日経BP社刊「沈みゆく帝国」は実に後味が悪い1冊
私は長い間Appleのユーザーであると同時に約14年間アップルジャパンのデベロッパーとしてMacのソフトウェア開発を仕事としてきた。それはAppleの製品やその文化が好きだったからに他ならないものの反面「製品好きの会社嫌い」といったことも公言してはばからなかった。そんな私でも日経BP社刊「沈みゆく帝国」は実に後味が悪い本だった。
Appleのことならどのような事でも知りたいとこれまで膨大な時間をも費やして突っ走ってきた。しかし当ブログをお読みいただければお分かりの通り、決してAppleやそのCEOであったスティーブ・ジョブズに媚びを売るような発言はしていないつもりだ。良い点は良いとするものの駄目なところは声を大にダメだと主張してきたつもりである。事実ジョブズに苦情の手紙を送ったこともあったしデベロッパー時代はアップルジャパンにとって実に御しがたい奴だったに違いないとも自負している(笑)。
しかしケイン岩谷ゆかり著「沈みゆく帝国」という本書は毒舌を吐いてきた私にしてページをめくる毎に実に気が重くなる本だし、あくまで個人的な感想だが後味が悪く再読する気持ちも失せる本だった。

※ケイン岩谷ゆかり著「沈みゆく帝国」日経BP社刊刊
これまでAppleに関わる…無論反骨精神が旺盛な著者による書籍も多々読んできたが、本書は実にネガティブでジャーナリスティックな話題にみちみちしていて気持ちが悪くなってきた。
勿論この世界に長らく足を突っ込み、毎日情報を得ている一人として本書で展開されている多くの指摘は程度はともかく知っているつもりだ。
Appleやスティーブ・ジョブズはこれまで意図的にジャーナリズムを利用し、自らの考えやコンセプトを市場やユーザーに伝えてきた。しかし反面、そのジャーナリズムによって随分と苦しめられてもきた。俗にいう有名税といえばそれで終わってしまうが、あることないことでもAppleやそのCEOの話題として報じれば本や雑誌は売れ、サイトはアクセス数が増えるという現実はいまだに続いている。しかしセンセーショナルな書き方をするほど人の目は引くが、それらは後々まで残ったためしはない。
ジャーナリズムの使命とは何なのか…。本書はいまさらそんなことを持ち出したくなる本といったら良いのだろうか。報道は表現の自由に基づき、知る権利あるいは報道の自由に支えられている。
勿論報道は客観性を大事にしなければならず、事実を伝える義務を負う。ただし新聞やテレビのニュースといったものも同様だが、特に五百数十ページにもわたる本書のような著書は事実に基づいたとされる内容でもそれは既に書き手の判断と選別がなされていることを読者である我々は念頭に入れておかなければならない。
本書の主張はいちいちご紹介しないが、書籍のカバーを見るだけで明白だ。それは「スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか」と問い、幾多の取材による結論として筆者は「衰退は避けられない事実」と結論づける。しかしそれ(衰退)は「歴史においても神話においてもくり返されてきた典型的なパターンである」とも明言している。
だとすれば、どんなに繁栄した企業だとしてもいつかは衰退し、あるいは無くなるという尤もな歴史的・経験的な事実にアップルという企業も例外ではないとすれば、本書に展開されている五百ページもの取材による主張を読んでも世の無常を感じるだけで益にはならず意味がないことになる…(笑)。果たして本書は誰のために有益なのだろうか?
「アップルCEOティム・クックが名指しで批判した話題作!」というコピーをカバーに配して売り物にしている点ひとつとっても筆者は長くアップルの番記者をされていたようだが、本書を読む限りアップルに対しての愛情とかポジティブな思いが感じられないのは残念だ。
どのような企業、どんな人物にしても神のように完全無欠の物や人は存在しない。事実アップルという企業も素晴らしい面と共にその裏に潜む闇と危険性をずっと持ち続けてきた。泣かされたデベロッパーも、そしてユーザーだって沢山いた。しかしAppleは間違いなく世界を変えた…。
そして確実なことは沈むとか衰退といった表現はともかく、あるいはディズニーとかソニーの例を出すまでもなく今後のアップルがスティーブ・ジョブズ存命であったアップルとは違っていく…変わっていくことは間違いないしそれは当然のことだ。無論それが良い方へ、あるいは悪い方に…かはそれこそ神のみぞ知ることであり、我々ユーザーは応援しつつ見守っていくしかないのである。
というわけで本書ははじめに結論ありきを感じさせる構成であり、どこかスティーブ・ジョブズが亡くなった直後の不安をそのまま抱えての批判のように思える。そして例えばWWDCに対する批評を見ると筆者はテクノロジーの過去/現在/未来については詳しい人ではないように思えるのだが…。
ジョブズが亡くなって既に3年が経過するわけだが、極々長期的な判断はともかく最近のアップル、CEOのティム・クックはまずまず上手に舵取りをしているのではないだろうか。一頃のように新製品登場のサイクルは確かに長くなったが企業として利益もきちんと上げている。我々は一度スティーブ・ジョブズがいないアップルを体験しているが、その時代と比較するのはまだまだ時期尚早だと思うのだが…。
Appleのことならどのような事でも知りたいとこれまで膨大な時間をも費やして突っ走ってきた。しかし当ブログをお読みいただければお分かりの通り、決してAppleやそのCEOであったスティーブ・ジョブズに媚びを売るような発言はしていないつもりだ。良い点は良いとするものの駄目なところは声を大にダメだと主張してきたつもりである。事実ジョブズに苦情の手紙を送ったこともあったしデベロッパー時代はアップルジャパンにとって実に御しがたい奴だったに違いないとも自負している(笑)。
しかしケイン岩谷ゆかり著「沈みゆく帝国」という本書は毒舌を吐いてきた私にしてページをめくる毎に実に気が重くなる本だし、あくまで個人的な感想だが後味が悪く再読する気持ちも失せる本だった。

※ケイン岩谷ゆかり著「沈みゆく帝国」日経BP社刊刊
これまでAppleに関わる…無論反骨精神が旺盛な著者による書籍も多々読んできたが、本書は実にネガティブでジャーナリスティックな話題にみちみちしていて気持ちが悪くなってきた。
勿論この世界に長らく足を突っ込み、毎日情報を得ている一人として本書で展開されている多くの指摘は程度はともかく知っているつもりだ。
Appleやスティーブ・ジョブズはこれまで意図的にジャーナリズムを利用し、自らの考えやコンセプトを市場やユーザーに伝えてきた。しかし反面、そのジャーナリズムによって随分と苦しめられてもきた。俗にいう有名税といえばそれで終わってしまうが、あることないことでもAppleやそのCEOの話題として報じれば本や雑誌は売れ、サイトはアクセス数が増えるという現実はいまだに続いている。しかしセンセーショナルな書き方をするほど人の目は引くが、それらは後々まで残ったためしはない。
ジャーナリズムの使命とは何なのか…。本書はいまさらそんなことを持ち出したくなる本といったら良いのだろうか。報道は表現の自由に基づき、知る権利あるいは報道の自由に支えられている。
勿論報道は客観性を大事にしなければならず、事実を伝える義務を負う。ただし新聞やテレビのニュースといったものも同様だが、特に五百数十ページにもわたる本書のような著書は事実に基づいたとされる内容でもそれは既に書き手の判断と選別がなされていることを読者である我々は念頭に入れておかなければならない。
本書の主張はいちいちご紹介しないが、書籍のカバーを見るだけで明白だ。それは「スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか」と問い、幾多の取材による結論として筆者は「衰退は避けられない事実」と結論づける。しかしそれ(衰退)は「歴史においても神話においてもくり返されてきた典型的なパターンである」とも明言している。
だとすれば、どんなに繁栄した企業だとしてもいつかは衰退し、あるいは無くなるという尤もな歴史的・経験的な事実にアップルという企業も例外ではないとすれば、本書に展開されている五百ページもの取材による主張を読んでも世の無常を感じるだけで益にはならず意味がないことになる…(笑)。果たして本書は誰のために有益なのだろうか?
「アップルCEOティム・クックが名指しで批判した話題作!」というコピーをカバーに配して売り物にしている点ひとつとっても筆者は長くアップルの番記者をされていたようだが、本書を読む限りアップルに対しての愛情とかポジティブな思いが感じられないのは残念だ。
どのような企業、どんな人物にしても神のように完全無欠の物や人は存在しない。事実アップルという企業も素晴らしい面と共にその裏に潜む闇と危険性をずっと持ち続けてきた。泣かされたデベロッパーも、そしてユーザーだって沢山いた。しかしAppleは間違いなく世界を変えた…。
そして確実なことは沈むとか衰退といった表現はともかく、あるいはディズニーとかソニーの例を出すまでもなく今後のアップルがスティーブ・ジョブズ存命であったアップルとは違っていく…変わっていくことは間違いないしそれは当然のことだ。無論それが良い方へ、あるいは悪い方に…かはそれこそ神のみぞ知ることであり、我々ユーザーは応援しつつ見守っていくしかないのである。
というわけで本書ははじめに結論ありきを感じさせる構成であり、どこかスティーブ・ジョブズが亡くなった直後の不安をそのまま抱えての批判のように思える。そして例えばWWDCに対する批評を見ると筆者はテクノロジーの過去/現在/未来については詳しい人ではないように思えるのだが…。
ジョブズが亡くなって既に3年が経過するわけだが、極々長期的な判断はともかく最近のアップル、CEOのティム・クックはまずまず上手に舵取りをしているのではないだろうか。一頃のように新製品登場のサイクルは確かに長くなったが企業として利益もきちんと上げている。我々は一度スティーブ・ジョブズがいないアップルを体験しているが、その時代と比較するのはまだまだ時期尚早だと思うのだが…。
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