SOHOと言えば聞こえは良いが「一人の仕事術」考察

そういえば一時はSOHO...SOHOと騒がれたが最近はあまりこの言葉を聞かなくなった。それはともかく最近会社を辞めて独立したり定年を契機に新しい仕事を一人で始めた友人知人たちが目立つようになった。しかし口々に一人の仕事は思ったより楽ではないとぼやく...。今回は「一人の仕事術」といった話をしよう。

 
私たち団塊の世代が定年を迎える時代である。しかし現在の60歳はまだまだ健康であれば働けるしまた働かなくてはならない。
友人や知人たちの中には何らかの形で再就職する人たちも多いが早期退職した幾人かは良い機会だからと自分で思うような仕事を始めている。その仕事の内容や売上がどうのこうの...という話は横に置いておくとして、彼らが一様にいうのは当初考えていたより一人でやる仕事はなかなか難しいということだ。

私自身は2003年に会社をたたんでから良くも悪くも一人で仕事をするはめになったから、早くも今年で6年目になる。彼らよりはSOHO先輩格だからか、先日そうした人たちとの話の中で「一人の仕事術」といったことに対して意見を求められた。

それまで30年以上もの間、大小はともかく組織の中で仕事をやってきた一人としては一人で仕事を始めたとき、確かに戸惑うあれこれに遭遇した。
実際にそうした環境に置かれる前に想像していたことといえば、まず自宅を事務所とするなら「通勤から開放される」という安堵感があった。そして自分一人なら上司も部下もいないわけで、厄介な...実に厄介な人間関係を気遣う必要もないということになる。

持論だが、会社というのはおかしなもので、業績がよく順調なときには人事の問題で悩み、人事が順調なときには業績悪化で悩むものだ。結局いつも人と金の2つの問題で経営者や責任者は頭が痛いわけだから、自分一人が喰っていければよいと腹をくくれれば気が楽になると考えても責められまい...。
そして時間だって十分あるはずだし、その配分だって自由に使えるに違いない。さらに自身の責任において他人の意見に惑わされず思った通りのことを思った通りに進めることができるわけだから精神的な圧迫も少ないはずだ...。

ほとんどの人がSOHOというか、一人で仕事を始めようとするときこうしたイメージから利点ばかりを期待するケースが多いと思う。
事実世の中には最初から自身の能力を最大限に活かし、一人で世間を相手に立派な業績・実績を残している人たちもいる。だから自分もやり方次第で頑張れば組織ではできなかった類の仕事も可能になると考えても不思議ではない。しかし現実はそうそう一人で仕事をやろうとする人に楽をさせてはくれないのである。
ではどんな問題点があるのだろうか...。

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※その昔、先輩に「仕事は名刺でするものではない」と言われたけれど、それは大会社の看板に寄りかかってはいけないという意味だった。寄りかかるもののないSOHOではまず名刺からビジネスを始めるしかない(笑)

 
まず最初に考えなければならないことは、古くさい言い方だが自分をコントロールする強い意志を持たなければならないことだ。そして組織内での仕事以上に仕事の手順を明確にし、優先順位をはっきりさせないと混乱の極みとなる。
なぜなら基本的に通勤もないしタイムカードもない。気を使う同僚もいないとなれば、クライアントから電話で起こされるまで寝ていてもそれは誰も文句はいわない(笑)。
また飯を食いながら仕事しても、あるいは就寝の時間を無視して仕事を続けてもこれまた自由だ。しかしこんな行き当たりばったりの生活を続ければ早々身体に異変を起こすに違いないし効率もあがらない。

次に気づくことは一人でいるのは大変刺激が少ないということだ。
日々インターネットでニュースを覗いているだけではすぐに飽きてくるに違いないし、物事は目的があって初めてやる気がおきてくるものだから、モニターを「ボーッ」と見ているだけでは情報も刺激にならず、あっという間に呆けるかも知れない。

自由気ままに数週間も過ぎると何だか離れ小島に流されたような妙に寂しい思いが膨らんでくる...。
ふと思い出すと辛いと思っていた通勤時の中吊り広告でさえ懐かしく、そんなものもそれなりに大切な情報源だったと気づく。

とにかくパソコンの前に座ってインターネットにアクセスしていれば情報が入ってくると思っていたら大間違いである。重要なのは良い意味での刺激になる情報の求め方だ。
意識して自分の頭脳に良い意味の刺激を与え続けることを考えないと仕事に対する意欲も減退する。ここが勝負所であろう。

実は私が犬を飼い始めたひとつの理由はここにあるのだが、そのことはまた別の機会に譲るとしよう。
またそれらに関連し、当然のことながら会話すなわち喋る機会が極端に少なくなる。一昔前ならビジネスは人と面と向かわないまでも電話でやり合うのが普通だったが、近年は電子メールでほとんどのことが済んでしまう。
そんなわけだから会話の機会がグンと少なくなり、中には自分では意識せずに独り言が多くなるという人もいるくらいだ。

それから特にこれまでずっと組織の中で働いてきた人は、些細なことほど多くの人たちに支えられて仕事が遂行していたことを嫌でも気づかされるだろう。
例えば封筒への宛名書き、郵便物の投函、宅配便の準備やピックアップの依頼、見積書や納品書あるいは請求書作りは勿論契約書などの法的文書の作成、コピー1枚撮るのも当然だが自分でやらなければならない。ボールペン1本、プリンタインクひとつでもこれまでなら総務部に連絡すれば揃えてくれたかも知れないが、ひとりになれば自身で買わなければならない。

仕事って...こんなに雑事が多かったのかとあらためて思うに違いない。
さらに務めていたとき、例えば勤務中時間調整のためにコーヒーショップに入って一杯のコーヒーを飲むことはそれなりの癒しになっていたはずだ。コーヒーショップでなく本屋でもよい...。
駅構内の小さな本屋で一冊の本を探しているときなどそれはそれで「サボっている」という感覚も含めて仕事から解放され安らぎを覚える一瞬に違いない。しかし一人になって同じことをやったとすると理窟では例え半日コーヒーショップに入り浸っていても誰も文句は言わないはずだが、他の人が働いているときにこんなことしていて良いのか...と妙に後ろめたい気持ちがついて回る。
まあまあ...人間というのはどんな立場にいてもなかなか一筋縄に達観はできないものらしい。

またこう言っては何だが、例えば長い間営業一筋...といったビジネスマンがいたとしても意外と世間を知らない場合も多い。
いや...自分の仕事そのものに関してはプロフェッショナルなのだが「会社・企業は物を販売すればそれで済む」といったことを無意識に身につけてしまった類の人もいる。しかしそれが何であれ、ビジネスは対価となる支払をきちんとしてもらい利益を得て初めて成り立つものだ。そうした当然のことをないがしろにし、相手をよく見ずに売上を焦げ付かせたり、入金より先に支払をしなければならないはめになったりという苦労をしている人たちも多い。

それから、年長者が会社を辞めて1人仕事を始めるという事がそもそも大変不安定な生き方となることは知るべきだ。会社というバックグランドがなくなり、部長とか課長と言った肩書きもない。そんなオヤジが形どおりの名刺を作って歩き回ったとしても相手にしてくれる人は希だ...。昔の関係者以外は誰も貴方のことなど知らないわけで、相手にされないことに愕然とするかも知れない。

例えば昔のコネを利用しようと思っても、それまで会社の一員であり部長や課長という立場だったからこそ取引先も相手になってくれたが、1人では体よく付き合いは断られて当然だ。ましてやサラリーマン時代に企業の看板を盾にして取引先に無理を言い、それが自分の能力による成果だと考えていたような奴はそれこそ掌を返されるだろう。

そこで初めて組織の意味や会社の看板の有り難さや重みに気がつくのでは遅いのだ。世間にとって自分がいようがいまいがどうでも良いということに思い至って愕然とするし、思わず「元○○商事の営業一課課長だった鈴木です...」と昔の会社の名前を出さざるを得なくなる...。敗北感を味わう瞬間である。

さらに組織では自分のミスや至らなかった部分を他者が変わってやってくれたかも知れないが、一人の仕事はすべて自身でゼロからやり遂げなければならない。したがって仕事のやり方は勿論だが資金の流れやその確実性に気を使いすぎてまずいことはないのである。
いやはや、意外にSOHOも気苦労が多いということだ。

それにサラリーマンなら交通費は支給されるし大手の場合なら昼食も一部負担あるいは社員食堂で安価に食べられる企業もある。しかし個人では打ち合わせのために電車に乗ろうが車で出かけようが電車賃やガソリン代は100%自己負担だ。それでも打ち合わせの結果、仕事になればなにがしかの額が入ってくるだろうが、世の中そんなに甘くない。そもそも打ち合わせの相手がサラリーマンならそうしたコスト感覚がないことが多く、時間と経費をかけてこの場にいることを察していないケースが多く、気楽に付き合ってはいられない...。したがって付き合いは大切だが、安易に振り回されることのないようにしなければならない。

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※時には大きな組織が懐かしくなる...かも


ひとつ具体的なアドバイスとしては、落ち込んだときあるいは困ったとき気軽に電話できる友人関係を作っておくことをお勧めする。それは具体的な解決策を授けてもらうということでなく大切なのはあなたの仕事と個性を理解して親身に話を聞いてくれる友人だ。無論飲み友達でそうした仲間がいるならなお良いだろう。

確かに仕事は一人でできるかも知れないが、その小さなビジネスにしても側面や裏側で様々な人たちが動いていることを忘れてはならない。
そして事実気のあった人たちと組んでやる仕事ほどうまく行くものだし、良い結果となることが多い。
だからなんでも自分一人でできると思い込むほど、危険なことはないのである。自分の不得手なことは他の人に手伝ってもらうことがお互いに良い仕事をそつなくこなす仕事術の極意なのかも知れない。

そして最大の問題は家族...特に奥さんの理解を十分に得なければ仕事どころか家庭崩壊、熟年離婚にも発展しかねない(笑)。いや笑い事ではない!
「亭主元気で留守がいい」ではないが、これまで朝出勤して夜帰宅するというリズムがあったのに、亭主がずっと家にいるだけで奥さんのストレスは確実に増すに違いない。

自宅で仕事を始めたのはよいが、奥さんとの衝突が多く、これなら会社のやつらとやり合っていた方がマシだった...ということになってはマズイのである。
特にそれまで奥さんを空気みたいな存在にしか認識していなかった旦那は、つい奥さんを自分の部下代わりに使おうとする人も多いようだ。

やれ、あれを買ってきてくれ...銀行に行ってくれ...などなどと...。
一人で、それも自宅で仕事をやろうとする男は、1週間のうち数日でも良いから夕飯の支度をかって出るくらいの覚悟と決意が必要だと思わなければならない。
奥さんに疎まれる一人仕事など、長くは続くはずがないではないか。
頑張りましょう...ご同輩!


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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員