ジョブズ学入門講座「成功の秘密」【8】〜 自分の意見、考えに固執しない清さ
スティーブ・ジョブズは何故これほどの成功者として讃えられるのか、成功の秘密はどこにあるかを「ジョブズ学」と題して考察してきた。そういえばこの10月5日でジョブズが亡くなって丸3年経ったが、彼の記憶は薄れるどころか益々鮮明になっていく感もある。今回は自分の考えに固執しない彼の生き様を追ってみたい。
我々は大なり小なり自分なりの考え方に固執・執着し、それが自分の信念…アイデンティティだと思い込んでしまう傾向があるようだ。
さらに、常に物事の価値観や考え方が変わらない人こそ信頼できる人であり、信念の人であると評価される傾向すらある。反対にその時、その時で意見をコロコロと変える人は節操のない信頼に値しない人だと考えがちだ…。
スティーブ・ジョブズという男はその点、どういう考え方を持っていたのだろうか。一見彼は一度明らかにした自分の意見を変えるような男に見えないが、実はそうでもないのである(笑)。
彼は「スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー」でいみじくも言っている。「私は、自分が正しいかどうかにこだわらないタイプだ」と。「こだわるのは成功するかどうかだけで、何かを強硬に主張していたとしても、反対の証拠を示されると5分後にはすっかり考えを変えているという証言をする人が、たくさんいるはずだ。私はそういう人間なんだよ」と…。

※スティーブ・ジョブズは自分の意見には固執しなかったという
こうした変わり身の早さは時に節操のない人間と誤解を生んだり憎まれたりもする。
Macintoshプロジェクトの生みの親だったジェフ・ラスキンによればジョブズの常は「他人の脳みそを盗むことだ」として「ジョブズはまず人のアイデアを鼻であしらっておいて、その1週間後には素晴らしいアイデアを思いついたとひけらかす。勿論それは1週間前に誰かが彼に話したアイデアなんだ…」という批判になる。要は他人の意見に耳を貸さないふりをして後で良いところ取りする…という印象なのだろう…。
そもそもジョブズでなくとも他人の意見に同調するのは簡単ではない。なぜなら人は自身のメンタルモデルと相容れない物を見聞きしたとき、それを拒絶するだけでなく軽視する傾向があるという。
我々はどうしても自分が持っている天秤の均衡が計れるような言動を好み、天秤が大きく左右に揺れ動くような意見は聞きたくないし自分とは関係ないことだと考えがちだ。ましてや企業のトップともなれば体面にこだわる場合も多い。部下の意見が正しいほど意固地になって反対する輩も多い…。
そういえば、過日NHKのオンデマンドで本田宗一郎を取り上げた番組を見た。本田宗一郎も部下に対してよく怒鳴るだけでなく時に工具で殴ることもあったという。その本田宗一郎の印象深いエピソードとして彼が社長を退任するきっかけが興味深かった。
それは米国でマスキー法が施行され、ホンダもそれに対応する低公害エンジンを開発しなければならなくなった。本田はこの機会を「米国のビッグ3社と並ぶ千載一遇のチャンスだ」と社員らを鼓舞した。しかし社員らは、その意見に反発し、ホンダの低公害エンジン開発はビジネスでトップをとるためにやっているのではなく、公害のない社会を実現するためではないかと訴えた。それを聞いた宗一郎は自身の発言を恥じて取り消すとともに「自分の時代は終わった」と感じて社長退任を決めたという。
企業人として良い製品を作り上げ、競合に打ち勝ち利益を上げなければならない厳しいビジネスの世界ではあるが、本田宗一郎は自身の思いや発言にこだわらない清さを持っていた。そして彼の言動には常にエゴというか私心がなかったからこそ怖いトップであったものの社員たちから「オヤジ」と尊敬と親しみを込めて呼ばれたのだろう。
ともあれPIXARアニメーションおよびディズニーアニメーション社長のエド・キャットムルは自書「ピクサー流創造するちから」で書いている…。
「スティーブは…人と言い争った後、相手が正しいと納得したら、その瞬間に考えを改めた。自分が一度すばらしいと思ったからといって、その考えに固執する人ではなかった。」と…。さらに「自分の提案はあらゆる手を尽くして推したが、そこに彼のエゴはなかった。」という。
あるときPIXARで「バグズ・ライフ」の映画のアスペクト比が議論の的となった…。いわゆる映画とテレビの違いである。例えば映画向けワイドスクリーンで上映された作品をビデオで観ると画面の上下に黒い帯が出るか、映像の左右が見えなくなるかのどちらかになってしまう。どちらにするかでマーケティング側と制作側で意見が対立していたという。
スティーブ・ジョブズは持論を展開しワイドスクリーンで創るなんて「頭がおかしいんじゃないのか」と発言した。そのとき制作デザイナーのビル・コーンが感心なことに…真っ向から反論しワイドスクリーン方式が芸術的視点から言っていかに絶対的に重要かを説明し激しいやりとりが続いた。そして結論が出ないままにスティーブ・ジョブズはその場を離れた。
その後、ビル・コーンは先ほどの相手はスティーブ・ジョブズだったことに気がつき、まずいことになったかと心配した。しかし結果はビルの勝ちだった。
エド・キャットムルいわく、ジョブズはビルの熱意に応えたのだと…。ビルのはっきりと自分の信念を主張したことに対し、その考えが尊重するに値するものだとジョブズは考えたのだと理解した。そしてジョブズは二度とこのアスペクト比の問題を持ち出すことはなかったという。
我々凡人は誰もが自分こそがまともな人間だと認識しているに違いない。しかし他者の視点を尊重し理解しようとする者こそリーダーにふさわしいだけでなく成功という扉を開く鍵を手にするチャンスを得ることができるに違いない。
【主な参考資料】
・エド・キャットムル著「ピクサー流 創造するちから ~ 小さな可能性から大きな価値を生み出す方法」ダイヤモンド社刊
・「スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー」
我々は大なり小なり自分なりの考え方に固執・執着し、それが自分の信念…アイデンティティだと思い込んでしまう傾向があるようだ。
さらに、常に物事の価値観や考え方が変わらない人こそ信頼できる人であり、信念の人であると評価される傾向すらある。反対にその時、その時で意見をコロコロと変える人は節操のない信頼に値しない人だと考えがちだ…。
スティーブ・ジョブズという男はその点、どういう考え方を持っていたのだろうか。一見彼は一度明らかにした自分の意見を変えるような男に見えないが、実はそうでもないのである(笑)。
彼は「スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー」でいみじくも言っている。「私は、自分が正しいかどうかにこだわらないタイプだ」と。「こだわるのは成功するかどうかだけで、何かを強硬に主張していたとしても、反対の証拠を示されると5分後にはすっかり考えを変えているという証言をする人が、たくさんいるはずだ。私はそういう人間なんだよ」と…。

※スティーブ・ジョブズは自分の意見には固執しなかったという
こうした変わり身の早さは時に節操のない人間と誤解を生んだり憎まれたりもする。
Macintoshプロジェクトの生みの親だったジェフ・ラスキンによればジョブズの常は「他人の脳みそを盗むことだ」として「ジョブズはまず人のアイデアを鼻であしらっておいて、その1週間後には素晴らしいアイデアを思いついたとひけらかす。勿論それは1週間前に誰かが彼に話したアイデアなんだ…」という批判になる。要は他人の意見に耳を貸さないふりをして後で良いところ取りする…という印象なのだろう…。
そもそもジョブズでなくとも他人の意見に同調するのは簡単ではない。なぜなら人は自身のメンタルモデルと相容れない物を見聞きしたとき、それを拒絶するだけでなく軽視する傾向があるという。
我々はどうしても自分が持っている天秤の均衡が計れるような言動を好み、天秤が大きく左右に揺れ動くような意見は聞きたくないし自分とは関係ないことだと考えがちだ。ましてや企業のトップともなれば体面にこだわる場合も多い。部下の意見が正しいほど意固地になって反対する輩も多い…。
そういえば、過日NHKのオンデマンドで本田宗一郎を取り上げた番組を見た。本田宗一郎も部下に対してよく怒鳴るだけでなく時に工具で殴ることもあったという。その本田宗一郎の印象深いエピソードとして彼が社長を退任するきっかけが興味深かった。
それは米国でマスキー法が施行され、ホンダもそれに対応する低公害エンジンを開発しなければならなくなった。本田はこの機会を「米国のビッグ3社と並ぶ千載一遇のチャンスだ」と社員らを鼓舞した。しかし社員らは、その意見に反発し、ホンダの低公害エンジン開発はビジネスでトップをとるためにやっているのではなく、公害のない社会を実現するためではないかと訴えた。それを聞いた宗一郎は自身の発言を恥じて取り消すとともに「自分の時代は終わった」と感じて社長退任を決めたという。
企業人として良い製品を作り上げ、競合に打ち勝ち利益を上げなければならない厳しいビジネスの世界ではあるが、本田宗一郎は自身の思いや発言にこだわらない清さを持っていた。そして彼の言動には常にエゴというか私心がなかったからこそ怖いトップであったものの社員たちから「オヤジ」と尊敬と親しみを込めて呼ばれたのだろう。
ともあれPIXARアニメーションおよびディズニーアニメーション社長のエド・キャットムルは自書「ピクサー流創造するちから」で書いている…。
「スティーブは…人と言い争った後、相手が正しいと納得したら、その瞬間に考えを改めた。自分が一度すばらしいと思ったからといって、その考えに固執する人ではなかった。」と…。さらに「自分の提案はあらゆる手を尽くして推したが、そこに彼のエゴはなかった。」という。
あるときPIXARで「バグズ・ライフ」の映画のアスペクト比が議論の的となった…。いわゆる映画とテレビの違いである。例えば映画向けワイドスクリーンで上映された作品をビデオで観ると画面の上下に黒い帯が出るか、映像の左右が見えなくなるかのどちらかになってしまう。どちらにするかでマーケティング側と制作側で意見が対立していたという。
スティーブ・ジョブズは持論を展開しワイドスクリーンで創るなんて「頭がおかしいんじゃないのか」と発言した。そのとき制作デザイナーのビル・コーンが感心なことに…真っ向から反論しワイドスクリーン方式が芸術的視点から言っていかに絶対的に重要かを説明し激しいやりとりが続いた。そして結論が出ないままにスティーブ・ジョブズはその場を離れた。
その後、ビル・コーンは先ほどの相手はスティーブ・ジョブズだったことに気がつき、まずいことになったかと心配した。しかし結果はビルの勝ちだった。
エド・キャットムルいわく、ジョブズはビルの熱意に応えたのだと…。ビルのはっきりと自分の信念を主張したことに対し、その考えが尊重するに値するものだとジョブズは考えたのだと理解した。そしてジョブズは二度とこのアスペクト比の問題を持ち出すことはなかったという。
我々凡人は誰もが自分こそがまともな人間だと認識しているに違いない。しかし他者の視点を尊重し理解しようとする者こそリーダーにふさわしいだけでなく成功という扉を開く鍵を手にするチャンスを得ることができるに違いない。
【主な参考資料】
・エド・キャットムル著「ピクサー流 創造するちから ~ 小さな可能性から大きな価値を生み出す方法」ダイヤモンド社刊
・「スティーブ・ジョブズ 1995 ロスト・インタビュー」
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