[小説]未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第1部 ー 第6話 ジョブズの憂慮

突如40年前のスティーブの実家の前にタイムワーブしてしまった...。還暦も遠の昔に過ぎた男、加賀谷友彦は久しぶりに出向いた Apple銀座 のエントランスで1976年にタイムスリップし、スティーブ・ジョブズの若かりし頃に出会い一緒に働くことになった。
ー 優れたビジョナリーといわれたスティーブ・ジョブズ。その若かりし時代の秘密に迫る!ー
※本編はフィクションです※


■第1部 ー 第6話 ジョブズの憂慮

WCCFまで後3ヶ月を切ってしまった。しかしApple II の試作品はまだまだ思うように動かなかった。
だからジョブズやウォズを筆頭に全9人は寝る間も惜しんで働いた。
9人とはスティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアク、マイク・マークラ、ロッド・ホルト、ビル・フェルナンデス、クリス・エスピノサ、ダン・コトケ、ランディ・ウィギントンそして私(トモヒコ・カガヤ)だ...。

1977年1月3日に法人となったApple Computer社は、20863 Stevens Creek Blvd., B3-C Cupertino CA 95014に引っ越して新たなスタートをきった。
ただし先走るがこの新しいオフィスはガレージよりはずっと広かったし会社らしくなったもののすぐに手狭になり、ほぼ1年後の1978年1月28日には10260 Bandiey Drive Cupertino Callfornia 95014へ再度引っ越すことになる。

ともあれ第1回ウエストコースト・コンピュータ・フェア(WCCF)は迫っていた...。
スティーブ・ジョブズは快活に動き続けた。しかしこの頃から彼の2つの性癖がこれまで以上に強く表に出るようになった。ひとつは完璧癖、もうひとつはスピードへの執着だった。

些細なことに首を突っ込むのは由としても、特にクリス・エスピノサやランディ・ウィギントンらへの言葉遣いは尊大で乱暴を極めた。
「なぜ、お前らはクソみたいに仕事が遅いんだ。ソフトウェアを組むなど簡単だろうに」
「もっと見栄えにも気を付けろ。俺たちにガラクタは無縁だ。最高のコンピュータを作るんだ!」
わめき散らすジョブズだったが、不思議に私に対して怒鳴ったりわめいたりはしなかった。自分の親より年上だったからだろうか…。
そういえば彼はソフトウェアの開発には計算づくではなし得ない相応の時間がかかること、なによりもバグをつぶすことに時間が必要な事実を理解できなかったと思われる。

そしてこの時期、スティーブ・ジョブズが苛つく理由はWCCFへのスケジュール履行だけではなかった。
マイク・マークラに連れられてやってきたApple最初のCEOマイケル・スコットとは最初から肌が合わなくて顔を会わせるごとに罵りあうようになっていた。

マイケルは普段は “マイク” と呼ばれていたが、マイク・マークラと区別するため社内ではスコッティと呼ばれるようになった。ともかく彼は柔軟な面を見せるかと思えば尊大な態度をとることもあった。ジョブズと違う点は、そうした態度は感情的で思わず…といったものではなく、計算づくだったしスティーブ・ジョブズと張り合うだけの押しの強さももっていた。
なかなか食えない男だったが、彼がいたからこそガレージでのバイト感覚が抜けきれなかった社員たちを鼓舞しAppleを会社らしい組織へと牽引できたといえる。

「スティーブ、俺は君たちに請われてAppleに来たんだ。Appleを素晴らしく素敵な会社にするためにな」
「社員たちがAppleで働けて誇らしいと思うような企業にしなければならないんだ。そのためには最低限の規則、約束事が必要なんだ。君がごり押しする社員番号とて遊びではないんだ。わかってるのか!」

社員が急激に増えていったからそれを効率よく管理し、実績を評価するためには社員番号を採用し社員証を作ることが急務だった。しかしここでも厄介者はジョブズだった。
スコッティは社員番号1番をウォズに割り当てたがそれが誇り高いジョブズの勘に障った。
「なぜ1番は俺でないんだ!」
ジョブズは恥も外聞もなく騒ぎ立てた。
スコッティに詰め寄り変更しろと要求するもスコッティも強者だったから社長としての権限だとして譲らなかった。
ジョブズは怒ったり哀願しても効果がないと悟ったとき、ついには泣き出した。それでもスコッティはガンとして主張を曲げなかった。

「トモ、スコッティは頑固すぎると思わないか。俺様が頼んでいるのに今日なんか一瞥も返さないんだぜ」
私と洗面所で2人だけになったときにジョブズは愚痴をいった。
「君がスコッティを説得してくれないか。頼むよ」
「スティーブ、君も知ってのとおり私は単なる平社員だ。君のためにできることなら何とかしたいがスコッティを籠絡するのは難しいと思うよ」

私の担当はスティーブ・ジョブズの秘書役兼アドバイザーだったが、特に決まった役職についていたわけではなかったし誇れる技能をもっていたわけでもなかった。ただジョブズの肝いりで役員待遇に甘んじ、どこへでも出入りが許されていた。しかしだからこそ無用なトラブルには巻き込まれたくなかったしスコッティに睨まれたくはなかった。事実もしここを追い出されたら行くところがなかった...。

「しかし、トモなら客観的な立場でスコッティを説得できるよ。誰が見ても “俺がApple” なんだからな」
社員番号にあくまで拘るジョブズは執拗に私に仲介しろという…。
「1番が無理なら0番にしてもらったらどうかな…。1番より前という理屈だし、0番だなんて社員はいるはずもないし」
私は面倒なのでその場しのぎに "いい加減" なことをいったが、途端にジョブズの顔が輝いた。
「さすがにトモ、君は凄いな」

後で聞いたところによるとジョブズはその足でスコッティを探し自分の社員番号を0番にしろと迫ったという。スコッティも大人げないジョブズに根負けしたのか表向きの社員番号、すなわち社員証の0番を承認したという。無論社内のデータ運営上、ジョブズの正式な社員番号は2番だったが。
ちなみにマークラの社員番号は3、スコットは本来5番目の入社だったが、好きな数字である7を社員番号とした。

スコッティとの確執の他にスティーブ・ジョブズの頭痛の種はウォズのことだった。
ウォズは4月のWCCF出展のため日夜を問わず働いたが、その働き方には大きなムラがあった。
企業としての規律を重んじるスコッティから見てもウォズの不規則な就業癖は困ったことだと考えられていた。
WCCFを終えた後の話だが、ホルトが珍しく慌てて私の所に飛んできたことがあった。

「トモ、聞いたか…。スコッティがウォズを首にするというんだ!ジョブズは知ってるのか?」
事実そんなことも懸念されたほどウォズは気に入った仕事に対しては集中するものの他人から与えられた仕事は何とか理由を付けて先延ばしした。他にも会社の立場を考えもせず行動することも目立った。
例えば起業以前ブルーボックスを作る際に知り合ったジョン・ドレイパーにウォズはApple IIの拡張スロットに差し込むだけで電話をかけられるインターフェースカード制作を軽い気持ちで依頼した。

ドレイパーはキャプテン・クランチと称し電話システムに不正侵入して長距離電話を無料で利用し続けた罪で服役し出所したばかりだった。マイク・マークラやマイク・スコット、そしてブルーボックスを売り歩いたことのあるスティーブ・ジョブズもウォズにドレイパーと付き合うなと苦言を呈したがウォズは「これは史上もっとも偉大な製品の1つになる」と耳を貸さなかった。
結局ドレイパーが拡張カードとApple IIをペンシルベニア州に持ち出した際にドレイパーは逮捕され刑務所に逆戻りとなった。ドレイパーが作り出したものはまさしくApple II 駆動によるブルーボックスだった。

「まったくガキじゃあないんだからウォズにもほとほと困ってるよ」
ジョブズは苦々しく吐き捨てた。
「Appleは無関係で済むのかい?」
私の質問にジョブズの表情はさらに曇った。
「警察の事情聴取は免れないとスコッティは怒り心頭だよ。何しろウォズから依頼されたとドレイパーが証言しているんだ」

ウォズはなぜこんな無謀なことに手を染めたのだろうか…。もともとウォズは知的好奇心を最優先する傾向がある。そんなときには周りの他ことは眼中になくなる。だからこそApple 1やApple II を開発できたともいえる…。
あるとき会社の長椅子で仮眠しているウォズニアクの姿を見て私は近づきいった。
「ウォズ、余計な事だけどたまには息抜きも必要だと思うよ。帰ってきちんと休むといいよ」
「ありがとう。でも僕にとってここ(会社)は避難場所でもあるんだ」
早口でいったウォズの真意をそのとき理解できなかったが、結局妻のアリスとは結婚17ヶ月で別居および離婚となってしまった。彼はプライベートの悩みを払拭するため、目の前のことにのめり込んだのかも知れない。

あるときジョブズはボソッと私にこぼした…。
「ウォズの野郎には困ってるよ。若い奴らにとってウォズは神様のようだが俺たちはもうチーム…組織で動いているんだ」
ジョブズの口から組織だなんて言葉がでてきたので苦笑せざるを得ないが、このころからジョブズとウォズが2人で仲良く談笑するシーンはほとんど見られなくなった。

ウォズに敬意を払っていたランディ・ウィギントンと目が合ったとき彼は心配そうにいった。
「ねえトモ。ウォズとジョブズがうまくいってないみたいだ」
「なにか直接の原因でもあったのかな」
私の問いにランディは我が意を得たりといった顔をして話しを続けた。
「貴方も知ってのとおり、2人の言い合いはApple IIのスロット数をいくつにするかという議論あたりから激しくなったみたいだよ」

Apple IIの仕様をフィックスする際、いくつか重要なことが決められた。その多くは押しの強いジョブズの主張が通ったようだ。
例えばApple IIはプラスチック製のケースに入れ、キーボードも付属させる完成形を貫くこと。そして反対者も多かったがコンピューティングに雑音は害だとして冷却ファンの採用をジョブズは認めなかった。しかしウォズはしぶしぶにしてもそれらジョブズの主張を容認したがひとつだけ拘ったことがあった。
それがマザーボードに乗せる拡張スロットの数だった。

Apple2Slot.jpg

※Apple II のマザーボードには8個の拡張スロットが用意されている。ただし向かって右から2つ目にはフロッピーディスクのインターフェースカードを装着している


ジョブズは自分たちがコントロールできること以外の使い方をユーザーに許すべきではないとし、さらに拡張スロットを付けるのはハッカー的な仕様で時代遅れ、したがってエレガントではないと主張した。それでも拡張スロットが必要ならせいぜいプリンター用と予備の2つあれば十分だとウォズに迫った。
このジョブズの主張に珍しくウォズが猛反発した。ウォズはマザーボードのスペースから判断しエッジ・コネクタを備えた8個のスロットを付けると自説を譲らなかった。
「これだけは譲れないよ。もし君がどうしても気に入らないのなら他のコンピュータを作ればいい」
ウォズは声を荒げた...。

「あのスロットのことだけではないと思うけど、ジョブズもウォズに直接物申すのを避けているように思うけど」
ランディは心配そうに呟いた。
「そうだよなあ、一昨日もエントランスで2人は何か言い争ってたな」
私とランディは顔を見合わせた。

その翌週辺りになると社内全員2人の仲が険悪になっていることを知ることになる。
ウォズはより頑なになり、ジョブズはより尊大な態度で皆を困らせた。しかしApple全体を鼓舞して全員を奮い立たせているのはスコッティでもマークラでもなくスティーブ・ジョブズその人だったことは確かだった。

(続く)

【主な参考資料】
・「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」マグロウヒル社
・「ハッカーズ」工学社
・「パソコン創世記」TBSブリタニカ
・「スティーブ・ジョブズの王国」プレジデント社
・「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社


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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員