1985年のスーパーボウルで配布されたAppleシートクッション

いま私の手元に大きな6色アップルロゴがプリントされたクッションがある。クッションとしては安っぽい代物だが、これこそ1985年1月20日のスーパーボウル開催にあたり、Appleが広告宣伝を目的としてスタンフォードスタジアムすべての観客席に置いた伝説のクッションなのである。 


スーパーボウルと聞いて1984年のAppleコマーシャルを思い出すことのできる人はアップル通に違いない。 
1984年1月22日にタンパスタジアムでAppleはあの”1984”を放映して大絶賛された。この時の60秒のコマーシャルは全米9,600万人の視聴者に向けられたもので、いまでもAppleの最高傑作のCMとして様々な場で紹介されているあのコマーシャルである。 



このコマーシャルについてはすでに伝説化され、事実とはいささか違った受け取られ方をしているようだが、その製作のいきさつについてはオーウェン・W・リンツメイヤー+林信行著「アップル・コンフィデンシャル 2.5J」(アスペクト刊)の上巻に詳しいので興味のある方は参考にされたい。ともかくこのコマーシャルは大成功を収め、多くの賞を受賞しただけでなくAppleとMacintoshという名を知らしめるためにその役割を期待以上に果たしたのである。 

翌年これに気をよくしたAppleはMacintosh Officeのキャンペーンにあたり、前作同様にリドリー・スコット監督を起用すべく働いたがスケジュールの都合が付かずに兄弟のトニー・スコットに製作を依頼してできあがったのが「レミングス」というコマーシャルだった。Appleは昨年同様膨大な広告費をかけ、スタンフォードスタジアムに巨大スクリーンを設置しただけでなく、座り心地が悪いことで知られていた85,500もの座席すべてにAppleロゴをプリントしたシートクッションを配置した。 

勿論試合の当日スティーブ・ジョブズとジョン・スカリーは最前列で観戦したが、Appleの期待に反してコマーシャルは不評でありキャンペーンは失敗と評価された。確かに「レミングス」は暗い印象ばかりが目立つもので、「1984」のように未来に対して期待を持たせるあるいは開放感という印象は薄いものだった。 

実はいま私の手元にあるこのシートクッションは、その1985年1月20日にスタンフォードスタジアムで配られた内の一枚なのである。さすがに些か変色や一部にはシミも見られるが、まだまだ綺麗である。 

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クッションカバー材質はポリエステル製で中のクッションはポリウレタンだが共に不燃処理されているようだ。サイズは330mm×330mmで厚さは約40mmある。それ自体は大したものではないが、問題は片面に大きな6色のAppleロゴがプリントされており、もう片面には「Super Bowl XIX/Stanford Stadium・Stanford, California・January 20, 1985」の記載と「1984 NFL」というCopyrightがプリントされている。またAppleロゴの面には「27」とナンバーが記されているシールが付いているが、これがシートナンバーなのだろう。 
そしてシートに固定するために約60cmのマジックテープ付きストラップとロゴ正面から見て上部には取っ手がついている。 

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23年前のスーパーボウル開幕にあたり、スタンフォードスタジアムの”27”番シートに座ったのはさてどのような人なのだろうか。無論現在までこのクッションが無傷で残っていたのはそこにAppleロゴが配されていたからに他ならない。他の企業のものなら申し上げるまでもなく当日に廃棄されたことに違いない。 
私はフットボールに関心がないため、1985年にどのような試合があったかはまったく知らないでいた。しかしちょっと調べてみると1985年1月20日の試合は第19回のスーパーボウルでSan Francisco 49ersがMiami Dolphinsを38対16で破っている。そしてABC放送により試合はテレビ中継されたということがわかった。 
なお、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」によれば、スーパーボウルのチケットはほとんど入手困難であり、経済効果も莫大なだけに毎年チケット取得をめぐって様々な話題を提供しているようだが、テレビ中継されるそのコマーシャル枠の価格は世界で最も高価で、大手企業が大金を惜しみなくつぎ込むことでも知られているようだ。そしてその契機になったのはあのAppleの”1984”だっというから愉快ではないか。
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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員