3Dプリンター「FLASHFORGE Inventor」のサポート材にPVAフィラメントを使ってみた

3Dプリンター「FLASHFORGE Inventor」 による造形能力の全容を少しずつだが検証し続けている。かなりの時間がかかることになるが、何ができて何ができないのか、どうやったら上手くいくのか、あるいは難しいのかを知らなければ実用にならない。とにかく一番厄介なのはサポート材の処理だ。これを上手くコントロールできなければ複雑なモデルはプリントできないことになる。


私にとってFLASHFORGE Inventorは2台目の3Dプリンターだが、これまで大小のオブジェクトを多々プリントしてきた。しかし造形の仕上がりの良さはいつもサポート材をいかに綺麗に除去しその痕を消すかにかかっている。
皆が皆シンプルな形のプリントならいざ知らず、入り組んだ複雑なモデルをプリントすることを考えるとサポート材のあり方をいかに制御できるかがプリント成功の鍵となることは間違いない。

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※FLASHFORGE Inventor


私が2台目の3DプリンターにFLASHFORGE Inventorを選んだ大きな理由の一つが本機がデュアルヘッドを持つ製品だからだ。
普通は当然ヘッドは一つであるが、2つあればできることが拡がってくる。勿論ヘッドが1つより2つあれば全てが2倍良いことができるかといえば功罪相半ばといった部分もあるから単純にはお勧めできない。
ともあれ理屈からすればヘッドが2つあれば2色のプリントが可能となるが、私が拘ったのは一方のヘッドに溶解性フィラメントを使ってそちらをサポート材専用とすることでプリント後の処理が格段に簡単となり、かつ綺麗な造形結果となる理屈だからであった。

FDM方式の3Dプリンターで使える溶解性フィラメントには大別してHIPSとPVAの2種があるようだ。
HIPSは主にABS樹脂向けのサポート材らしいが、プリント後にリモネンという柑橘系溶剤に浸すことで溶かすことができるフィラメントである。ただしリモネンという溶剤は取扱が面倒なだけでなく価格も高いという欠点があり、主にPLAフィラメントを使っている私としては好んで使おうと思うアイテムではない。
一方PVAは水に溶解する(実際にはお湯が効果的)ので取扱も簡便だ。ただし一般的なABSとかPLAフィラメントと比較すると価格は3倍近くするものの背に腹は代えられずPVAフィラメントを2種購入してテストを始めた次第。

InventorC_02.jpg

※用意した2種類のPVAフィラメント。結局今回はESUNの方で造形した


無論サポート材を溶解性フィラメントに担当させることが可能なのはFLASHFORGE Inventor がデュアルヘッドの3Dプリンターだからだ。一般的なヘッドがひとつの製品では逆立ちしてもできない…。
とにかく簡単なモデルではPVAの神髄は分からないだろうとあえて難しいモデルに挑戦してみた。
それは大英博物館サイトで公開していた「水月観音像」である。オリジナルは12世紀の作品だというが、岩の上に座し、リラックスした独特のポーズで水面に写っている月を眺めている姿だという。

■サポートの設定
 早速スライサー「FlashPrint」にSTLファルを読み込み、サポート材を枝形で試みてみたものの自動サポートで進めたテストプリントは水月観音像の右手先が不出来に終わった。サポートをもっと追加しなければならなかったようだ。
ちなみに「FlashPrint」の場合、サポートは前記した枝形とライン形が指定できる。

一般的な道理からいえば、今回のモデルには枝形が適しているはずだが、どうにも不安定に思え、サポートを手動で多々加するに至って「どうせ、サポートは溶解できる」という前提で考えるなら造形には安定していると思われるライン形をあえて使おうと考えた。

いずれにせよスライサー上でのシミュレーションを確認すると枝形にしろライン形にしろ、フィラメント一種ではプリントした結果は目に見えている。旨く行くはずがない(笑)。
ボディはPLAを使ったが、もしこの複雑怪奇なサポート材をボディと同様PLAでプリントした場合、プリント後にサポートを綺麗に剥離するのはまず不可能だと思われた。

■デュアルヘッドの利点と欠点
 これから行うことはデュアルヘッドならではだが、サポート材をPVAフィラメントに指定し、なるべく左右のフィラメントが混ざらないようにとオプションの「壁」をONにした。なぜならデュアルヘッドで2種のフィラメントを扱う事は思ったほど簡単ではないことが分かってくる。

詳しい解説をするとそれだけで当該ページが埋まってしまうが、要はデュアルヘッドを生かして両方を使うとなれば、右のヘッドで積層しているとき左のヘッドも生きていることを忘れてはならない。
特にPLA樹脂はプリント中にホットエンドの熱でプリントされてないヘッドからも余分に樹脂が垂れてくる。極端に言えば右のPLAフィラメントでサークルを描いたとすれば左ヘッドのPVAフィラメントも同時にサークルを描く。フィラメントを熔解しノズルから押し出すことを厳密にON・OFFできないのだから仕方がない。

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※別の造形失敗例。右側の青い円形をPLAで積層するとPVA指定した左ヘッドも連動する時がある


結果どうなるか…。お互いの積層上にお互いのフィラメントを引きずり、混ざってしまうことが起こりうる。この問題を少しでも軽減しょうとする機能が「壁」オプションなのだ。
「壁」をONにすると文字通りオブジェクトを囲むような壁型のオブジェクトを同時にプリントすることでその壁で移動中のノズルから垂れた樹脂をブロックする感じでプリント中のヘッドクリーニングが可能になる。これによって2色プリントで左右ヘッドから押し出されるフィラメントカラーが混じったりするトラブルを回避できる理屈だが、完璧ではない。

■スライス
 スライサー「FlashPrint」によるスライス設定はどのような状態でプリントされるかビジュアルで確認出来る。なおオブジェクトは通常の座像のままスライスしてテストを繰り返したが、やはり下げた右手の先が綺麗にプリントできないことが多かった。
全体的にはこの座像のままの位置でプリントした方が積層が綺麗だと経験で理解しているが、そうした理由もあって今回はあえて像を寝かした形でスライスすることにした。

InventorC_04.jpg

※スライサーFlashPrintによるスライスシミュレーション


さらにこうすると後でサポート材が綺麗に溶けてくれる "はず" だとしても微小な顔にサポート材が不要になるからでもある。
そしてサイズを高さ13センチに設定し最後にプリント時間を短縮するため、像の背面を一部切断した…(あくまでテストプリントなので)。
こうしてGコードに出力したデータはプリント推定時間15時間と表示された。
データの準備はできたので今度はプリントする準備だ。

■PVAフィラメントのセッティング
 手に入れたPVAフィラメントはそのままでは純正品の600gフィラメントよりスプールおよびスプール穴の直径が大きく本体内のラウンジトラフに納まらない。

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※スプール穴のアダプターを3Dプリンターで自作しPVAフィラメントのスプールをセッティング


ウェブでググってみたら同じフィラメントを使うためにラウンジトラフを10mm上に位置させるアダプターを3Dプリンターで作ったという素敵な記事を見つけたので真似してみた。このアダプターをかまして補助用軸で取り付けると回転もスムーズだ。
今回の物よりもスプールの直径サイズや幅が大きなフィラメントは内蔵できないので何らかの工夫をし、外から引っぱり込む工夫をする必要があるが、それはまた後の楽しみとしよう。

■プリント開始
 今回2種類のPVAフィラメントを手に入れ、指定温度でサポート材の造形をやってみたが両方共にビルドシートに定着しない。当初はラフトもサポートも全部溶かしてしまえとばかり贅沢にもPVAに設定したが、ラフト造形の時点で端から剥がれてくる。

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※PVAによるラフトがビルドシートに定着しない。次の機会にはプラットフオームの温度を工夫してみよう


仕方がないのでラフトはPLAとし、前記した理由で横にしたオブジェクトをプラットフォームより数ミリ浮かしてスライスし直した。無論その隙間はサポートで埋まることになるがこれはラフトとモデル本体が造形後剥がれなくなることを避ける意味で有効なのだ。

結果、ラフトはPLAなのでビルドシートにしっかりと馴染み、その上にPVAサポートが造られ、さらにその上にオブジェクトが積層されるということになる。本来サポートは少ないほどよいが今回はPVAを使ったことで溶解できることを信じてふんだんに使ってみた。
またデュアルヘッドを使う訳で、2種のフィラメントが混じり合うことを極力避けるため、解像度設定のオプションである「壁」をONにしてある。なお「壁」の効用は前記「デュアルヘッドの利点と欠点」の通りだ。

■プリント結果
 これまで何度か2色プリントのテストをしてきたが思ったように仕上がったことはなかったから期待はしていなかった。ただただPVAがどれほど綺麗に溶解してくれるかの確認の方が期待値のウエイトが高かった。
さて、予想の15時間を軽く超えプリントが終了した結果を見て「これは大変だ」と思った。何しろ出来上がった姿は鳥の巣みたいでゴチャゴチャだったからだ。
いくらPVAとはいえ、これだけ複雑怪奇に絡み合った積層の中から「水月観音」だけ綺麗に取り出すのは無理かも知れないと絶望感一杯…。

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※プリント終了後の様子。絶望感一杯(笑)


ともあれ気を取り直しまずは手やニッパーで本体を傷つけないよう壁やバリ、ラフトを剥がしていくと思ったより綺麗なオブジェが現れたではないか。しかし当然とは言えPVAによるサポート材が複雑に絡んでおり、もしこれがオブジェと同じPLAなら綺麗に仕上げるのは到底無理だと諦めざるを得ない状況だった。

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※壁やバリ、ラフトを剥がしていくと思ったより綺麗なオブジェが現れた


早速洗面器に60℃程度の熱めの湯を用意してその中に造形したオブジェを浸した。
30分程度経ってから覗いて驚いた。ほぼPVAによるサポート材が溶けているのだ。後は歯ブラシを使い、残っているサポート材を丁寧に擦りとったところ想像していた以上に綺麗な結果となった。

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※PVAによるサポートが綺麗に溶解した【クリックで拡大】


■総括
 高さ13cmと小さな像だし使ったフィラメントがクリアという半透明な樹脂なので光の具合でディテールが見えにくいのが難点だが、目鼻立ちもきちんと出来ているし心配した右手指も問題なかった。

オブジェを横にしてのプリントは顔にサポート材を作らないために取った策でもあったが、本体の積層は立てて造形するより些か粗い感じになった。しかし一番の目的だったPVAフィラメントをサポート材として使うというテストは上首尾に終わった。

無論まだまだ検証すべき点は残っている。PVAフィラメントをビルドシートにいかに定着させるかも探りたいし、PLAとPVAをどちらのヘッドに割り振ったらより良くなるのか、あるいは同じなのか等など多々確かめてみたいと思っている。



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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。ゆうMUG会員