ウォークマンの原型となったプレスマンとは?
iPodの先進性と我々の文化に与えた影響を考察する中でソニーのウォークマンを再認識せざるを得ず、あれこれと資料や情報を集めていたが、そのウォークマン開発のきっかけ…原型になったのがプレスマンという前年に発売されたカセットテープレコーダーだったことを知り、ではそのプレスマンを確認したいと思った…。
凝り性というか、可能な限り一次資料を手にしないと気持ちが悪い性分なのが自分でもうっとうしいし「ウォークマンの原型はプレスマン」と知り「そうですか」では済ませられない性向は実に厄介だ(笑)。
勿論そうはいっても出来ることとできないことがあるわけだが、今回は幸いにそのプレスマンの実機を手に入れることができたので早速比較して見ることにした。


※ウォークマンの原型となったモノラル・カセットテープレコーダー「プレスマン (PressMan)」
ウォークマンは当時名誉会長の井深大が、出張時に大好きなクラシック音楽を楽しみたいとプレスマンにステレオ回路を付加し、逆にスピーカーと録音機能を取ったものを欲しいと言いだしたことがきっかけとソニーの社史にある。
ではそのプレスマンという製品はどのような製品だったのだろうか…。本当にプレスマンがウォークマンの原型なのだろうか…。
当研究所が手に入れたプレスマンはシルバーだが、別途ブラック塗装がなされたバージョンもあった。そしてその外観は紛れもなくウォークマンと酷似した製品である。実にスマートで高さはほぼウォークマンと同じだが、幅のサイズがいくぶんウォークマンより小さいこともあってシャープに見える。

※初代ウォークマンとプレスマンを比較して見ると当然のことながらよく似ている
ソニーの社史によれば、名誉会長の井深や副社長の大賀にステレオ仕様で再生専用小型機を打診されたテープレコーダー事業部の長、大曽根は確たる信念があったという。それは「初めて世に出してコンセプトを問う1号機に、故障があっては絶対に駄目だ。故障が多いと、そのコンセプト自体が否定される」ということだった。それに今回は会長の盛田の旗振りで夏休み前までに商品化するということに決まったわけで時間がなくゼロから設計するのは無理だった。
また状況を把握していた盛田も「金型は流用すればよい」と明言したこともあり、初代ウォークマンのメカには、すでに50万台の生産実績のあるカセットテープレコーダー「プレスマン」のメカをそのまま流用することになったのである。
ということで、この初代ウォークマン開発には、技術的な苦労はほとんどなかったという。既存の技術を組み合わせて、信頼性を最重視してまとめ上げることにすべての力が注がれ、新しいコンセプトを持って誕生したのがウォークマンであった。
プレスマンはその名から想像できるとおり、報道の現場すなわち記者やジャーナリストたちをターゲットにした製品だった。取材現場の音を録り、インタビューも便利、録音したソースをもとに原稿やニュースを構成するための製品だった。ただし後のウォークマンが和製英語だったのと同類というか、スタッフたちも “プレスマン” という命名の真の意味が「印刷工」だったことを知り赤面したという…。
ともあれプレスマンは1968年に発売しアポロ7号の宇宙船内に持ち込まれたことでも知られている最初の小型カセットテープレコーダー (TC-50) をさらに小型にしてかつ軽量化されていた。そして外部マイク端子と共に本体にもマイクが内蔵され、イヤーフォン端子と共に本体背面にはスピーカーが内蔵されており、プレスマン単体でも十分な働きが可能なように設計されていたのである。
ということでそれらを前提にプレスマンとウォークマンを外観から比較してみよう…。
正面のディテールはプレスマンにテープカウンタが装備されているのが目立つ程度だ。そして本体側面の操作系を見ても基本構成は同じである。勿論カラーリングは違うがウォークマンのブルーは若者向けということでとジーンズを連想したものだそうだ。

※操作ボタン部位の比較。右がウォークマンだがマイク、ボリューム、外部電源コネクタ位置は勿論操作ボタンもほぼ同じである
用途・目的は違うにしてもマイクの位置は同じだし、ボタンのサイズは多少違うがテープのストップ/イジェクト、早送り/巻き戻し、そしてプレイボタンの構成や位置は同じだ。そしてこれまた同じ位置に外部電源端子がある。さらにボリュームがある位置も両機種共に同じだがプレスマンはモノラル、ウォークマンはステレオという違いがボリュームのデザインおよび構造の相違となっている。
さらに本体上部の構成を見るとコンセプトの違いにより構成は違うものの、ヘッドフォンやマイクのジャックやオペレーションを意味するLEDの位置なども見事に同じだった。

※当然構成は違うが内部の回路や部品の配置も基本的に同じと考えられる
なを背面の下部は両機種共にバッテリーケースになっており、くどいようだがウォークマンはプレスマンからスピーカーと録音機能を取り去り、ステレオ回路を付け、ヘッドフォン専用のカセットプレーヤーにしたということは明らかだ。さらにあくまで目視の範囲だがかなりの部分でウォークマンはプレスマンと同じ部品を使っているものと思われる。

※バッテリーケースがある底部位の比較
こうしてプレスマンと初代ウォークマンの実機を手元に置き並べて見れば、ウォークマンは確かにプレスマンの金型と基本コンセプトを流用したことは明白だった。
しかし歴史に if は禁物だとしても、もしプレスマンがそもそもステレオ仕様だったとしたらウォークマンは登場しなかったはずだ…。当然名誉会長の井深大は喜んでそれをそのまま愛用しただろうし、再生専用機ウォークマン登場の機会は完全に失われたか、あるいはかなり後になったのではないか。
歴史の妙を垣間見る思いがした一時だった。
凝り性というか、可能な限り一次資料を手にしないと気持ちが悪い性分なのが自分でもうっとうしいし「ウォークマンの原型はプレスマン」と知り「そうですか」では済ませられない性向は実に厄介だ(笑)。
勿論そうはいっても出来ることとできないことがあるわけだが、今回は幸いにそのプレスマンの実機を手に入れることができたので早速比較して見ることにした。


※ウォークマンの原型となったモノラル・カセットテープレコーダー「プレスマン (PressMan)」
ウォークマンは当時名誉会長の井深大が、出張時に大好きなクラシック音楽を楽しみたいとプレスマンにステレオ回路を付加し、逆にスピーカーと録音機能を取ったものを欲しいと言いだしたことがきっかけとソニーの社史にある。
ではそのプレスマンという製品はどのような製品だったのだろうか…。本当にプレスマンがウォークマンの原型なのだろうか…。
当研究所が手に入れたプレスマンはシルバーだが、別途ブラック塗装がなされたバージョンもあった。そしてその外観は紛れもなくウォークマンと酷似した製品である。実にスマートで高さはほぼウォークマンと同じだが、幅のサイズがいくぶんウォークマンより小さいこともあってシャープに見える。

※初代ウォークマンとプレスマンを比較して見ると当然のことながらよく似ている
ソニーの社史によれば、名誉会長の井深や副社長の大賀にステレオ仕様で再生専用小型機を打診されたテープレコーダー事業部の長、大曽根は確たる信念があったという。それは「初めて世に出してコンセプトを問う1号機に、故障があっては絶対に駄目だ。故障が多いと、そのコンセプト自体が否定される」ということだった。それに今回は会長の盛田の旗振りで夏休み前までに商品化するということに決まったわけで時間がなくゼロから設計するのは無理だった。
また状況を把握していた盛田も「金型は流用すればよい」と明言したこともあり、初代ウォークマンのメカには、すでに50万台の生産実績のあるカセットテープレコーダー「プレスマン」のメカをそのまま流用することになったのである。
ということで、この初代ウォークマン開発には、技術的な苦労はほとんどなかったという。既存の技術を組み合わせて、信頼性を最重視してまとめ上げることにすべての力が注がれ、新しいコンセプトを持って誕生したのがウォークマンであった。
プレスマンはその名から想像できるとおり、報道の現場すなわち記者やジャーナリストたちをターゲットにした製品だった。取材現場の音を録り、インタビューも便利、録音したソースをもとに原稿やニュースを構成するための製品だった。ただし後のウォークマンが和製英語だったのと同類というか、スタッフたちも “プレスマン” という命名の真の意味が「印刷工」だったことを知り赤面したという…。
ともあれプレスマンは1968年に発売しアポロ7号の宇宙船内に持ち込まれたことでも知られている最初の小型カセットテープレコーダー (TC-50) をさらに小型にしてかつ軽量化されていた。そして外部マイク端子と共に本体にもマイクが内蔵され、イヤーフォン端子と共に本体背面にはスピーカーが内蔵されており、プレスマン単体でも十分な働きが可能なように設計されていたのである。
ということでそれらを前提にプレスマンとウォークマンを外観から比較してみよう…。
正面のディテールはプレスマンにテープカウンタが装備されているのが目立つ程度だ。そして本体側面の操作系を見ても基本構成は同じである。勿論カラーリングは違うがウォークマンのブルーは若者向けということでとジーンズを連想したものだそうだ。

※操作ボタン部位の比較。右がウォークマンだがマイク、ボリューム、外部電源コネクタ位置は勿論操作ボタンもほぼ同じである
用途・目的は違うにしてもマイクの位置は同じだし、ボタンのサイズは多少違うがテープのストップ/イジェクト、早送り/巻き戻し、そしてプレイボタンの構成や位置は同じだ。そしてこれまた同じ位置に外部電源端子がある。さらにボリュームがある位置も両機種共に同じだがプレスマンはモノラル、ウォークマンはステレオという違いがボリュームのデザインおよび構造の相違となっている。
さらに本体上部の構成を見るとコンセプトの違いにより構成は違うものの、ヘッドフォンやマイクのジャックやオペレーションを意味するLEDの位置なども見事に同じだった。

※当然構成は違うが内部の回路や部品の配置も基本的に同じと考えられる
なを背面の下部は両機種共にバッテリーケースになっており、くどいようだがウォークマンはプレスマンからスピーカーと録音機能を取り去り、ステレオ回路を付け、ヘッドフォン専用のカセットプレーヤーにしたということは明らかだ。さらにあくまで目視の範囲だがかなりの部分でウォークマンはプレスマンと同じ部品を使っているものと思われる。

※バッテリーケースがある底部位の比較
こうしてプレスマンと初代ウォークマンの実機を手元に置き並べて見れば、ウォークマンは確かにプレスマンの金型と基本コンセプトを流用したことは明白だった。
しかし歴史に if は禁物だとしても、もしプレスマンがそもそもステレオ仕様だったとしたらウォークマンは登場しなかったはずだ…。当然名誉会長の井深大は喜んでそれをそのまま愛用しただろうし、再生専用機ウォークマン登場の機会は完全に失われたか、あるいはかなり後になったのではないか。
歴史の妙を垣間見る思いがした一時だった。
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