“GUYS & DOLLS” に見る初代ウォークマンとソニーの遊び心
Appleの iPodが我々の音楽の楽しみ方を大きく変えたわけだが、その22年前にソニーが発表したウォークマンはそれまでになかった軽妙なヘッドフォンと共に音楽のリスニングをステレオの前から開放し、歩きながらでも楽しめる先鞭をつけた。実はその最初期…すなわちファーストロットのウォークマンにはソニー会長の盛田昭夫や井深大といった創業者たちの溢れる遊び心がこもっていたことをご承知だろうか…。
ソニーの初代ウォークマンは初期ロット3万台製造されたというが、同じ初代ウォークマン(TPS-L2)といっても大別して3種知られておりその外装の作りに違いがあるのだ…。
その最たるものはヘッドフォン端子部位にプリントされた“GUYS & DOLLS” というテキストだ。初代ウォークマンは会長の盛田の発案で2人一緒に音楽を聴けるようにとヘッドフォン端子を2つ装備してあった。何故なら盛田はウォークマンを1人で独占するのはそばにいる人に無礼ではないかと考えた。彼はウォークマンを恋人や友人と共有すべきだと思いヘッドフォン・ジャックを2つ付け、さらに聴いている最中でも2人で会話できるようにとホットラインボタン(マイクロフォンとミュートボタン)を考え開発者に装備を命じた。

※初代ファーストロットのウォークマン(TPS-L2)とソフトケース。当研究所所有
その2つあるヘッドフォンジャックだが、ファーストロット後の製品では単純に "A" , "B" と表記されるだけとなったが、実はファーストロットのみ “GUYS & DOLLS” と表記されていたのである。

※2つあるヘッドフォンジャック部位の表記比較。上がファーストロットで “GUYS & DOLLS” の表記がある。下は後期型で単に "A" "B" になっている
この“GUYS & DOLLS” を意訳すれば「野郎どもと女たち」といった意味であり、2つあるヘッドフォン端子には「お二人で(カップルで)お楽しみ下さい」といったソニーのメッセージが込められていた…。
実はその “GUYS & DOLLS” とはそもそも1950年初演の歴史あるミュージカル・コメディのタイトルでもあったことはあまり知られていないようだ。さらにマーロン・ブランドやフランク・シナトラらの出演で映画化され、日本でも1956年に公開されている。

※マーロン・ブランド、フランク・シナトラらによるミュージカル映画「野郎どもと女たち (GUYS & DOLLS)」のDVD。当研究所所有
「GUYS AND DOLLS」の舞台は1920年代のニューヨーク下町、ヤクザなギャンブラーたち、ナイトクラブの踊り子、救世軍の堅物娘の恋い模様をハチャメチャ陽気なミュージカル・コメディに仕立てている…。“GUYS & DOLLS” という表記は当該ミュージカルの陽気さを2つのヘッドフォンに託し、カップルで楽しんで欲しいという開発の陣頭指揮を取った盛田昭夫や大賀典雄らの遊び心による命名ではなかったか…。

※生前最後に撮影された盛田昭夫氏のポートレート。株式会社イグフィコーポレーションの正式許諾を受けて掲載[転載不可]
そもそもウォークマンという大ヒット製品はソニーの社史によれば創業者の1人、井深大に機縁する。彼が海外に出かける際にステレオプレーヤーとヘッドフォンを携え大好きなクラシック音楽を聴くのが常だったが、当時は靴箱ほどのサイズがあり携帯には適していなかった。しかしソニーは当時録音再生機能を持ったプレスマンという携帯性に優れたカセットテープ・レコーダーを開発したことを井深は知っておりこれをステレオ化し、逆にスピーカーや録音機能を廃したものを作れないかと社内に打診したのがウォークマン開発のきっかけだった (ただし他にいくつか製品開発のきっかけとなる逸話があり、とある技術者が個人的にプレスマンを改造して楽しんでいたものがきっかけという有力な説もある...)。
それはともかく録音機能のないカセットテープ・プレーヤーなど売れるはずはない…といった社内外の批判や反対を押し切って商品化したのが会長の盛田昭夫だったのである。盛田は夫人と共にあのマイケル・ジャクソンの公演を観たのをきっかけにマイケルから慕われ、夫人の誕生パーティーの際には自宅へ招待したこともあったし、20世紀で最も有名な指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンとの交流もよく知られているように音楽通だった。
さらに、後でソニーの社長ならびに最高経営責任者にもなった大賀典雄はもともと声楽家であり、東京藝術大学音楽学部声楽科在学中に東京通信工業(のちのソニー)のテープレコーダーの音質にクレームをつけたのがきっかけで1959年9月に盛田昭夫と井深大に誘われソニーに入社することになったユニークな人物だった。
勿論ソニーはテープレコーダーやトランジスタラジオといった音響製品を開発してきた企業でもあり、創業者たちはみな音楽に造詣が深かったからこその “GUYS & DOLLS” という命名だったのだろう。こんな小さな箇所にも当時のソニースピリットが感じられて嬉しくなるが、そのウォークマンも世界中に販売していく中で遊び心では済まなくなってきたのか “A”,”B” という表記に変えられた。
ともあれウォークマンはソニーの1番輝かしい時代を象徴するプロダクトでもあったが “GUYS & DOLLS” の表記は目立たないもののそのひとつの証しとなった。
【主な参考資料】
・スティーブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」
・黒木靖夫著「ウォークマンかく戦えり」
・ソニー企業情報 第6章
ソニーの初代ウォークマンは初期ロット3万台製造されたというが、同じ初代ウォークマン(TPS-L2)といっても大別して3種知られておりその外装の作りに違いがあるのだ…。
その最たるものはヘッドフォン端子部位にプリントされた“GUYS & DOLLS” というテキストだ。初代ウォークマンは会長の盛田の発案で2人一緒に音楽を聴けるようにとヘッドフォン端子を2つ装備してあった。何故なら盛田はウォークマンを1人で独占するのはそばにいる人に無礼ではないかと考えた。彼はウォークマンを恋人や友人と共有すべきだと思いヘッドフォン・ジャックを2つ付け、さらに聴いている最中でも2人で会話できるようにとホットラインボタン(マイクロフォンとミュートボタン)を考え開発者に装備を命じた。

※初代ファーストロットのウォークマン(TPS-L2)とソフトケース。当研究所所有
その2つあるヘッドフォンジャックだが、ファーストロット後の製品では単純に "A" , "B" と表記されるだけとなったが、実はファーストロットのみ “GUYS & DOLLS” と表記されていたのである。

※2つあるヘッドフォンジャック部位の表記比較。上がファーストロットで “GUYS & DOLLS” の表記がある。下は後期型で単に "A" "B" になっている
この“GUYS & DOLLS” を意訳すれば「野郎どもと女たち」といった意味であり、2つあるヘッドフォン端子には「お二人で(カップルで)お楽しみ下さい」といったソニーのメッセージが込められていた…。
実はその “GUYS & DOLLS” とはそもそも1950年初演の歴史あるミュージカル・コメディのタイトルでもあったことはあまり知られていないようだ。さらにマーロン・ブランドやフランク・シナトラらの出演で映画化され、日本でも1956年に公開されている。

※マーロン・ブランド、フランク・シナトラらによるミュージカル映画「野郎どもと女たち (GUYS & DOLLS)」のDVD。当研究所所有
「GUYS AND DOLLS」の舞台は1920年代のニューヨーク下町、ヤクザなギャンブラーたち、ナイトクラブの踊り子、救世軍の堅物娘の恋い模様をハチャメチャ陽気なミュージカル・コメディに仕立てている…。“GUYS & DOLLS” という表記は当該ミュージカルの陽気さを2つのヘッドフォンに託し、カップルで楽しんで欲しいという開発の陣頭指揮を取った盛田昭夫や大賀典雄らの遊び心による命名ではなかったか…。

※生前最後に撮影された盛田昭夫氏のポートレート。株式会社イグフィコーポレーションの正式許諾を受けて掲載[転載不可]
そもそもウォークマンという大ヒット製品はソニーの社史によれば創業者の1人、井深大に機縁する。彼が海外に出かける際にステレオプレーヤーとヘッドフォンを携え大好きなクラシック音楽を聴くのが常だったが、当時は靴箱ほどのサイズがあり携帯には適していなかった。しかしソニーは当時録音再生機能を持ったプレスマンという携帯性に優れたカセットテープ・レコーダーを開発したことを井深は知っておりこれをステレオ化し、逆にスピーカーや録音機能を廃したものを作れないかと社内に打診したのがウォークマン開発のきっかけだった (ただし他にいくつか製品開発のきっかけとなる逸話があり、とある技術者が個人的にプレスマンを改造して楽しんでいたものがきっかけという有力な説もある...)。
それはともかく録音機能のないカセットテープ・プレーヤーなど売れるはずはない…といった社内外の批判や反対を押し切って商品化したのが会長の盛田昭夫だったのである。盛田は夫人と共にあのマイケル・ジャクソンの公演を観たのをきっかけにマイケルから慕われ、夫人の誕生パーティーの際には自宅へ招待したこともあったし、20世紀で最も有名な指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンとの交流もよく知られているように音楽通だった。
さらに、後でソニーの社長ならびに最高経営責任者にもなった大賀典雄はもともと声楽家であり、東京藝術大学音楽学部声楽科在学中に東京通信工業(のちのソニー)のテープレコーダーの音質にクレームをつけたのがきっかけで1959年9月に盛田昭夫と井深大に誘われソニーに入社することになったユニークな人物だった。
勿論ソニーはテープレコーダーやトランジスタラジオといった音響製品を開発してきた企業でもあり、創業者たちはみな音楽に造詣が深かったからこその “GUYS & DOLLS” という命名だったのだろう。こんな小さな箇所にも当時のソニースピリットが感じられて嬉しくなるが、そのウォークマンも世界中に販売していく中で遊び心では済まなくなってきたのか “A”,”B” という表記に変えられた。
ともあれウォークマンはソニーの1番輝かしい時代を象徴するプロダクトでもあったが “GUYS & DOLLS” の表記は目立たないもののそのひとつの証しとなった。
【主な参考資料】
・スティーブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」
・黒木靖夫著「ウォークマンかく戦えり」
・ソニー企業情報 第6章
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