[小説]未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第22話 株式上場


スティーブ・ジョブズは未来のテクノロジーを時代の最前列で考え見つめてきたといわれている。しかしその陰には2016年12月6日、アップル銀座のエントランスから40年前のカリフォルニア、ロス・アルトスにあるスティーブ・ジョブズ家のガレージ前にタイムワープしたひとりの男の存在があった。
ー 優れたビジョナリーといわれたスティーブ・ジョブズ。その若かりし時代の秘密に迫る!ー
※本編はフィクションです※

■第22話 株式上場
Appleはビジネスが拡大していく中で正式な株式上場前にも二度資金調達をした。ゼロックスを含めた1979年8月とは別に1980年11月にもかなり大規模な資金調達が行われた。すべてApple II の成功が多額の資金調達を可能にしたのだ。その二度目の資金調達の際にもゼロックス社は80万株を取得している。

そしてAppleは1980年12月12日に念願の株式上場を果たした。これらによりスティーブは若干25歳で2億5600万ドルの個人資産を手にした。
ただし (金のためにビジネスをはじめるわけではない) と言っていたスティーブだが、大富豪となると冷酷非情さがより目立つようになったのも事実だ。

Appleでは株式上場で300人ほどが大金持ちになったがスティーブは起業時から苦楽を共にしてきたダン・コトケ、ビル・フェルナンデス、ランディ・ウイギントン、クリス・エスピノサなどには株式を与えようとはしなかった。
私はどうしても納得できずに、株式公開のスケジュールが決まった一週間後だったかスティーブの自宅で二人きりになった際になるべくリラックスした雰囲気を壊さずに聞いた。
「スティーブ、なぜ君は友達のダンなどに株式を譲らないのかい」
スティーブは一瞬私に対して珍しく不機嫌な表情を見せたが、
「ああ、悪い悪い。トモ、君に不快な思いをさせるつもりはないんだ。ただいきなりの質問だったからな」
いいわけと繕いが見え見えの態度でスティーブはソファーに座り込んだ。

「まず、いっておくけど」
両手の指先を合わせながらスティーブは私を見据えて話し始めた。
「トモ、君には相応の株式を渡すよ。マイク・マークラに指示しておいたから数日後に連絡がいくだろう」
なんだか口止め料のカウンターパンチを喰らったようにも思えたが、
「いや、かっこうをつけるつもりはないが、私は毎月のサラリーで十分感謝しているよ。しかし創業時から苦楽を共にしてきた仲間ちたが落ち込んでいるのを見るのが辛いんだ」
これまた私の正直な気持ちだった。2016年からタイムワープした私はいつ戻れるかはともかく、一生この地で骨を埋めるつもりはなかった。だから金を貯めて…といった意識はなかったから正直欲もなかったのである。

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※Apple Computer社時代の株券(本物)。筆者所有


私の視線をはずしたスティーブは大きなため息をつきながら天井を仰いだ。
「トモ、理由はあるんだよ」
少し間を置き口を開いた。
「君があげた奴らは確かに創業時からの従業員だが、かなり長い間...というより彼らは近年まで時給で働いていたんだよ。いわば正規雇用者の扱いではなかったわけだ」
再び息を吐き、
「それに、株の譲渡に関しての最終決定権は俺ではなくマイクやスコッティなんだよ。俺は社長ではないからな。それに、ダンやランディらは大金を持つには若すぎるよ」

私は言いたいことは山ほどあったが、スティーブの言い訳は言い訳にもならないその場逃れに思えたから反論しても意味がないことを察知した。企業としての決定権うんぬんは確かにスティーブのいうとおりだが、筆頭株主はスティーブだったし彼が株譲渡相手を選んだ事は知られていた事実だった。
第一先ほど私に言った台詞 「マイク・マークラに指示しておいたから数日後に連絡がいくだろう...」という事実はスティーブ自身の権限でことが運ぶことを証明していた。
さらにダンやランディが大金を持つのには若すぎるというなら自分はどうなんだ...と言いたかったが、彼は理論然とした考えを持っているとは思えなかったから言い争っても益はないことは明らかだった。
私には株式を渡さないのは ( 渡したくないから )という感情論というか自分の力を見せつけたいからのようにも思えた。

このストックオプションに関してはロッド・ホルトもスティーブの不公平さに怒っていた。だからある日、ロッドは見るに見かねてスティーブに提案した。
「俺ら二人で少しずつ持ち株を出し合い、コトケにも分け与えたらどうか」と。
しかしこの提案にもスティーブ・ジョブズの反応は冷淡だった。
「そりゃあいい提案だねロッド。では僕はゼロ株を奴に渡すよ」
それがスティーブの返事だったと後にロッドはため息交じりに話してくれた。
結局ロッド・ホルトはダニエル・コトケに気持ちだといって自分の株を100株無償で譲り渡したらしい。

数日後、昼食の場で一緒になったウォズに私は珍しく愚痴を言ってしまった。
「トモ、あなたがジョブズのことで愚痴るなんて珍しいな。というより初めてだろう」
ウォズはいつも以上に優しかった。それに今日はどうしたのか、髭をきれに刈り込んだ姿のウォズは気の毒そうに私を見つめた。
「辛くてさ...ウォズ。クリスやランディらの顔をまともに見られないんだ」
ウォズの大きく毛深い腕が私の肩にまわされた。30歳の若者にいいジイサンが慰められているシーンは自分でも情けなかったが、こればかりは私がいくらあがいたところでどうしようもなかった。
「大丈夫だ、トモ。僕に考えがあるんだ。できればあなたにも手伝って欲しいな」

ウォズから聞かされた計画は考えもしなかったことだった。
ウォズは株式の公開直前に自分所有のオプションから2000株ほどずつ、今回の恩恵に与れなかった功労者たちに株を譲るのだという。それらのリストにはダン・コトケ、ビル・フェルナンデス、ランディ・ウイギントン、クリス・エスピノサなどが含まれていると聞き私は気持ちがかなり楽になった。

「ウォズ、私が手伝えることは大したことはないだろうが是非なんでも言ってほしいな。ただしジョブズと衝突したくないから堂々と手伝うわけにはいかないんだ」
私が後ろめたそうにいうと、
「勿論わかってるさ。受付のシェリーにまとめ役を頼んであるから後で彼女と相談してよ」
ウォズは私の肩に回した太い腕を再度揺すりながら、
「元気出してよ、トモ」
といいながら自分のオフィスに戻っていった。
「ウォズのギフトがなかったら,僕はいまだに家も持てなかったよ」
 後年、ダン・コトケは機会がある度にそんな話しをしていたという。

数日後、スティーブの留守をいいことに私はシェリーのところに話しにいった。
「ああ…トモ、ウォズから聞いているわよ。2人で秘密裏にリストアップと株式数などの検証をしましょうね」
シェリーは嬉しそうにいった。
「なんか、気持ちが晴れるよ。君と2人でウォズのプランを実現するのはね」
シェリーは突然目を輝かせ、
「トモ、それいいわよ。この計画のタイトルは “ウォズ・プラン” に決まりね」
思わず私は自分の唇に指を当てて「シェリー、声が大きいよ」といわなければならなかった。

ただしスティーブ・ウオズニアクという人物はお人好し過ぎた。もともと金銭に興味はないのに一躍大金持ちになったのでその処遇に困惑していた。結局「金というものは持ったまま死ぬより金持ちとして生きるべき」というサミュエル・ジョンソンの金言どおりに暮らそうと考えたようだ。しかし自分の財産にも開けっぴろげだったから騙されるべくして騙されることが多かった。

見知らぬ人から援助を申し込まれればすぐに小切手を切るといったこともした。
私は余計な事かと思ったが見かねてウォズのオフィスに行き、
「ウォズ、是非財務の専門家を雇うべきだよ」
といった苦言をいう羽目にもなったが、スタートアップした会社に投資をしたりポルシェを買いそのナンバープレートを “APPLE II”にして悦に入っていた。
しまいにはどこかの弁護士に勧められたとかでサンノゼのイーストサイドにあった映画館まで買わされ結局お荷物となった。

ある日、マイク・マークラと顔を会わせたとき、
「まったくウォズはお人好しだけでは済まないぜ、トモ」
と苦笑しながら教えてくれたことがある。
どうやらウォズの父親から電話があったらしい。息子に注意をしてくれと、何だか小学生に対する物言いのようだったとマイクは笑った。
「まあ、いくつになっても父親は父親だし子供は子供ってことだな」
マイクは優しい表情をしながら続けた。
「トモ、奴の車の中に現金化していない25万ドル分の小切手が散らかっているのを父親が見つけたと言うんだ。まったく常識というか我々の感覚とズレているよ」
「で、ウォズにはなんていったの、マイク」
私は興味を持って聞いてみた。
「ウォズ、金がいらないなら俺が貰うからもってこいといったよ」
マイクは冗談をいいながらも、ウォズが犯罪に巻き込まれるような事態になる事を懸念していたのだ。

ところで非情なスティーブ・ジョブズも身内には優しかった。
両親のポール・ジョブズとクララ・ジョブズに75万ドル相当の株式を送ったが、2人はその一部を売り、ロスアルトスの家のローンを完済した。
スティーブ自身もすでにヒッピーの面影など微塵もなくなっていた。
髪を整え、高級紳士服店で求めたスーツやシャツを着こなした姿は男の私が見ても素敵だった。また高級住宅街のロスガトスに家を買いバーバラ・ヤシンスキーという絶世の美女と暮らすことになるらしいという噂も聞いた。どうやら私には言いにくいのか、直接の話しはまだなかった。

私はこれは居候から脱却するチャンスだと思い、スティーブが贈ってくれた株式の一部を売却して小さな洒落た住居を確保することにした。株式全部を売れば小さな家なら買えたものの根無し草の身としては無駄に思えたから一軒家を借りることにした。
スティーブは私の独立に目立った反対はしなかった…というよりどこか自分が追い出したといった負い目を感じていたらしい。
だからだろうか (トモ、トモ) と前以上に私を当てにしてくれたし引っ越しした翌月には住宅費用補助のつもりなのか給料が増えていた。

年が明けた1981年2月7日、一本の電話がApple全体を揺るがした。Appleに近いスコッツ・バレー空港でウォズの乗った四人乗り自家用飛行機が墜落したというのだ。ウォズは飛行機の操縦を習い始め、結局単発のビーチクラフト・ボナンザを買ったのだ。どうやらそれが墜落したらしい…。
私はそのことを知ったとき、私の肩に腕を回して慰めてくれたウォズを思い出して嗚咽しそうになったが辛うじて我慢した。

一報を受けたスティーブ・ジョブズとマイク・スコットそして私の3人が急遽病院へ向かうことになった。
マイク・マークラやロッド・ホルト、それにランディ・ウィギントンらも行きたがったが病院に大勢で駆けつけるわけにはいかなかったし会社自体も急務のあれこれが重なっていた。
「わかった。では僕は留守番役を買って出るよ。後で詳しく教えてくれ」
マイク・マークラはわざと落ち着いた態度で自分を納得させていたが無意識にか両手で髪を掻きむしっていた。

病室に飛び込んだ我々はウォズが意外に元気そうなのにまずはホッとした。
スティーブは、
「トモ、悪いがマークラらにウォズは大丈夫だと電話してくれないか」
と気遣いを見せた。Appleの社員全体が固唾をのんでウォズの状況を待っているからだ。
「わかった…」
私は病院の待合室まで駆け下りて早速マイクにウォズが無事なことを伝え、病室へとって返した。

ウォズは顔に切り傷を負い無残な姿だったがそれ意外大きな外傷はないように思えた。しかしさすがにショックのためか自分がどのような状況にあるのかわからずボーッとしていた。
「ウォズ、どうだ俺が分かるか」
スティーブはベッドに寝ているウォズに向かって声をかけた。
「ああ、分かるとも」
笑顔を作ろうとしたのだろうが、傷で痛々しいその表情は無残だった。しかしウォズ自身もわからなかったが重度の健忘症となっており事故の前日までの記憶しかなく自分が飛行機事故に遭ったことさえ認識できていなかった。

ウォズの怪我が完治するには1ヶ月ほどかかったが、彼はAppleにすぐには戻りたくなかったらしい。
退院の挨拶のため久しぶりに会社へ顔を出したウォズに受付係兼秘書のシェリーは半べその表情で抱きついた。
「おいおいシェリー、恥ずかしいよ」
ウォズは照れながらエントランスに集まった数十人の社員や役員たちに笑顔を見せた。帰りがけにちょうどスティーブが留守だったからか私のオフィスに立ち寄ってくれた。
「トモ、正式なことが決まったら皆に報告するけど僕はしばらく会社を離れて大学へ復学するつもりなんだ」
なんて反応して良いかわからない私は、
「仕事は問題ないのかい」
どうにも場違いな反応しかできなかったが、すでにウォズは自分が仕事の中心に座ることを意識的に避けていたことを知っていた。
「また来るよ、スティーブによろしくな」
ウォズは大きな背中を見せてオフィスを去って行った。

(続く)

【主な参考資料】
・「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」マグロウヒル社
・「スティーブ・ジョブズの王国」プレジデント社
・「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社


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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員