上手なプレゼンは「上質のジャズ演奏のように...」が理想

本場米国のExpoなどを見るにつけ、最初の頃は随分とカルチャーショックを受けたものだ。それは「何故こっちの人たちはプレゼンにしても商品説明にしても、上手なんだろう」ということだった。 


それも話は滑らかに、そして絶妙の間とユーモアに充ち、ボディアクションも豊かに説明する彼ら彼女らは決して外部からこの日のために雇った専門家ではなく、そのほとんどが社員たちなのだ。 

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※Macworld ExpoのAppleのブースで魅力のある説明を行う女性


それに引き替え、日本のこの種のイベントは大手企業ほど、いわゆるコンパニオンを並べて型どおり自社製品をアピールさせるというやり方が大半となる。集まる客も製品を見に来ているのかコンパニオンの写真を撮りにきているのか分からない人たちも目立つ(笑)。しかし本場のMacworld Expoではまずこのようなブースは少ない。 

当初私はアメリカの人たちがこれほど優れたプレゼンができる理由のひとつに英語と日本語の違いがあるのではないかと考えた。英語だからこそ、あのテンポと抑揚がでるのかも知れないと考えたわけだ。そして二つ目はいうまでもなく教育の違いである。 

私たちの年代は特にどちらかというと幼少から自己主張をしないようにと教育された傾向は否めない。特にお喋りの男は嫌われた(笑)。寡黙が美徳のように思われた時代もあった。それがどうだろう、今では明石家さんまのような芸人が人気の的だ(爆)。 

それはともかく多民族国家のアメリカでは、生きていくため良い意味での自己主張が不可欠だという。 
こう考えると私たちがアメリカ人のように、大勢を前にして上手なプレゼンを行ったり講演をすることはなかなかに難しいこととなってしまう。 

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※観客の視線を自在に操り、絶妙なプレゼンをするVideoToasterブースのスタッフ(Macworld Expoにて)


ただしアメリカ人だって練習もせずに、誰もがあのように上手な話し方ができるとはどうしても思えないから当然のことながら裏では最大の努力をしているに違いない。 

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※お遊びなのだろうが幼児がヘッドセットを付け、絵を描きながら説明する様は思わず立ち止まってしまう(FractalDesign社ブース)


そんな事を考えていたとき思いあたったことは、日本の文化にも「笑い」「絶妙の間」[絶妙のテンポ]「流暢な話し方」そして「ボディアクション」を常に取り入れている伝統芸があることを思い出した。それは皆さんもよくご存じの「落語」である。 

私も落語は好きなほうで、たまには名人と言われる人たちの芸を見聞きすることがある。 
手ぬぐいと扇子だけでどんな世界にも客を引き入れてしまう落語の存在を思い出したとき、「日本語では上手な話し方ができないのでは...」という思いが払拭されたような気がした。 

日常会話とは違い、自社の製品をアピールするにはそれなりの技術が必要だ。大げさにいえば真剣勝負の気迫も必要なのだと思うが反面ある意味で冷静な計算も必要である。しかし残念ながら私達の多くはこの種のアピールに慣れていないばかりか、正直いって勉強不足ではないだろうか。人前で大きな声を出すことひとつでさえ訓練した人がどれだけいるものか…。 

それから、ただ単にテンポがよく、抑揚のある話し方をすればそれで良いわけではない。 
通りかかった人たち.....すでに目を向けている人たちが興味を持ち、自社ブースの前で立ち止まって話を聞いているとき、単にマニュアルどおりの説明を喋っていてはだめなのである。それではこちらが口を開いた瞬間にお客様は去ってしまう。 

ところで私はよく秋葉原に出向く。無論電気街をいつものように一回りするのが楽しみなのだが、もうひとつの楽しみが駅前にある。それがそこで包丁や洗剤などを店頭販売している人たちの話術を聞くことだ。 
なにしろ駅前の人だかりの中で30分もその話術に耳を傾けていることもしばしば...(笑)。事実私自身がかつてブースに立ち、大勢のお客様に対峙する語り口の中には、これらの方々から拝借したテクニックがたくさんあるのだ(^_^)。 

また現代ではあまり見聞きしなくなったが、フウテンの寅さんよろしく香具師たちの口上を見聞きするに、唸ってしまうほど客の心理をとらえた話術がたくさんあるのに気が付く。 
例えば回りに集まったひとたちを自分の説明が終わるまで離れないようにするテクニックは...こんな切り口上ではじめるのだそうだ。 

「え〜こういう人の多い場です。皆さん方には懐に十分注意してくださいよ。なに、この商売も長い間やってるとね、スリが誰なのか...なんてすぐ分かる!」「現にね、この中にもスリがおいでになる! さあさあさあ、懐に気を付けて話を聞いとくれってんだ...。」 
こんな話をされたんでは、いますぐイソイソとその場を離れるとスリではないかと皆に思われると考えてか、誰もがその場を離れられなくなってしまうという。 
大げさでなく、我々の文化にも上手に語る文化はあったのだ。 

しかし多くの土地や場所で、さまざまなシチュエーションによるプレゼンあるいは講演や店頭での説明係りをやってきたが自身の体調やテクニックもさることながらお客様が少しでも乗ってくれると大いに調子は上がるものだ(^_^)。 

以前大阪で展示会があったとき、一日に数回短めのプレゼンテーションを頼まれたが初日が終わったとき関係者のお一人からお褒めの言葉をいただいた。 
「松田さんって凄いですね。テーマが同じなのにこちらが10分とお願いすればピッタリ10分で...20分でとお願いしたらこれまたピッタリ時間内で起承転結が完結するのですから...」と。 
ひとこと「プロですから」と笑ったが、これでも影で滑舌や時間の配分方法を随分と練習してきたのである(笑)。 

大勢を前にした際の話し方の理想は入念な練習・訓練を積んだ上で、実際のプレゼンやデモンストレーションあるいは講演時にそうしたそぶりを少しも見せず、あたかもアドリブであるかのような結果が出せれば成功なのだと思っている。ちょうど良質のジャズ演奏のように…。


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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員