「ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯」は最高!

久しぶりに良質の長編歴史ドラマをDVDで観た。その「ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯」は天才レオナルド・ダ・ヴィンチの謎めいた生涯に迫る正統派ドキュメンタリードラマである。 


別途本サイトの「Coffee room」で紹介しているが、昨年秋にレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)の残した「マドリッド手稿」ならびに「鳥の飛翔に関する手稿」ファクシミリ版を勢いで手に入れてから少しづつレオナルドの生涯やその残した業績、そしてその天才性を学ぼうと時間を割いてきた。 
とはいえ昨今話題の「ダ・ヴィンチ・コード」といった類の興味ではない。あれはまったくのフィクション・小説であり、あのような視点からでは実際に時代を生きたレオナルドの姿など分かるわけはないと私は考えている。 

さて、絵を描くことが好きな子供だった私はご多分にもれず初めて名画を模写したのはやはり「モナ・リザ」だった。何度となく模写を続けたものだ...。 
子供故に難しいことは知る由もなかったが画集の中の「モナ・リザ」が私自身に与えたインパクトは決して小さくはなかった。 
特にこの10数年、レオナルドに関する幾多の本を読み、あらためて画集などを眺めてきたが、血の通った一人の人間としてのレオナルドをより知りたいがために、前記したような彼自身が書き残した「マドリッド手稿」ならびに「鳥の飛翔に関する手稿」あるいは「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」で手に入れた「レスター手稿」コピーなどを手に入れてきた。 
それら手稿の内容は大変分かりにくいものながら、本人自身が残したもの故にリアルな本人に迫ることができると考えたからだ。まあ、そうはいってもそれぞれの手稿の良質の和訳を読んだところでレオナルドの書き物は一貫しておらず、なかなかその意味するところは理解できないのだが...(笑)。 

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※筆者所有の「マドリッド手稿」ファクシミリ版


これまでも神秘のベールに包まれてきたレオナルドの生涯はまだまだミステリーな部分を多く持っているが、それでも手稿を読めばその時代に彼は何に興味を持ち、どのように考えていたのかという点については理解できるような気がする。しかし500年も前の人物であるだけでなく私たちとは文化も歴史も違う往時のイタリアやフランスの状況...それも学校の歴史の時間で習うような「何年に何があった」ではなく、その時代の生きた情報を知るのは至難の業である。 
例えば「当時の街並みは?」「どのような衣装を身につけていたのか?」などという疑問ひとつをとってもこれまで見聞きしてきた断片的な情報を元に想像するしかない...。 
それらは決して古い時代の話だから分からないのではない。何処まで歴史的事実に忠実であるかは疑問ながら、我々日本人は例えば江戸時代の風俗や歴史観といったことについてはTVドラマや映画などで見知っているしある程度は分かった気にもなれる(笑)。しかし500年前のイタリアの生活様式などといったことを知りたくてもなかなか満足できる資料を得るのは難しいわけだ。 
その点、映画やドラマといったものはそれが良く出来ていることを前提とすれば一目瞭然のビジュアルな教科書でもある。 

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※「ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯」のDVD 3巻パッケージ


本題の「ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯」(原題:The Life of Leonardo DaVinci)はイタリア・ルネッサンス期の画家・彫刻家、また科学者、技術者、哲学者でもあった稀代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯を豊富な資料と詳細な検証のもとに、イタリア放送協会が1972年に制作したものである。 
これまで謎のベールに包まれていたその人生、私的・政治的・そして芸術的生活が色彩豊かに再現されている。さすがイタリア放送協会が総力をあげて集めた膨大な資料に基づき、名シーンの数々がふんだんに散りばめられており、第30回ゴールデン・グローブ賞TVスペシャル部門最優秀作品賞を受賞している。 
私も極断片的な記憶しかないが、かつてNHKでも放送された...。 

さてこのDVDは総分数約270分の大作ドラマを、日本語吹替&日本語字幕とともにDVDディスク3枚に収録したものだ。これを2晩に渡り睡眠時間を削って鑑賞してみた(^_^)。いやはや、これは素晴らしい作品である。 
最初のシーンはレオナルドが死ぬところから始まる...。ベッドの上で「まだやり遂げたいことが多々ある...」とつぶやきながらフランス国王フランソワ一世の腕の中で彼は息を引き取る...。しかし初っぱなのこのシーンからこの作品は期待を裏切らない。 
何故ならシーンとしては見せながらも同時進行する解説でははっきりと、この伝説は死後30年も経ってから発行されたヴァザーリ著、通称「美術家列伝」による創作であり、嘘であるとはっきり明言しているからだ。 
レオナルドがアンボワーズで死んだのは1519年5月2日だが、このときフランス国王フランソワ一世は遠く離れた場所にいたことが2世紀ほど前に明らかにされている。しかしドラマだからと安易で面白い描写を好んで取り入れる昨今の安っぽいドキュメンタリーが多い中でさすがに本場の作品は正統である...。 

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※アングル作「レオナルド・ダ・ヴィンチの死」(部分)。このシーンはフィクションだとはいえレオナルドが国王のあたたかい庇護を受けていたことを示すエピソードとなった


そしてまたこの作品は当然のことながら「ダ・ヴィンチ・コード」的な興味本位の取り上げ方は一切無い。それぞれのシーンの再現はさすがに時間と予算をかけたであろうと思わせるに十分で良質な、そして説得力あるものだ。そしてところどころに「よく分かってはいないが、残された資料によればこのようなものだったと思われる」といった解説を忘れていない。しかし私にとっては人物描写はもとよりだが、衣装や当時の街並み、室内の様子、そしてレオナルドの発明・制作した"もの"たちがビジュアルで見ることができるのは何よりの魅力である。 

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※レオナルドがミラノにおいて制作に従事した(未完に終わる)巨大なブロンズ「スフォルツァ騎馬像」の鋳造に関する雄型および雌型の補強材図メモ。前記した「マドリッド手稿」より。1491年5月17日夕刻と記されている


しかしそれにしてもレオナルドの生涯はなんという孤独だったのだろうか。ヴィンチ村の庶子として生まれた彼には帰る家も家族もなかった。生まれはトスカーナだがその後にミラノやフィレンツェをさまよい、ローマにで3年過ごし、最終的にはフランスで没した。晩年は確かに国王の厚い庇護を受けたがまさしく孤高の人であった。 
DVDにもそうした示唆もあるがレオナルドの最高傑作のひとつである「最後の晩餐」におけるキリストの姿は...いや、その心情はレオナルド自身の孤高と孤独に重なるように思える。 

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※晩年のレオナルド・ダ・ヴィンチ自画像(部分)


この天才は美と気品に恵まれながらも秘密主義者であり人嫌いだった。その上に人体解剖を行い人体の仕組みに迫ろうとした先駆者の一人であったが、回りからは不気味で異端な芸術家として見られていた部分もある。 
そう...この「ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯」によれば、眼球の解剖は卵の白身にくるみ、茹でた上で行うというレオナルドが考え出した技術は現在も使われている方法だというから彼の先見性には驚かされる。そんな具合だったからか誤解も多くその人生において幾多のトラブルを抱えていた。 
「可愛そうに、レオナルドよ、なぜおまえはこんなに苦心するのか。」といった彼自身の記述があるほどだ。 

レオナルド役のフィリップ・ルロワも違和感なく好演しているし多くの歴史的人物もさすがに本場だけあってイメージを壊さない役者を配し、おそらくだが特殊メイクも含めて似せた人物像を創り出しているようだ。特に感嘆したのは冒頭に登場するフランソワ一世だがまさしくアングル作「レオナルド・ダ・ヴィンチの死」の絵(前記)から抜け出たようだし、ミケランジェロ役も攻撃的で粗野なイメージがよく出ている。 
これらの歴史的な人物達がレオナルドの作品たちや人生と絡むシーンの連続は見事な説得力がある。 
どこまで歴史的事実であるかはともかく、私にとってこの「ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯」はこれまで手稿や多くの書籍などから受けたイメージの点と点を繋ぐ良質のビジュアルな資料となった。 
レオナルド・ダ・ヴィンチに興味のある方には是非にもお勧めしたい作品である。 

【参考】 
・「マドリッド手稿」および「レスター手稿」 
・「レオナルド・ダ・ヴィンチ展(2005)」解説書 
・「レオナルド神話を創る〜万能の天才とヨーロッパ精神」A.リチャード・ターナー著 友利修・下野隆生訳(白揚社刊) 
・「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記(上・下)」杉浦明平著(岩波文庫刊) 

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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員