ラテ飼育格闘日記(405)〜プリンちゃんのオトーサンの思い出
1ヶ月半、いや2ヶ月近くになるだろうか。片道30分ほど歩かなければならない馴染みだった公園に久しぶりに足を向けた。少ししのぎやすい日だったからか、ラテが往路はいそいそと歩いたからだ。そこでこれまた久しぶりに柴犬のぽん吉君とオカーサンにお会いしたが、別の飼い主さんから悲しい情報も教えて頂いた…。
それはコーギー犬の飼い主さんとして知り得ていたご主人が8月8日に亡くなられたというお話しだった。
実はご本人から癌だとお聞きしていたし、状況の概要は承知していた。思えば3ヶ月ほどお目にかかっていなかったはずだが、確か5月にお会いしたときには「流動食も喉に通らなくなりました」とおっしゃっていたものの矍鑠とした歩き方だったし外見はお元気そうに見えた。

※我が娘は横になりながらもオカーサンの一挙一動を追っている
おかしなことにお互いがワンコ連れで出会い、最初は会釈だけ、そのうち当たり障りのない時候の挨拶程度のお話しをするという飼い主さんがほとんどで、お名前は勿論どこに住んでいるのか、お仕事はなにか…といったことは知らないままでいることが多い。
その飼い主さん(以後Aさん)とはラテが公園デビューした2007年初頭から知り合ったが、私には寡黙な方に思えた。愛犬はコーギー犬でビーチボールを鼻先に乗せ、上手にリフティングしながら独特の鳴き声と共に公園を駆けずり回っていた。
その声は公園に向かう大きな歩道橋あたりですでに聞こえ、「あっプーちゃんが来てるね」と分かったほど元気だった。ちなみにプーちゃんの本当の名は “プリン” ちゃんだった。ただしラテよりずっと先輩のワンコだったからか、ラテは吠えたりはしないもののプーちゃんには近づかなかった。したがってしばらくの間は顔を会わせてもAさんとは挨拶程度の接触でしかなかった。

※出会った直後のコーギー犬「プリンちゃん」と飼い主のご主人。2007年3月撮影
時は流れ、そのプーちゃんは病気のために後ろ足が動かなくなった。私はワンコの車椅子というか、歩くための補助輪というのをはじめて見たが、飼い主さんの暖かく懸命な努力で後ろ足の代わりになる車をつけて公園を散歩する姿が目立つようになった。歩くのが不自由なので以前のようにボール遊びはできないし公園まではワゴンに乗り、飼い主さんが押して散歩をされていた。
そういえばそのワゴンを押している際に車にはねられるという事故にあった。プーちゃんには大きな問題はなかったが飼い主さんがしばらく入院されたと聞いた…。
ともかく車椅子がなければ歩けないワンコを献身的に世話する飼い主さんご夫婦の姿はオトーサンの目に焼き付いた。Aさんは時折、高倍率のズームレンズを付けたニコンの一眼レフカメラを持参してプーちゃんはもとより一緒に遊んでいるワンコたちの写真を撮っていた。そして2,3そのプリントしたものを見せて頂いたが、写真の出来は素晴らしく、その腕前はプロのように思えた。
なにがきっかけだったか、プーちゃんをワゴンに乗せて公園に来られるころから話をするようになった。どなたから聞かれたのだろうか、オトーサンがAppleのMacやiPhoneのユーザーであるだけでなくそのソフトウェア開発を仕事にしていることを知られたようだ。そしてAさんご自身もMacユーザーだということで「iPadっていいですか?」といった話題で10数分花が咲いたこともあった。しかしラテはプーちゃんが怖いのか、オトーサンがリードを緩めにしてもワゴンに近づくことはほとんどなかったしその飼い主さんに懐くこともなかった。

※後ろからオトーサンがついてくるかを確認するラテ
ある日、いつものように公園に出向いたオトーサンたちはプーちゃんを連れていないAさんと出会った。プーちゃんは病気が進行しAさんご夫婦の看病もむなしくお二人の腕の中で亡くなったとのことだった。
「プーは亡くなりました」とつとめて明るくお話しされていたAさんだったが、そのとき不思議なことにラテはAさんの足元に近づき、顔を見上げながらその足元にうずくまった。初めてのことだった…。Aさんは「ラテ、お前…慰めてくれるのか? お利口だねえ」と頭を撫でてくれた。
Aさんの年齢をお聞きしたことがないので不明だが、オトーサンよりはずっと年上なはずだ。人生の後半をすべてプーちゃんにかけたようなご夫婦だったからさぞや気落ちしているだろうと僭越ながら心配していた。とはいえ、なかなか真似できないほどの手厚い看病を続けてきたことでもあり、Aさんは「気持ちの整理がつきました」ともおっしゃっていた。
そんなおり「実は…私は癌でしてねぇ」というお話しを聞いた。そして歳も歳だから手術や入院をせず通院だけで過ごそうと決めたのだとラテの頭を撫でながら告白した。続けて「手術でもすればこうして1人で歩き回れませんしね」とレンタルビデオ屋の袋を見せながら苦笑された。
プーちゃんの思い出が強すぎたので次のワンコを飼いたくてもなかなか思い切れないということを言われていたがある日、奥様が見るからに子犬のコーギー犬を連れて公園に来られたのを見て、ペットロスは少し和らいだのかとオトーサンも微笑んだ。
聞けば今度のワンコの名は「アラモード」ちゃんといい、「アーちゃん、アーちゃん」と呼んでいた。無論前のワンコの名が「プリン」であることを意識した命名だ(笑)。
そんな公園での立ち話しでしかお付き合いがなかったAさんだが、いつだったか駅前の商店街にあるカフェ内に入ったとき席についているAさんがいらした。
オトーサンも1人だったし、会釈をしたまま離れた席に座るのも水くさいと思い「同席させてもらってよろしいですか?」と声をおかけし一緒に珈琲を飲み、結局二人だけで小一時間もお話しした…。
そのとき初めてAさんの職業やら趣味などを知った。そして病気の仔細についても…。
前記したようにAさんは年齢的なこともあり手術はせず、通院で対処すると笑顔で話しをしてくださった。私も母が口内にできた癌を大学病院であれこれといじくり回されたあげく苦痛ばかりで死に至らせた経験から「その方がいいかも知れませんね」と申し上げた。

※今日も散歩のフィニッシュは抱っこです!
そのときAさんは手にした袋からディアゴスティーニの帆船組み立てキットを取り出し「ぼけないように暇つぶしで組み立ててみようと思って…」と意欲も見せた。「ただし組み立て前に命が尽きるかもしれないけどねぇ」と苦笑いしながら…。
その後も数回、昔プーちゃんが駆けずり回っていた広い公園でレンタルビデオを返しに行くというAさんと会った。不思議にラテが大人しくAさんの足元にうずくまるのに目を細めながら「犬っていいよねぇ」としみじみ言われた言葉が強く記憶に残っている。
去り際に振り返りながら「こんどのMac Pro…買いですか?」と問われた姿も忘れられない…。
お互いの人生の途中でほんの少し触れ合っただけのご縁だったが、Aさんは良い意味で男臭いダンディズムを漂わせた印象深い方だった。心からご冥福をお祈りしたい…。
Aさんはきっと天国で最愛のプーちゃんとボール遊びをしているに違いない…。合掌
それはコーギー犬の飼い主さんとして知り得ていたご主人が8月8日に亡くなられたというお話しだった。
実はご本人から癌だとお聞きしていたし、状況の概要は承知していた。思えば3ヶ月ほどお目にかかっていなかったはずだが、確か5月にお会いしたときには「流動食も喉に通らなくなりました」とおっしゃっていたものの矍鑠とした歩き方だったし外見はお元気そうに見えた。

※我が娘は横になりながらもオカーサンの一挙一動を追っている
おかしなことにお互いがワンコ連れで出会い、最初は会釈だけ、そのうち当たり障りのない時候の挨拶程度のお話しをするという飼い主さんがほとんどで、お名前は勿論どこに住んでいるのか、お仕事はなにか…といったことは知らないままでいることが多い。
その飼い主さん(以後Aさん)とはラテが公園デビューした2007年初頭から知り合ったが、私には寡黙な方に思えた。愛犬はコーギー犬でビーチボールを鼻先に乗せ、上手にリフティングしながら独特の鳴き声と共に公園を駆けずり回っていた。
その声は公園に向かう大きな歩道橋あたりですでに聞こえ、「あっプーちゃんが来てるね」と分かったほど元気だった。ちなみにプーちゃんの本当の名は “プリン” ちゃんだった。ただしラテよりずっと先輩のワンコだったからか、ラテは吠えたりはしないもののプーちゃんには近づかなかった。したがってしばらくの間は顔を会わせてもAさんとは挨拶程度の接触でしかなかった。

※出会った直後のコーギー犬「プリンちゃん」と飼い主のご主人。2007年3月撮影
時は流れ、そのプーちゃんは病気のために後ろ足が動かなくなった。私はワンコの車椅子というか、歩くための補助輪というのをはじめて見たが、飼い主さんの暖かく懸命な努力で後ろ足の代わりになる車をつけて公園を散歩する姿が目立つようになった。歩くのが不自由なので以前のようにボール遊びはできないし公園まではワゴンに乗り、飼い主さんが押して散歩をされていた。
そういえばそのワゴンを押している際に車にはねられるという事故にあった。プーちゃんには大きな問題はなかったが飼い主さんがしばらく入院されたと聞いた…。
ともかく車椅子がなければ歩けないワンコを献身的に世話する飼い主さんご夫婦の姿はオトーサンの目に焼き付いた。Aさんは時折、高倍率のズームレンズを付けたニコンの一眼レフカメラを持参してプーちゃんはもとより一緒に遊んでいるワンコたちの写真を撮っていた。そして2,3そのプリントしたものを見せて頂いたが、写真の出来は素晴らしく、その腕前はプロのように思えた。
なにがきっかけだったか、プーちゃんをワゴンに乗せて公園に来られるころから話をするようになった。どなたから聞かれたのだろうか、オトーサンがAppleのMacやiPhoneのユーザーであるだけでなくそのソフトウェア開発を仕事にしていることを知られたようだ。そしてAさんご自身もMacユーザーだということで「iPadっていいですか?」といった話題で10数分花が咲いたこともあった。しかしラテはプーちゃんが怖いのか、オトーサンがリードを緩めにしてもワゴンに近づくことはほとんどなかったしその飼い主さんに懐くこともなかった。

※後ろからオトーサンがついてくるかを確認するラテ
ある日、いつものように公園に出向いたオトーサンたちはプーちゃんを連れていないAさんと出会った。プーちゃんは病気が進行しAさんご夫婦の看病もむなしくお二人の腕の中で亡くなったとのことだった。
「プーは亡くなりました」とつとめて明るくお話しされていたAさんだったが、そのとき不思議なことにラテはAさんの足元に近づき、顔を見上げながらその足元にうずくまった。初めてのことだった…。Aさんは「ラテ、お前…慰めてくれるのか? お利口だねえ」と頭を撫でてくれた。
Aさんの年齢をお聞きしたことがないので不明だが、オトーサンよりはずっと年上なはずだ。人生の後半をすべてプーちゃんにかけたようなご夫婦だったからさぞや気落ちしているだろうと僭越ながら心配していた。とはいえ、なかなか真似できないほどの手厚い看病を続けてきたことでもあり、Aさんは「気持ちの整理がつきました」ともおっしゃっていた。
そんなおり「実は…私は癌でしてねぇ」というお話しを聞いた。そして歳も歳だから手術や入院をせず通院だけで過ごそうと決めたのだとラテの頭を撫でながら告白した。続けて「手術でもすればこうして1人で歩き回れませんしね」とレンタルビデオ屋の袋を見せながら苦笑された。
プーちゃんの思い出が強すぎたので次のワンコを飼いたくてもなかなか思い切れないということを言われていたがある日、奥様が見るからに子犬のコーギー犬を連れて公園に来られたのを見て、ペットロスは少し和らいだのかとオトーサンも微笑んだ。
聞けば今度のワンコの名は「アラモード」ちゃんといい、「アーちゃん、アーちゃん」と呼んでいた。無論前のワンコの名が「プリン」であることを意識した命名だ(笑)。
そんな公園での立ち話しでしかお付き合いがなかったAさんだが、いつだったか駅前の商店街にあるカフェ内に入ったとき席についているAさんがいらした。
オトーサンも1人だったし、会釈をしたまま離れた席に座るのも水くさいと思い「同席させてもらってよろしいですか?」と声をおかけし一緒に珈琲を飲み、結局二人だけで小一時間もお話しした…。
そのとき初めてAさんの職業やら趣味などを知った。そして病気の仔細についても…。
前記したようにAさんは年齢的なこともあり手術はせず、通院で対処すると笑顔で話しをしてくださった。私も母が口内にできた癌を大学病院であれこれといじくり回されたあげく苦痛ばかりで死に至らせた経験から「その方がいいかも知れませんね」と申し上げた。

※今日も散歩のフィニッシュは抱っこです!
そのときAさんは手にした袋からディアゴスティーニの帆船組み立てキットを取り出し「ぼけないように暇つぶしで組み立ててみようと思って…」と意欲も見せた。「ただし組み立て前に命が尽きるかもしれないけどねぇ」と苦笑いしながら…。
その後も数回、昔プーちゃんが駆けずり回っていた広い公園でレンタルビデオを返しに行くというAさんと会った。不思議にラテが大人しくAさんの足元にうずくまるのに目を細めながら「犬っていいよねぇ」としみじみ言われた言葉が強く記憶に残っている。
去り際に振り返りながら「こんどのMac Pro…買いですか?」と問われた姿も忘れられない…。
お互いの人生の途中でほんの少し触れ合っただけのご縁だったが、Aさんは良い意味で男臭いダンディズムを漂わせた印象深い方だった。心からご冥福をお祈りしたい…。
Aさんはきっと天国で最愛のプーちゃんとボール遊びをしているに違いない…。合掌
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