私がジョナサン・アイブへ不信感を持っている理由(笑)

いかにもウケを狙ったタイトルのようだが(笑)、先日知人らとFaceTimeで長話をした際のまとめみたいなアーティクルになるものの、私がAppleの重鎮であるジョナサン・アイブ氏に不信感を持っている…という話から盛り上がった。不信感を持ったのは随分と前の事だ。まあ、ジョナサン・アイブ氏の熱烈なファンの方も多々いらっしゃるはずだが、与太話としてお許し願いたい。


知人らとの話の中で行きかがり上、私が「ジョナサン・アイブをあまり好きではない」という話をしたところ、ひとりの方が言うには「そもそも我々が有名人を嫌いとか批難するのは深層心理的にただ単に有名人…成功者への反感からだと思う」とし、さらに「極論をいうなら、我々は企業から生み出された製品…プロダクトに対して評価するのは良しとしても本来ジョブズやアイブらのあることないことを言い合うのは意味のないことではないか」と切り捨てられた(笑)。

正直…なるほど、もっともな意見だとも思った。しかし現代の複雑で難しい時代…あれこれの問題を多々抱えた情報化社会では卵でも野菜でも、あるいは牛乳でもどこの誰が作ったのかが分かる方が安心して消費できることは間違い無い。無論パソコンだって作り手やその情熱が伝わってきた方が興味もわくし面白い。
そもそも我々が30年以上も前にApple製品を熱烈に支持するようになったのはデザイン云々以前にAppleという企業文化が我々ユーザーの心を捉えたからだ。
思い出しても…1980年代、Apple IIを見て「欲しい!」と思ったのは筐体のデザインでもなければ6色アップルロゴのプレートでもなく、ただただ日本製パソコンとは明らかに違うスペックでありその能力だった…。

さてAppleの戦略の一環なのだろうが、新製品が出る度にジョナサン・アイブはそのコンセプトの説明のためウェブに動画として登場し解説する。そしてそれを多くの人たちも楽しみにしているようだ。したがってすでにアイブはAppleの顔なのである。もしかしたらCEOのティム・クックより世間には知られている人物かも知れない。
そのアイブの姿は必ずといってよいほどシャツ1枚であり、その些かマッチョな身体にその姿は似合わないと私は常々思っている(爆)。

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※個人的にこの姿は...少なくともメディアに登場する場合には世界的なデザイナーとしてふさわしくなく、もう少しお洒落をしていただきたい(笑)


シャツの色はともかく、私の子供の頃にはこんなシャツ1枚とステテコ姿で縁台に座って将棋を打っていたオヤジ達が沢山いたが、そんな男たちを思い出してしまう…。したがって大きなお世話だと知りつつも個人的にはプロダクトデザイン以前にご自分の身につけるものを…いや普段着はどうでもよいが少なくともメディアに登場する際には着衣を再デザインすべきではないか…と思ったりもする(笑)。「先ず隗(かい)より始めよ」であろう…。

ただしこれはあくまで私個人の感じ方なので多くの方たちと相容れない意見かも知れない。そもそもアイブがその実力を十分に発揮できたのはスティーブ・ジョブズの強烈なリーダーシップあってのことだったと思うのだ。単に実力や能力があったとしても企業や組織の中で理想的な結果を生むには様々なファクタを超えた判断や決断が必要なわけで、アイブひとりが優れていたとしてもなかなか良い結果は残っていかないと危惧している。
無論歴史が証明しているようにアイブを評価し積極的に表に出すようにしたのは他ならぬスティーブ・ジョブズである。そしてまた、アイブの存在を我々が認識しだしたのはスティーブ・ジョブズがAppleに復帰しあのボンダイブルーのiMacを発表してからだ。

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※当研究所所有、初代ボンダイブルーのiMac


ジョナサン・アイブはロンドンのデザインエージェンシーに在籍した後、1992年アップルでのキャリアを積むためにアメリカ合衆国へ移住しロバート・ブルーナー率いるインダストリアルデザイン部門に就任し、20周年記念モデル(スパルタカス)の最終デザインを担当する。またスティーブ・ジョブズが復帰した1997年以来、アップルのIDGを率いて主要製品のデザインを統括してきた。その後インダストリアルデザイングループ担当上級副社長に就任し、現在ではハードウェアのデザインだけでなくiOSのフラットデザインなどにも大きな影響を与える立場におりすでに多くの賞を得、デザイン界でもっとも有名な人物となった。
英国紙The Sunday Times は2005年にアイブをイギリスでもっとも影響力のある海外居住者のひとりとして選出している。さらに2006年にはデザイン業界への貢献を讃えて大英帝国勲章を授与され "Sir Jonathan Paul Ive" とナイトの称号を与えられている。

さて私がアイブのデザインに疑問を呈するのは無論その理由があるからだ。
最初に私がジョナサン・アイブを意識したのはスパルタカスだった。80万円もする高価な割にはスペックが旧態依然の製品だったがAppleの創立20周年を記念するモデルだということ、そしてそのデザインが未来志向なのが気に入って購入した。
液晶画面も小振りでパワーも決して最上級ではなかったがサウンド系にはBOSEのウーハーとスピーカーが使われており、楽しむには十分な製品だった。しかし早々にトラブルが生じた。
スパルタカスは自宅に設置したことでもあり、そうそう本体の配置を変えた記憶はないが、おかしなことに背面から出でいる電源を含む太いケーブルの根元が折れたように皮膜が破れシールドが見えるようになってしまった。聞けば同様なトラブルは私だけではなく多々生じていたようで、見るからにケーブルおよびその取りつけ手法に無理があるように思えた。これは明らかに材料選択を含む設計ミスだ。いくら本体のデザインを見栄え良くしたとしても早々に問題が生じるインダストリアルデザインなど信用できないと思った。

そのもやもやした疑惑は初代 iMacで確信となった(笑)。ボンダイブルーのiMacに使われた円形のマウスは実に使いにくかったからだ。サイズが大きめなのは欧米のユーザーには気にならないのかも知れないが、問題は円形なので直感的にマウスを正しい方向に保持するのが難しいのだ。iMac本体の魅力を割り引かざるを得ないこの円形マウスにジョナサン・アイブへの不信感はつのった…。

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※ボンダイブルーのiMac用円形マウス


この問題は狭い一部のユーザーの文句に留まらなかった。なぜなら1999年のMacworld Expo/SFにはその円形マウスに被せるマウスカバー「iCatch」がサードパーティから販売され飛ぶように売れた事実からも問題は明白だろう。無論「iCatch」は私も買った(笑)。

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※サンフランシスコのMacworld Expoで人気商品となったマウスカバー「iCatch」を販売するブース(筆者撮影)


それだけならまだしもその悪評を払拭しようと考えたのだろう、当のアイブが動画でサイトに登場しマウスの持ち方や円形マウスの扱い方を説明するという愚行に出た。思わず「いまさら作り手に持ち方や使い方を教わらなければ使えないようなマウスなど作るなよ!」と口に出してしまうほどそれはおかしな話だった。

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※円形マウスに被せるマウスカバー「iCatch」(上)と実際にマウスに被せた例(下)


一端大きな不信感を持ってしまうとどうにもそうした目で彼の仕事を見てしまう…。そうした懐疑的な目で見ると例えば新しく発表された円筒形のMac Proは疑問だらけのデザインである。しかも先の初代iMacのマウスを思い起こすとどうやらアイブは円という形が好みなのではないか…。
今回iPhone 5c用としてリリースされた専用カバーには多くの円形で型抜きされたデザインが採用されている。まあ、円形の穴といえばフロントに空いた沢山の小さな穴を持つ現行Mac Proを思い出すが、iPhone 5cケースのそれはサイズが大きいだけにダサク感じて好きになれない。なにが…どこがAppleらしさ、斬新さなのだろうか?
アップルのウェブにはそのケースを称して「後から足したように見えないのは、最初からデザインの一部だったからです。」とある。しかしケースに隠れ、円形からiPhone背面に印刷されている “iPhone” のテキストが 一部覗いている様は、どう贔屓目に見ても「後から足した」ようにしか見えず、これがAppleのデザインか?と疑うほど素人臭い。

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※iPhone 5cと専用カバー(アップルのウェブより転載)。こんなデザインでよくも「後から足したように見えないのは、最初からデザインの一部だったからです。」等といえるものだ(笑)


円形はある意味で究極の、完全なる形であるからして様々な道具やデザインとして使われてきたわけだが、発表された新型Mac Proはパソコン本体のデザインとしては例がない筒型だ。大型スーパーコンピュータのクレイは冷却効果を狙ったこともあって結果円筒形に近いデザインのものがあったがパソコンでは類を見ない…。
これまでなかった形を求めたいとする気持ちが働いたのかも知れないが、見た目はともかく円という形状は決して使い易いものとは限らない。
まず内部構造上、デッドスペースが出来やすく部品の実装が難しいはずだ。それはApple側の問題だからしてともかくとしても、机上に円筒形を置くことを考えれば自ずと想像できると思うが、他のほとんどの機材が四角い形状であることもあって設置場所にデッドスペースができるだけでなく置く位置…向きが限定されるように思う。
とはいえこの円筒形デザインを気に入っている方もいるわけだから、あくまで私の個人的な好み...感性からくる意見である事は申し上げるまでもない。

とはいえ本来円はどのように設置しても円であり、自由度が高いように思われるが現実のプロダクト、それもパソコンであるなら少なからずケーブル類が接続され,電源ボタンなどに手を触れなければならないわけで、場合によってはそれらの取り回しが気になるのではないだろうか…。
さらにiOS 7のアイコンデザインもスタートしたばかりだからして温かい目で…長い目で見たいとは思うが、超一流のデザイナーが手がけたアイコンデザインとは思えないものがいくつかある。そういえばiOS 7の受信電波の強さを表す5段階表示も○の連続になったし、フラットデザインには丸が目立つように思える。

ともあれ誤解があっては困るが、この項はジョナサン・アイブをいたずらに貶めようとする意図ではない。多くの賞を得た彼とて一人の人間であり完全無欠であるはずもなく、時に失敗作を生み出すこともあり得るのだということを納得しておくことが大切だと思うだけだ。
先のアーティクル「スティーブ・ジョブズ 1995 〜ロスト・インタビューの注目すべき点【2】」でご紹介したとおり、スティーブ・ジョブズは「真に優秀で頼りになる人たちにしてやれることのなかで、何がいちばん重要かというと、仕事の出来が満足いくものではない時には、それを指摘してあげることだ。…簡単なことではないさ。」と言っている。
まさしくユーザーとしても妄信したり闇雲に賞賛を送るのでなく、駄目な物はダメだときちんと伝える必要があると思うのだ。それが次によりよい製品を開発する因(よすが)となるに違いないと考えるからである。


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員