[小説]未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第1部 ー 第3話 秘密共有

私 (加賀谷友彦)は久しぶりに買い物に出向いたApple銀座の店舗前で突如40年前にタイムワープしスティーブ・ジョブズの実家前に放り出された…。さらにまずいのは私が持っていたiPhone 6s Plusをスティーブが見てしまったことだ。このことが過去と未来に悪影響を及ぼすのか。そんな加賀谷の危惧をよそに初対面の私をスティーブはガレージの中に引き入れた...。
ー 優れたビジョナリーといわれたスティーブ・ジョブズ。その若かりし時代の秘密に迫る!ー
※本編はフィクションです※


■第1部 ー 第3話 秘密共有

混乱したスティーブは気持ちを落ち着かせるためか椅子の上で結跏趺坐し瞑想のポーズをとった。
私はその姿を眺めながら彼の言葉を待った...。

「なにもかも変だ…。なぜ俺たちのロゴがそこにあるんだ? なんだその “iPhone” っていうのは? ということは電話なのか!?」
両目を閉じ、姿勢を変えずにスティーブはいったが、その声はすでに落ち着いていた。
「何もかも変だし奇妙だ。使い方も分からんが、その小さなディスプレイひとつとってもメチャクリアだしそんなの見たことないよ。いや聞いたこともない」
スティーブ・ジョブズは深く息を吸いながら独り言のように話し続ける。

「軍の最高機密はわからんけど、最先端テクノロジーなら俺たちが集まっているホームブリュー・コンピュータ・クラブに持ち込まれるはずさ。だけどそこでも話題にすら上ったことはない…」
「そんな小さな、いやサイズはともかく厚みがほとんどないディスプレイなんてありえない」
スティーブは私の顔色を探るように半眼の視線を送りながらいう。
「しかし奇妙なのは何故か懐かしい感じがする。それが何だかわからんが知っているようにも思える。やはり変だ…」
スティーブは軽く頭を振った。

iPhone0905.jpg

そのときガレージ内の電話が鳴った。
しかしスティーブ・ジョブズは椅子の上で瞑想のポーズをしたままだ。
私は思わす「スティーブ、電話…」と余計なことをいってしまったが、それでもスティーブは姿勢を変えなかった。

何度目かのベルが鳴ったそのとき「はい、はい、電話ね」とエプロンで両手を拭いながら中年の女性が姿を現し電話を取った。
「アップルコンピュータです。はい、そうです。ああ...ウォズね、彼はいまおりませんが後ほど電話を…はい、そうですか、それではそうしてくださいな」と言って電話を切った。

「あらあらお客様だったのね。気がつかなくてごめんなさい。いまコーヒーでも淹れるわ」と作業テーブルに散らかした林檎の芯と2本のコーラーの空き瓶を片付けながら奥に消えた。
スティーブはやっと瞑想のポーズを解きながら「お袋だよ」と説明した。
「なるべく電話に出でもらっているんだ。俺たちだと第一印象が悪いってマークラがいうから…」
「クララさんですね」
私の問いにスティーブは瞬きで「そうだ」という意思表示をした。

スティーブ・ジョブズの養母であるクララ・ジョブズは夫のポール・ジョブズと共に歴史の表舞台にはほとんど登場しないがこの両親たちの暖かい理解がなければApple Computer Companyはその本拠地さえ確保できなかった。
なにしろApple 1の組み立ては当初開発者であるスティーブ・ウォズニアックの自宅で始めたが、まずいことにウォズは新婚だった。その新婚の家にドタドタと薄汚い野郎共が押しかけ、キッチンテーブルを占領して散らかすので妻のアリスに嫌われた。

最後の砦がジョブズの自宅の一室だった。その部屋はジョブズの妹パティが嫁ぐまで使っていた部屋だったがすぐに部品や納品のための箱で狭くなったし、ハンダごてで家具に焼け跡を作ったりもした。ちなみにパティもジョブズと同様養子として迎えられた血の繋がっていない妹だった。
見かねた養父、ポール・ジョブズが「ガレージを使ったらどうだ」と提案したことから収まるところに収まった...。

姿勢を正したスティーブは両手の指先を胸の前で合わせ、私が持っているiPhoneをにらみながら考え込んでいた。
そのときクララがトレーにマグカップを2つ乗せて再びガレージに入ってきた。
「お待たせしたかしら。どうぞ…」とコーヒーが入ったマグカップを作業テーブルに置いた。
「ありがとうございます」
私は合掌のポーズをしながら丁寧に頭を下げた。
「お仕事の話しでいらしたんでしょうけど、失礼ながら貴方のような年配の方は歓迎よ。ここはヒッピーの集会所みたいになってるでしょ。私は若い人たちも好きだけど皆宇宙人みたいで何考えてるかわからないもの」とニッコリと笑った。
確かにあらためて考えればこのときクララは52歳だったはずだ。したがって後に出会うことになるマイク・マークラやロッド・ホルトも含め、私はずっと年上だった。

続いてクララはスティーブの方に優雅に向き直りやさしい声でいった。
「そうそう…スティーブ、小一時間前かしら、アリスから電話があって泣かれたわ」
クララの言葉にスティーブは両肩を上げて聞いていることを示した。
「いつもの話しよ。ウォズのことよ。新婚だというのにろくに家にも帰らず、アリスが仕事から帰って食事を作り待っているのに夜半過ぎに帰ってもマグドナルドで済ましたというんですって…。怒って当然よ!」

軽いため息をついたクララは続けた。
「原因はApple…そして、スティーブ…貴方だというのよ。Appleと貴方に主人を取られたと泣くのよ。あなたたち親友でしょ、なんとかなさいな」
語尾のニュアンスは少しきつい言い方だったが、スティーブを信頼している暖かみが私にも伝わってきた。
「そうそうもうひとつ。Apple 1を欲しいという人からの電話よ。そこにメモを置いたから後で電話してあげてね」

「ああ、わかったよママ...」
スティーブは意外に素直だった。軽く片手をあげて承知したことを示すとクララは私の方へ笑顔を送りながら奥に引っ込んだ。
母親の姿が見えなくなると、以前のスティーブに戻った。

「トモ、もうすぐ仲間たちが戻ってくる。皆の前では…そうiPhoneといったな、あのデバイスのことは内緒にしろ。いやしてくれ...頼む!ウォズにもなっ」
勿論私も同じ考えだった。この時代の優秀な頭脳たちに見られたらどんな混乱を引き起こすかと心配していたからだ。
「わかった。別途時間を作ってくれればいつでも君だけに説明するよ」

私が快諾したことで安心したのか、スティーブは「ニッ」と笑った。
「2人だけの秘密だぞ。そうだ、ところで今夜はどこに泊まるんだ」
スティーブの言葉に私は厳しい現実に引き戻された。無論泊まる場所もなければ金もない。このままでは食事もできないありさまだった。

私の困った顔を察したのかスティーブはいった。
「よし、事情は後で聞こう。よければしばらく俺のところに居候しろ!このガレージなら寝る場所はある」
命令口調だったがその顔は笑っていた。
クララの淹れてくれたコーヒーはすでに冷めかけていたが、私はありがたくそのブラックコーヒーをゆっくりと喉に落とした。
ふと気がつくと外で数人の賑やかな声が聞こえる。

「仲間たちが戻ってきたようだ。トモのことは俺の友人ということで紹介するから話しを合わせておけ。年齢は皆かなり違うがこの世界では年の差なんてクソだ。トモと俺は共通の知り合いを持つ友人ということにしようや」
一端言葉を切ったジョブズは真顔になって続けた。
「iPhoneとやらはそのバッグにでも仕舞って誰にも絶対に見せるなよ」
立ち上がったスティーブ・ジョブズの凜とした姿はまさしく伝説の…我々がよく知っている彼の姿そのものだった。

(続く)

【主な参考資料】
・「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」マグロウヒル社
・「ハッカーズ」工学社
・「パソコン創世記」TBSブリタニカ
・「スティーブ・ジョブズの王国」プレジデント社
・「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社

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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員