1930年代のポケット計算機「Fowler's Calculators」がやってきた!

「計算機」といえば現在ほとんどの人はコンピュータあるいは電卓のことを思うに違いない。誰もソロバンであったり計算尺のことを思い浮かべる人はいないというのが現実だろう...。しかしソロバンや計算尺といったものは単に計算機の進化上、その途上にあっただけのものなのだろうか...。そうした疑念というか思いが募り、以前タイガー計算機を手に入れたこともあったが、今般手に入れたのは1930年代に作られた円形のポケット計算機である。


最初にイメージを確かなものとするために結論めくが、このアイテムを理解するには「円形の計算尺」というものを想像していただくと良いと思う。事実現在でもコンサイス社製の円形計算尺などは入手できるようだ。
ところで「尺」というと古くさく感じるかも知れないがそれは長さの単位であり、映画やフィルムのカット長のことも「尺」というのだから、デジタル全盛の現代でも意味のある言葉である。
また「尺貫法」といった物言いのとおり、単位といった意味合いからそれを図る物差しを意味するようにもなった。「計算尺」しかりである。

ところで私は元来技術畑の人間ではなかったから計算尺の使い方は学校で習っただけであり実用としては使ったことがない。したがって正直いまでもその使い方の妙はほとんど分かっていない(笑)。
その代わりと言っては変だが子供の頃に一時期ソロバンを習わされた。最初はソロバン塾に通うのが嫌で嫌でたまらなかったが結局珠算検定三級に合格するまで通わされた。そしてこのソロバンは事実私の若かりし頃には現実的な計算機として大いに役に立ったのである。

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※英国ファウラー社製(1930年代)のポケット計算機両面


1970年台初頭は東証一部上場企業であってもコンピュータはもとより電卓すら常設されていなかった。したがって日常の計算はもとよりだが会社の決算時にはソロバンの名手が活躍した。
私の同期に岩手県出身の男がいたが、普段は地味で目立たなかったものの決算期になると俄然注目を浴び、引っ張りだこになった。
何故なら彼はソロバンの腕が「級」ではなくその上の「段」であり、8桁や9桁の暗算が苦も無くできたからである。
コクヨの集計用紙に記された手書きの数字を上から「す〜っ」と目でなぞっただけで30や40段はある8桁や9桁の計算を暗算でやってしまうのだから戦力にならないわけはない。

そんな能力のない私でもソロバンは実践の計算機として日常的に使うものだった。なにしろその頃やっと部署に一台ずつほど置かれるようになった大型電卓で計算した結果をソロバンで検算するのを常としていたのだから...。
いや、お若い方は笑うかも知れないがこれは本当の話であり、例えば米国のアポロ計画においても当時のコンピュータが算出した軌道計算結果を担当者が計算尺で検算していた現実があるのだ。
その事実を踏まえ、映画「アポロ13」でもヒューストンのコンソール前には計算尺の姿が登場する...。

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※ユニバーサル映画「アポロ13」より。オペレータの前には計算尺が置かれ軌道計算を検算するシーンが登場


ソロバンも計算尺も訓練され、使える人の手にかかれば文字通り強力な武器となるのである。
それにソロバンの訓練で自然に身についた補数という考え方は実に有益なものだったといまでもそう思う。
余談ながら私は駅のキオスクで働くおばさんたちがあれほど効率よい仕事ができるのは日本独特のものであり、多分にソロバンの訓練を受けた人が多い結果ではないかと考えているほどだ。
朝の混雑時に次から次へと出る客の手にあれほど手際よくお釣りを出さなくてはならない人たちがもし電卓を使っていたら、まったく仕事にならないだろう(笑)。

さて手元に届いた円形のポケット計算機だが、1930年代にイギリスのマンチェスターで作られたFowler & Co.製のものだ。このファウラー社は1898年にWilliam Henry Fowler (ウィリアム・ヘンリー・ファウラー)により創立され本計算機のパテントをとっている。

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※「Fowler's Calculators」とサイズ比較のiPhone 4


その形は丁度大ぶりの懐中時計のようでもあり直径が約68mm、そしてニッケル製ボディ側面に置かれた2つのリューズのようなダイアルを回すことで本体両面の放射状に記された目盛りが記されている円盤と基準線(カーソル)とを回転させ、値をセットし答えを読み取る仕組みである。
早速ウェブなどでその使い方の基本をと調べてみたが私には簡単に使いこなせそうもない(笑)。しかしこの製品は当時のエンジニア達のために設計され、一般的だった棒状の計算尺に勝つ多くの利点を好まれ、製図や科学を学ぶ学生達にとってなくてはならない物であったという。
こうした計算尺やソロバンは電卓とは違い、基礎的な計算能力を育成するためにまだまだ必要なものなのではないかと思うのだが...。

なおこの「Fowler's Calculators」は革製の専用ケースがついており、それに収納して手軽に持ち歩くことができたことから “pocket calculator” と称されていたらしい。
まあ手元に届いた「Fowler's Calculators」は無論実用となるわけでもなくオブジェとして当研究所の棚に飾られることになるが、大切にしたいと思っている。
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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員