スティーブ・ジョブズとシャーロック・ホームズ共通点の考察

Appleフリークそしてシャーロッキアンを自負している私であるが先日シャーロック・ホームズ関連本を読んでいたときあらためて確信したことがある。それはスティーブ・ジョブズとシャーロック・ホームズとの共通点についてである。もしかするとジョブズはシャーロッキアンではないかとも思う(笑)。


まあ、我ながら突飛なテーマなので遊びとしてお付き合いいただきたいが、ここのところ数冊のシャーロック・ホームズに関する研究書を読みあさっていたとき、ホームズの生き様というかその性格や気質がAppleのCEO スティーブ・ジョブズのそれと重なり合うように思えた。 

たぶんこの両者に共通点を見いだすのは世界でも私が初めてではないかと自負しているのだが...(笑)。 
無論スティーブ・ジョブズは時代の寵児として実在している人物だし、ホームズはイギリスのビクトリア朝時代後期に活躍した世界初の私立コンサルティング探偵業を始めた男である。 
念のために記せば、シャーロッキアンとはホームズを実在の人物としてその生涯を含めた時代、そして往時のさまざまなことを研究する人たちである。 

まず、そもそも私がジョブズとホームズを結びつけた最初のきっかけはジョブズの癖というか...ポーズで、以前からおぼろげに考えていたことなのだ。 
昨今の基調講演やスペシャルイベントでは片手にプレゼン画面を送るリモコンを持っているからかそうしたポーズはほとんど見られないが、彼が両手の5本指を合わせた合掌のようなしぐさは私自身もかつてのMacworld Expo会場で頻繁に見たことがあるしいくつかの映像にも残っている。 

一例として紹介する映像は1990年にサンフランシスコでNeXTをデモンストレーションする際のスティーブ・ジョブズだが、頻繁にこのポーズをとっている。 

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※1990年NeXTをデモする際のスティーブ・ジョブズ。頻繁にこのポーズをとっている


興味のない人にとって何と言うことのないポーズだが、実はホームズも好んだポーズなのである。 
例えば「バスカヴィル家の犬」では「ホームズは椅子に深々とすわりなおし、両手の指先をつきあわせたまま、諦めたというようすで目をとじた。」と書かれている。 

さらに「花婿失踪事件」の中では「『なぜそんなに急に、相談にいらしたのですか?』ホームズは両手の指先をつき合わせて天井を見上げながらいった。」とあるし「赤毛組合」の「...批判的な気持ちのときいつもやる癖で、両手の指をかるくつき合わせた。」や「5つのオレンジの種」でも「.....ホームズは両眼をつぶり、両肘を椅子の腕に託して、両手の指先をつき合わせながらいった...」というようにこのポーズを取るシーンが随所に見られる。 

まあ、"見られる"といっても本文だけではイメージがわきにくいと思うが、ホームズシリーズが掲載されたストランド・マガジン(1891年1月創刊の月刊誌)のシドニー・バジェット(Sidney Paget)による挿絵でもそれらは忠実に描かれている。ちなみに後のホームズのイメージはこのバジェットによるところが多いといわれている。 

 
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※「ボヘミヤの醜聞」(1891年7月号)掲載のシドニー・バジェットによる挿絵。右の椅子に座り両手の指を合わせているのがホームズ


さらに例のグラナダTV制作ジェレミー・ブレッド演じるホームズもいくつかのシーンでこのポーズを忠実に再現している。 

The Problem of Thor Bridge

※ジェレミー・ブレッドの名演。Jeremy Brett Information より転載


問題はホームズのこうしたしぐさは何処から身に付けたかだが、正典(聖書に次ぐベストセラーといわれるアーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」物語を指す)にはそれらしい示唆はない。 
普通に考えると指先などに神経を集中するのは神経質な人の癖のようにも思えるが、それだけではなく私は仏教の影響ではないかとこじつけている(笑)。 

ホームズがロンドンから姿を消し、ライヘンバッハの滝に落ちて死んだと思われていた3年間のあいだ、チベットに旅立ちラサを訪ね、ラマ教の指導者と数日を過ごしたことは自身の口(空き家の冒険)から語られているし、「4つの署名」では刑事を相手に中世の陶器の話し、ストラデヴァリウスの話などとともにセイロン島の仏教の話を縦横に論じているホームズである。ホームズは仏教に詳しいのである。 

本来ホームズはキリスト教徒のはずだが、大学生のとき構内の礼拝堂に足を運ぶことはあったようだが(グロリア・スコット号)他に彼が祈るために教会に出向いたり聖書を開くシーンは正典にない。 
反対に反キリスト教的な著作を読んだり、前記したセイロン仏教やチベット仏教、イスラム教にも興味を示している。 

ジョブズも赤貧時代にコーラーの空き瓶を集めて売り、ハーレクリシュナ寺院で無料の食事にありついていた時代があった。そして友人のダン・コケトと共にインドに旅立ち数ヶ月間も坊主頭で過ごしたらしい。無論瞑想と禅宗に傾倒していた時期がある。 

そして仏教では両手を合わせることはごく一般的なしぐさである。合掌は仏と一体になり、仏へ帰依することを示すといわれご承知のように挨拶としてあるいは相手への尊敬を込めて合掌をする場合もある。 
さらに合掌にもいろいろとあるらしいが「虚心合掌」という、まさしく両手の平の間隔を開けて合わせる方法( 両手の指先を合わせる形になる )もあり、こうした体験がイライラし意識を集中したいときなどに一種の癖となり独特のポーズとして現れるのではないか...。私はそう勝手に考えてみた。

さてジョブズは一般的に名誉欲とか出世欲の強い人間のようにいわれてきた感があるが、そうした志向は製品作りを通して世界を変えたいという一点にフォーカスされているように思える。 
彼の報酬はいまでも年間1ドルであることは知られているが、これを彼一流の見栄、ポーズとだけ捉えては辻褄があわない。 

ジョブズは高額の報酬を得るだけの実績をあげている人物でありAppleの中で文字通り一番の功労者なのだから、多くの報酬を得ても誰も文句はいわないはずだ。 
年俸1ドルの意味だが「自分は金のためにAppleで働いているのではない」というジョブズの強い意志を示していることに間違いないが、一方ホームズも事件の依頼者が金持ちの場合には高額の報酬を得ることもあるものの、例えば貧しい働く女性たちには「かかった分の実費だけいつでもいいですからお支払い下さい。私には仕事自体が報酬なのです」(まだらの紐)と発言している。 
共に名誉欲とか人に対しての影響力をよりよく持ちたいと考えていることは明らかだが、一部ではこうした「仕事それ自体が報酬」という態度を示している点にも共通性が見られる。 

それから両者ともに「芝居がかったことが好き」という点も興味深い。 
ご承知のようにジョブズは基調講演やスペシャルイベントの壇上に立った際には誰にも真似の出来ない最高の演技者である。 
そのプレゼンも一見ぶっつけ本番のようだが実は用意周到で緻密なリハーサルを繰り返した結果であるものの、最後に「One more thing...」と芝居がかった演出で聴衆を喜ばす。 
いかにしたら聴衆にインパクトを与えるか、記憶に残すことが出来るかを計算した結果の演出である。そして「宇宙をへこませたい!」と考えているジョブズにとって聴衆やユーザーの反応がその指針であり、その反応を見るのが一番の報酬であるかのようだ。 

片やホームズも最高の演技者であり、事件解決後の種明かしそのものがショーマンシップたっぷりのものだ。 
「マザリンの宝石」のフィナーレでもこうしたホームズの気質がいかんなく発揮されている。 
それはホームズが事件依頼者であるカントルミヤ卿のオーバーのポケットに調査で見つけ出した宝石を滑り込ませた後、犯人である決定的な証拠を依頼者自身に「現に宝石を所有していること」と言わしめ、「そうすると、まことに心苦しいことですが、あなたの逮捕を請求しなければなりません」と発言し卿を驚かせ怒らせている。 

その後ホームズは「いや、まことに申し訳ありません。ワトスン君にお聞きになってもわかりますが、私は子供じみた悪ふざけをする癖がありまして、劇的な大詰めがたまらなく好きなんです」と弁解している。 
その他「諸君、かの有名なボルジア家の黒真珠を紹介します!」(6つのナポレオンの胸像)とか「犯人、ジェファースン・ホープ氏をご紹介します!」(緋色の研究)などと劇的な結末を自ら演出することが多い。 

そういえば、ある種の秘密主義も両者に共通しているようだ。 
ジョブズの秘密主義はいまでは周知のことだが、無論そうしたやりかたが新しいプロダクトの神秘性を増すと共に競合他社の真似を防ぐ最良の方策であるからだ。 
新製品が発表されるとき、Appleの上層部でさえ極一部の人たちしかその全容を知らされていないことが普通だといわれている。 

一方ホームズも豊富な経験と鋭い観察力、想像力などで早々に事件や犯罪の大枠を知り得ても、相棒のワトスンにさえ途中ではなかなか説明しようとはしない。 
「ホームズの欠点の1つは...もちろんそれを欠点と呼べるならの話しだが...自分の計画を、それが達成される瀬戸際まではいっさい他人に打ち明けようとしないことだ。」(バスカヴィル家の犬)とワトスンに言わしめているくらいである。 

さらに、両者共に気分屋で気むずかしい人物として知られている。ホームズは紛れもなく気むずかしく、妥協を嫌う完全主義者であり常軌を逸した生活をおくり時には怖いと感じることさえある人物として描かれている。 
無論ジョブズも完全主義者であり、大変怖い経営者として知られている。 
しかしことビジネスとなれば、ジョブズは例の「現実歪曲フィールド」をフル装備しどのような相手でも説得に成功する術を心得ている。無論そのためには単に気むずかしいだけではダメだから、相手を得心させる話術と人間的な魅力を持っているのだろう。 

ホームズも普段は人付き合いを嫌い、特に女性嫌いで知られているが必要となれば心配事でうろたえている依頼者の女性に催眠術でもかけたかのように安堵させる話しぶりを心得ている。そして他に方法が無く仕方がないとはいえ、内部情報を得るために恐喝王ミルヴァートン家の女中をたらし込んで婚約するといった悪賢い面も見せている(チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン)。やはり両者ともに女性にとっても魅力的な男性なのだろう。 

それからあえていうなら、ジョブは若かりし頃にLSDやマリファナといったドラッグの経験があったらしい。一方ホームズも暇に耐えられずにコカインの7パーセント溶液やモルヒネを使い、多々相棒のワトスンに心配をかけ非難されている。ただしホームズの時代はこれらの使用について合法的なものであり犯罪ではなかったことを記しておく。 

さて、そろそろネタ切れとなってきたが、後は共に大学を中退していることぐらいか...(笑)。 
ジョブズは1972年にオレゴン州のリード大学に進学するが半年で中退する。 
またホームズが在籍していた大学は諸説あるものの、ケンブリッジかオックスフォードのどちらかだといわれているが、やはり中退というのが定説だ。 

もうひとつ付け加えようか…。それは両者とも相棒に恵まれたことだ。シャーロック・ホームズにはジョン・ワトスンがいたしスティーブ・ジョブズにはスティーブ・ウォズニアックの存在が欠かせない。共にホームズおよびジョブズは異能というか常識に拘らないだけでなく他人に非情な人物というイメージがあるが、相棒のワトソンおよびウォズニアックは情に厚く正義感が強い。

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※「ギリシャ語通訳」のホームズとワトスン。シドニー・バジェット画(1893年)


ただしホームズとワトソンの親交はワトソンの結婚で一時期疎遠になったもののその友情は生涯変わらなかった。対してジョブズとウォズニアックにも様々な確執があり、ウォズニアックはジョブズから距離を置くようになった。

こうして見ていくと私にはスティーブ・ジョブズとシャーロックホームズの姿がかなり重なり合ってくるように思えるのだ。そしてうがった見方をするならジョブズのいわゆる孤高のダンディズムはホームズの生き様を真似ているのではないかと思いたくなるほど共通項が目につくのである。 

以上のように、「癖となっているポーズ」「仏教に興味」「仕事それ自体が報酬」「演出上手」「秘密主義」「完全主義者」そして「薬物使用」といったキーワードで2人の共通点を論じてきたが、当然のことながらジョブズとホームズは似て非なる部分も多い。その代表格は女性に対することだろうか...。 
ホームズは大の女性嫌いであるがジョブズはそうではない(笑)。 

ともかく、繰り返すがホームズはイギリスが最も光を放っていたビクトリア朝後期の人物であり、ジョブズはいまこの時代の寵児である。しかしそれぞれ活躍する分野はちがうものの、私には共に自らに強い使命を課し、時代の流れに挑戦し続けるヒーローとして映るのである。 

【主な参考資料】 
・小林司/東山あかね著「シャーロック・ホームズ大事典」東京堂出版 
・山田勝著「孤高のダンディズム~シャーロック・ホームズの世紀末」早川書房 
・コナン・ドイル著「CD-ROM版シャーロック・ホームズ」新潮社 
・諸兄邦香著「シャーロック・ホームズ 大人の楽しみ方」アーク出版 
・ジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著「スティーブ・ジョブズ偶像復活」東洋経済新報社

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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員