[小説]未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第1部 ー 第4話 ウォズへの説得

加賀谷友彦は1976年12月6日、出向いたApple銀座の店頭でiPhoneのホームボタンを押した瞬間目眩に襲われた…。思わず座り込み、気がついたとき彼はカルフォルニア、ロス・アルトスのスティーブ・ジョブズ家のガレージ前にいた。そしてスティーブ・ジョブズと一緒に働くことになる。
ー 優れたビジョナリーといわれたスティーブ・ジョブズ。その若かりし時代の秘密に迫る!ー
※本編はフィクションです※

■第1部 ー 第4話 ウォズへの説得

ガレージに近づく姿は3人だった。
遠目にもそれがスティーブ・ウォズニアクとマイク・マークラ、そしてロッド・ホルトだとわかった。
最初にガレージに入ってきたのはウォズだった。

「途中でホルトに会ったんだよ」
彼はジョブズ以上の早口でいったあと、大きなため息をつき1番奥の席にどかっと座った。背はジョブズより低いが体格は良く無精髭が伸びていたし髪も伸び放題で整える気はないようだ。それにセンスのかけらもないシャツ姿だった。自分の格好には気が回らないようだ。

ウォズは近づいた私に気づき満面の笑顔でどこか恥ずかしそうな表情で手を差し出した。
「ウォズだ…よろしく」
「トモヒコといいます」
私も軽く頭を下げつつ握手を返したが、ウォズニアックの姿は縫いぐるみの熊のように思えた。そういえば1990年代後半だったか、秋葉原のラオックス前で数人に囲まれ店に入っていくウォズを見たことがあったが本人と握手したのは初めてだ…。

少し遅れてマイク・マークラが顔を出した。スーツ姿でネクタイを着用した姿は少し疲れたように見えた。その紳士然としたスタイルはガレージオフィスに似合わなかったが軽く右手を挙げ無言で我々に挨拶をしウォズと離れた椅子に腰掛けた。

オートバイを留め、くわえていたタバコを放り投げてから入ってきたのはホルトだった。革ジャンを着こなしサングラスを外しながらガレージに入ってきた彼はまるでロックスターのようで格好良かった。
脱いだジャンパーとサングラスをテーブルに乗せながら私に「よっ」といった視線を送った。ホルトは見かけよりずっと紳士だった。

面白いのは皆スティーブ・ジョブズと一緒にいる初対面の私のことを「誰だ?」と聞かないし気まずい感じもない...。
この時期、さまざまな人たちがこの小さなガレージを訪れただろうから、慣れているのだろうか。

マークラに顔を近づけたジョブズは「どうだった?」と小声で聞くとマークラは一瞬ウォズの方へ顔を向けつつ顔を左右に振った。ウォズは背を向けていた。
「そうか、奴はヒューレットパッカード命だからなあ」とため息をついた。
「よし、それはまた別の機会に話そう」
ジョブズは呟きながら奥に入りガレージから姿を消した。それを追うようにウォズも立ち上がり姿を隠した。

マークラはやっとリラックスした姿勢を取りながら苦笑を浮かべる。
「説得は失敗かい?」
ホルトが苦笑いしながらマークラに問う…。
「ああ、ウォズはヒューレット・パッカードの職は失いたくないんだよ」
「だけど法人とするからにはウォズが常勤でないと君は納得できないんだろう?」
ホルトの言葉にマークラがうなづいた。
「ぼくの事業計画をきちんと遂行するには当然のことだし、ウォズは技術職だといっても責任ということを知ってもらわないとね」
いいながらマークラは両手で頭を抱えた。
「ウォズは意外と頑固だから厄介だよな」
言いながらホルトは奥のテーブルに向かった。彼はApple IIの電源開発を任されていたはずなのでその仕事があるのだろう。

思わず私はマークラに向かって「大丈夫ですよ。ウォズは最後の最後で貴方たちの説得を受諾しますよ」と言ってしまった...。
マークラは勿論、奥に座ったばかりのホルトも立ち上がって私の方に向き直った。
「あっ、私は…スティーブ・ジョブズの友人でトモヒコ・カガヤといいます。日本人です。しばらく居候させてもらうことになりました。トモって呼んでください」

そのときスティーブ・ジョブズが現れ「トモは超能力者だぞ。未来が分かるらしいから皆気を付けないとな。しばらく俺んちに寝泊まりするからよろしくな」と茶化すように紹介してくれた。
「それはそうとWCCFまで後4ヶ月だ。何とか展示用のApple IIを何台か完成させなきゃならない。ホルト!電源はどうだ?」
「電源は任せとけ。それより試作品を設計どおりに組み立てたんだが動かん...。言いたくないがウォズ自身も原因が分からんではどうしようもない」と困った顔をした。

ジョブズはホルトに「ウォズの奴は…お前には一目置いてる。なんとかしてくれ!」となげやりの口調でいった。
ホルトはマークラよりも年上だったが、なによりも物知りで博学だった。エレクトロニクスにも優れたセンスと知識・技量を持っていた。それに政治経済の知識はもとよりオートバイ、写真技術やカメラ、印刷技術そして陶磁器の釉薬に話しが及んでも説得力のある話を展開できたから皆もホルトには一目置いていた。
「俺にいわずに直接ウォズにいったらどうだ。なにしろウォズは配線図も書かずに組み立てたわけで他人はもとより本人にもなぜ動かんか分からないというんだ」と吐き捨てる...。

一息入れたホルトは「なあスティーブ、独断だがビルに配線図を再構築するよう頼んだよ。彼ならウォズのミミズが走ったようなメモも読めるらしいしな」と返した。

ちなみにビルとはビル・フェルナンデスのことだが、彼がジョブズとウォズを引き合わせた人物だった。ビルは私が日本人だと知るとなにかと親切にしてくれすぐに友達になった。彼は母親がスタンフォード大学で極東文化を専攻していた関係で極東アジア文化に造詣も深かったことから日本に興味をもったらしい。事実2年後の1979年には来日し札幌で2年間生活することになる…。

ビルにApple IIの配線図をあらためて作るよう依頼したというホルトをフォローするようにマークラがいう。
「ウォズは天才だが閃きで物事を進めるから周りが困る。これからは特に技術的なことはホルトにサポートしてもらうようにしようや」
ジョブズの返事を待たずホルトは「やってみるよ」と言いながら再度机に向かった。

事実ウォズニアックの技術力には誰もが敬服したが、なにごとにつけてもウォズは最後の詰めがあまかった。ひとつひとつの部品の管理はもとより、勘や経験だけに頼らずしっかりとした配線図作りと仕様を決め、それに基づいた製造をすべきと主張したのはロッド・ホルトだった。そうでなければ大量生産は無理だった。
マザーボードに配された各チップ間に流れる信号をチェックするため、初めてオシロスコープを活用したのもホルトだった。
この後、ウォズが新しいアイデアを思いつくと、誰もが理解できる形に図面化し機能を立証しろとうるさく主張する役割も彼の仕事になっていた。ホルトにいわせれば、ウォズの閃きによる判断はほとんど信用できなかった。

Apple_1_Advertisement_Oct_1976.jpg

※Apple 1のカタログ


トイレにでも行っていたのか、ウォズが戻ってきた。
「ウォズ、ママがApple 1が欲しいという電話を受けたそうなのでフォーローしてくれ」
ジョブズは母のクララが書いたメモをウォズに渡しながら「今日の仕事はいいから家に帰ってやれよ。アリスから電話があってママに泣きついたらしいぞ」
珍しく優しい声でウォズに呟いた。
ウォズはなにかをいいかけたが口には出さず両肩を上げて賛意を示し、のっそりとガレージを出て行った。
「ウォズ!明日はメチャ忙しいぞ!頼んだぞ!」
ウォズの後ろ姿に向かってジョブズが怒鳴った。

「お袋さんが泣きつかれたか...」
マークラがわかったように呟く...。
「俺も結婚と離婚を繰り返したら人のことは言えんが、ウォズは新婚だしな...」とホルトは姿勢を変えずにいった。
ジョブズはマークラとホルトの話しを聞き流し話題を変えた。
「マークラ、法人化は急いでくれ。ここにいるトモのお告げだと来月新年早々3日がいいそうだ」
私の方を向きながらウィンクした。
「法人化と引越をやりながら4月のWCCF出展の準備をしなければならない。予算はマークラのおかげで心配ないが肝心のブツが出来ないようでは皆の苦労が水の泡だ。マークラ、例の件も続けてウォズを説得してくれ!」
スティーブ・ジョブズは再びガレージの奥へと消えた。

ホルトが使うハンダごての煙と臭いがガレージに広がっていく。
気がつくとガレージから仰ぎ見るカルフォルニアの空に夕闇が迫っていた。その夕焼けの向こうに心配顔の妻の姿が浮かんだ…。

(続く)

【主な参考資料】
・「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」マグロウヒル社
・「ハッカーズ」工学社
・「パソコン創世記」TBSブリタニカ
・「スティーブ・ジョブズの王国」プレジデント社
・「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社




関連記事
メイン広告
ネットショップ先行販売
ブログ内検索
New web site
[小説]未来を垣間見たカリスマ  スティーブ・ジョブズ
ジョブズ学入門
WATCH 講座
大塚国際美術館ひとり旅
ラテ飼育格闘日記
最新記事
お勧めの新旧記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

appletechlab

Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員