プレゼンテーションのテクニック以前の極意とは?

いかにしたら巧みなプレゼンテーションが可能なのか、聴衆の気持ちを掴むことができるのか…。その成功例としてスティーブ・ジョブズのキーノートを引き合いにすることが多くなったしそれをネタにしたセミナーまで開かれる時代になった。優れた人の優れた所を学ぶのは多いに結構だしそうあるべきだが、常々申し上げているようにジョブズの真似をしたからといってプレゼンの達人になれるわけはない…。


プレゼンを成功させるためにはKeynoteでジョブズのようにシンプルで解りやすいスライドを作るのがボインだとか、そこにストーリー性を込めろ…などなどプレゼンを成功させるために大切なポイントが多々紹介されている。しかしいわゆるプレゼンのテクニックを押さえるだけで貴方のプレゼンテーションが人を惹きつけるのかといえば、それは早計だと言いたい。
ここでは良いプレゼンを実行するためのテクニックではなく、それ以前に大切な極意をご紹介してみよう。

私たちが人の前で話しをすることを考えると当然ながら数百人、数千人を前に語る機会などそうそうないのが普通だろう。ただし会社の会議で10数人の前で説明したり…といったことや取引先に自社の商品・製品について説明し契約提携を目指すといった機会、あるいは展示会場で行うプレゼンなどはビジネスマンたちにとって日常のことに違いない。

僭越ながら私の長い経験から申し上げると数十人の聴衆と数百人の聴衆を前にした場合の話し方は同じではマズイし、聞き手がプレゼン内容に熟知している同業者なのか、あるいはユーザーなのか、あるいは一般大衆なのかによっても準備と演出がまったく違ってくる。そして最近はプレゼンというとジョブズに代表されるような数千人の前での講演をイメージされるかも知れないが、現実には前記したように会議、展示会、基調講演などなど様々なスタイルがあるわけでそれぞれ取り組み方は違わなければならない。

jdc1990.jpg

※500人ほどの来場者(デベロッパー&ディラーたち)を前に講演する筆者。1990年7月13日、ラフォーレミュージアム飯倉で開催されたApple Computer Japan Developer’s Conference ‘90(JDC)にて


presentation_01.jpg

※小規模な製品説明会の例〜札幌にてプレゼンする筆者 1991年


presentation_02.jpg

※質疑応答が入る対話型のミーティング例〜1992年サンフランシスコのフェアモントホテルにて(奥中央右が筆者で隣はアップルジャパンのデベロッパーリレーションズ担当者)


presentation_03.jpg

※呼び込み型のプレゼン例〜MacExpo/Tokyo自社ブースにて立ち止まった来場者たちに製品説明する筆者


スティーブ・ジョブズはプレゼンの名手だったに違いないし、一対一あるいは競合する会社の相手でさえ説得してしまう手腕を持っていたというからただ者ではないが、そうした能力が一朝一夕で身につくはずはないのだ。
ではそれこそ既成概念を一度取り払い、いかに考えたら良いプレゼン、良い話しができるのだろうかを再考してみよう。無論ジョブズ本に出てくるようなノウハウやテクニック以前の問題だ(笑)。

① 話しをする相手、人数、場所をできる限り知っておくこと
このことは聴衆やその場の雰囲気に圧倒され、気持ち的に飲み込まれないようにするために重要なことである。
聴衆が学生なのか一般社会人なのか、男性が多いのかあるいは女性中心の集まりなのかはきちんと心に留めなければならない。無論それは聴衆によって同じ内容を話すにしても話し方…演出を変える方が効果があるからだ。

そして人数も十数人でマイクがない場合、あるいは数百人もいる場所なのかで演出は違ってくるし、大げさに言えば声の出し方も違ってくる。そして会場、すなわちプレゼンする場所について事前に知っておくことも現実問題として大変重要なことなのだ。もし大きな会場や舞台であるなら可能な限り事前にその場と設備などを見ておくことをお勧めしたい。

② 説明する事項については誰よりも知っているという自信がなければならない
自信がなければ説得力は出ないし、聴衆の前に出るとあがってしまう確率も多くなる。
昔、著名なギタリストが「あがらないようにするにはどうしたらよいか?」と聞かれ「そんな妙案があったら私も知りたい」と答えたという逸話がある。

どうしたらあがらず自分の実力、いやそれ以上のプレゼンができるのか…。その一番は十分な練習とプレゼン内容に関して絶対の自信がなくてはならないのだ。あのスティーブ・ジョブズでさえ、キーノートの前には緻密なリハーサルを繰り返していたのである。

私事だが1993年頃だったか、私は機械学会のScentificVisualization研究会に講師として招かれQuickTimeについて解説やデータ圧縮、そしてデジタルビデオのプレゼンテーションをやることになった。聞けばその場に居並ぶ方々は東大、慶応そして東工大などの理工科系の教授たちだった(笑)。たぶんいまなら足が震えてすくんでしまうかも知れないが、当時QuickTimeとデジタルビデオの実践に関しては誰よりも詳しいと自負していたからあがることもなく役目を果たせた...。そんなものなのである。

どこぞの社長が自社新製品を「これです!」と高々に掲げたら逆さまだった...だなんてことをやってては自信以前の問題である(笑)。スティーブ・ジョブズは自社製品に愛着を持っていたし、ご承知のように開発当初より細部にまで関わっていたわけで絶対の自信に裏付けられたプレゼンなのだから説得力があったのだ。

またひとつのテクニックだが、あがりそうになったらそれを隠そうとせず表に出してしまうとよい。例えばマイクの前で「恥ずかしい話ですが私はいま足が震えています」と言い切ってしまうと意外に落ち着くものだ。私自身もNeXTのプレゼンで見たスティーブ・ジョブズの物言いにあやかり、その場に圧倒されそうになったとき開口一番「私のあがり具合は人数の多さと皆さんの期待度に正比例するようで、いまもの凄く緊張しています」と話し意識的に緊張を解くようにしていたものだ。悪いのはあがっているのにそれを知られたくないと努力し、間違えないように…と自分にプレッシャーを与えることだ。それは逆にしどろもどろの結果になりやすいものだ。

③ 歯を大切に!
プレゼンのノウハウに関してこの種のことに触れた例はほとんど知らないが、私自身の経験・実体験から申し上げておきたい。
特に若い人たちには無縁のように思われるかも知れないが虫歯が多かったりすれば事は重大である。私も年齢を重ね、残念ながら部分入れ歯を使わざるを得なくなったときに遅ればせながら概念ではなく体験として歯の大切さを知った。

何故なら歯が抜けたり、舌や口内に傷があったりする、あるいは部分でも入れ歯にするとまずは滑舌が確実に悪くなる。そして大げさでなく話す際に舌の使い方や口の開け方が以前のように巧くいかないのだ。したがってもし部分入れ歯が合わないのに我慢して使っているという方がいれば、すぐに上手な歯医者に作り直しを願うべきだ。

それは実際に私自身が体験したことでもある。常用していた部分入れ歯はものを食べるには不自由しなかったが、一部が欠けたので別の歯医者で作り直しをした。驚いたことにその後に滑舌がとても滑らかになったのだ!
部分入れ歯はそもそも不出来だとろれつがまわらなかったり、口内を噛んだり、あるいは話し過ぎると舌を傷つけることも多くなる。歯そのもの及び口内の健康があってこそのプレゼンと知るべしだ。

④ トラブルはいつでもあり得ることを承知しておく
まず大切な事はトラブルはいつでも起こりえるということを認識しておくことだ。使用機器が巧く動かない、備品が準備されていないといった事に出会ったとき、私達は「運が悪い」「主催者が悪い」と考え、だからプレゼンが巧くいかなかったと責任転転嫁しがちである。しかし大がかりなプレゼンの時ほど、何一つ問題なく予定通りにことが運ぶ方が珍しいと考え、逆にこの瞬間瞬間にもトラブルがあり得ることを覚悟し、大げさにいうならトラブルが生じた場合のシミュレーションをしておくことが大切なように思う。

そう考えるなら事前の準備も違ってくるし万一トラブルが生じても慌てなくても済む。いやトラブルを逆手にとって聴衆の記憶に残るような結果となるケースも十分にあり得るのだ。トラブルはプレゼン成功の道しるべかも知れない。そしてもし何の問題もなく自分の役目を果たせたとするなら、関係者や裏方の人たちに心からお礼を申し上げるべきである。

以上自分の実体験から大切なことだと思うことをご紹介してみたが、無論これらのことを前提にしつつプレゼンテーションそのものの技術も磨かなければならない。そして最後にユーモアも忘れてはならない…。
健闘を祈ります!


関連記事
メイン広告
ネットショップ先行販売
ブログ内検索
New web site
[小説]未来を垣間見たカリスマ  スティーブ・ジョブズ
ジョブズ学入門
WATCH 講座
大塚国際美術館ひとり旅
ラテ飼育格闘日記
最新記事
お勧めの新旧記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

appletechlab

Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員