチガチのAppleユーザーだ。それが高じて1989年にMacのソフトウェア開発を目的に起業までした。いまは還暦も遠に過ぎ年金生活者だが、ありがたいことに昔のよしみでソフト開発のプロデュースをしたり新製品開発のコンサルタントなどといった仕事らしきものを細々ながらさせてもらっている。

そう...足掛け14年間AppleJapanのデベロッパーだったから日本においてはもっともAppleに近いところでビジネスをしていたといえる。
そういえばこのApple銀座...どうも私には "Apple Store銀座" といったほうが座りがいいが、オープン時のセレモニーにも招待された後、3, 4回ほどここで買い物をしたはずだ。しかしその後は足が遠のいていた。なにしろ歩くのも面倒だし便利なオンラインストアもあるし...。

そんな一昔前の記憶をたどりながら勇んで明るい店内に入ろうとしたときどうしたことか急に目眩がして私は座り込んだ。
自分を落ち着かせるため目を瞑ったものの、それでも店内の照明が明るいのかまだ瞼の裏でスポットライトの光が感じられた。
周りでは、
「大丈夫ですか?」
「救急車呼ぼうかしら」
といった声がしたが、
私は (大丈夫ですから) と言おうとしたその瞬間雑踏がスーッと遠ざかっていった...。

どれほどの時間が経ったのだろうか。私にはものの30秒ほどだと感じられたが目眩も治まったのでゆっくりと立ち上がりながら (私も年取ったものだ) と思いつつ目を開けた途端、眼前はApple銀座ではない、しかしどこかで見覚えのある景色が広がっていた。
(ああ、これは夢だ。Apple銀座の前で倒れてどこか病院にでも運び込まれて私は寝かされているに違いない) といった奇妙な納得の仕方をしてみたが、それにしては頬に当たる乾いた風が心地よい現実感を漂わせていた。

何が何だか分からないものの気が遠くなったまま歩き回り迷子にでもなったのか、あるいは私もボケて徘徊するようになってしまったのかと思いつつベルトクリップのケースにいつも持ち歩いている愛用の iPhone 6s Plusを取り出し妻に電話してみようと思った。しかしバッテリーはまだ85%と十分残っているのにどうしたことか電話ができない。ネットに接続できていないようだ...。

困惑して立ち尽くしている背に
「おい!お前、俺の家の前で何してるんだ!」
といいながら痩せて長髪髭面の若者が大股で歩いて来た。
あれ?英語ではないか。と振り向き若者の顔をみた瞬間思わず生唾を飲み込んだ。
それは多々写真で見た事のあるスティーブ・ジョブズ、それも極若い時の姿ではないか。
思わず彼の顔を真正面から見ると、不健康そうな顔から覗いた2つの瞳は思わず引き込まれそうなほど綺麗だった。しかし酷い姿だ…。私が厚でのジャケットを着ているのに彼はよれよれのジーンズに模様なのか汚れているのかもわからないTシャツ1枚だった。それも裸足だ。

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呆然と立ちすくんだままの私に若者は機関銃のような早口でなにかを言いかけたが一瞬の空白があり、私の手にしていたiPhoneを指さしながら、
「それは何だ?」
と怒ったような口調でいった。
私は自分が置かれている状況が分からず、言葉を発することができないでいたがなにか大きな間違いを犯しているような気がして思わずiPhoneを後ろ手に隠した。

「何だよそれ!エレクトロニクスに詳しい俺も見たことのない代物だな」
といいながら男はキスでもするような距離まで私に顔を近づけ
「見せてみな」
と命令口調でいった。
瞬間私は彼の口臭のすごさにウッとなって思わずiPhoneを握っていた握力を弱めたとき、すでにiPhoneは男の手にあった。

やっと周りを見渡す余裕が出てきた私は目の前に興奮の体でiPhoneを手にしている男を観察した。いや、男とは初対面だが...変ないいかただけど誰だかは分かっている。彼はどう見てもあのスティーブ・ジョブズだ。長い間私はライフワークのような気持ちで彼の生い立ちから死に至るまでの情報を集めて多くの記事も書いた。
間違いなく奴は、彼はスティーブ・ジョブズだ!まだ夢を見ているのか...と手の甲をつねってみたが痛い。

男は、スティーブ・ジョブズは近視なのかiPhoneを自分の顔に近づけなめまわすように見ていたが、先ほどより声高に
「俺はスティーブ・ジョブズっていうんだ。スティーブって呼んでくれ。オヤジ...お前は?」
と右手を出しながら相変わらず機関銃を打ち続けるような口調で問いかけた。
そうか、彼から見たら私は立派なジイサンだと苦笑する。

(なんて答えたらいいのか。私は)

私は彼の手を弱々しく握り返しながら
「… トモヒコ・カガヤです。いや "トモ" って呼んでください。この辺に来たのは初めてで迷ってしまったようだ」
と取り繕った。心の中では映画やTVドラマで見た「過去へのタイムワープ」が頭に浮かんだが、そんな馬鹿なことが...という気持ちは捨てきれなかった。
理論上「過去へのタイムトラベルは不可能である」という話しを聞いたことがある。では何が起こったのだ。
スティーブは
「トモ、時間があるんだろう?なくても付き合え。あれが俺の家だ。”これ” について詳しい事を教えてくれよ。こんなの見たことないし...訳分からんがメチャメチャクールな代物だ!」
私の二の腕を強く掴みながら言った。

私はスティーブに腕を引かれながらも喉から絞り出すような声で
「今日は何日だっけ?」と聞いた。
スティーブ・ジョブズと名乗った男はiPhoneから視線を外さず
「今日は1976年12月5日、日曜日だ」
と几帳面に答え、続けて、
「いま俺1人だが後で仲間が来る。紹介するよ。俺たち会社を作ったんだ。来年早々には法人化する。金のあてもできたしな」
独り言のように呟いた。

スティーブのいうことが正しいなら私はちょうど40年前にタイムワープしたことになる。
(そんなばかな)
と思いながらも顔を上げれば眼前の建物は多くの写真で見た事のある、そう...カルフォルニア、ロス・アルトスのスティーブ・ジョブズ家のガレージだった。

(続く)

【主な参考資料】
・「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」マグロウヒル社
・「ハッカーズ」工学社
・「パソコン創世記」TBSブリタニカ
・「スティーブ・ジョブズの王国」プレジデント社
・「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社


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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員