書籍「Multimedia Tools」に見る1990年前後のマルチメディアとは
いつ頃から言われ出したのか、マルチメディアという言葉を出せばビジネスになるような一時期があった。CD-ROMタイトルをマルチメディアだと称する困った時期もあったが、多くの人たちは近未来の明るい技術展望をマルチメディアという言葉に託していたのかも知れない。
ところでここに一冊の本がある。「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」(宮本学著/HBJ出版局刊/1990年12月17日初版)というペーパーバックだが、Macintoshというパーソナルコンピュータを中心に据え、当時の現実的なマルチメディアを考察した一冊である。

※宮本学著(HBJ出版局刊)1990年12月17日初版「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」
当時は日本電子工業会などでもマルチメディア市場の市場予測などをアピールしたものだが、私などは実態が明確にされていないマルチメディアの市場を予測するなど困難であるという立場をとり続けていた。しかし時代はいわゆる良くも悪くもマルチメディアと叫ばれている方向に向かっていた。
1989年に幕張メッセで開催された「マルチメディア国際会議 '89」が事実上、わが国で "マルチメディア" という言葉を全面的にアピールして開催した最初のイベントであったが、前記したようにその前年にはCD-ROMの活用が事実上始まったこともあり大容量のデータの扱いに大きな注目が集まったのである。
私自身1990年と1991年の2度にわたり「マルチメディア国際会議」にアップルコンピュータ社(当時)の要請で展示コーナーを設けたが、いやはやその来場者の多さには驚いたものだ。狭い通路内で来場者同士にトラブルが生じて急遽翌日からレイアウトを変えるといったありさまだった。

※「マルチメディア国際会議 '91」におけるアップルブース中央付近

※「マルチメディア国際会議 '91」におけるアップルブース付近遠景。右側の中央あたりが我々のブースだったが来場者で埋まり位置が良くわからない :-P
1991年にはQuickTimeが登場したこともあり、やはり一番の注目は動画の扱いだったといっても差し支えあるまい。それがCD-ROM上のデータだけでなく、当時はレーザーディスクを用いたチャプター検索などもまだまだ多くの人たちの興味を集めていた時代だったのだから面白い。
さて、「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」はまだまだ実態がよく見えないマルチメディアを一般のMacintoshユーザーの目の高さで考察しようとした意欲的な一冊であった。それがサブタイトルの「秋葉原感覚で考えるマルチメディア」というのによく現れている。
そして新しいハードウェア、ソフトウェアが乱立し始める中にあり、メーカーへの意欲的な取材で具体的に様々な機器やシステムを分かりやすく紹介していくその姿勢は当時としても大いに評価されたのではあるまいか。
本誌に紹介されている製品類は多義にわたる。ざっと記しても「HyperCard」 「電子手帳」「CD-ROM」「オーディオCD」「レーザーディスク」「ビデオデッキ」「スチルビデオカメラ」「ハードディスクレコーディング」「24Bitフルカラーボード」などが紹介されている。
これら一連の製品群を眺めるだけで当時の状況およびマルチメディアと騒がれていたレベルがおわかりになるのではないか(笑)。
HyperCardが1987年に、そして前記したようにApple CD SCが1988年に発表されていることから考えるとこの時代のポイントは3つあったと考えられる。
ひとつは「HyperCardから機器をコントロールすること」だ。事実、CD-ROMは勿論だが「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」には「HyperCardと電子手帳」「HyperCardからオーディオCDの再生をコントロールする」 「HyperCardからレーザーディスクをコントロール」 「HyperCardからビデオをコントロールする」「HyperCardからスチルビデオプレーヤーをコントロールする」などなど、HyprCardオンパレードなのだ。
ふたつ目のポイントはやはり「ハードディスクレコーディング」である。この時期はまだQuickTimeは影も形もなく、Macintoshによるコンシューマー向けビデオ映像のハードディスクレコーディングは事実上僭越ではあるが私の会社のVideoMagician II だけであったが、そのデータもHyperCardから自由に使えるようにとXCMD (HyperCardの外部コマンド)を同梱していた。無論このVideoMagician II は本書のハードディスクレコーディングの項に取材と共に紹介されている。
そして3つ目はフルカラー化と大量かつファイル容量が大きくなる画像をどのように扱うかにあった。

※VideoMagician II は1990年リリース
したがって...というべきか。前記した1991年開催「マルチメディア国際会議 '91」のアップルコンピュータ社ブース、特に私どもの会社のコーナーの混雑ぶりは半端ではなかった。当日の写真がいくつか残っているが、いまパソコン展示のブースでこれだけの来場者を集められるブースはないのではあるまいか(^_^)。そう思えるほど凄い混雑ぶりであり、我々は当然の事ながら質問攻めにあい続けた。
我々はQuickTimeに準拠した静止画のみならずハードディスクレコーディングした動画やレーザーディスクまでをも検索利用できる画像データベースソフトと、これまたQuickTimeにいち早く準拠したビデオから映像をハードディスクに取り込むソフトウェアを展示したのだから、そのフィーバーぶりは(古いねぇ...笑)、当然のことだったのだろう。
瞬時に検索表示したそのカラー画像が音と共に動いたのだから...。まさしく当時求められていたマルチメディアのひとつの姿がそこにあったのである。
ところで、QuickTimeがまだなかった1990年の私たちのブースにはあのビル・アトキンソンも立ち寄ったが、愉快だったことはビル・ゲイツが基調講演で紹介したマルチメディア例のデモは私がVideoMagician IIとHyperCardで作成したデモと同様…偶然にも「野鳥図鑑」だったことだ。
そしてビル・ゲイツが基調講演で「これぞマイクロソフトのマルチメディアだ」と紹介した野鳥図鑑は鳥の名をクリックするとその野鳥の図が表示されて鳴き声を発するというものだった。しかし私の作った野鳥図鑑はそれらの野鳥がカラーの動画で羽ばたいたり鳴いたりしたのだ…。我々のプレゼンによる野鳥図鑑の鳥たちは動いたのだ…。
我々のブースを覗いた時のビル・ゲイツの表情は深刻な表情だったと後でスタッフから聞かされた(笑)。それは特異な時代の特異な例ではあったが、超マイクロ企業が超大企業に一矢報いた感じもする瞬間だった。
ところでここに一冊の本がある。「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」(宮本学著/HBJ出版局刊/1990年12月17日初版)というペーパーバックだが、Macintoshというパーソナルコンピュータを中心に据え、当時の現実的なマルチメディアを考察した一冊である。

※宮本学著(HBJ出版局刊)1990年12月17日初版「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」
当時は日本電子工業会などでもマルチメディア市場の市場予測などをアピールしたものだが、私などは実態が明確にされていないマルチメディアの市場を予測するなど困難であるという立場をとり続けていた。しかし時代はいわゆる良くも悪くもマルチメディアと叫ばれている方向に向かっていた。
1989年に幕張メッセで開催された「マルチメディア国際会議 '89」が事実上、わが国で "マルチメディア" という言葉を全面的にアピールして開催した最初のイベントであったが、前記したようにその前年にはCD-ROMの活用が事実上始まったこともあり大容量のデータの扱いに大きな注目が集まったのである。
私自身1990年と1991年の2度にわたり「マルチメディア国際会議」にアップルコンピュータ社(当時)の要請で展示コーナーを設けたが、いやはやその来場者の多さには驚いたものだ。狭い通路内で来場者同士にトラブルが生じて急遽翌日からレイアウトを変えるといったありさまだった。

※「マルチメディア国際会議 '91」におけるアップルブース中央付近

※「マルチメディア国際会議 '91」におけるアップルブース付近遠景。右側の中央あたりが我々のブースだったが来場者で埋まり位置が良くわからない :-P
1991年にはQuickTimeが登場したこともあり、やはり一番の注目は動画の扱いだったといっても差し支えあるまい。それがCD-ROM上のデータだけでなく、当時はレーザーディスクを用いたチャプター検索などもまだまだ多くの人たちの興味を集めていた時代だったのだから面白い。
さて、「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」はまだまだ実態がよく見えないマルチメディアを一般のMacintoshユーザーの目の高さで考察しようとした意欲的な一冊であった。それがサブタイトルの「秋葉原感覚で考えるマルチメディア」というのによく現れている。
そして新しいハードウェア、ソフトウェアが乱立し始める中にあり、メーカーへの意欲的な取材で具体的に様々な機器やシステムを分かりやすく紹介していくその姿勢は当時としても大いに評価されたのではあるまいか。
本誌に紹介されている製品類は多義にわたる。ざっと記しても「HyperCard」 「電子手帳」「CD-ROM」「オーディオCD」「レーザーディスク」「ビデオデッキ」「スチルビデオカメラ」「ハードディスクレコーディング」「24Bitフルカラーボード」などが紹介されている。
これら一連の製品群を眺めるだけで当時の状況およびマルチメディアと騒がれていたレベルがおわかりになるのではないか(笑)。
HyperCardが1987年に、そして前記したようにApple CD SCが1988年に発表されていることから考えるとこの時代のポイントは3つあったと考えられる。
ひとつは「HyperCardから機器をコントロールすること」だ。事実、CD-ROMは勿論だが「Multimedia Tools〜秋葉原感覚で考えるマルチメディア」には「HyperCardと電子手帳」「HyperCardからオーディオCDの再生をコントロールする」 「HyperCardからレーザーディスクをコントロール」 「HyperCardからビデオをコントロールする」「HyperCardからスチルビデオプレーヤーをコントロールする」などなど、HyprCardオンパレードなのだ。
ふたつ目のポイントはやはり「ハードディスクレコーディング」である。この時期はまだQuickTimeは影も形もなく、Macintoshによるコンシューマー向けビデオ映像のハードディスクレコーディングは事実上僭越ではあるが私の会社のVideoMagician II だけであったが、そのデータもHyperCardから自由に使えるようにとXCMD (HyperCardの外部コマンド)を同梱していた。無論このVideoMagician II は本書のハードディスクレコーディングの項に取材と共に紹介されている。
そして3つ目はフルカラー化と大量かつファイル容量が大きくなる画像をどのように扱うかにあった。

※VideoMagician II は1990年リリース
したがって...というべきか。前記した1991年開催「マルチメディア国際会議 '91」のアップルコンピュータ社ブース、特に私どもの会社のコーナーの混雑ぶりは半端ではなかった。当日の写真がいくつか残っているが、いまパソコン展示のブースでこれだけの来場者を集められるブースはないのではあるまいか(^_^)。そう思えるほど凄い混雑ぶりであり、我々は当然の事ながら質問攻めにあい続けた。
我々はQuickTimeに準拠した静止画のみならずハードディスクレコーディングした動画やレーザーディスクまでをも検索利用できる画像データベースソフトと、これまたQuickTimeにいち早く準拠したビデオから映像をハードディスクに取り込むソフトウェアを展示したのだから、そのフィーバーぶりは(古いねぇ...笑)、当然のことだったのだろう。
瞬時に検索表示したそのカラー画像が音と共に動いたのだから...。まさしく当時求められていたマルチメディアのひとつの姿がそこにあったのである。
ところで、QuickTimeがまだなかった1990年の私たちのブースにはあのビル・アトキンソンも立ち寄ったが、愉快だったことはビル・ゲイツが基調講演で紹介したマルチメディア例のデモは私がVideoMagician IIとHyperCardで作成したデモと同様…偶然にも「野鳥図鑑」だったことだ。
そしてビル・ゲイツが基調講演で「これぞマイクロソフトのマルチメディアだ」と紹介した野鳥図鑑は鳥の名をクリックするとその野鳥の図が表示されて鳴き声を発するというものだった。しかし私の作った野鳥図鑑はそれらの野鳥がカラーの動画で羽ばたいたり鳴いたりしたのだ…。我々のプレゼンによる野鳥図鑑の鳥たちは動いたのだ…。
我々のブースを覗いた時のビル・ゲイツの表情は深刻な表情だったと後でスタッフから聞かされた(笑)。それは特異な時代の特異な例ではあったが、超マイクロ企業が超大企業に一矢報いた感じもする瞬間だった。
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