葉室麟「銀漢の賦」に見る男にとっての友とは...
NHKの木曜時代劇「風の峠〜銀漢の賦〜」をたまたま観た。特に最終回は感動したので原作、葉室麟の小説「銀漢の賦」を買って読んでみた。この作品は2007年に第14回松本清張賞に輝いている作品だからして多くの方々が見知っているのだろうが、私はこれまで葉室麟の作品には縁がなかった...。
本を多々読む1人としては変な話だが、この数年時代劇をテレビで見た後で原作(小説/漫画)を読むという癖というか習慣が身についてしまったように思える。村上もとか「JIN」しかり佐伯泰英「居眠り磐音 江戸双紙」「酔いどれ小籐次」などなどだ...。
決して誉められたアプローチではないのだろうが、この順序で作品に接すると小説を読んでいてもそこに登場する人物たちはドラマで観た役者たちであり、ビジュアルが頭にあるからしてまるで以前から見知っていた人たちのように生き生きと動くのが面白いのである。
また順序はともかくドラマと原作の両方を知ることで、ドラマの脚本の優劣なども自分なりに分かって興味深い...。

※葉室麟著「銀漢の賦」文春文庫
ところでこれまで触れる機会がなかった葉室麟の作品のドラマ化「風の峠〜銀漢の賦〜」を観る気にさせたのは中村雅俊と柴田恭兵という2人の役者が主人公と知ったからだ。特にご贔屓ということではなかったものの、若い時代にはまさしく青春ドラマには欠かせない役者であり、どのような役柄においても熱い魂を持った男として描かれることが多く、それは同じ男として少々羨ましくも眩しい存在と映っていたからでもある。
ともあれ「銀漢の賦」の原作ならびにドラマにおける見所は男の友情、友という存在への深い思いにあるといえよう。
勿論...というのも変な物言いだが、私にも親友と呼ぶに相応しい男たちがいるし、いた...と胸を張れるが、残念ながら僅かな人数となってしまった。
長い間生きていると様々な出会いと別れがあり、多くの経験や体験もあり、それが「銀漢の賦」の男たちに重なって必要以上に美しく見えてしまうのかも知れない。しかし物語と同様にそれらは決して楽しくも輝いていた事ばかりではないのが辛い...。
小説「銀漢の賦」への感想を自身の人生と重ねて論じてみようと思ったが、国文学者で文藝評論家の島内景二氏が文庫の巻末に解説として載せている一文を読み...止めることにした...。それが、僭越ながらまことに当を得た高尚な解説だったからだ。普段は嫌みの1つも言いたくなる性分の私だが、この格調の高い解説はそれ自体一読の価値があると思う。
ともかく原作を読んでNHKのドラマがことのほかよく出来ていたことをあらためて感じた。結末も原作と違和感なく穏やかで暖かみを感じるものだったことは記しておこう。
このドラマが素敵なのは脚本が基本的に原作に忠実に作られていたことと同時にドラマなりの見せ場を作っていることが原作との比較でわかった...。無論限られた時間内で起承転結を進めなければならないテレビドラマだからしてまったく原作をトレースした作りだというはずもない。
例えば原作では柴田恭兵演じる月ケ瀬藩の名家老、松浦将監(しょうげん)が主役だが、ドラマの主人公は中村雅俊演じる将監の幼友達だった居合と鉄砲の名手、日下部源五だ。とある事件がもとでこの2人は共通の友人を失ったときから絶交、疎遠になっていた…。また後半、将監の江戸入りで月ケ瀬藩の国替え騒動は収まるが、小説では側用人が引責辞職するだけだがドラマでは藩主も嫡男に家督を譲り隠居するといった違いがある。
物語は過去と現在を行き来しながら進んでいく。そして男の友情のひとつの形、理想形を見せつけられ、目頭が熱くなってくる。またなによりもドラマは原作の格調高さを保持しながらも時にコミカルな演出が常に死に向き合う男たちの物語に暖かさを与えてくれる。
さらに日下部源五は死んだ友(十蔵)の娘、7歳だった蕗(ふき)を預かって一緒に暮らすことになる。そして成長した蕗はドラマでは源五を慕う下女として花を添えているが、原作よりドラマの方が養父同然の源五との関係が暖かく描かれ、収まりが良いように思える。
中村雅俊は「風の峠~銀漢の賦~」で日下部源五を演じるにあたり、かつてヒットした青春ドラマ「俺たちの旅」を意識したというが、これはまさしく頭に白いものが混じり、人生の終わりを迎えることになる男たちの "青春ドラマ" でもあるのかも知れない。
私はといえば、今となっては数少ない友にあらためて感謝すると共に、若くして亡くなった2人の親友を思い出して涙ぐんだ...。
■NHK 木曜時代劇「風の峠〜銀漢の賦〜」
本を多々読む1人としては変な話だが、この数年時代劇をテレビで見た後で原作(小説/漫画)を読むという癖というか習慣が身についてしまったように思える。村上もとか「JIN」しかり佐伯泰英「居眠り磐音 江戸双紙」「酔いどれ小籐次」などなどだ...。
決して誉められたアプローチではないのだろうが、この順序で作品に接すると小説を読んでいてもそこに登場する人物たちはドラマで観た役者たちであり、ビジュアルが頭にあるからしてまるで以前から見知っていた人たちのように生き生きと動くのが面白いのである。
また順序はともかくドラマと原作の両方を知ることで、ドラマの脚本の優劣なども自分なりに分かって興味深い...。

※葉室麟著「銀漢の賦」文春文庫
ところでこれまで触れる機会がなかった葉室麟の作品のドラマ化「風の峠〜銀漢の賦〜」を観る気にさせたのは中村雅俊と柴田恭兵という2人の役者が主人公と知ったからだ。特にご贔屓ということではなかったものの、若い時代にはまさしく青春ドラマには欠かせない役者であり、どのような役柄においても熱い魂を持った男として描かれることが多く、それは同じ男として少々羨ましくも眩しい存在と映っていたからでもある。
ともあれ「銀漢の賦」の原作ならびにドラマにおける見所は男の友情、友という存在への深い思いにあるといえよう。
勿論...というのも変な物言いだが、私にも親友と呼ぶに相応しい男たちがいるし、いた...と胸を張れるが、残念ながら僅かな人数となってしまった。
長い間生きていると様々な出会いと別れがあり、多くの経験や体験もあり、それが「銀漢の賦」の男たちに重なって必要以上に美しく見えてしまうのかも知れない。しかし物語と同様にそれらは決して楽しくも輝いていた事ばかりではないのが辛い...。
小説「銀漢の賦」への感想を自身の人生と重ねて論じてみようと思ったが、国文学者で文藝評論家の島内景二氏が文庫の巻末に解説として載せている一文を読み...止めることにした...。それが、僭越ながらまことに当を得た高尚な解説だったからだ。普段は嫌みの1つも言いたくなる性分の私だが、この格調の高い解説はそれ自体一読の価値があると思う。
ともかく原作を読んでNHKのドラマがことのほかよく出来ていたことをあらためて感じた。結末も原作と違和感なく穏やかで暖かみを感じるものだったことは記しておこう。
このドラマが素敵なのは脚本が基本的に原作に忠実に作られていたことと同時にドラマなりの見せ場を作っていることが原作との比較でわかった...。無論限られた時間内で起承転結を進めなければならないテレビドラマだからしてまったく原作をトレースした作りだというはずもない。
例えば原作では柴田恭兵演じる月ケ瀬藩の名家老、松浦将監(しょうげん)が主役だが、ドラマの主人公は中村雅俊演じる将監の幼友達だった居合と鉄砲の名手、日下部源五だ。とある事件がもとでこの2人は共通の友人を失ったときから絶交、疎遠になっていた…。また後半、将監の江戸入りで月ケ瀬藩の国替え騒動は収まるが、小説では側用人が引責辞職するだけだがドラマでは藩主も嫡男に家督を譲り隠居するといった違いがある。
物語は過去と現在を行き来しながら進んでいく。そして男の友情のひとつの形、理想形を見せつけられ、目頭が熱くなってくる。またなによりもドラマは原作の格調高さを保持しながらも時にコミカルな演出が常に死に向き合う男たちの物語に暖かさを与えてくれる。
さらに日下部源五は死んだ友(十蔵)の娘、7歳だった蕗(ふき)を預かって一緒に暮らすことになる。そして成長した蕗はドラマでは源五を慕う下女として花を添えているが、原作よりドラマの方が養父同然の源五との関係が暖かく描かれ、収まりが良いように思える。
中村雅俊は「風の峠~銀漢の賦~」で日下部源五を演じるにあたり、かつてヒットした青春ドラマ「俺たちの旅」を意識したというが、これはまさしく頭に白いものが混じり、人生の終わりを迎えることになる男たちの "青春ドラマ" でもあるのかも知れない。
私はといえば、今となっては数少ない友にあらためて感謝すると共に、若くして亡くなった2人の親友を思い出して涙ぐんだ...。
■NHK 木曜時代劇「風の峠〜銀漢の賦〜」
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