クリス・エガートン作 6コース・ルネサンスリュート幻想

今回ご紹介する6コースのルネサンス・リュートはイギリスの製作家で弦楽器研究ならびに修復の専門家クリス・エガートン(Chris Egerton)により1984年に作られたものというから、その誕生年は何とMacintosh 128Kリリースと一緒である(笑)。無論中古を入手したものだがすでに28年も経っている計算になり私自身は何か因縁を感じる...。


私の6コースのルネサンス・リュートには確かに表面版には細かな弾き傷があるしシェルボディにはいくつか修理の痕が見える。無論それは素人によるものではなく再塗装もきちんとなされ全体的にはよい状態を保っており、大切にされていたという感じが漂う逸品だ。
古いことは確かだがネックの反りもなく大変弾きやすい。まあこの6コース・ルネサンス・リュートには気の毒だが、余生は私のへっぽこ演奏で送ることになる(笑)。

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※共に1984年に生まれた同期生である(笑)


さて、これまで中古楽器を手にすることはあまり経験なかったが、やはり気になるのは以前の所有者がどのような人であったかだ…。このリュートは舞台などで使われ華々しい経歴があるのか、それともケースにしまわれたままの時期が長かったのか…。それは単なる興味の問題だけでなく、楽器は良い弾き手に出会うとより良い音で鳴るようになるからだ。
よくスピーカーやヘッドフォン類の新品を買うとエージングと称して長時間鳴らした後で評価をすることがあるが楽器、特に弦楽器はそれが著しいと思う。
そんなわけで製作者名のクリス・エガートンおよび6コース・リュートという点などをキーワードにしてネットであれこれ調べて見たら確証はないものの元の持ち主らしいと思われる情報を見つけた…。

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※クリス・エガートン作の6コースリュートのペグボックス


そのインターネットへの書込ページは著名なプロの古楽器/ギター演奏家によるもので「2003年7月に大改修に出した、クリス・エガートン作の6コースリュートが戻ってきた」と書かれ、私の手元のリュートと合致する状況証拠がいくつか紹介されていたのである。
それらを要約すると「表面板の総取り替え」「ローズはレオナルド・ダ・ヴィンチの結び目と呼ばれるデザインになった」「裏板の割れの補修」そして「表面板上に木製フレット採用」といった件が書かれている。そして写真も掲載されていたのでそれとも比較してみたが私には同じ楽器に見える…。

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※ローズの模様はレオナルド・ダ・ヴィンチの結び目をモチーフにしたもの


実は手元の楽器にも裏板(シェル)割れの補修痕が確認できるし、ローズの模様は確かにレオナルド・ダ・ヴィンチの結び目をモチーフにした精密な彫りになっているし表面板上には木製フレットが採用されている。さらに1984年製としては表面版が綺麗すぎる。やはりリペアされているからこその現在の色合いではないだろうか…。
その他掲載されていた写真で分かる範囲だが、指板やブリッジのデザインも同じだし指板と表面版のつなぎにポイントがないタイプというのも一緒だ。無論作者が同一とすれば同じようなデザインであっても不思議ではないが状況証拠としては揃いすぎている。

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※指板と表面版はポイントのないタイプ(上)。シェルも再塗装されている(下)


私の推理が正しいとしての話しだが、当該演奏家はリペアしたリュートに対し、「結果はとてもうまくいった!」「音色が生き生きとしている」「それぞれのコースがレガートに歌い、バランスも良い」そして「潤いもある。そしてとても弾きやすい」と評価されているのは嬉しい。
そのリペアから早くも9年の歳月が過ぎた計算になるが、その間に演奏家の手元で愛用されたのか、あるいは別の方に使われたのかは不明だが、前記したように取り替えた表面版にその後細かい傷(爪痕)が認められることから考えてかなり使い込まれたに違いない。

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※ブリッジ付近


手元に届いたクリス・エガートン作 6コース・ルネサンスリュートを調弦して早速練習中のレスピーギで有名な「シチリアーナ」を弾いてみると開放弦自体…音の輝きが素晴らしい!
私の指使いはまだまだ歴史的奏法にはほど遠いものの、それでも格段に艶というか輝きのある良い音…それも大きな音も出る。そしてなによりも大変弾きやすい。ネックの厚みは勿論、弦高、コース間の弦幅が絶妙で特に1コース側でも指板に余裕があり押さえやすい。
弦長は595mmほどだが、6コースなのでペグボックスが小型だからしてとても可愛い。これは本当の意味で持つ喜びを与えてくれるリュートに出会った気がして感激している…。
材質などのデータについては添付されているような資料がないので詳細は不明だが、11枚のリブで構成されているシェルはメープル、表面版はスプルース単板、ナットは黒檀、指板は黒檀をフレームにあしらったローズウッド、ペグとブリッジもローズウッド、そしてネックとペグボックスはよく分からないがブラックチェリーあたりか…。

個人的にはリュートでバッハを…といった目標はなく、小品で綺麗な曲をいくつかレパートリーにしたいと思っている程度だからこの6コースのルネサンスリュート一本あれば済む理屈なので長い付き合いをしたいと願っている。

【追伸】その後、縁あって当のプロ演奏家の方に確認したところ、やはり当時お手元にあった楽器だそうである。その後講演会に参加された方にお譲りしたものだというが「良い楽器だから大切に」というアドバイスをいただいた。
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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員