ノーラン・ブッシュネル著「ぼくがジョブズに教えたこと」読了の感想
和訳の発刊を知ったとき早速Amazonに予約注文したノーラン・ブッシュネル著「ぼくがジョブズに教えたこと」が届いた。正直あまり期待しないでページを開いた。勿論タイトルからお分かりの通り、本書はいわゆるジョブズ本の類ではないが、多々スティーブ・ジョブズの名や彼のエピソードが登場する…。
本書はスティーブ・ジョブズのあれこれを紹介するものでもなければ彼のエピソード集でもない。サブタイトルに「『才能』が集まる会社をつくる51条」とあるように、いかにしたらクリエイティブな人材を見つけて雇うことができるか、それによりクリエイティブな企業として成功できるか…を考察したものだ。
ましてや一時巷に氾濫した「いかにしてスティーブ・ジョブズのようになれるか」の類を論じた本ではない。さらに個人的にはいまさらまたまた起業して人材を集めるといった気概もない私としては「まあ、とりあえず目を通しておくか…」といった程度の感じで本書を開いた。しかし「クリエイティブ、クリエイティブ」と続くのが些か食あたり気味だったものの読み進めるうちにこのノーラン・ブッシュネルという人物が気に入ってきた(笑)。

※ノーラン・ブッシュネル著「ぼくがジョブズに教えたこと」井口耕二訳(飛鳥新社刊)表紙
無論いまさらカリスマ経営者であるノーラン・ブッシュネルの成功談をご紹介する必要はないだろう。しかし本書を読む限り、彼の人を見る目というか人を見抜く天性の感はユニークではあるが本物だと感じた。
ただし本書タイトルの「ぼくがジョブズに教えたこと」という文句が少々鼻につく…。スティーブ・ジョブズの名を出すことで本書のセールスに好影響を期待したのだろうか…と”下種の勘ぐり”も頭をよぎるし、書名から受ける印象は何だか「自分が(ブッシュネル)が教育したからスティーブ・ジョブズが成功した」といったニュアンスも感じたからだ。
ただし原著のタイトルは「Finding the Next Steve Jobs. How to Find, Keep and Nurture Creative Talent.」だと知って納得した…。したがって手にした和書のタイトルはブッシュネルの責任ではないようだ(笑)。要は創造的な才能を持っている次世代のスティーブ・ジョブズを見つけ出し、育てるにはどうしたらよいか…を問う本なのだ。
ともあれノーラン・ブッシュネルはアタリ社でビデオゲームを生んだ伝説の人物だが、そこで一時期スティーブ・ジョブズを雇っていたことはよく知られていることだ。そしてブッシュネルとジョブズとの関係がどのようなものであったかについてはあまりはっきりしていなかったので、その点が本書を開く動機ともなった。
さてジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著「スティーブ・ジョブズ 偶像復活」(東洋経済新聞社刊)によればアタリがビデオゲームの成功で急成長していた…1974年のある日、「雇ってくれ」とヒッピーまがいの若い男が会社を訪問する。最初に会った人事部長は「変な奴がきた、雇ってくれるまで帰らないというんだ。お巡りを呼ぶかい?」とブッシュネルの右腕だったアル・アルコーンに告げる。
現れた男は確かにヒッピー同然のボロボロの服を着たリード・カレッジ中退の18歳の男だった…。勿論それがスティーブ・ジョブズである。
やる気に充ち満ちていたジョブズを雇ったはいいが、預けようとした担当者は「(奴は)どうしようもないヒッピーだし、すごい臭いだ」と苦情を言ってくる始末だった。仕方がないのでアル・アルコーンは回りに迷惑をかけないようにとジョブズを夜勤に回したとある…。
しかしノーラン・ブッシュネルは本書でスティーブ・ジョブズ自身が夜勤を希望したと書いている。無論それを認めたのはブッシュネル自身だというニュアンスで話は続くが、エピソードというものは概してこんなものだ(笑)。いくらブッシュネルでもいきなりの訪問者にいちいち自分が出て行くはずもないと思うし、話はアル・アルコーンの方が事実だと感じる。
ただしアタリ = ブッシュネルが若いジョブズに目をかけ、さまざまな優遇処置を与えたことは事実らしい。「教えた」というニュアンスではないが、コンピュータの部品をただで渡したり、まだまだ高価だったマイクロプロセッサーを仕入れ値で分けたりもした。そして事実Apple創業期の部品のほとんどはアタリ社がマージンなしに提供したものだったという。
ジョブズはその後アタリの承諾を得て友人のダン・コケトと共にインドへ旅立つ。実際に体験したインドはジョブズが考えていたような世界ではなかったし困惑を覚えることが続いたが、ともかく無事にシリコンバレーに戻ってきた。戻っては来たが彼はまだ旅の影響を受けどこか現実離れしていた…。なにしろスキンヘッドにサフラン色の上着を着てアタリ社を再訪問したのである(笑)。
そんな男がエントランスに入ってきたら普通の会社なら警備員を呼ぶか警察に一報するだろう。しかしそこはカルフォルニアだったし、70年代だったし、なによりもアタリだったから…ジョブズの「仕事にもどっていいか」との問いには一発で「勿論」という返事が返ってきたという。アタリはそんな会社だった。
まあ本書の内容を詳しく記すのは反則だからなるべく避けるが、私が本書ならびにブッシュネルを気に入った点を箇条書きにしてみようか…。
1)好きな本として10冊を紹介している中に、コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」(シリーズ全て)という記述あり。シャーロッキアンを自称し日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員の私としては理屈抜きに好きになった(笑)。
2)本書は前記したようにどちらかというと人を採用する側に立った視点だが、87ページには珍しく「いい仕事をみつけたいと思っている人たちへアドバイスをひとつ…」という記述があり、そのアドバイスはなかなか素敵。
3)「企業の手柄はチーム全体のものと心得よ」はまったく同感。社員は大概にして「自分が開発した」「俺が考えた」と主張しがちなものだがそれは間違っている。
4)「ジョブズと美術館を回った日」というコラムに同意。私も国内は勿論だがニューヨーク近代美術館、ボストン美術館、メトロポリタン美術館そしてサンフランシスコ近代美術館などを回ったが、その過程で様々な着想を得た経験がある。
5)行動力の重視。スティーブ・ジョブズは行動の男だった。働き続け、新しいアイデアを検討し続け、常に新しいコンセプトを採用しようとしていたし次なる大ヒットを探し続けていた…。彼の狂おしいばかりの行動力こそ、アップルを成功させた原動力だという指摘は重要だ。
というわけで本書はスティーブ・ジョブズのあれこれを考察するものではないが、いくつかのエピソードはジョブズ若かりし頃の…これまで見逃していたフトした表情を垣間見せてくれるようで楽しかった。
【主な参考資料】
・ジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著「スティーブ・ジョブズ 偶像復活」(東洋経済新聞社刊)
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「ぼくがジョブズに教えたこと――「才能」が集まる会社をつくる51条
」
2014年5月6日 第1刷発行
著 者:ノーラン・ブッシュネル/ジーン・ストーン
訳 者:井口耕二
発行所:株式会社飛鳥新社
コード:ISBN978-4-86410-314-5 C0034
価 格:1,574円(税別)
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本書はスティーブ・ジョブズのあれこれを紹介するものでもなければ彼のエピソード集でもない。サブタイトルに「『才能』が集まる会社をつくる51条」とあるように、いかにしたらクリエイティブな人材を見つけて雇うことができるか、それによりクリエイティブな企業として成功できるか…を考察したものだ。
ましてや一時巷に氾濫した「いかにしてスティーブ・ジョブズのようになれるか」の類を論じた本ではない。さらに個人的にはいまさらまたまた起業して人材を集めるといった気概もない私としては「まあ、とりあえず目を通しておくか…」といった程度の感じで本書を開いた。しかし「クリエイティブ、クリエイティブ」と続くのが些か食あたり気味だったものの読み進めるうちにこのノーラン・ブッシュネルという人物が気に入ってきた(笑)。

※ノーラン・ブッシュネル著「ぼくがジョブズに教えたこと」井口耕二訳(飛鳥新社刊)表紙
無論いまさらカリスマ経営者であるノーラン・ブッシュネルの成功談をご紹介する必要はないだろう。しかし本書を読む限り、彼の人を見る目というか人を見抜く天性の感はユニークではあるが本物だと感じた。
ただし本書タイトルの「ぼくがジョブズに教えたこと」という文句が少々鼻につく…。スティーブ・ジョブズの名を出すことで本書のセールスに好影響を期待したのだろうか…と”下種の勘ぐり”も頭をよぎるし、書名から受ける印象は何だか「自分が(ブッシュネル)が教育したからスティーブ・ジョブズが成功した」といったニュアンスも感じたからだ。
ただし原著のタイトルは「Finding the Next Steve Jobs. How to Find, Keep and Nurture Creative Talent.」だと知って納得した…。したがって手にした和書のタイトルはブッシュネルの責任ではないようだ(笑)。要は創造的な才能を持っている次世代のスティーブ・ジョブズを見つけ出し、育てるにはどうしたらよいか…を問う本なのだ。
ともあれノーラン・ブッシュネルはアタリ社でビデオゲームを生んだ伝説の人物だが、そこで一時期スティーブ・ジョブズを雇っていたことはよく知られていることだ。そしてブッシュネルとジョブズとの関係がどのようなものであったかについてはあまりはっきりしていなかったので、その点が本書を開く動機ともなった。
さてジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著「スティーブ・ジョブズ 偶像復活」(東洋経済新聞社刊)によればアタリがビデオゲームの成功で急成長していた…1974年のある日、「雇ってくれ」とヒッピーまがいの若い男が会社を訪問する。最初に会った人事部長は「変な奴がきた、雇ってくれるまで帰らないというんだ。お巡りを呼ぶかい?」とブッシュネルの右腕だったアル・アルコーンに告げる。
現れた男は確かにヒッピー同然のボロボロの服を着たリード・カレッジ中退の18歳の男だった…。勿論それがスティーブ・ジョブズである。
やる気に充ち満ちていたジョブズを雇ったはいいが、預けようとした担当者は「(奴は)どうしようもないヒッピーだし、すごい臭いだ」と苦情を言ってくる始末だった。仕方がないのでアル・アルコーンは回りに迷惑をかけないようにとジョブズを夜勤に回したとある…。
しかしノーラン・ブッシュネルは本書でスティーブ・ジョブズ自身が夜勤を希望したと書いている。無論それを認めたのはブッシュネル自身だというニュアンスで話は続くが、エピソードというものは概してこんなものだ(笑)。いくらブッシュネルでもいきなりの訪問者にいちいち自分が出て行くはずもないと思うし、話はアル・アルコーンの方が事実だと感じる。
ただしアタリ = ブッシュネルが若いジョブズに目をかけ、さまざまな優遇処置を与えたことは事実らしい。「教えた」というニュアンスではないが、コンピュータの部品をただで渡したり、まだまだ高価だったマイクロプロセッサーを仕入れ値で分けたりもした。そして事実Apple創業期の部品のほとんどはアタリ社がマージンなしに提供したものだったという。
ジョブズはその後アタリの承諾を得て友人のダン・コケトと共にインドへ旅立つ。実際に体験したインドはジョブズが考えていたような世界ではなかったし困惑を覚えることが続いたが、ともかく無事にシリコンバレーに戻ってきた。戻っては来たが彼はまだ旅の影響を受けどこか現実離れしていた…。なにしろスキンヘッドにサフラン色の上着を着てアタリ社を再訪問したのである(笑)。
そんな男がエントランスに入ってきたら普通の会社なら警備員を呼ぶか警察に一報するだろう。しかしそこはカルフォルニアだったし、70年代だったし、なによりもアタリだったから…ジョブズの「仕事にもどっていいか」との問いには一発で「勿論」という返事が返ってきたという。アタリはそんな会社だった。
まあ本書の内容を詳しく記すのは反則だからなるべく避けるが、私が本書ならびにブッシュネルを気に入った点を箇条書きにしてみようか…。
1)好きな本として10冊を紹介している中に、コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」(シリーズ全て)という記述あり。シャーロッキアンを自称し日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員の私としては理屈抜きに好きになった(笑)。
2)本書は前記したようにどちらかというと人を採用する側に立った視点だが、87ページには珍しく「いい仕事をみつけたいと思っている人たちへアドバイスをひとつ…」という記述があり、そのアドバイスはなかなか素敵。
3)「企業の手柄はチーム全体のものと心得よ」はまったく同感。社員は大概にして「自分が開発した」「俺が考えた」と主張しがちなものだがそれは間違っている。
4)「ジョブズと美術館を回った日」というコラムに同意。私も国内は勿論だがニューヨーク近代美術館、ボストン美術館、メトロポリタン美術館そしてサンフランシスコ近代美術館などを回ったが、その過程で様々な着想を得た経験がある。
5)行動力の重視。スティーブ・ジョブズは行動の男だった。働き続け、新しいアイデアを検討し続け、常に新しいコンセプトを採用しようとしていたし次なる大ヒットを探し続けていた…。彼の狂おしいばかりの行動力こそ、アップルを成功させた原動力だという指摘は重要だ。
というわけで本書はスティーブ・ジョブズのあれこれを考察するものではないが、いくつかのエピソードはジョブズ若かりし頃の…これまで見逃していたフトした表情を垣間見せてくれるようで楽しかった。
【主な参考資料】
・ジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著「スティーブ・ジョブズ 偶像復活」(東洋経済新聞社刊)
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「ぼくがジョブズに教えたこと――「才能」が集まる会社をつくる51条
2014年5月6日 第1刷発行
著 者:ノーラン・ブッシュネル/ジーン・ストーン
訳 者:井口耕二
発行所:株式会社飛鳥新社
コード:ISBN978-4-86410-314-5 C0034
価 格:1,574円(税別)
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