少々時間が取れたのでずっと懸案事項のひとつだったことをやってみた。それはすでに8年も前になるが、資料としてeBayに出品されていたApple II 用の表計算ソフト「VisiCalc」のパッケージを手に入れたものの、これまで一度も起動させていなかったことだ。
「VisiCalc」に関しては旧記事「Apple II 用として開発された表計算ソフト『VisiCalc』再考」に詳しいので繰り返さないが、現Excel (エクセル)の発端となった画期的なアプリケーションであり、為にApple II のキラーアプリケーションとしてApple II の売上げにも大きく貢献したことが知られている。 なにしろしばらくの間「VisiCalc」はApple II 専用だったのである。
私の手元にある「VisiCalc」のパッケージはフェイクレザーの3穴バインダ形式になっているものでリリースは1981年、パーソナルソフトウェア(Personal Software)社から発売となっている。なお同社はVisiCalcの成功を確信した後、社名をビジコープ社と変えているから、手元のパッケージはまだ販売初期のものということになる。 対象は “Apple II & II Plus 48K 16Sector“ と明記された文字通り、Apple II 版だが、すでにオリジナルディスクは無くバックアップディスクしか残っていない。しかしマニュアルやリファレンスカード、保証書などは当時のまま残っている。
今回「VisiCalc」を起動してみようと用意した機材は以下のものだ。
・Apple II plus ・DISK II ・モニター (Apple IIc 用のグリーンモニター)
まずはApple II の蓋を開け、スロットに刺さったままにしているDISK II インターフェースカードにDISK II のケーブルコネクタを差し込み蓋を閉める。 モニターをApple II の蓋の上に置き、Apple II 本体とモニター共に電源コードをセットしてコンセントに繋ぐというこれだけだ。
いよいよフロッピーディスクをDISK II にセットして起動してみる。例え起動しなくても何の問題もないはずなのにやはりこうしたことは些か緊張するものだし反面期待も大きい。 DISK II の扉を閉めたらモニターの電源を入れ、続いてApple II 背面にある電源スイッチをONにする。 「カタカタカタカタ...」 懐かしいDISK II が音を立てたと思ったら、あっと言う間に初期画面がモニターに表示した。 問題なく起動したようだ。
※ユーザーズガイドからフロッピーディスクを取りだして起動させる
早速Apple II のキーボードからいくつかのセルに文字列や数値を入力しようとするが、そこはExcelではないわけで(笑)、全くといってよいほどコマンド類は忘れている。 それにさすがのApple II plusも問題なく動作しているものの、キーボードは些かチャタリング気味であるしキーストロークが現在のキーボードとはまったく違うので打ったつもりが入力されていないということもある。
1987年といえば私は小さな貿易商社のサラリーマンだった。ただしその10年前からマイコンやらパソコンという世界に足を突っ込み、懐具合が良かったこともあってPET2001、 Apple II、PC-9801、PC-100、IBM5550そしてMacintoshなどなどという数多くのパソコンを手元に置き、特にペイントソフトやコンピュータ・グラフィックスにかかわるあれこれを楽しんでいた。そしてCGにのめり込み、同年夏にはロサンゼルスのアナハイムで開催されたSIGGRAPH '87に参加するため初めて渡米するという暴挙にも出た(笑)。
正直「PC-9801用のアプリなのか...」と少々がっかりしたが、要はパソコン雑誌でグラフィック関連記事を書いている私に目を付けてくれたらしい。そしてもしそのとき私がAppleやMacに拘っていたらこの1冊は生まれなかったしその後の数冊の機会もなかったに違いない。 ただし私はすでにその時期 NEC PC-9801を所有していたし一太郎も使っていた。またMS-DOSの基礎知識も持っていた。そしてなによりも「はじめて自分の名による書籍が世に出る」という事実に舞い上がっていたように思う。
手元に1本のカセットテープがある。カセット自体は何の変哲も無いものだがご覧の通り、ラベルには6色アップルロゴがあり "apple computer inc." という表記がある。そう、これは1979年Appleが出荷したカラーデモソフトが記録されているApple II 用オリジナル・カセットテープなのである。
Apple II だけではないが、パソコンが登場したばかりの黎明期は何もかも現在とは違った環境に甘んじるしかなかった。そのひとつがデータの外部記憶装置である。ユーザーがプログラミングしたデータを保存する場合に最初期にはフロッピーディスクもハードディスクも無論USBメモリもなかった。ではなにを使うのかといえば音楽用のカセットレコーダーおよびカセットテープだったのである。
こうした状況については以前「データ記録媒体としてのコンパクト・カセットテープ雑感」で詳しく述べたので繰り返さない。しかしその際にはApple 1のソフトウェアをターゲットしてカセットテープを当時のものと同じようにと復元してみたが、今回のカセットテープはApple II 用の本物...オリジナルである。
ということでここではApple II に限ってだが、前記事の補足という意味も含めて接続やら簡単な使い方といったことをご紹介してみたい。なお今回手に入れたカセットテープの中身だが、片面には “Color Demosoft” 反対側には “Little Brick Out” というBASICで書かれたプログラムが記録されている…はずだ。
ここでは正真正銘30数年ぶりにカセットテープからApple II へプログラムをロードして走らせてみるが、時の流れは非情とでもいったら良いのか、当時あれほど日々繰り返し夢中になった手順が思い出せない(笑)。 そうした準備の前段階はハードウェアの用意と接続だ。今回はApple II Plusを引っ張り出してみたが、これにNTSC小型テレビ、そしてカセットテープレコーダー(モノラル)を準備した。
※今回使用したハードウェアはこの三種
さて、Apple II とテレビの接続とか電源がウンタラは当然のことなので省くが、カセット・レコーダーとの接続に関しては、Apple II 背面にはオーディオ入出力ジャックが用意されているので、その “IN” とカセットコーダー側のモニター(出力)端子をミニプラグ・ケーブルでつなぐ。
※Apple II 背面にはオーディオ入出力ジャックが用意されている
では実際にカセットテープに記録されているデータをApple II へ読み込むにはどうしたらよいのか…。この辺のことをあらためて認識するといかに現在のMacやらが使いやすいかが身にしみてわかる。 具体的な手順だが、Apple II Plusは使用環境における様々な初期状態があり得るもののここでは本体のみで電源投入と共にAppleSoft BASICが起動していることを前提にしよう。したがって起動後の初期画面を見ると “ ]” の形をしたプロンプトが表示し入力待ち状態になっているはずだ。
ここでカセットテープをレコーダーにセットすると共にApple II のキーボードから “LOAD” の文字を入力する。Apple II は標準では大文字しか使えないのでシフトキーうんぬんへの気遣いは不要だ。
※プロンプトの後に "LOAD" と入力
ただしこのカセットレコーダーからプログラムデータを読み込むにしてもコンピュータ側でレコーダーのプレイとかストップを制御できるわけではないことにお気づきだろうか。したがって “LOAD” と入力したまままずはレコーダーの再生ボタンを押してテープを走行させてからApple II の “RETURN” キーを押す。 これでレコーダーのテープ走行に準じてApple II 側にプログラムが正常に読み込まれると画面は改行され、再度プロンプトが表示しコマンド待ちとなる。そこでまだカセットテープが回っているならストップさせる…。
表示スピードやらのコントロールはできず、ただ見ているだけだ(笑)。それでも当時はApple II の魅力を最大限に示すデモであり、例えば1977年4月に開催された第1回ウエストコースト。コンピュータ・フェアー(WCCF)でAppleが初めてApple II をお披露目した際、大型モニターに映し出した “KALEIDOSCOPE” もこれと類似のものだったに違いない。
※ スタートアップ画面から “KALEIDOSCOPE” が表示し始める様子
もうひとつのプログラムは “Little Brick Out” だが、これは「ブロック崩し」ゲームとして一世を風靡したものだ。無論Apple II に読み込ませる手順は前記と同じだが、テープを裏返してレコーダーにセットし、まずは念のために巻き戻す。そして実行だ…。 こちらは無事読込ができて走らせてみるとスタートアップと簡単な解説の画面が表示されるがゲームを走らせれば何とも簡素なブロック崩しゲームの画面が現れる。ただしゲームを行うにはパドルといった類のコントローラーが必要だが、手近に見つからなかったので今回遊びは断念した(笑)。
Apple II は1982年に手に入れたが、同年8月にDisk II を手に入れたから比較的早くフロッピーディスクを使い始めた方なのかも知れない。しかしソフトウェアはまだまだカセットテープで供給されたものがあったから、フロッピーとカセットはしばらくの間共用することになった。 ただし他機種では1983年に登場したハンドヘルドコンピュータ HC-20はマイクロカセットだったし1983年にビデオとコンピュータ映像をスーパーインポーズしたいと手にしたシャープのX1もカセット駆動だった。