Apple Watchとは一体何物なのか?!
Appleのスペシャルイベント(米国時間2015年3月9日)で待ちに待ったApple Watchのオフィシャル情報が公開された。個人的には安価なモデルを手にしたいと考えているが、実は Apple Watchに惹かれるのはデザインでもなければ腕時計としての機能でもない。それが私たちのライフスタイルを再び激変させるであろう予感があるからだ。
さて、Apple Watchはスティーブ・ジョブズが亡くなってから初めて登場する新製品である。思えば iPadの発表以来実に5年ぶりだ。ただし状況を考察するにApple Watchはジョブズの生前にそのコンセプトの一端はすでに存在していたと考えて良いだろう。

※3月9日(米国時間)のスペシャルイベントでApple Watchに関してスピーチするティム・クック CEO
なぜならまずスティーブ・ジョブズ自身も "腕時計" というアイテムが決して嫌いではなく、公のプレゼンなどの場では外していたものの、若い時からその左手首にはシンプルな腕時計をしていたことが幾多の写真に残っている。


※上から1977年、1984年のスティーブ・ジョブズの左手首には腕時計が確認できる
そしてまだ記憶に新しいところだが、2010年に登場した第6世代のiPod nanoはタッチスクリーンを備え数種類のダイアルデザインで時計表示する機能を持っていた。私も様々な工夫をしてそのiPod nanoを腕時計として使っていた…。したがってこの頃からAppleは腕時計という形を持った新しいデバイスの可能性を探っていたと考えられる。

※写真奥が筆者がLunaTikという腕時計ケースにiPod nano 6thを収納して使っていたものだ
初めてApple Watchのデザインを見たとき、瞬時に連想したのが粒状ガムやのど飴の類だった。のっぺりしたそのデザインはいまでも100%納得できるデザインではない(笑)。とはいえApple Watchのフロントは液晶ディスプレイであり、ソフトウェアで柔軟な時計文字盤や各種情報を映し出すことができる。その為にはスクエアデザインで余計なベゼルのようなものがあってはならないのだ。したがって必然的にあのようなデザインになる...。したがって私には特に工夫したデザインとは思えない。ただしその仕上げの妙はAppleならではのもので欠点を探すのは難しい...。

※初めてApple Watchのデザインを見たときの印象はこうしたのど飴か粒状ガムを連想した
さて…ジョブズはともかく、ジョナサン・アイブたちも腕時計という製品そのものには敬意を払っているようだが、Appleは決してデジタル腕時計のメーカーとして新規参入を考えたわけではない。いわば iPhoneと連携して新しい世界を作り出す新しいガジェットは腕時計という形をしていた方が利便性もよく、そしてユーザーも受けいれやすいと考えたからに他ならない。
iPodもiPhoneも、Appleにとっては世界を変えうる最良の製品、最高のデザインだと自負していたにも関わらずファッション雑誌の小物として扱われることはあっても、まさかVOGUE誌に広告を載せるまでには至らなかった。しかし腕時計というアイテムはすでにそれ自体がファッションアイテムである。エルメス、グッチ、ヴィトンなどなど文字通り世界有数のファッションメーカーが自社ブランドの腕時計を出しているではないか…。したがってAppleのウェアラブルデバイスは腕時計の形をしているからこそ、ファッション界へのお披露目ができたわけだ。とはいえ繰り返すがAppleがこれらのファッションブランドの一郭に時計メーカーとして参画したいわけではあるまい...。
Appleがどのように考えているかはともかく、Apple Watchのコンセプトの中で腕時計としての占める機能はそんなに大きなものではない。いわばそれは特に用事の無いときのホーム画面だ…。
また18Kで飾られている外装の質感がすばらしく、高級腕時計を凌駕した仕上げだとしても、純粋にデジタル腕時計として使うだけでApple Watchを買う人は多くはないと考える。"Watch" という名、手首に装着する "腕時計" というコンセプトはそれが使いやすくアピールしやすいからに他ならない。ましてやこれまで腕時計というものを煩わしく思い、あえて使っていない人たちに再び時刻を知らせる目的で装着させるのは簡単ではないだろう。
そもそもデジタル腕時計という製品はこれまで腕時計という歴史のある市場において決して高い評価を得てきた製品ではない。腕時計の最高峰は今もってギアやネジ一本から手作りされ、その精度やデザインと共に他には真似の出来ない高度な技で組み立てられた機械式の製品なのだ。したがってApple Watchがいかに18Kとかプラチナといった高価な素材を使い、そのベゼルやインデックスにダイヤモンドを配したところでパテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンそしてオーデマ・ピゲらの高貴なデザインと肩をならべることは不可能である。

※機械式腕時計のメカニズムイメージ
勿論Appleもそんなことは百も承知に違いない。そもそもApple WatchはiPhoneユーザーをターゲットにした製品だといわれ、iPhoneと連動連携してその機能を果たすのがコンセプトだ。とはいえApple Watchは単に iPhoneの付属デバイス、補助デバイスでは決してない。Apple Watchは iPhoneでは出来得なかった...というよりやりにくかったことを実現したわけで、iPhoneの拡張だといえる。したがって利用者にとっていわばApple Watchが主で iPhoneが付属のデバイスとなる。さらに後数年も経てばApple Watchだけですべての目的が果たせるように進化するかも知れない。
詳しいあれこれは実際にApple Watchを手にしてから考察してみたいが、携帯電話は勿論いわゆるスマートフォンというものが登場して以来、私たちの日常生活やビジネスがどれほど変わったかを振り返って見ればその恩恵がいかに大きいかがわかるものの、反対に失ったものも大きいと思う。
例えばいまスマホが、iPhoneがなかったとしたら我々は街角にたたずみ一時の休憩をするとき、ファーストフード店やコーヒーショップで、あるいは電車に乗っているとき何をしているのだろうか…。また我々は日常の多くの時間を使って齧り付いているスマートフォンから一体なにを得ているのだろうか。世界がボーダーレスとなったことは確かだが。
一見このツールは何でも出来そうだが、コミュニケーションとかスケジュール管理以外で具体的な生産性のあることに活用している方がどれほどいるのだろうか…。
Appleに請われ、iPhoneの日本語入力システムの開発者としても知られている慶応義塾大学環境情報学部教授の増井俊之氏は自著「スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学」で「…現在のスマホやパソコンが誰にとっても便利だと思っている人は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツに代表されるコンピュータメーカーに騙されているのかも知れません。」と主張されている…(笑)。

※増井俊之著「スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学」光文社新書刊
冷静に考えて我々は本当に必要な情報にアクセスしているのだろうか。それとも結局は暇つぶしの娯楽に過ぎないのか…。
こうした日常に何の不思議も感じないことこそ本来は危険なことだと思うが、AppleがApple Watchで主張したい1つの事由がそうした点にあるような気がする。
確かに我々はネットを活用しているが、そのほとんどは意味のある情報発信というより面白そうな…興味のある…自身の琴線に触れる…情報を得ているだけなのではないか…。その上現在のスマホはまだまだコンピュータの香りを残しているし、使いやすさの理想から見れば進歩・進化の余地は多々あると思われる。Apple WatchはiPhoneで当たり前になった我々の認識を再構築し、ウェアラブルデバイスとその活用の仕方を再発見させ見直すプロダクトになるだろう…。
それは確かなことだと考えるが...物の評価というものは実に難しい。美しくデザイン的に優れているというプロダクトはなおさらだ。ついその見栄えに魅惑されてしまう。しかし、かつてAppleのフェローだったこともある認知科学者、心理学者として世界的に知られているD.A. ノーマン博士は自著「誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン論」でデザイナーが陥りやすい問題について多々考察しているが、「日常のデザインが美しさ第一主義によって支配されているとしたら、毎日の生活は目には楽しいかも知れないが、あまり快適ではなさそうだ...」とある。


※ノーマン博士から筆者に送られた書籍、D.A. ノーマン著/野島久雄訳「誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン論」と肉筆サイン
インダストリアルデザインはアートではない。とはいえ特に身につけるアイテムは美しいことに越したことはないしそれはApple Watchにも言えることだ。そしてどうしてもそのデザインや仕上げに注目が向くがやはり肝心なのはデバイスとしての機能の高さ、使い勝手であり、実用性であることは間違いないわけで、その検証も重要に違いない。問題は...Apple Watchに...Watch EDITIONは別にしても5万円とか8万円の価値があるかどうかにある。
ともあれ、物の長所を引き出す賛美眼は大切だが、やはりいくらかの批判精神を懐に抱くことはすべてにおいて重要なように思える。その批判精神をしても尚便利であり持つ嬉しさ、楽しさがつのるApple Watchであることを夢想しつつ、4月24日の販売を楽しみにしようと思う。
さて、Apple Watchはスティーブ・ジョブズが亡くなってから初めて登場する新製品である。思えば iPadの発表以来実に5年ぶりだ。ただし状況を考察するにApple Watchはジョブズの生前にそのコンセプトの一端はすでに存在していたと考えて良いだろう。

※3月9日(米国時間)のスペシャルイベントでApple Watchに関してスピーチするティム・クック CEO
なぜならまずスティーブ・ジョブズ自身も "腕時計" というアイテムが決して嫌いではなく、公のプレゼンなどの場では外していたものの、若い時からその左手首にはシンプルな腕時計をしていたことが幾多の写真に残っている。


※上から1977年、1984年のスティーブ・ジョブズの左手首には腕時計が確認できる
そしてまだ記憶に新しいところだが、2010年に登場した第6世代のiPod nanoはタッチスクリーンを備え数種類のダイアルデザインで時計表示する機能を持っていた。私も様々な工夫をしてそのiPod nanoを腕時計として使っていた…。したがってこの頃からAppleは腕時計という形を持った新しいデバイスの可能性を探っていたと考えられる。

※写真奥が筆者がLunaTikという腕時計ケースにiPod nano 6thを収納して使っていたものだ
初めてApple Watchのデザインを見たとき、瞬時に連想したのが粒状ガムやのど飴の類だった。のっぺりしたそのデザインはいまでも100%納得できるデザインではない(笑)。とはいえApple Watchのフロントは液晶ディスプレイであり、ソフトウェアで柔軟な時計文字盤や各種情報を映し出すことができる。その為にはスクエアデザインで余計なベゼルのようなものがあってはならないのだ。したがって必然的にあのようなデザインになる...。したがって私には特に工夫したデザインとは思えない。ただしその仕上げの妙はAppleならではのもので欠点を探すのは難しい...。

※初めてApple Watchのデザインを見たときの印象はこうしたのど飴か粒状ガムを連想した
さて…ジョブズはともかく、ジョナサン・アイブたちも腕時計という製品そのものには敬意を払っているようだが、Appleは決してデジタル腕時計のメーカーとして新規参入を考えたわけではない。いわば iPhoneと連携して新しい世界を作り出す新しいガジェットは腕時計という形をしていた方が利便性もよく、そしてユーザーも受けいれやすいと考えたからに他ならない。
iPodもiPhoneも、Appleにとっては世界を変えうる最良の製品、最高のデザインだと自負していたにも関わらずファッション雑誌の小物として扱われることはあっても、まさかVOGUE誌に広告を載せるまでには至らなかった。しかし腕時計というアイテムはすでにそれ自体がファッションアイテムである。エルメス、グッチ、ヴィトンなどなど文字通り世界有数のファッションメーカーが自社ブランドの腕時計を出しているではないか…。したがってAppleのウェアラブルデバイスは腕時計の形をしているからこそ、ファッション界へのお披露目ができたわけだ。とはいえ繰り返すがAppleがこれらのファッションブランドの一郭に時計メーカーとして参画したいわけではあるまい...。
Appleがどのように考えているかはともかく、Apple Watchのコンセプトの中で腕時計としての占める機能はそんなに大きなものではない。いわばそれは特に用事の無いときのホーム画面だ…。
また18Kで飾られている外装の質感がすばらしく、高級腕時計を凌駕した仕上げだとしても、純粋にデジタル腕時計として使うだけでApple Watchを買う人は多くはないと考える。"Watch" という名、手首に装着する "腕時計" というコンセプトはそれが使いやすくアピールしやすいからに他ならない。ましてやこれまで腕時計というものを煩わしく思い、あえて使っていない人たちに再び時刻を知らせる目的で装着させるのは簡単ではないだろう。
そもそもデジタル腕時計という製品はこれまで腕時計という歴史のある市場において決して高い評価を得てきた製品ではない。腕時計の最高峰は今もってギアやネジ一本から手作りされ、その精度やデザインと共に他には真似の出来ない高度な技で組み立てられた機械式の製品なのだ。したがってApple Watchがいかに18Kとかプラチナといった高価な素材を使い、そのベゼルやインデックスにダイヤモンドを配したところでパテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンそしてオーデマ・ピゲらの高貴なデザインと肩をならべることは不可能である。

※機械式腕時計のメカニズムイメージ
勿論Appleもそんなことは百も承知に違いない。そもそもApple WatchはiPhoneユーザーをターゲットにした製品だといわれ、iPhoneと連動連携してその機能を果たすのがコンセプトだ。とはいえApple Watchは単に iPhoneの付属デバイス、補助デバイスでは決してない。Apple Watchは iPhoneでは出来得なかった...というよりやりにくかったことを実現したわけで、iPhoneの拡張だといえる。したがって利用者にとっていわばApple Watchが主で iPhoneが付属のデバイスとなる。さらに後数年も経てばApple Watchだけですべての目的が果たせるように進化するかも知れない。
詳しいあれこれは実際にApple Watchを手にしてから考察してみたいが、携帯電話は勿論いわゆるスマートフォンというものが登場して以来、私たちの日常生活やビジネスがどれほど変わったかを振り返って見ればその恩恵がいかに大きいかがわかるものの、反対に失ったものも大きいと思う。
例えばいまスマホが、iPhoneがなかったとしたら我々は街角にたたずみ一時の休憩をするとき、ファーストフード店やコーヒーショップで、あるいは電車に乗っているとき何をしているのだろうか…。また我々は日常の多くの時間を使って齧り付いているスマートフォンから一体なにを得ているのだろうか。世界がボーダーレスとなったことは確かだが。
一見このツールは何でも出来そうだが、コミュニケーションとかスケジュール管理以外で具体的な生産性のあることに活用している方がどれほどいるのだろうか…。
Appleに請われ、iPhoneの日本語入力システムの開発者としても知られている慶応義塾大学環境情報学部教授の増井俊之氏は自著「スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学」で「…現在のスマホやパソコンが誰にとっても便利だと思っている人は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツに代表されるコンピュータメーカーに騙されているのかも知れません。」と主張されている…(笑)。

※増井俊之著「スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学」光文社新書刊
冷静に考えて我々は本当に必要な情報にアクセスしているのだろうか。それとも結局は暇つぶしの娯楽に過ぎないのか…。
こうした日常に何の不思議も感じないことこそ本来は危険なことだと思うが、AppleがApple Watchで主張したい1つの事由がそうした点にあるような気がする。
確かに我々はネットを活用しているが、そのほとんどは意味のある情報発信というより面白そうな…興味のある…自身の琴線に触れる…情報を得ているだけなのではないか…。その上現在のスマホはまだまだコンピュータの香りを残しているし、使いやすさの理想から見れば進歩・進化の余地は多々あると思われる。Apple WatchはiPhoneで当たり前になった我々の認識を再構築し、ウェアラブルデバイスとその活用の仕方を再発見させ見直すプロダクトになるだろう…。
それは確かなことだと考えるが...物の評価というものは実に難しい。美しくデザイン的に優れているというプロダクトはなおさらだ。ついその見栄えに魅惑されてしまう。しかし、かつてAppleのフェローだったこともある認知科学者、心理学者として世界的に知られているD.A. ノーマン博士は自著「誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン論」でデザイナーが陥りやすい問題について多々考察しているが、「日常のデザインが美しさ第一主義によって支配されているとしたら、毎日の生活は目には楽しいかも知れないが、あまり快適ではなさそうだ...」とある。


※ノーマン博士から筆者に送られた書籍、D.A. ノーマン著/野島久雄訳「誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン論」と肉筆サイン
インダストリアルデザインはアートではない。とはいえ特に身につけるアイテムは美しいことに越したことはないしそれはApple Watchにも言えることだ。そしてどうしてもそのデザインや仕上げに注目が向くがやはり肝心なのはデバイスとしての機能の高さ、使い勝手であり、実用性であることは間違いないわけで、その検証も重要に違いない。問題は...Apple Watchに...Watch EDITIONは別にしても5万円とか8万円の価値があるかどうかにある。
ともあれ、物の長所を引き出す賛美眼は大切だが、やはりいくらかの批判精神を懐に抱くことはすべてにおいて重要なように思える。その批判精神をしても尚便利であり持つ嬉しさ、楽しさがつのるApple Watchであることを夢想しつつ、4月24日の販売を楽しみにしようと思う。
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