藤沢周平著「三屋清左衛門残日緑」に思う

季節柄、見るからにもの悲しい蝉の死骸があちらこちらに目立つ。蝉...セミの連想から藤沢周平の「蝉しぐれ」を思い出し、そして連想から書棚にあった「三屋清左衛門残日緑」を久しぶりに手に取った。泣いた...。 


最初に本書を読んだのは平成元年(1989年)だったと思う。その後1,2回は読み直したと思うがずっと忘れていた。連想とは面白いものだ。 

「日残りて昏るるに未だ遠し...」。時代は江戸時代、家督をゆずり隠居の身となった元用人の清左衛門。もっと悠々自適・浪々の日々を過ごせるかと思っていたが、いざ隠居となると開放感とは裏腹の世間から隔てられた寂しさと老いた身を襲う若い頃の悔恨...。しかし藩は紛糾の渦の中にあり、清左衛門を放ってはおかなかった...。 

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清左衛門が隠居したのは51歳のときのようだが、私はすでにその年齢を超えている。隠居ができる身分でも時代でもないから、自分ではまだまだ現役のつもりだ。しかし小説とはいえ、そして自分は用人を勤め終えた清左衛門のような器量を持っているとは考えていないものの、50を過ぎたひとりの男の生きざまがこの歳になって読み返すと怖いほどよく分かる。 
仕事のこと、出世のこと、恋や友人たちのことなど、時代は違っても清左衛門の生きざまの中に我が身を置いてもそんなに不自然ではない歳になったと言うことなのだろうか。 

いつの世も人は出世を願い、地位を求めて争い苦悩する。しかしある年齢になるとフトそんなことはどうでもよいことに思え、数十年もの永きに渡った仕事漬けの日々がほんの一瞬であったことのようにも思えてくる。「光陰、矢の如し」とはよく言ったものである。 
その中には楽しい思い出もあるものの、思い出す度に怒り涙することもあり、後悔の念がふつふつと湧いてくることもある。 
無論「三屋清左衛門残日緑」は小説であるが、その人間模様が大変よく描かれているので自然とその心地よい藤沢ワールドに引き込まれていく...。 
ところで「三屋清左衛門残日緑」を一通り読み直しつつまたまた思い出した事がある。いつの頃であったかは忘れたがNHKの金曜時代劇とかで連続ドラマとして放映されたものをいくつかビデオ録画したはずだと早速探し出してその数編を恥ずかしながら顔をくしゃくしゃにしながら観た...。 

主役の清左衛門役である仲代達也は無論だが、佐伯熊太役の財津一郎の演技が絶品である。お互いの立場を尊重しながら、ガキのころからの友達として日々仲間を気遣うオヤジたちの心が虚構の世界とはいえ大変嬉しくなってくる。また登場人物たちの今では忘れ去られた感もあるダンディズムが心地よい。そして嫁の里江や「涌井」のおかみのみさなどが、清左衛門たち男の人生に艶を与えてくれる。 
「蝉しぐれ」もそうだが「三屋清左衛門残日緑」は名作である。 
夏休みのひととき、もし時代ものに興味のある方はご一読をお勧めする。まあ、すでに多くの方がお読みになっているとは思うが...。 

■藤沢周平著「三屋清左衛門残日緑」文藝春秋社刊(1989年9月20日第一刷) 
 ISBN 4-16-311200-6 
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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員