二代目中村吉右衛門主演「鬼平犯科帳」 DVD 全巻が揃った

鬼平犯科帳ならびにその主人公である長谷川平蔵についてあらためての紹介はいらないかも知れない。それほど池波正太郎が著したこの小説は時代劇を好まない人たちにも愛されてきた。そして二代目中村吉右衛門主演の同名TVドラマは小説映像化の決定版といわれているがこの度一部のスペシャル版を除きDVD全巻がやっと揃った...。

 
これまでテレビ放映された一部をVHSビデオで所有していたが、保管ならびに使い勝手を考えてDVDに変えようと心がけてきた。今般やっとDVDとして販売されている1巻から9巻までの全巻をそろえることができた。
何しろ全巻138話/DVD73枚にも及ぶ大作なのだが、これでいつでも好きな鬼平に会えるわけだ。
さて、池波正太郎による鬼平犯科帳の小説本も全巻所有しそれこそ数え切れないほど繰り返し読んでいるが、二代目中村吉右衛門主演で映像になったドラマはまた格別の味わいがある。

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※鬼平犯科帳 全9巻 DVDが勢揃い...

 
ところで鬼平こと火付盗賊改方の頭(かしら)である長谷川平蔵宣以(のぶため)は実在の人物であり、旗本の家督相続前は銕三郎(てつさぶろう)と名乗っていた。また青年時代は本所・深川界隈で無頼の徒とも交わり放蕩のかぎりを尽くしたそうで「本所の銕」などと呼ばれていたという。

父の死去にともない28歳で家督を相続し、火付盗賊改方の長官に任ぜられたのは天明7年(1787年)、42歳の時であった。
なぜ火付盗賊改方なのか...。それはこの時代、浅間山の噴火による不作から飢饉も続き世情は不穏であり凶悪な犯罪が増加していたからである。
無論町奉行所はあったが、町奉行所では武士たちを取り締まることはできず、扱う事件もどちらかといえば民事が多かったという。したがって火付盗賊改方は押込強盗や放火など凶悪な事件を取り締まるために組織されたもので、武士や僧侶に対しても権限が及ぶという一種の特別警察...治安機関であった。
そうした凶悪な犯罪には容赦のない取締を徹底したことから、犯罪者たちから「鬼の平蔵」すなわち鬼平と恐れられたとされるが、その呼び名は池波正太郎の創作らしい...。

とにかくTVドラマの鬼平犯科帳最大の魅力はなんといっても二代目中村吉右衛門が演じる長谷川平蔵の魅力にほかならない。過去に中村吉右衛門の父である松本幸四郎をはじめ、丹波哲郎や萬屋錦之介らが演じたものの平蔵の魅力を定着させたのはやはり中村吉右衛門の功績であろう。
平蔵は世情に通じ、弱者や下々の者たちには慈悲深い一方で凶悪な犯罪者には文字通り鬼となり容赦のない取締を実行するその人間味と彼を取り巻く部下や密偵となって働く元犯罪者たちの絆がすでに忘れ去られた感のある人情というか、こうあるべきという人のあり方を思い出させてくれるに違いない。
ドラマが良くできているのは当時「こうだったに違いない」といったリアリティを出しているからだろう。所作は勿論だが言葉遣いも現代の私たちにわかりやすく、かつ時代を感じさせるのが好ましい。
ただし例えば「急ぎ働き」「引き込み」「おつとめ」あるいは「盗人宿(ぬすっとやど)」といった会話が多々登場するが、実はこれらのほとんどは池波正太郎の造語であるという。

詳しいことは忘れたが、以前に二代目中村吉右衛門がインタビュー中で、鬼平がひと睨みすると犯罪者たちはもとより部下たちが震え上がる“凄味”というか、殺気とでもいうのか...その迫力を出すのが難しいと言っていたことが印象的だった。
現代の我々はこうした人知を越えた人間の凄味というものをあまり知る機会はないが、それと共に型破りで清濁を知り尽くした長谷川平蔵は今の時代においても理想的な上司として慕われる人物だからこそ人気が衰えないのだろう。
さらに火付盗賊改方を管轄する上司である若年寄の京極備前守もまたよし。なぜなら例えば大身の旗本が絡むと思われる事件の捜査に躊躇する鬼平へ「この一件...おぬしの思うがままにしてのけるが良い、責めはわしが負う」(スペシャル「鬼火」より)と言い切るのも男同士の信頼関係が見て取れて嬉しくなってくるではないか。

そしてドラマとはいえ、鬼平犯科帳には多くの忘れ得ない名場面が登場する。
例えば茣蓙を抱え小さな居酒屋・加賀屋に入ってきてお忍びで飲んでいた平蔵の隣に座る夜鷹の “おもん” に「遅くまで大変だな...」となんとも優しい声をかけ酒を振る舞う平蔵...(「凶族」より)。男として人間としてこうありたいと思うその理想の姿が鬼平犯科帳の長谷川平蔵なのだ。
史実の平蔵も犯罪者更生の場の必要性を幕府に説き、石川島人足寄場の設立などを実現した功績はもっと評価されてよいと思う。こうした罪人の弾力的な扱いと更正をめざした平蔵の寄場運営はイギリスの流刑地、オーストラリアのノーホーク島による仮釈放制度施行より1年早く国際的にも誇るべき先駆の業績だという。
また強盗や婦女暴行を繰り返した凶賊葵小僧を逮捕した際に職権をもって捕縛後わずか10日後に処刑してしまったことがある。
裁判には念を入れ慎重な判決をくだしてきた平蔵にしてこれは何から何まで異常な早さであり、このように早い処置は徳川300年の江戸刑事事件中でも初めてであり、かつ以後にも例がないという。

こうした一見暴挙とも思える行動は幕府の上層部にも批判があったようだが、葵小僧を正規の手続きに則って罪状を問えばおのずと被害に会った女性たちの名前も公になることを危惧した配慮だったといわれている。
平蔵が火付盗賊改方の加役についていたのは天明7年(1787年)から寛政7年(1795年)までの8年間であり、その職を退いた3日後に50歳で鬼籍に入ってしまった。まさしく「人生50年」の波乱に満ちた生涯であった。

さて、この138話すべてについて1度は観ているはずだがしばらくの間は第1話からゆっくりと鑑賞したいと思っている。
今日はどんな鬼平と会ってみようか...。

【参考資料】
・別冊・歴史読本/実録「鬼平犯科帳」のすべて 新人物往来社刊

松竹DVD倶楽部/鬼平犯科帳シリーズ

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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員