ラテ飼育格闘日記(144)

何度もこの日記に書いているが、ワンコに対して過度の擬人化は避けるべきだと考えてはいる。しかし日を増すにつれてこの小さな頭脳を持った動物はオトーサンたちが考えているより遙かに人間に近い発想と知能を持っているという確信に近い気持ちが強くなってくる。そして人に対する気遣いや期待感といったものをひしひしと感じるのだ。


いまだにデカルト説の影響か、ワンコは高度な知能は持たず、いわば条件反射的に動いているだけに過ぎないといった意見もあるようだ。
チンパンジーとかイルカの知能の高さについて話題は事欠かないが、ワンコはそうした動物たちと知能の点で同列に話される機会はほとんどなかった。しかし毎日ラテと過ごしているとそうした考えはまったくナンセンスで陳腐なものに思えてくる。
確かにワンコは我々人間には不可解な行動を取ることは確かだ。例えば地べたといい草木といい、電柱などを見ればとにかく鼻面を近づけて臭いを嗅ぐし我々にはバッチイとしか思えないものを口にする。そして時にはウンチまで食べてしまう。
しかし我々が理解できないからといってワンコを単に下等な生き物でありその知能を推し量るのは無意味ということではないはずだ。ともかくワンコと我々は種が違うからして理解し得ない部分もあるものの、ラテの行動は単なる反射ではなく場合によっては周到な思考および原因と結果を予測あるいは期待した上でのことだと考えられるほどだ...。

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※以前大好きな猫と遭遇した場所で猫を待つラテ(笑)


エリザベス・M・トーマス著「犬たちの礼節ある社会生活」の中に紹介されているエピソードのひとつはオトーサンにはとりわけ心を打たれる一節がある。それは後でルビーと名付けた18Kgほどの雌犬で外見はジャーマン・シェパードに似ているワンコの話である。
人類学者であるトーマスが里親を捜す番組に出演し、施設に保護されていた猫や犬を紹介する役割を担ったときのことだった...。
その犬は問題行動があったとかで飼い主が飼育放棄したらしい。呼ばれても来ず、家の中でオシッコをし、まったくしつけができていないため猫や小鳥を襲うクセを持っていた。
番組でゲージから出された犬はトーマスらの前に引き出されたのが嬉しいのか微笑みを浮かべすぐに自分の腹を見せたという。無論それは犬が自分を気に入ってもらいたいがための行為であることは明らかだったしトーマス曰く「自分にはあまり時間が残されていないのを知っていたかのように愛されようと最善を尽くした」という。
トーマスが撫でてやると体を揺り動かして手にまとわりつき微笑んだ...。
問題はここからだ。番組が終了しプロデューサーが彼女のリードをとってスタジオから連れ出そうとすると彼女は有頂天で踊るように飛び跳ね、嬉しそうに声を立てた。それはきっとプロデューサーが自分を望み、新しい飼い主になってくれると思ったに違いなかった。なぜならリードを引いたのはプロデューサが単に犬をゲージに連れ戻すためと知ったとき、まるで明かりが消えるように喜びも消え、啼きだした。
それを見てトーマスは即座に彼女を引き取ることを決めたという...。

こうした一連のワンコの行為・行動に対する我々の印象は人間側の思い込みであり、犬は実際にそうした感情や意図は持っていないと言い張る人もいるかも知れない。しかしルビーは現在の保護された環境下ではいずれ殺処分されることを本能的に知っていたように思えるし、だからこそ人の前に連れ出されたときあるいはプロデューサーにリードを引かれたときに新しい飼い主ができたのではないかと期待したのだ。そしてそれが誤解と分かると意気消沈する...。
保護施設の檻の中より新しい飼い主を求めるのは自然なことではないだろうか。そう考えた方がルビーの態度の変化が素直に説明できるし理解しやすい。
実はこの種のことをオトーサンもラテとの初対面で実体験しているのでトーマスがルビーに対して受けた印象は違和感なく同意できるのである。

ラテとの出会いはこの日記の最初期にご紹介した。しかし正直オトーサン自身がまだワンコに対して偏見...例えば極端なもの言いをするなら「ワンコはどのワンコでもそんなに違わない」と思っていたフシもあるし、ワンコがここまで高度な頭脳を働かせるということを知らなかったから、ラテの態度や行動の真意が当時よく分からなかったのである。
2006年11月12日のことだった。横浜のとある動物病院で開催された「犬の里親募集の会」に出席したとき、そこには7,8匹のワンコがいた。オトーサンたちが意識したキャバリエ系とテリア系のワンコはすでに欲しいという人が数組いたので諦めざるを得なかった...。
そんなときボランティアの方から「リードを持っていていただけますか?」と頼まれ手にしたのがラテ(当時は仮の別名だった)のリードだったのである。

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※2006年11月12日「里親会」で初めてラテと出会い、引き取ることに決めたときの写真。ラテはこの時推定5ヶ月の子犬だった


太いリードに繋がれたラテはキャバリエとかテリア系のワンコと比べると見映えがしなかったが実にフレンドリーだった。
両耳は垂れマズルが長く見るからに雑種のラテはワンコの扱いに慣れていないオトーサンに吠えることもなく、口を開けたり尻尾や肉球を触っても怒ったり歯を立てることはまったくなかった。何しろ約2時間の間、ラテの声を聞いた覚えはない。
他のワンコの中には五月蠅いほど吠え続けるのもいたし、リノリウムの床にオシッコをしてしまうワンコもいたがラテは吠えなかったし粗相もしなかった。
ひたすらオトーサンの差し出す手を舐め、口元を舐め、そしてキャップを噛んで唾液でべとべとにしてくれた(笑)。
後でオトーサンは「そのときラテは犬のクセに猫を被っていた」と記したが、いま思えばラテはその日、一世一代の賭をしたのだろう。
そのとき女房と撮った1枚の写真をいま見ると、当時は気が回らなかったが、ラテはそのお見合いの場に際して綺麗にトリミングしてもらっていた。だからというわけではないが、自分にとってその場がとても大切な時間であることを本能的に知って行動したのではないかと思わざるを得ない。

その場でオトーサンたちはラテを選んだつもりだったが、実のところラテに選ばれたと考えた方が分かりやすい。そう考えると我が家の家族となった後、他の人がリードを持とうとしたとき、異常とも思える脅えた態度を取るのもうなずける気がするのである。
その後ラテを見て感じたことといえば、彼女は決して大人しいワンコではないということだ(笑)。オトーサンに対しては聞き分けはよいが、自己主張をしっかりとするタイプである。そのラテがまだ子犬だったとはいえ、里親会の当日だけ神妙にしていたという事実は普通に考えるとおかしなことだろう。
見知らぬ場所、知らない大勢の人間たちの中では不安で声を挙げたくなる方が普通かも知れないではないか...。

そういえば女房が最近新説を出した(笑)。それは「なぜオトーサンにではなく女房や他の飼い主さんたち対してフレンドリーで執拗と思えるほどチューをするのか」というオトーサンの疑問に対するひとつの説である。
オトーサンに対しては近寄って体を寄せるといったこともないラテが女房とは実に仲がよく、オトーサンは嫉妬したくなるほどである。それは単純に女房や他の飼い主さんたちはオトーサンのように五月蠅いことを言わずに甘やかしてくれるからだろうと単純に考えていたが、女房の説はこの件に限りなかなか鋭い...。

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※寝ている女房に体を押しつけて目を瞑るラテ


女房曰くそれは「オトーサンの気を惹くための行為ではないか」というのだ。なぜならオトーサンが2日間留守にしたようなとき、ラテは女房に対してそんなにアクティブな接し方はしなかったという。
オトーサンがその場にいるときの方が女房に対してラテのチュー攻撃が激しいというのだ(笑)。無論日常の散歩のほとんどはオトーサンの担当だから、他の飼い主さんとお会いするときには必ずオトーサンがリードを持っている。そのオトーサンに見せつけるように好きな飼い主さんたちにチューをし、膝の下にまとわりつく姿は常々不思議に感じていたのだが...。
理由は不明だが、自分から積極的にオトーサンへ接近することははばかれるものの、オトーサンの気持ちをより自分に向かせたいというラテの思惑からくる行動なのだというのが女房の説なのである。無論本当のところは不明だが、そう考えると理解出来る点も多い。何しろオトーサンがラテの前でわざと女房の肩に腕を回すようなことをすればヤキモチなのか...女房に止めろといわんばかりに向かっていくラテなのだから。

話は違うがラテが出窓のたたきで寝そべって休んでいるとき、オトーサンが何らかのオヤツを持って近づくとラテはオトーサンの手首あたりにお手のつもりなのだろう前足を乗せる。オトーサンはその前足をそっと掌に包む...。
ただしそれは当然のことながらオヤツが欲しいからである。オトーサンがオヤツを持っていない場合はそんな行動には出ないシビアなラテである。
面白いのはオトーサンが手にしたいくつかのオヤツを寝そべったラテに少しずつ与えている間、ラテの前足はオトーサンの掌や腕に置かれてたままだが食べ終わった瞬間彼女はその前足を引っ込めてしまうのだ(笑)。

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※オヤツを食しているとき(左)と食べ終わったとき(右)のラテの態度は明確に違う(笑)


まるで前足をオトーサンの手にかけることでオヤツをもらっている間はオトーサンの喜ぶことをしておこうという彼女なりの心配りを感じる。
寝そべっているとはいえ、口を動かしながら前足をオトーサンに預けた姿勢はどう考えても自然ではなく楽ではないと思う。早く言うなら、ラテはラテなりに気を使っているのである。
もしラテに感想を聞くことが出来たなら、きっと「オトーサン!ペット稼業も楽ではないわよ」と言うのかも知れない(笑)。

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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員