刀剣、特にその"拵(こしらえ)"の魅力
「前田慶次道中日記」の紹介時に日本刀の拵(こしらえ)に触れたが、今回はその刀と拵えの魅力について紹介させていただくことにする。よく刀は武士の魂などと称するが言ってしまえば元来は人殺しの武器である。しかしこの日本刀ほど日本人の美意識を表しているものはないと思えるほど特筆すべきものであり、その拵により刀剣は芸術性をも高めているという希有な存在である。
日本刀の特徴は、"折り返し鍛錬法"で鍛え上げられた鋼を素材とし、非常に高度な技術により「折れず、曲がらず、良く斬れる」の相矛盾する3要素を実現した我が国独特の武器である。
以前テレビの番組で日本刀の性能を試す実験として刀身に向け拳銃の弾丸を撃ち込むことをやったが、弾丸は見事に両断され刃こぼれもしなかった。日本刀はそれほど特殊で鋭利な刃物なのだ。
この日本刀の切れ味を子供の頃実際に体験したことがある。それは母方の祖先が武士だったらしく、日本刀の刃先が10数センチで折られた状態のものが我が家にあった...。たぶん祖父らが戦争中に持って行かれることを嫌がりいくつかに割ったのだと聞いた記憶があるが今となっては細かなことは分からないしその所在も分からなくなったままだ。
ともかく私が小学生の頃だったが、父が窓の外にある鉄柵にその日本刀の刃先を打ち付けたことがあった。たぶん私が「それって本当に凄く切れるの?」としつこく問いただしたからかも知れない(笑)。
その結果は子供心に驚いたが日本刀はしっかりと鉄柵に食い込んだものの刃こぼれひとつしなかった。そして印象的だったのは日本刀の折った部分を見せてもらったがそれはまるでフランス菓子ミルフィーユみたいに薄い金属が沢山重なっていた...。
まあ、刀そのものに関するあれこれは知識が豊富であるわけでもないので知ったかぶりは止めるが、我々の日常において刀からきた言葉が多々あることを知っていただきたいと思う。それだけ日本刀は我々にとって身近なものだったということだ。
例えば「切羽詰まる」の切羽は鍔(つば)の両面に添える長円形の金具のことだ。これが詰まって塞がると刀の抜き差しができなくなるところからこの言葉が生まれた。また「つばぜり合い」も文字通り刀のつばとつばが競り合うような緊迫した戦いを意味するわけだ。

※鍔に密着した金色小判形のものが「切羽」で、鍔(つば)や鎺(はばき)などと共に刀身との接合を良くし機能を保つ役目をする
「折り紙つき」というのも元々は刀の鑑定書のことだし「さやあて」「しのぎを削る」「反りが合わない」「目貫通り」「やきを入れる」「もとの鞘に納まる」「単刀直入」「付け焼き刃」「おっとり刀」などなど、いかに私たちの生活に日本刀というものが例え象徴的にせよ染みこんでいたかという証ではないだろうか。
さてそれでは私のお気に入りの脇差しを例に刀の拵を見ていただこう。
ちなみに江戸時代と現代とは法律的な意味も含めて相違があるらしいが、現在30~60cm以下を脇指、60cm以上を刀と分類するそうである。
無論この一振りを気に入ったのは前田家の紋(梅鉢)が蒔絵になっている点を含め実用的な拵でありながら、垢抜けた作りになっているからだ。

※お気に入りの前田慶次モデル脇差し(模造刀)
これは傾奇(カブキ)者として知られた武士、前田慶次をイメージしたものだということだが、残念ながら慶次が使っていた実物の揃いは現存していない。しかし叔父に当たる前田利家が奉納した拵などを見るまでもなく当時は金銀はもとより、貝や錦あるいは皮あるいは象嵌や金蒔絵を多用したかなり派手な作りの拵もあったことがわかる。
無論「江戸の刀剣拵-コレクション」(井出正信著/里文出版)という一冊に載っている数々のコレクションのような見映えのする拵は実用というより家宝あるいは鑑賞用として大切に保存されたからこそ現代まで残ったのだろう。


※「江戸の刀剣拵-コレクション」(井出正信著/里文出版)は刀剣の拵写真集である
ただし侍たちにとって普段使うもの、正式な装束における佩刀はずっと地味な拵であったという。いわゆる登城差しといわれる大小は柄巻は黒糸、鞘も黒が普通だった。
そうしたことを念頭に入れて手元の拵を見るとカブキ者として知られた前田慶次をイメージにしては地味かも知れないが、実に垢抜けした拵であり飽きがこないのである。
この一振りは全長48cm、刃渡りが27cm、重量は鞘を含めて630gといった脇差しである。そして受け売りながらその拵を見ていくと、鞘が暗朱呂塗(前田梅鉢紋蒔絵入)で実によい色味だ。



※前田慶次モデル脇差し各部位
柄の仕様は紺糸捻り巻き(暗朱染鮫)、縁頭金具は梅図高彫金具、目貫は雌雄龍図目貫(銀古美仕上げ)で鍔が菊図喰出鍔だという。そして下緒は多色織で真田紐打となっている。さらに刀身は美濃伝名工・関ノ孫六兼元を模しその波紋は孫六三本杉刃紋である。

※刃がついていないとはいえ切っ先は鋭い。模造刀とはいえ扱いを間違えると大けがをする
刀身は亜鉛、真鍮、アルミニウムなどの合金でできており、ちょっと見かなりの切れ味に見えるが刃は付いていない。しかし鞘に納めたり鯉口を切る際に扱いを間違えると怪我をしかねないし、切っ先は鋭いから無論突いたら危ない。
日本刀は日本人の美意識をもっともよく表したものだとも言えるし、本来人を殺すための武器である点も逆に実用を超えた精神性を重視する方向に向かわせたのかも知れない。
ところで、許されるのなら着流しでも着てその腰にこの一振りを差し剣客商売の秋山小兵衛よろしく歩いてみたいが、それは立派な銃刀法違反だという。危ないという点だけでいえば鉄バイブや金属バットあるいはゴルフクラブだって危害を加えようとするなら立派な武器になるわけだが、勿論これらを持ち歩いても銃刀法違反にはならない。
銃砲刀剣類等所持取締法の第22条の4(模造刀剣類の携帯の禁止)にはあくまで「金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物で総理府令で定めるものをいう」と明記されている。
要するに一見本物と見分けがつかないようなブツを持ち歩いてはいけないということだ。ただし前記したように模造刀には刃がついていないために所有するに際して届け出を必要としないし勿論所持して楽しむのに制約はない。
しかしこれら日本刀をMacがある部屋で眺めることもあるわけだが、どう考えても...取り合わせがよくない(笑)。やはり床の間がある和室に正座して対峙しないとどうも格好がつかないのが難点である。
■江戸の刀剣拵コレクション
日本刀の特徴は、"折り返し鍛錬法"で鍛え上げられた鋼を素材とし、非常に高度な技術により「折れず、曲がらず、良く斬れる」の相矛盾する3要素を実現した我が国独特の武器である。
以前テレビの番組で日本刀の性能を試す実験として刀身に向け拳銃の弾丸を撃ち込むことをやったが、弾丸は見事に両断され刃こぼれもしなかった。日本刀はそれほど特殊で鋭利な刃物なのだ。
この日本刀の切れ味を子供の頃実際に体験したことがある。それは母方の祖先が武士だったらしく、日本刀の刃先が10数センチで折られた状態のものが我が家にあった...。たぶん祖父らが戦争中に持って行かれることを嫌がりいくつかに割ったのだと聞いた記憶があるが今となっては細かなことは分からないしその所在も分からなくなったままだ。
ともかく私が小学生の頃だったが、父が窓の外にある鉄柵にその日本刀の刃先を打ち付けたことがあった。たぶん私が「それって本当に凄く切れるの?」としつこく問いただしたからかも知れない(笑)。
その結果は子供心に驚いたが日本刀はしっかりと鉄柵に食い込んだものの刃こぼれひとつしなかった。そして印象的だったのは日本刀の折った部分を見せてもらったがそれはまるでフランス菓子ミルフィーユみたいに薄い金属が沢山重なっていた...。
まあ、刀そのものに関するあれこれは知識が豊富であるわけでもないので知ったかぶりは止めるが、我々の日常において刀からきた言葉が多々あることを知っていただきたいと思う。それだけ日本刀は我々にとって身近なものだったということだ。
例えば「切羽詰まる」の切羽は鍔(つば)の両面に添える長円形の金具のことだ。これが詰まって塞がると刀の抜き差しができなくなるところからこの言葉が生まれた。また「つばぜり合い」も文字通り刀のつばとつばが競り合うような緊迫した戦いを意味するわけだ。

※鍔に密着した金色小判形のものが「切羽」で、鍔(つば)や鎺(はばき)などと共に刀身との接合を良くし機能を保つ役目をする
「折り紙つき」というのも元々は刀の鑑定書のことだし「さやあて」「しのぎを削る」「反りが合わない」「目貫通り」「やきを入れる」「もとの鞘に納まる」「単刀直入」「付け焼き刃」「おっとり刀」などなど、いかに私たちの生活に日本刀というものが例え象徴的にせよ染みこんでいたかという証ではないだろうか。
さてそれでは私のお気に入りの脇差しを例に刀の拵を見ていただこう。
ちなみに江戸時代と現代とは法律的な意味も含めて相違があるらしいが、現在30~60cm以下を脇指、60cm以上を刀と分類するそうである。
無論この一振りを気に入ったのは前田家の紋(梅鉢)が蒔絵になっている点を含め実用的な拵でありながら、垢抜けた作りになっているからだ。

※お気に入りの前田慶次モデル脇差し(模造刀)
これは傾奇(カブキ)者として知られた武士、前田慶次をイメージしたものだということだが、残念ながら慶次が使っていた実物の揃いは現存していない。しかし叔父に当たる前田利家が奉納した拵などを見るまでもなく当時は金銀はもとより、貝や錦あるいは皮あるいは象嵌や金蒔絵を多用したかなり派手な作りの拵もあったことがわかる。
無論「江戸の刀剣拵-コレクション」(井出正信著/里文出版)という一冊に載っている数々のコレクションのような見映えのする拵は実用というより家宝あるいは鑑賞用として大切に保存されたからこそ現代まで残ったのだろう。


※「江戸の刀剣拵-コレクション」(井出正信著/里文出版)は刀剣の拵写真集である
ただし侍たちにとって普段使うもの、正式な装束における佩刀はずっと地味な拵であったという。いわゆる登城差しといわれる大小は柄巻は黒糸、鞘も黒が普通だった。
そうしたことを念頭に入れて手元の拵を見るとカブキ者として知られた前田慶次をイメージにしては地味かも知れないが、実に垢抜けした拵であり飽きがこないのである。
この一振りは全長48cm、刃渡りが27cm、重量は鞘を含めて630gといった脇差しである。そして受け売りながらその拵を見ていくと、鞘が暗朱呂塗(前田梅鉢紋蒔絵入)で実によい色味だ。



※前田慶次モデル脇差し各部位
柄の仕様は紺糸捻り巻き(暗朱染鮫)、縁頭金具は梅図高彫金具、目貫は雌雄龍図目貫(銀古美仕上げ)で鍔が菊図喰出鍔だという。そして下緒は多色織で真田紐打となっている。さらに刀身は美濃伝名工・関ノ孫六兼元を模しその波紋は孫六三本杉刃紋である。

※刃がついていないとはいえ切っ先は鋭い。模造刀とはいえ扱いを間違えると大けがをする
刀身は亜鉛、真鍮、アルミニウムなどの合金でできており、ちょっと見かなりの切れ味に見えるが刃は付いていない。しかし鞘に納めたり鯉口を切る際に扱いを間違えると怪我をしかねないし、切っ先は鋭いから無論突いたら危ない。
日本刀は日本人の美意識をもっともよく表したものだとも言えるし、本来人を殺すための武器である点も逆に実用を超えた精神性を重視する方向に向かわせたのかも知れない。
ところで、許されるのなら着流しでも着てその腰にこの一振りを差し剣客商売の秋山小兵衛よろしく歩いてみたいが、それは立派な銃刀法違反だという。危ないという点だけでいえば鉄バイブや金属バットあるいはゴルフクラブだって危害を加えようとするなら立派な武器になるわけだが、勿論これらを持ち歩いても銃刀法違反にはならない。
銃砲刀剣類等所持取締法の第22条の4(模造刀剣類の携帯の禁止)にはあくまで「金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物で総理府令で定めるものをいう」と明記されている。
要するに一見本物と見分けがつかないようなブツを持ち歩いてはいけないということだ。ただし前記したように模造刀には刃がついていないために所有するに際して届け出を必要としないし勿論所持して楽しむのに制約はない。
しかしこれら日本刀をMacがある部屋で眺めることもあるわけだが、どう考えても...取り合わせがよくない(笑)。やはり床の間がある和室に正座して対峙しないとどうも格好がつかないのが難点である。
■江戸の刀剣拵コレクション
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