ジョブズ学入門講座「成功の秘密」【6】〜 優秀な人材を得る心得
スティーブ・ジョブズによる幾多の成功談が事実とは言え、文字通り彼1人でなし得た成功談ばかりではない。無論ジョブズがいたからこその成功であったことは事実だが、交渉事にせよプロダクト開発にしても彼の周りには常に大変優れた人材が集められていたからこその成果だったといえる。
よい仕事をするために自分より優れた人材と共に働く重要性は誰しもが納得することだと思うが、現実の世界となると理屈通りにいかないことが多い。なぜなら一般的に優秀な人材というのは個性的であり上司や同僚にとって扱いづらい人間である場合が多いからだ。

※長男のリードを抱き上げるスティーブ・ジョブズ (1996年)。People誌 2011年10月24日号より
そもそも自分より頭が良く、専門知識に優れているような人材は本来目障りだ(笑)。そんな部下が周りにゴロゴロいれば上司は劣等感に苛まれたり意見が合わないときに自分の考え方に自信が持てなくなるかも知れない。したがって自分の立場を保身することしか考えないような上司の周りには優秀な人材は遠ざかり、耳障りの良いイエスマンが残るというのがよくある話だ…。
スティーブ・ジョブズによる幾多の成功談、例えばGUIを備えたパーソナルコンピュータMacintoshの開発にしろ、後にアップルへ復帰してからの iMac、iPod、iPhoneそしてiPadと次々に世界を変えることになった製品たちにしろ、それらの開発を実現するには実に多くの優秀なスタッフたちの努力の結果だったことはよく知られている。
近年ではデザイン重視の表れとしてジョナサン・アイヴが目立っていることもご承知のとおりだ。
さてスティーブ・ジョブズが社内でトラブルを起こした幾多の事例を俯瞰してみると面白いと言っては語弊があるものの、ひとつの事実が浮かび上がってくる。それはジョブズが考える人物への評価とは自分にとって必要な人間か、それ以外の人間かの2社選択しかないということだ。
自分にとって、目の前の理想・目的を実現するために必要と思われる人間に対してはあの怒りっぽく暴君と言われてきたスティーブ・ジョブズの攻撃性はゼロとはいえないまでも影を潜める。というか、きちんとスタッフらに耳を傾けるし、スタッフらの意見が場違いなものでなければきちんと対応している姿は幾多の書籍の中にも描かれている。
スティーブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」にはiPodとなるミュージックプレーヤー開発を進めるか否かを決める評価プロジェクトの様子が描かれている。
NeXT社時代からの右腕だったルビンシュタインが音頭を取って基本仕様を決め、外部から必要な人材を集めた。あのビル・アトキンソンやアンディ・ハーツフェルドらと一緒にジェネラル・マジック社を立ち上げた1人、マイケル・ファデルである。
Appleと期限付きの契約を経た彼は契約期間が終了を向かえる頃にスティーブ・ジョブズらの前で試作の結果を説明するだけでなく、スティーブ・ジョブズに開発プロジェクトにゴーサインを出させるという難題も与えられていた。その会議でのジョブズは相変わらず辛辣さも見せるがファデルらのプレゼンをきちんと受け止めている様が描かれている。

※Macintoshの開発者たち。左からアンディ・ハーツフェルド、クリス・エスピノザ、ジョアンナ・ホフマン、ジョージ・クロウ、ビル・アトキンソン、ピュレル・スミス、ジェリー・マノック
スティーブ・ジョブズは「ロストインタビュー1995」の中でいみじくも言っている。要約すると…「たいていの物事の平均値と最高値の差は最大でも2対1だ…」と。「例えばニューヨークの最高のタクシーに乗った場合、普通のタクシーより30%速く目的地に着けるかも知れない。また車の場合、平均と最高の差は20%くらいだろう。だから2対1というのは本来もの凄い比率だ…。でもソフトウェア(かつてはハードウェアも)平均と最高の差は50対1、ひよっとしたら100対1かもしれない。だから真に才能ある人材をみつけることによって、成功を築き上げることができたんだ。BクラスやCクラスの人材でよしとせずに、Aクラスの人材を本気で求めたんだ」と明言している…。

※NeXT社設立時に参画したスタッフたち。ジョブズ宅の庭で
同じく「ロストインタビュー1995」の中でジョブズは「もっとも優れた人材は (略) …同時に彼らはうんざりするほど扱いにくい人間だということを知ったよ」とも発言している。「しかし(優秀な人材は)大目に見て受け入れるしかない」ともいう。扱いにくいのは承知で彼らを鼓舞し、自身がプロジェクトのシンボルとなって目標に向かっていったのだ。
スティーブ・ジョブズにとって最初にその能力の高さを如実に見せつけられたのはスティーブ・ウォズニアックだったが、ジョブズの目標を実現させるには優秀な人材がいかに重要かを見せつけられたに違いない。
ただし、優秀な人材を集める…といってもことは当然容易ではない。物理的に探して集めることも難しいが、それらの個性ある人材を目的に向かって一致団結させ成果を挙げることこそ至難の業ともいえよう。事実相棒のウォズニアックは正直で表裏のない誠実な人柄ではあったが、ひとたび彼をAppleという企業の目標に即して働かせることはジョブズにとっても難しいことだったようだ。
スティーブ・ジョブズの時に異様とも思える人の使い方や言動は、もしかすると使いづらい人間たちの意欲を何とか意図する方向へ向けようとする意識的な対策のひとつだったのかも知れない…。
【主な参考資料】
・「スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー」講談社刊
・スティーブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」ソフトバンク クリエイティブ刊
よい仕事をするために自分より優れた人材と共に働く重要性は誰しもが納得することだと思うが、現実の世界となると理屈通りにいかないことが多い。なぜなら一般的に優秀な人材というのは個性的であり上司や同僚にとって扱いづらい人間である場合が多いからだ。

※長男のリードを抱き上げるスティーブ・ジョブズ (1996年)。People誌 2011年10月24日号より
そもそも自分より頭が良く、専門知識に優れているような人材は本来目障りだ(笑)。そんな部下が周りにゴロゴロいれば上司は劣等感に苛まれたり意見が合わないときに自分の考え方に自信が持てなくなるかも知れない。したがって自分の立場を保身することしか考えないような上司の周りには優秀な人材は遠ざかり、耳障りの良いイエスマンが残るというのがよくある話だ…。
スティーブ・ジョブズによる幾多の成功談、例えばGUIを備えたパーソナルコンピュータMacintoshの開発にしろ、後にアップルへ復帰してからの iMac、iPod、iPhoneそしてiPadと次々に世界を変えることになった製品たちにしろ、それらの開発を実現するには実に多くの優秀なスタッフたちの努力の結果だったことはよく知られている。
近年ではデザイン重視の表れとしてジョナサン・アイヴが目立っていることもご承知のとおりだ。
さてスティーブ・ジョブズが社内でトラブルを起こした幾多の事例を俯瞰してみると面白いと言っては語弊があるものの、ひとつの事実が浮かび上がってくる。それはジョブズが考える人物への評価とは自分にとって必要な人間か、それ以外の人間かの2社選択しかないということだ。
自分にとって、目の前の理想・目的を実現するために必要と思われる人間に対してはあの怒りっぽく暴君と言われてきたスティーブ・ジョブズの攻撃性はゼロとはいえないまでも影を潜める。というか、きちんとスタッフらに耳を傾けるし、スタッフらの意見が場違いなものでなければきちんと対応している姿は幾多の書籍の中にも描かれている。
スティーブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」にはiPodとなるミュージックプレーヤー開発を進めるか否かを決める評価プロジェクトの様子が描かれている。
NeXT社時代からの右腕だったルビンシュタインが音頭を取って基本仕様を決め、外部から必要な人材を集めた。あのビル・アトキンソンやアンディ・ハーツフェルドらと一緒にジェネラル・マジック社を立ち上げた1人、マイケル・ファデルである。
Appleと期限付きの契約を経た彼は契約期間が終了を向かえる頃にスティーブ・ジョブズらの前で試作の結果を説明するだけでなく、スティーブ・ジョブズに開発プロジェクトにゴーサインを出させるという難題も与えられていた。その会議でのジョブズは相変わらず辛辣さも見せるがファデルらのプレゼンをきちんと受け止めている様が描かれている。

※Macintoshの開発者たち。左からアンディ・ハーツフェルド、クリス・エスピノザ、ジョアンナ・ホフマン、ジョージ・クロウ、ビル・アトキンソン、ピュレル・スミス、ジェリー・マノック
スティーブ・ジョブズは「ロストインタビュー1995」の中でいみじくも言っている。要約すると…「たいていの物事の平均値と最高値の差は最大でも2対1だ…」と。「例えばニューヨークの最高のタクシーに乗った場合、普通のタクシーより30%速く目的地に着けるかも知れない。また車の場合、平均と最高の差は20%くらいだろう。だから2対1というのは本来もの凄い比率だ…。でもソフトウェア(かつてはハードウェアも)平均と最高の差は50対1、ひよっとしたら100対1かもしれない。だから真に才能ある人材をみつけることによって、成功を築き上げることができたんだ。BクラスやCクラスの人材でよしとせずに、Aクラスの人材を本気で求めたんだ」と明言している…。

※NeXT社設立時に参画したスタッフたち。ジョブズ宅の庭で
同じく「ロストインタビュー1995」の中でジョブズは「もっとも優れた人材は (略) …同時に彼らはうんざりするほど扱いにくい人間だということを知ったよ」とも発言している。「しかし(優秀な人材は)大目に見て受け入れるしかない」ともいう。扱いにくいのは承知で彼らを鼓舞し、自身がプロジェクトのシンボルとなって目標に向かっていったのだ。
スティーブ・ジョブズにとって最初にその能力の高さを如実に見せつけられたのはスティーブ・ウォズニアックだったが、ジョブズの目標を実現させるには優秀な人材がいかに重要かを見せつけられたに違いない。
ただし、優秀な人材を集める…といってもことは当然容易ではない。物理的に探して集めることも難しいが、それらの個性ある人材を目的に向かって一致団結させ成果を挙げることこそ至難の業ともいえよう。事実相棒のウォズニアックは正直で表裏のない誠実な人柄ではあったが、ひとたび彼をAppleという企業の目標に即して働かせることはジョブズにとっても難しいことだったようだ。
スティーブ・ジョブズの時に異様とも思える人の使い方や言動は、もしかすると使いづらい人間たちの意欲を何とか意図する方向へ向けようとする意識的な対策のひとつだったのかも知れない…。
【主な参考資料】
・「スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー」講談社刊
・スティーブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」ソフトバンク クリエイティブ刊
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