パーソナルコンピュータは果たして知性を増幅させる代物なのか?

iPadやiPhoneを手にしている毎日は実にエキサイティングだ。次々に新しいものと出会うことになるだろうしそれらを手にしていると実に精神的にも落ち着いてくるような気もする(笑)。我々にとって無くてはならない物としてこれらは何らかの実用性を問うより精神健康グッズと化しているのかも知れない...。

 
マウスを発明したダグラス・エンゲールバートはコンピュータを「人間の知性を増幅させるマシン」と捉えていた。またスティーブ・ジョブズはかつてMacintoshを「知的自転車」と表現し、私たちの知的な行為はMacintoshを使うことで徒歩と自転車を使った以上の差を生じるとアピールした。

そうした観点から見ればパーソナルコンピュータやそこから派生してきた携帯電話あるいはiPadといった最新のガジェットは私たちの生活を便利で豊かにしてくれるものと考えられるし事実そうした考え方を否定する気はない。
私自身長い間パーソナルコンピュータおよびそのソフトウェアに興味を持ち、それらを扱うことを仕事としてきた1人だ。しかし手元にあるiPadの魅力に溺れつつ最近になって考えることはこれらの機器は果たして私にとって「知性を増幅するマシン」あるいは「知的自転車」となり得たのかどうか...ということである。

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※1978年撮影。前年に購入したワンボード・マイコンを自作ケースに入れて使っていた


ところでMacintoshが誕生したのはご承知のように1984年である。したがってその年に生まれた方は今年で26歳になる。
いまさらではあるがこうした方々は生まれたとき、パーソナルコンピュータが存在し無論家庭には電話やテレビは当然のこととして鎮座していたはずだ。また物心ついたときにはテレビゲームや携帯電話も自然な形で身につけたに違いなく、彼ら彼女たちの多くはこうした最新鋭の機器を身にまとって成長してきたといっても良いだろう。そして私などもパーソナルコンピュータという存在が新しい何かを生み出す原動力となり、新たな時代を作る基盤となると信じてビジネスを続けてきた。その課程でデジタルはすべてにおいてアナログより優れているといったイメージが先行したのも事実である。
これは最近の電子書籍は紙媒体の本を凌駕するといったニュースにおいても同じ視点で物事を見ていることに気づかされる。

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※1978年12月コモドール社PETを購入。写真はフロッピーディスクドライブとプリンターが揃った1981年撮影


が、過去を振り返って総括してみるとデジタル機器の台頭は果たしてそうしたバラ色の事ばかりであったとは思えない。
例えばだが、貴方は仕事関係、友人、家族、親戚らの電話番号をいくつ暗記しているだろうか。
先日身近の人たちに尋ねてみたが、ほとんどの方はそうした「電話番号を記憶する」ということを端から放棄し意識していないため、あらためて問われても自宅や会社の代表番号を含めて5カ所程度しか即答できないことがわかった。いや...他人事でなく私自身も同様で、まごまごしていると自宅の電話番号もあやふやになってくる。

ただし1970年代の私は間違いなく50カ所ほどの電話番号を記憶していたはずだ。無論間違い電話をしないため小さな手帖を確認することを常にしていたが、友人たちや主要な取引先、親兄弟などへの電話番号は自身の記憶を信頼していたものだ。
これは決して私が優れた記憶能力の持ち主であったわけではなく、当時皆が同様だったはずだ。そして問題は電話番号だけでなくより多様な住所だって数十カ所は記憶の棚にしまって置けた。
それがどうだろう...。いまでは携帯電話に100%頼っているからともすれば自分の携帯電話の番号でさえ確認しないと明言できないありさまだ。

一昔前は今のようにデータを容易に記録・再生できるものがなかったから自身で記憶するかあるいは頻繁にメモを取るしかデータと対峙する方法はなかったのである。とはいえ面白いことに当時だれもこうした環境を不満・不便に思っていたわけではないことだ(笑)。

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※1984年に購入したIBM 5550を前にした筆者


計算だって同じ事がいえる。
私が会社勤めをしたころ、机上にパソコンは勿論電卓すらなかった。無論会社に大型コンピュータが導入されたのは後の事である。だから一部上場企業の決算でさえ数値の集計はソロバンが頼りだった。
決算はともかく日常の集計にはソロバンで数回計算の確認をするのが日常だったし3桁4桁の四則計算程度はソロバン三級の私でさえ暗算ができたのである。それが今では2,3桁の加算でも電卓を頼りにしている自分がいる。

四半世紀前の日常を体験してきた1人として、そして1977年にワンボード・マイコンに出会ってこの世界に足を踏み入れ、その後現在までパーソナルコンピュータや関連機器あるいはソフトウェアを身にまとってきた1人としてこの変貌は果たして私の知性を増幅させたのだろうかと考えてしまう...。
しかし言葉の綾ではなく25年前の私は現在の私より若く柔軟であったということも含め現在より劣っていたとは思われない(笑)。

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※Apple IIとEPSONハンドヘルド・コンピュータHC-20とでファイル交換を試みた。1983年撮影


それに私のような歳になると以前には考えたこともないような昔の情景が思い出されるが、人の一生はコンピュータを使うことで長生きできるわけではない。限られた時間内に膨大な量の情報を体現させてくれることは間違いないが、その事だけで知性の増幅とはおこがましい。第一その情報だって本当に必要な物であるかは大いに疑問である。そうではないだろうか...。
さらに我々に与えられた時間はどうあがいても有限だ。したがってひとつの事に感心を向ければ別のチャンスは後回しになるか失うことになる。

コンピュータを使い、与えられた仕事を早く処理し余った時間をより有効なことに使う…といったことを目指しても現実は余った時間は別途増えた仕事に費やさなければならない。コンピュータで効率を目指した私たちだが結果は仕事を増やしてしまった感もある。

以前友人と話題にしたことがあったが、我々は好んでMacintoshを使ってきた。Macintoshだからというわけでは決してないが、このブラックボックスのパーソナルコンピュータというじゃじゃ馬を何とか乗りこなそうと多大な時間と労力をそれにかけてきた。特にこれまでにトラブル解消とメンテナンスにかかった時間を合計するとどれほどの時間を無駄にしているのだろうかと...。
勿論トラブル解消は単純に無駄な時間ではなくその体験から次のトラブルを減少させる何かを学ぶことができると宣うひとがいるかも知れない。確かに理屈ではそうだが、私にとってはやはり無駄なことは無駄な時間だったと思うしかない。
それこそ理屈だが、そのトラブルに使った時間を全部集め、本を読んだり映画を見たりできたとすればそれこそ知性の増幅となったのではないだろうか。

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※1984年、購入直後のMacintosh 128K。画面はMacPaint


パーソナルコンピュータに出会い、それをたまたま好んだ私は時代の風に後押しされ、自分で言うのも僭越だが針の穴のように小さな世界とはいえ一時期時代の寵児となった。しかし食うに困らない資産が残ったわけでもなし、実績として目に見えて残ったものは...そう、10数冊の著作物程度でしかない。
そうした体験からこれまでのパーソナルコンピュータという代物を振り返ってみるとそれは「知性を増幅」させるのではなくどこか「知性を消耗させる」アイテムではなかったかとも思ってしまうのだ。

いま、iPadが登場しパソコンの終演といったことが話題にもなっているが、我々は心のどこかでこれまでのパソコンというものに疲れを感じているのではないだろうか。その意識がよりシンプルなiPadを好ましく思うのかも知れない。

他の方は分からないものの、私にとってパーソナルコンピュータは残念ながら「知への好奇心を増幅」することはあっても「知性の増幅」にはなっていない。しかしパーソナルコンピュータの一番の効用は実に「人と人を結ぶHUB」となってくれたことではないかと考えている。それが近年ソーシャルネットワークの台頭で著しくなってきたと実感せざるを得ない。
それがコンピュータというものを33年間手にしてきた結論のような気がするのだが、皆さんにとってのパーソナルコンピュータはどのようなアイテムなのだろうか?


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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員