スティーブ・ジョブズの陰の部分に光を当てる!

スティーブ・ジョブズ氏はいまや世界でもっとも有名な経営者でありそして大金持ちのひとりである。アップルの共同経営者でLisa、Macintoshは勿論 iPodやiPhoneといった世界的ヒット商品を生み出したというだけでも歴史に名を残すのに十分だが、瀕死のAppleに復職した後の活躍たるやまさしくスーパーマンである。しかし彼は常に負の部分を多く持つ人物としても知られている。


私を含めて人間には程度問題はともかく誰しも表の顔と裏の顔があるといってよいだろう。いつも職場では笑顔を絶やさず先輩には受けが良く、後輩の面倒見が良い人物でも、もしかしたらプライベートでは人付き合いが悪い...あるいはその逆...といったようなことは世間で良くある話だ(笑)。
そして有名人だからこそ、根掘り葉掘り...あること無いことを穿り出されるといった感はするものの、スティーブ・ジョブズの負の部分はもう少し研究すべきことではないだろうか...。特にApple...というか彼とのビジネスを抱える人たちにとっては...。

彼の負の部分、陰の部分とは誰の人生にもあるであろう例えば青春の一時期...粗野で他人を顧みない言動をする...といったことではない。
私が最も忌み嫌うことは信頼している人たちを裏切るというその一点にある。

まず思い出されるエピソードだが、Apple社設立前の話し。アタリ社からブロックアウトというブロック崩しのゲーム機の設計を頼まれ、ジョブズは48時間で完成させ約束通り報酬の1,000ドルを得る。ただしジョブズの功績と評価されたその仕事、実はスティーブ・ウォズニアックの仕事だった...。

まあそれは良いとしてもだ、1,000ドルを得たにもかかわらず親友であるはずのウォズには「600ドルをもらったので折半しよう」と400ドルをちょろまかしたという事実は弁解の余地はない。後日それを知ったウォズは泣いたというがジョブズは「覚えていない」で済ましたという。
私がウォズならそれだけで絶交だ(笑)。

1978年5月、1人の女の子が生まれ「リサ」と名付けられた。ジョブズの子である。しかし直後から自分の子供であることを否定しつづけ養育費もまともに払わなかった...。
1979年の夏、ジョブズはやっと父子鑑定テストを受けることを承諾したが当時はまだDNA鑑定はなかったものの結果はスティーブ・ジョブズがリサの父親である可能性は94.97%と出た。しかしそれでも彼は自分の子供ではないと主張し続け養育費を払おうとはしなかった。

リサの母親はやむなく生活保護を受け、裁判沙汰となりようやく養育費を支払うことや医療保険を与えることなどに合意したものの、当の子供に会うことを拒絶し続け父親であることを認めなかった。ちなみにその後認知し和解しているが...。

また有名な話のひとつにApple社のストックオプションの話題がある。すでにジョブズはAppleが株式公開を果たしたことでアメリカ有数の金持ちになっていたが、自身の力を見せつけるためか創業期から苦楽を共にしてきた社員たちの多くがジョブズのひとことでストックオプションを与えられなかった。新たに入社した社員たちには与えたにもかかわらず...である。

なにしろ従業員第一号だったビル・フェルナンデスにも恩恵はなかったというのだから酷い話だ。
見るに見かねたスティーブ・ウォズニアックは「ウォズプラン」と名付けたプランを実施する。それは自分の持ち株の1/3ほどをストックオプションを受けて当然だがもらえなかった人たちに与えるというものだった。

1980年にジョブズにとって初の大きな挫折が待っていた。それは「宇宙をへこましてやる」と豪語までして開発を進めていたLisaプロジェクトから外されたことだ。この決定は社長のマイク・スコットによるものだが、マイク・マークラらも賛同していたという。
会長というポジションに祭り上げられたジョブズだったが目標を失っていたものの、翌年ジェフ・ラスキンが細々と進めていたMacintoshプロジェクトに目をつける。そしてCPUをモトローラの68000にするよう圧力をかけるなど大幅な路線変更を命じ、様々な口出しをするようになるがジェフ・ラスキンはなすすべもなかった。

結局ラスキンはジョブズと小競り合いを繰り返しながらもAppleを去らねばならなかった。
後年ジョブズは自分が苦境に立ったとき、愚痴のはけ口だったのかそのラスキンに自ら電話をしたという。彼には負い目や過去というものはないのだ(笑)。

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※Appleが1983年に制作したプロモーションビデオに出演した当時のスティーブ・ジョブズ


Macintoshの開発中にもスタッフらのガールフレンドや妻たちを酷評することは日常だったという。誰だって自分の彼女や女房の悪口など他者から言われたくはないがジョブズは他人の思いなどに気持ちが向く人間ではなかったようだ。そして開発スタッフらと外食に行けばスタッフらはジョブズの態度に目を伏せ恥ずかしさに震えなければならなかったという。

なぜならジョブズには出てきた料理を突き返すという癖というか習慣があったからだ。
自分の権力を見せつけようとするかのようになんだかんだと難癖をつけて料理を突き返す。間違った料理が運ばれてきたわけでもないのに...である。マナーも思いやりも彼にはないようだった。
さらに大金持ちなのに払い汚いことでも知られていたという。アンディ・ハーツフェルド曰く、支払いの段になって度々自分が支払わされたと発言している。もうメチャクチャである。

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※上記プロモーションビデオに出演しているアンディ・ハーツフェルド


「金持ちとゴミは溜まるほど汚い」というが金持ちの中にはどういうわけかドケチが多い。しかしどんな金持ちも一日に食べる量には限りがあるし、どのような高級服だって1度に一着しか着られないのに自身の財布から金が出ていくのを嫌うものらしい(笑)。
こうした悪ガキのような態度はビジネス上でも珍しくはなかった。それも社内だけでなく他社との折衝時、相手の話が始まった途端に「もっとましな話はないのか」と怒鳴って席を立つことも多々あった。

1996年、ギル・アメリオがAppleのCEOだったとき、そのアメリオの英断でスティーブ・ジョブズの会社NeXT社はAppleに買収されジョブズ自身もAppleに返り咲くことになる。
前後の事情はいろいろとあったがジョブズにとってAppleへの復帰は望むべきチャンスに違いなかったろう。しかし彼はそれをひた隠しにし、自分には大切な家庭やピクサー社もあるからと、あくまで顧問...アドバイザーとしてのポジションに徹するというポーズをとり続けながら裏に回ればしっかりとアメリオ追い落としの根回しを続ける。そしてそれらが功を奏し1997年7月、Appleの取締役会はギル・アメリオを退任に追い込むことに動く。

ジョブズにとってギル・アメリオはAppleに呼び戻してくれた恩人に違いなかったはずだが、その恩人すらジョブズは平気な顔で裏切る...。
ある意味アメリオの決断は、行き先のなかったNeXT社を救ってくれ、買収により自分をさらに金持ちにしてくれ、なによりもAppleの経営に携わるチャンスを与えてくれたはずなのに謀略により放り出すのがジョブズなのだ。

さらに今度は自分を推してくれたその取締役会メンバーの大半も辞任に追い込む。何しろあの創業以来の古参マイク・マークラでさえもその例外ではなかった。まさしくそれはクーデターと呼ぶべきできごとだった。
とにかくAppleの体制を立て直し業績を上げるという目的のためには恐怖政治さながらの雰囲気を社内に作ったことでも知られている。

よく話題になることだが、この頃Apple社内ではジョブズとエレベータに乗り合わせるのを怖がり階段を利用する社員たちが目立ったという。それはエレベータが目的の階に着くその間にクビになることがあったからだという。

さてAppleに復帰しAppleを盤石の体制にした功績は間違いなく彼にあるし最近ではジョブズも丸くなったという説もある。しかし自分自身を振り返るまでもなく、そしてビジネスにおいても多くの人たちと接してきた経験から私は「人の性根は年月が経っても根本的に変わらない」と考えている。

確かに歳を取り、残された時間が短くなり体力的にもかつてより劣ったと自覚をせざるを得ないとなれば人との接し方も違ってくるかも知れない...。とはいえ人間という生き物は...特に悪癖というべきものこそ捨て去ることは難しいようだ。

私は「Apple嫌いのプロダクト好き」と公言してはばからない1人だが、これまで長い間ユーザーとしてデベロッパーとしてAppleに接してきた経験からスティーブ・ジョブズという人物を優れた実業家として認めることは勿論だが、1人の人間として信頼に値する人物とは考えられない。ましてや尊敬に値する人物とは到底思えない。
彼の成功談、日の当たる面だけしか知らない方々は彼を一流の人物、尊敬に値する人物と見る傾向もあるが、そうした方々は彼と...Appleとガチンコのビジネスをやった経験のない幸せな方たちなのだとしか思えない(笑)。

無論私はいたずらにスティーブ・ジョブズを悪人に仕立て上げようとしているわけでは決してないし、ご紹介した一連のあれこれも古参のMacintoshユーザーなら1度は耳にしたことのある周知の情報である。そして彼だって多くの長所もあるに違いないしそもそも人の上に立つ人物は基本的にいつも孤独でありビジネスは過酷なものであるからして時には憎まれざるを得ない決断を余儀なくされることもあるだろう...。しかしそうしたこととこれまでご紹介したあれこれは次元の違うものだ。

まあ、こんな憎まれ口をたたいても何の得もないわけだが、世間にはAppleの躍進を追い風にし諸手を挙げてスティーブ・ジョブズを素晴らしい人物と評価する傾向があるのが些か気になるのだ。
確かにビジネスで成功することや金持ちになる...有名になるということが人生の目標であってもそれが悪いわけではない。そしてAppleという企業や魅力的なプロダクトも無くなっては困るわけだがスティーブ・ジョブズという人物は正当な理由も無く、理不尽きわまりないことで立場の弱い人はもとより、信頼すべき周りの多くの人たちを不快にし傷つけてきた男であることも忘れてはならない。

いずれにしても理由はどうあれ、他人を貶めてまで自分を正当化することなど誰であっても許されることではない。ともあれ私は以前スティーブ・ジョブズに直接苦情の手紙を書いたことはあるが間違っても本人とは直接関わりたくない。無論向こうは鼻も引っかけてくれないわけだが(笑)。

【主な参考資料】
・東洋経済新報社刊「スティーブ・ジョブズ-偶像復活


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員