[小説]未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第1部 ー 第2話 探り合い

私 (加賀谷友彦)は久しぶりに買い物に出向いたApple銀座の店舗前で突如40年前にタイムワープしスティーブ・ジョブズの実家前に放り出された…。果たして戻れるのだろうか。そして問題なのは私が持っていたiPhone 6s Plusをスティーブが見てしまったことだ。このことが過去と未来に悪影響を及ぼすのか。そんな危惧をよそに初対面の私をスティーブはガレージの中に引き入れた...。
ー 優れたビジョナリーといわれたスティーブ・ジョブズ。その若かりし時代の秘密に迫る!ー
※本編はフィクションです※


■第1部 ー 第2話 探り合い

私はいまだに混乱していたし現状認識もままならなかった。2016年12月6日のちょうど40年前、すなわち1976年12月のカルフォルニア、ロス・アルトスにあるスティーブ・ジョブズ家のガレージ前に呆然と立ち尽くしていた。
「いくら自分がAppleフリークだからといって、Apple発祥の場所にタイムワープするなんて…」と混乱した頭で私はつぶやいた…。

もし本当に時間を遡り、1976年12月にワープしたのなら...いや夢でも良いが、若い頃のジョブズと知り合いになると共にこの悲劇を十分楽しんでみようという気もあった。しかし反面、現代の2016年にも同じ私がいるのならともかく、もし突然私が戻らなければ妻に多大な心配をかけることになる。それを思うと息苦しく鼓動が早くなってくる。
そもそもタイムワープの結果ならそう簡単には帰れないかも知れない。

スティーブはガレージの中に私を引き入れてから腕を放し「適当なところに座ってくれ」と自分は大きな作業台の前にある椅子を引き寄せ腰掛けた。
ふと木製の作業台を見るとそこにはApple 1と並んで別の基盤が置かれていたが、それがどうやら試作中のApple IIのようだった。

Apple10904.jpg


私は覚悟が決まると急に腹が空いてきた。Apple銀座で買い物を済ませた後、せっかくだからその銀座で昼食をとろうと考えていたがこのありさまだ。
小型のショルダーバッグの中に食べ物の持ち合わせはないし財布にあるいくばしかの金やクレジットカードは "この時代" では役に立たないであろうことは推測できた。

「スティーブ、悪いけどなにか食べ物はないだろうか」と気むずかしそうにこちらを見据える男に声をかけた。まだ本当にこの若者があのスティーブ・ジョブズだという実感はないが、それしか考えようもない。第一本人が自身のことをスティーブ・ジョブズだと紹介したではないか…。

スティーブは面倒そうに少し振り向き「そこの棚に林檎がある。好きなだけ食べてもいいぞ」と顎を付きだした。
「ありがとう」といいながら私は林檎をひとつ囓り始めたが、普段食べている林檎と比べてちょっと大味だった。
「その代わり、このクールなものの正体を教えてくれよ」
スティーブはひねくり回していた iPhoneを私に放り投げながらいった。当然だが彼はその使い方が分からず、何の機械かもわからず苛ついていた。

幸いなことに私のiPhoneは背面をハードケースで保護していた。だから一見しただけではアップルロゴがあることはわからない。そして当然のこととはいえ指紋認証やIDを知らないスティーブはロック画面から先へは進めなかった。
どうやらスティーブは短い時間でホームボタンを押すと画面がONになることには気づいたが、3分もすれば表示が消えてしまうことにも苛ついていた。

私が説明を躊躇しているとスティーブは「オヤジ...いや、トモは日本人か」と聞く。
「そうだ。私は日本人だ」と答えると彼の表情がいくぶん柔らかくなったように思えた。
「そういえば君は日本に行って禅僧になるつもりだったらしいね」
私の問いに「本気だったんだ。Appleを辞めて日本に行こうかと真剣に悩んだよ。師のコープン・チノに相談したら、事業も座禅も究極は同じことだといわれて決断したんだ…Appleを続けてみようと」
天井を睨みながらスティーブは言った。
彼は堅い椅子に座り作業テーブルに両足を投げ出しながら「俺はソニーに憧れている。それももしかしたらソニー製か?」と私が抱えていたiPhoneを指さし話題を戻した。

「いや、違う...」
お茶を濁しながら私はどのように会話を続けるべきかを考えていた。
いろいろと突っ込まれるより先手を打って、なんとか iPhoneの説明をごまかせる方法はないかと考えてみたが妙案は思いつかなかった。
なにしろiPhoneのハードカバーを外せばそこにはあのアップルロゴが歴然と輝いている。
それを見れば絶対スティーブは「おい、これはどうしたことなんだ」と詰め寄るに違いない。しかし「40年も歴史を遡りタイムワープした」といった話しをスティーブは受け入れるはずもないだろう。それにもし受け入れたとしてもその事実が未来に影響を及ぼしヘタをすればタイムパラドックスに陥るかも知れなず私は帰れなくなるかも知れない…。

「ここで君たちはApple 1を組み立て、いまApple IIを設計してるんだろう?」
私はいたって静かに話題を変えた。
「そうだが、はじめてここに来てそんなことよくわかるな」
鋭い眼で睨まれたが私は続けて「後で理由は説明するけど、私は君たちのことを結構よく知ってるんだ」とガレージ内を見渡した。
「それにしてもこのガレージは想像していたよりずっと閑散として片付いてるね」と続けた。

スティーブは作業台に足を乗せたまま、左手の爪を頻繁に囓りながら「近々引っ越しするんだ。だからいま少しずつ片付けているところだ…」と苛つきを隠そうともせず呟いた。
私は彼の次の言葉に被せるように「新しい住所は “Stevens Creek Blvd” だったかな...」というとスティーブは飛び上がるように投げ出した長い足を組み直して私をにらみ付けた。

「トモはスパイか? 俺たちの新しい引っ越し先など極親しい身内しかしらないはずだ。コンピュータの情報を探りにでも来たのかよ」
今にも拳が飛んできそうな勢いで詰問した。
スティーブは私の顔を真正面からじっと見つめた。なんだか催眠術にでもかけられたように私は身動きできなかったもののその不安と苛立ちの表情の中にどこか憎めない子供っぽさを感じて私は続けた。
「スパイではない。約束するよ。だけど変な言い方だが私は君たちのことを君たち以上に知ってるんだ」と言ってみた。

スティーブはなにかを感じたのか無言で椅子を離れて冷蔵庫から冷えたコーラーを2本取り出しながら「なあ、トモ…俺って仏教徒になろうと思ったくらい日本文化は好きだが、そういえば日本人についてはほとんど知らないんだ」
コーラーの瓶の一方を乱暴に私の前へ置きながら「だけどあのへんてこでクールな電卓みたいな奴を見た途端、俺は…お前が…トモがただ者ではないと思ったよ。どれほど俺たちのことを知ってるんだ?」と真面目な顔でいう。

(誤魔化しきれないことは分かっているが、どのように説明すれば良いのか。)

しかしもしスティーブ・ジョブズの気持ちや好奇心を良い意味でつなぎ止めることができれば彼と友達になれるかはともかく、知り合いとして付き合って行けるかも知れない。それにこれが夢ではないのならいつ帰れるか、元に戻れるかは不明だし、最悪はこのままこの時代で生を全うしなければならないかも知れない。そうであれば何とかスティーブ・ジョブズの懐に入り込むよう努力してみようとかいう気持ちが固まってきた。

なにしろ私にはiPhoneという最高の餌があるのだから…。そして頭の隅にはなんとか初期のApple社員となりストック・オプションでも手に入れることが出来れば金持ちになれるかも知れない…とよからぬ考えもちらついた(笑)。

「そうだな、君の相棒はスティーブ・ウォズニアク。先般マイク・マークラの資金援助を受けて来年の1月3日に会社を法人化するんだったな」
瞬間、またスティーブの顔色が変わった。
「おい、法人化は急いで進めているがどうして1月3日なんだよ。俺を差し置いてマークラのやろうがスケジュールを決めたのか!」と怒鳴った。

いやはや、歴史を知ってる者はとかく先走りしこうして失敗するんだな…と反省しながらもスティーブの問いを無視して話しを続けた。
「10月だったかな、君たちはレジス・マッケンナ・エージェンシーとパートナー契約して企業ロゴのデザインを依頼したんだったな」
私は返事を待たずに「もう来年4月のWCCF(第1回ウスストコースト・コンピュータ・フェア)出展は決めたのかな」とたたみ込んだ。

スティーブは「フン」と鼻で返事をしながら「よく考えれば調査会社ならその程度の事は知り得るよな。最初はびっくりしたけどマジックなら種はあるわけだ…」と息巻いた。
そんなことを言われた私はちょっと悪戯心が騒いだ。

少しリラックスしてきたらスティーブの凄い体臭が我慢できなくなった。
私は無言でガレージの出入り口まで歩きつつ「私は調査会社ではないよ」と言いながら1/3ほど下げられていたシャッターを一杯まで引き上げた。
カルフォルニアの乾いた風が襟首を心地よく吹き抜けていく…。

「スティーブ、君が秘密を守れるなら私が何者かを正直に話すよ。さっき会ったばかりのオヤジを信じろというのも変なのはわかるけど、そうでなければこのデバイスがなんなのかは喋れないよ」
「それに、たぶん君らの未来にとってとても有益な話しになると思うんだ」とスティーブの目を直視しながら話した。

スティーブは少しうつむきながら片手でむさ苦しい頭を掻きむしったが「分かった。あと30分ほどすれば仲間が戻ってくる。その前にその有益な話というのを教えてくれ。秘密は守るよ」といった。彼の貧乏揺すりで作業台の上のハンダごてが「ギッ」と音を立てた。

この21歳のヒッピー同然の若者が、後にMacintosh開発の陣頭指揮を取り、一旦はAppleを閉め出されたものの11年後に復帰してAppleを世界一の企業に押し上げた張本人だとは歴史を知っている私にも信じがたいことだった。
私は先ほどスティーブが返してくれたiPhoneからおもむろにハードケースを外し、その背面を上にしてからそっとスティーブに差し出した。

その瞬間スティーブの「ごくり…」という息をのむ音が聞こえ、不遜な態度に終始していたスティーブの背が伸び、凍り付いたように動かなくなった。
そこには… iPhoneの背面には先般レジス・マッケンナ・エージェンシーにデザインしてもらったばかりの6色アップルロゴが単色ながら燦然と輝いていた。

(続く)

【主な参考資料】
・「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」マグロウヒル社
・「ハッカーズ」工学社
・「パソコン創世記」TBSブリタニカ
・「スティーブ・ジョブズの王国」プレジデント社
・「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社



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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員